週刊READING LIFE vol.70

進化し続ける未来型書店〜天狼院書店 〜《週刊READING LIFE Vol.70「新世代」》


記事:武田かおる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」
 
これは生物学者、チャールズ・ダーウィンの言葉である。
 
昨年、ドキュメンタリー映画の巨匠フレデリック・ワイズマンが監督した「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」が日本で劇場公開された。この映画ではニューヨーク公共図書館が、時代や市民のニーズに合わせて、我々が持つ図書館という概念を超えて様々なサービスを行っていることや、その舞台裏を知ることができるドキュメンタリー映画である。
 
同年9月「未来をつくる図書館 ―ニューヨークからの報告―」の著者であり、ジャーナリストの菅谷明子さんの「ニューヨーク公共図書館から考える、情報と知のあり方」の講演会に参加した。菅谷さんは映画「ニューヨーク公共図書館」の劇場公開に合わせて、数々のシンポジウムやトークショー等にご登壇されている。
 
このダーウィンの言葉は、菅谷さんが講演の際にニューヨーク公共図書を表現するのに用いられた言葉で、強く私の心に残った。
 
私は当時、ちょうど天狼院書店の開催する「ライティング・ゼミ」を受け始めたところだった。このダーウィンの言葉は、まさに、書店業界での天狼院書店の事を表しているように思えた。さらに講演に参加後、菅谷さんの著書「未来をつくる図書館」を読み、天狼院書店は書店業界のニューヨーク公共図書館のようだと思った。

 

 

 

昨年の8月から、文筆力を上げたいと思い、たまたまフェイスブックの広告で見つけた天狼院書店のライティング・ゼミを受け始めた。
私はアメリカに住んでいて、天狼院書店の名前を聞いたのはこの時が初めてだった。ゼミを受けるにあたって、どんな書店なのか申し込む前にインターネットで調べてみた。
まず、ホームページの「はじめて天狼院書店をご利用のお客様へ」を読んだ。
 
書店業界は衰退が続いていると聞いていたのに、天狼院書店は、2013年に池袋に1店目をオープンして以来、現在では全国に店舗を展開されていて、現在5店舗1スタジオを運営されているとのこと。
 
また、「本のその先の体験までを提供」されていて、ライティング・ゼミを始め写真など様々なゼミや部活などを開催されていることを知った。天狼院書店の事業内容を知り、昔から書店が好きだった私は、宝物を発見したような気分になった。

 

 

 

私は小学生の頃、お小遣いを持って、駅前にある本屋さんに、月刊の漫画雑誌「なかよし」を発売日にわくわくしながら買いに行くのが楽しみだった。当時、インターネットは無く、新しい情報と出会うには本が一番手っ取り早かったので、図書館や本屋さんは私の大好きな場所だった。本のあるその場所は、私にとって未知の世界につないでくれる、国際空港のようなものだったのだ。
 
大人になってからは、もっぱら友人との待ち合わせは書店前が多かった。早めに待ち合わせ場所に行って、新刊をチェックしたり、書店員さんの手作りPOPを見たりするのがお決まりの時間つぶしだった。おそらく、私は本を読むのも好きだが、その書店や図書館という本が集まる空間が好きだったのだと思う。
 
だが、2000年にアマゾンが日本で本のネットストアをオープンして以来、身近な書店が閉店していくのを目の当たりにし、寂しさを感じていた。
 
ネットでの本の購入は確かに便利だ。書店に行く時間も省けるし、書店で本を探す手間や時間が大幅に省ける。だが、本当に好きな作家さんの新作は、わくわくしながら書店に出向いて実際に棚から手にとって買ってみたいという思うのは私だけではないと思う。それに、書店は出版イベントのサイン会やトークショー等では、作家の方とファンである読者をつなげてくれる空間となる。
 
このままどんどん書店は減っていく一方なのだろうかと、私は書店に関わる仕事をしているわけでもないのに、その行く末が気になっていた。ちょうどそんな中に出会ったのが、事業や店舗を拡張している天狼院書店だった。
 
天狼院書店は本を販売する以外にも多くのゼミや部活が開催されていた。私が最初に受講したのはライティング・ゼミだったが、更にレベルアップして学ぶライターズ倶楽部、「書く」というカテゴリーの中にも、スピード・ライティングや小説家の方が講師の小説家になるためのゼミ、取材ライティングについて学ぶゼミ等、様々なゼミがあった。読書会も毎月開催されている。他にも写真や演劇、お笑い、また、マーケティングに特化したゼミや、フルスロットル仕事術や時間術ゼミなどビジネスシーンで役立つゼミもある。さらに、デザインの講座や動画編集のゼミも開催されている。旅部という部活があり、「大人の修学旅行」というタイトルで温泉にいくツアーの企画もある。他にも各店舗で様々な楽しそうなイベントや企画が目白押しである。
 
「未来をつくる図書館」で菅谷さんがニューヨーク公共図書館を取材の対象とした理由として「時代に対応したタイムリーで革新的なサービスを市民が求める形にして次々と打ち出している姿勢が評価できると考えた点である」1と言われているのだが、まさしく、天狼院書店で企画されているゼミや講演などは、本を販売するという書店の枠を超えて、今の時代に合わせて、顧客が必要としている内容のゼミやイベントを企画し提供し続けているところが共通していると言えるだろう。
 
天狼院書店のゼミに参加するとフェイスブック上のグループに参加することになり、このグループ上で、ゼミに関連する動画や資料が共有される。私のように通信での受講の場合は、このグループ上にコメントすることで、天狼院のスタッフの方とコミュニケーションを取ることになる。こうして同じゼミを受講する人達は、フェイスブックを利用してコミュニティの仲間になる。私は主に通信での受講で、実際に店舗や会場に行ったことは無い。だが、数カ月間ゼミで学ぶことで、同じグループの人たちに勝手に親近感を覚えている。実際にゼミの会場である天狼院書店の店舗で会える人たちは、ゼミ毎に顔を合わせることで親睦をさらに深めることができるのだろう。
 
ゼミを通じてコミュニティに参加できるというのは、天狼院書店の特徴の1つだ。これは、従来の書店でもネットでの書籍販売では成し得ないことだ。

 

 

 

「未来を創る図書館」の冒頭に、「ニューヨーク公共図書館は、単に本を借りるための場所ではない。名もない市民が夢を実現するための『孵化器』としての役割を果たしてきた。ここからは、アメリカを代表するビジネス、文化・芸術が数多く巣立っている」2という一節がある。例えば、昨年亡くなったノーベル賞作家のトニ・モリソンや作家のサマセット・モームも、ニューヨーク公共図書館の常連だったそうだ。3
 
天狼院書店でも実際に小説家ゼミの過去の受講者で、松本清張賞や、ジャンプホラー賞特別賞(集英社)を受賞された方がいらっしゃるということを聞いている。
 
ニューヨーク図書館に訪れる人の中で、「図書館なしでは今の自分はいなかった」4と言う人が多数いるそうだが、このように、天狼院書店からも今後多くのゼミを通じてプロの小説家を始めとする様々なクリエイターを世に送り出していくのだろう。ゼミ受講者の中でも「天狼院書店なしでは今の自分はいなかった」という人も多く現れそうだ。

 

 

 

インターネットの普及とAI技術の発達で、価値観がどんどん変わっていく今日、企業も時代に合わせて新しい価値を生み出していかないと生き残れない時代になった。天狼院書店は書店業界で勝ち抜くために書店の枠を超えて、本のその先の体験になるゼミや講義を顧客に提供することで、新たな企業価値を生み出した。
 
この社会の変化は、企業だけではなく、個人にも確実に影響している。日本も高齢化社会の到来とともに人生100年時代が訪れると言われている。日本の終身雇用制度は過去の遺産となっていくだろう。この新世代を賢明に生き抜くためには、個人が自分のやりたいことを見つけ、それぞれの強みを生かした技術という名の武器を持つ事が鍵になってくると思う。その武器も時代によって見直しが必要となるかもしれない。それらの武器を個人が持てるようになるために、天狼院書店は時代を先読みし、その時に必要とされる体験という名のゼミや講義を私達に提供してくれている。こうして、今後も新世代を生き抜く人々をこれからも生み出してくれるのだろう。
 
先日天狼院書店の広告でオーケストラのプロジェクトが発足したという事を知った。
 
天狼院書店は、冒頭のダーウィンの格言のように、今後も、刻一刻と生き残るために変化し続けていく。今後の展開がとても楽しみだ。

 
 
 
 

《参考文献》
……菅谷明子(2003)『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告−』岩波新書

脚注
1) 菅谷明子『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告−』(岩波新書、2003年)20ページ
2) 菅谷明子 前掲書 2ページ
3) 菅谷明子 前掲書 3ページ
4) 菅谷明子 前掲書 18ページ

◽︎武田かおる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
アメリカ在住。
日本を離れてから、母国語である日本語の表現の美しさや面白さを再認識する。その母国語をキープするために2019年8月から天狼院書店のライティング・ゼミに参加。同年12月より引き続きライターズ倶楽部にて書くことを学んでいる。
『ただ生きるという愛情表現』、『夢を語り続ける時、その先にあるもの』、2作品で天狼院メディアグランプリ1位を獲得。

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http://tenro-in.com/zemi/103447


2020-02-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol.70

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