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週刊READING LIFE vol.87

アイドルは人生のビタミン剤《週刊READING LIFE Vol,84「メタファーって、面白い!」》


記事:青野まみこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「こんにちは〜」
「こちらでは初めまして。夏に池袋であった舞台を観に行ったんです。すごくよかったんで、伝えたいなって思って今日は来ました!」
「そうなんですか? ありがとうございます!」
弾んだ声で、彼女はお礼を言った。その後だ。
「でもそういえば……。あなた見覚えあるかもしれない!」
「はっ? そうですか? 客席って暗いし、舞台からだと見えないんじゃないですか?」
「そんなことないです。結構見えてるもんなんですよ。確かにあなたいらしてたと思う! 間違いない!」
「えー! すごい記憶力ですよね。もし覚えててくれたんならとっても嬉しい!」
彼女が池袋で出演した舞台は、300席の規模の劇場だった。中央に横に通路があり、そこで座席の前方と後方が分けられていた。
私が座っていたのは中央通路のすぐ後ろ、後方席の最前列だった。通路があったから、もしかしたら後方席の最前列の人の顔は見えたかもしれないのかな。
今日初めてお話ししたはずなのに、いきなりのデジャブ感を知らせてくれたような出会いが嬉しくて、私と彼女は話していた。
「間もなくです」
タイムキーパーの声がかかった。もうとっくに握手券1枚で話せる時間は過ぎていた。
「また来ますね」
「ありがとうございます、またね!」
「お時間です」
そこで会話は終わった。私は彼女に手を振って、ブースを出た。
これが、彼女、さきぽんことSKE48・竹内彩姫さんとの最初の会話だった。

 

 

 

小さい頃から、どういうわけか、女性の芸能人ばかりが好きだった。
もっと詳しく言うと、女性歌手が好きだった。それも、アイドル系の歌手ばかりである。
TVで見かける、華やかな彼女たちが出てくると自分も同じようにTVの前で歌ったり踊ったりした。それが楽しくて仕方がなかった。
中でも私のお気に入りはピンク・レディーだった。日本全国があの振り付けを踊っていた頃、御多分に洩れず私も全部踊れていた。家で歌番組を観て、翌日学校でみんなで踊るのがまた楽しくてしょうがなかった。新曲の発売日には、いろんなことを我慢して我慢して貯めたお小遣いを握りしめ、予約したレコードを買い、大事に持って帰った。
 
1980年になると松田聖子さんが登場して、またまた私は夢中でレコードを買い集めた。
聖子さんは、それまで出てきた女性アイドルとは全く違っていた。何が違うかと言うと、アイドルだけど楽曲もニューミュージック系で、歌謡曲寄りじゃないところがいい。声の質も、1回聞いたら絶対にこれは聖子さん! とわかるような特徴のある、伸びやかな声だった。
聖子さんは瞬く間にスターとなっていった。ぶりっ子とかなんとか言う人はいたけれど、私は彼女の歌が好きだったし、メディアで見ていてとても爽やかだったので、誰がなんと言おうが変わらず応援した。
 
そんなことが高校くらいまで続いただろうか。
そのくらいから、少し女性アイドルから離れ始めた。
理由は、その頃から洋楽を聴き始めていたことや、自分が推せるような女性アイドルが少なかったからだ。聖子さんはいたけど、その頃結婚して芸能活動を休んでいたから、自然と自分のテンションも下がったのだろう。自分も、熱に浮かされるような子どもから、大人に順調になっていった証拠なのだと思う。
大人になった私は、しばらくの間洋楽を聴き、アイドルというよりもアーティストの音楽を聴いていた。大学に行き就職して、この頃は何をしていたか覚えていないくらいいろいろなことがあった。この頃はいわゆる「昭和っぽいアイドル」がいなくなっていった時期だったし、私の好きなアイドルさんたちはみんなアイドルを辞めてしまっていたので、そちらに関心が向かなくなったのも当然だろう。
 
そこから一転して、再び女性アイドルに気持ちが向く時がやってきた。
それは結婚して出産した頃だった。
当時、オーディションバラエティーの番組があり、毎週なにがしかのオーディションをやっていた。初めての出産で、家にいて、赤ちゃんの相手をするのも大変だったけどちょっと飽きてきた頃だった。他にすることもない私は、その番組が楽しみだった。そこからモーニング娘。が誕生した過程がとても面白かったので、彼女たちがその後歌番組に出ているのを自然と見ていた。
ある時、夫に訊かれたことがある。
「なんか、そういうの、好きなんだねえ」
「まあね。いいじゃん?」
いい年をして、子どもまでいるのに、となんとなく言いたそうではあったけど、見たいんだからいいじゃない! で通した。子どもがまだ小さかったからライブには行けなかったので、あくまでも在宅でTVを見るだけだったけど、それでも日常を一時忘れさせてくれる娘。たちは、単純に見ていて楽しかった。
その当時は子どもたちも小さく、手がかかったので、生活の大半は子どものことで時が過ぎていった。やれ幼稚園だ、小学校だと、親も楽しいけどとんでもないパワーが必要とされる時代だったから、アイドルに丸ごと夢中ばかりにはならなかった。流石の私も子どもを放り出してまで応援はしなかったし。
 
少しずつ子どもたちは大きくなって、私の手を必要としなくてもよくなっていった。子どもなどというものは、中学に上がれば自然にそうなる。
子どもの手が離れた私は、仕事なども再開していた。自分のために時間を使えるようになって余裕が出てきた。そんな時、1つの女性アイドルが気になり始めていた。AKB48だ。
最初彼女たちが出てき始めた時は、あまりの素人っぽさにちょっとドン引きしたものだが、その後ヒット曲を出すようになり、世間の認知もされてきて、私も少しずつ彼女たちに興味を持ち始めていた。握手会商法は知っていたが、自分には合わないんじゃないかと思っていた。1枚10秒しか話せない、もっと話したかったら追加で券を買ってくださいというシステムが馴染めなかったから。そんなに自由になるお金なんてたくさんないもんね。そう思いながら過ごしていた。
 
そんなことを言い聞かせながらも、彼女たちが番組に出ているとついつい面白くて見入ってしまっている自分がいた。中でも秋元才加さんが気になっていた。
「握手会、一度行ってみようかな」
そんな希望が芽生えてきたのはこの頃だったと思う。
私にとって女性アイドルというものは、「雲の上の人」だった。スケジュール帳が真っ黒でTV局からTV局へと移動していて、忙しすぎる人たち。それが女性アイドルだった。
でも、その「雲の上の人」に会いに行けるシステムができていた。だったら一度行ってみたい。いつも手の届かないと思っていた人って、会ってみたらどんなだろう? 二の足を踏む気持ちと、好奇心との間で揺れ動いていた気持ちだったけど、ついに私は握手会の申し込みをしてしまっていた。好奇心が勝ったのだ。
 
そして、人生初めての握手会の日。
私は横浜に向かった。握手会なんて人生初めてなのに、ほんと、いい年して自分もようやるなあ。自分で自分がおかしくなって笑えた。
握手券を持って指定されたブースに並ぶ。
自分の番が来た。秋元さんはとてつもなく美しい人だった。
「やっぱり、実物は違うなあ」
TVで見るよりも何倍も綺麗な人だったと記憶している。
「初めまして」
「来てくれてありがとう」
そこから先は何を話したか全く覚えていない。いないのだけど、憧れのアイドルさんご本人に初めて会えて、結構感激した。色々悩んだけど思い切って来てみてよかったな。綺麗な人とお話できたし! 根が単細胞な私は、単純に楽しかったので、そこから横浜で握手会がある時は握手券を買うようになった。
 
なんと言っても48グループは人数が多い。最初は20人くらいで始めたのに、いつの間にか名古屋や大阪にまで支店ができて、数百人規模になっていた。多すぎてとても全員はわからない。
そんな中、私は、気になるメンバーに少しずつ握手券を買って通ってみた。雑誌やネット、TVで気になる人がいたらチェックし、横浜の握手会で会いに行ってみた。
どの人もお金をもらっているし、お仕事なので、割と通り一遍のレスポンスだったと思う。こちらは1人だけど、相手は何十人何百人と話をする。限られた時間だし、いちいち覚えられるわけなんてない。
 
竹内彩姫さんと初めて握手をした時も、ただ舞台の感想が伝えられればいいや、そう思っていた。何せ初めてお目にかかる人だし、舞台見ましたよって言ったらたぶん喜んでくれると思うし、場の空気も変にはならないだろう。初めて会う人なんだから、シンプルに無難に終わればいいかな。そう思っていた。
ところが、彩姫さんは、私が客席にいたことをなんとなく覚えている、と言ってくれた。
考えても見てほしい。相手はたくさんの人を見ている芸能界の人なのだ。その人が、舞台を見に来ていた一観客のことを「なんとなく記憶がある」と言ってくれた。これはもう、感激するしかない。
もしかしたら、もしかしたら、それはリップサービスなのかもしれない。たぶんこの話を聞いた多くの人はそう思うだろう。そんなことがある訳ないじゃない、と。
それでも私には、彩姫さんが演技でそんなことを言っているようには見えなかった。彼女は本当に、思い出しながらも少し驚いたような表情をしてくれていた。それが嘘か誠かは彼女のみぞ知る訳だけど、私は彼女のあの表情を、あの会話を信じた。それから、横浜で握手会がある時は、握手券を買って彩姫さんにご挨拶に行くようにしている。
 
彩姫さんはSKE48の人なので、つまりホームグラウンドは名古屋の人だ。
48グループは劇場公演をしている。私はアイドルの歌も好きなので、むしろ握手会より劇場公演によく行っているが、それでも住んでいるのは関東なので、そこから名古屋に頻繁に行くことは難しかった。
名古屋に住んでいたらSKE見に行くんだけどなあ。そんなこともよく思った。年に数回、休みが取れてお金もあって抽選に当たった時に、名古屋の公演にも行った。
 
握手会での彩姫さんはとても機転が効く人だけど、劇場での彩姫さんもまた、歌って踊る姿がとても爽やかだった。いいパフォーマンスをしようという気持ちが、見ているこちらにも伝わってくる。行くのは結構大変だけど、公演の後は必ず「はるばる名古屋まで来てよかった」という心境になれる。こんな話をすると、
「わざわざ休みを調整して、時間とお金と体力をかけて遠方まで行くなんて、どうしてそんなことするの?」
「握手って券買うんでしょう? そこまでして、すごいね」
などと、友人知人は言う。それに対する私の答えは、
「なんでかわからないけど、楽しいんだよね。なんか元気をもらえるんだよね」
だ。いつもそう答えている。
 
人を元気にさせるって、並大抵の努力ではできないことだ。
握手会も、券1枚、10秒間で一体どれだけのことができるのかが勝負だ。その人に会いたいと思ってもらえるようになる、支持されるには、とっさの対応力がないと無理だ。この人にはこういう風に話そうと、瞬時に判断する力が必要だ。人間観察を普段からしていないとできないし、どんな育ちかたをしたかが出る。総合的な人間力が試されているように思う。
顔やスタイルがいいとか、そういうことばかりじゃなく、その人と話していると楽しい、また行きたくなるという感情を起こさせるって、ものすごいスキルではないだろうか。
 
何故かわからないが、見ていると元気になる。それが私にとっての女性アイドルだ。
今も昔も、それは変わらない。
お会いするたびに、いつもこちらが元気付けられるのだ。そのパワーは、たぶん丸ごとビタミン剤だ。人生に楽しい栄養を与えてもらえているのだ。だから私は、女性アイドルウォッチがやめられない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青野まみこ(あおの まみこ)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

天狼院ライターズ倶楽部所属。
東京生まれ東京育ち。3度の飯より映画が好き。
フルタイム勤務、団体職員兼主婦業のかたわら、劇場鑑賞した映画は15年間で2500本。
パン作り歴17年、講師資格を持つ。2020年3月より天狼院ライターズ倶楽部に参加。
好きなことは、街歩き、お花見、お昼寝、80年代洋楽鑑賞、大都市、自由、寛容。

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2020-07-13 | Posted in 週刊READING LIFE vol.87

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