週刊READING LIFE vol.88

自分らしく生きるには《週刊READING LIFE Vol,88「光と闇」》


記事:和田誠司(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
2年前の1月、僕はカンボジアにいた。
カンボジアでの雷体験が僕のことを大きく変えてくれるきっかけとなった。
40度の炎天下で流したものは額から流れる汗と、心の中で流した嬉し涙だった。
 
みなさんカンボジアという国をご存知だろうか。僕自身、実際に行くまでは「名前を聞いたことがあるけど、それ以外は……」という具合だった。
カンボジアとはベトナムやタイ挟まれた、アジア圏内にある国である。1990年まで20年以上にわたる内戦が続き、経済の発展は止まり、国はすさんでいった。
国がすさむ前は、近くのアジア国の中では一番の経済発展をしており、歴史的な文化がもっともある、そんな国であった。
やっと今、内線が終わってから20年が経ち、経済が発展してきている途中の国である。経済発展中なので、地方(主に農村部)と都市部では貧しい人と豊かな人に大きい差がある。
農村部の衛生環境はあまり良いとは言えない。和田調べによると、食事をした人の50%は腹を下す。腹を下したら最後で、3日間はご飯が喉を通らず、トイレのお世話になる。実際に一緒にいった6名のうち、3名はトイレを往復するはめになった。
食事を人生の楽しみとしている僕にとって、それはまさにロシアンルーレットであり、恐怖を感じていた。
こんな危険なところに、自ら飛び込んだ理由は自分を変えたかったからだ。自分を変えたいと願い、会社の公募式の研修に手を挙げ、カンボジア行きが決まった。
 
2年前の僕は霧の中を歩いているかのように迷いに迷っていた。
望んでいたコンサルティング会社に転職をしたものの、自分の実力の無さに毎日落ち込んでいた。人から何か言われるのが怖く、何か言われるとすぐに自分のせいではないと守り、相手を攻撃していた。
「それは僕のせいではない。僕は頑張っている。○○さんの言い方が悪いので理解できなかった」などなど。
言い訳を挙げたらきりがないだろう。人から自分を守るため、そして自分の見たくないものをみないために、ブレーキを踏んでいたのだ。
ただ、心の中では
「せっかく自分の望む業界に転職ができたし、転職をして失敗をしたと嫁に心配をかけたくない。後、子供も生まれたばかりだし。だから、頑張らないと」
と頑張りたいとアクセルを踏んでいた。頑張ることで、自分のみたくないものを見ないで住むから、とにかくアクセルを踏み続けた。
アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような人であった。
今思うと、こんな自分はやだなーとずっと思っていたので、幸せなはずなのに、生きていることが辛かった。自分を変えるきっかけをずっと待っていた。
 
「自分を変えたい。もう自分の中にある、闇を見ないですむように」
僕にとっては人生をかけるほどの意気込みで参加した、カンボジア研修のテーマは
「自分たちがカンボジアの農家に何ができるのか、できることを探し、実行すること」。
研修に参加した6人は、
「カンボジアの暮らしは、食べるのに困らずにいるのではないか。いやいやもっと貧しいはずだよ。日々生きていくのも精一杯のはずだよ」
と誰一人、しっかりとしっかりと知っている人はいなかった。
カンボジアの農家はいったいどんな暮らしをしているのだろうか? メンバー全員にこんな疑問が浮かんだ。まずは調査から始めるようにしようということに決まった。
調査に協力してくれた企業(5名のチーム)は、トラクターで畑の地面を整え、後から代金をもらうという仕事をしていた。後から代金をもらうというスタイルがこの企業の特徴である。代金回収を兼ねて、調査をした。
 
料金回収兼調査を始めていくと、衝撃の事実を知ることとなった。
「先日足をくじいてしまって、畑に行けなかった。畑に行けなかったので、作物が腐ってしまった。せっかくもう少しで収穫だったのに」と言っている顔はとっても元気そう。
「先週息子の結婚式だった。結婚式だったので、畑に行けなかった。だから作物が腐ってしまった」と言っている顔に申し訳なさはまったく感じなかった。
一番ひどいなと思った言い訳は、
 
「熱くて畑に行けなかった」。
 
これを聞いた時僕は、
「いやそこは行けよ! 気温が40度近くあるのはいつものことじゃん!! あんたら何年住んでんだよ!!!」
と日本語で突っ込んだ。(幸い通訳はされなかった)
 
などなど言い訳の天才たちのオンパレードであった。農家さんたちは、あらゆる言い訳を駆使して、料金の支払いを逃れようとしていた。
僕は心の中で
「なんだこの人達は! 農家なんだからまじめに作物を作れば、収入を得られるのになんでやらないんだ!」
初めて会った人達なのに、怒りを感じてしまっていた。
「こんな人言い訳の天才達のために、何か貢献をしないといけないのか、嫌だなー」。
僕の怒りはピークに達して、研修のテーマすら否定をし始めていた。カンボジアの平均気温は40度もあり、この日も40度以上あった。10件ほど農家を回ったとき、僕の披露はピークに達していたし、嫌気が指していた。
 
言い訳の天才たちに嫌気が差していたころに、僕はその人達に出会い、雷体験をすることになる。
「嫌だな、早くおいしいカンボジア料理食べたいな。熱いし、もう良いよ」
と僕自身が言い訳を初めていたころ、始めて笑顔で僕たちを迎えてくれる人に出会った。「笑顔!? うそでしょ!」
僕は若いその女性を二度見した。
笑顔の彼女は「あんたたちを待っていたよ。今はお金に余裕があるから、早めに支払っておきたかったんだ」僕はその言葉に「うそ、こんな人もいるのか。今までの言い訳の天才たちとは違うぞ! この人のことをもっと知りたい」驚きとともに興味が出てきた。
僕は彼女笑顔で疲れが吹っ飛び、好奇心の塊となっていた。
僕はたまらず彼女に質問をした。
「なんでそんなに、笑顔でいられるんですか?」
彼女は笑顔で、
「実はね、畑にあった不発弾で子どもを5人のうちの2人の子どもをなくしているんだよ」
と答えた。
 
「え!?」
 
「えーと」。
「聞いてはまずかったかな。質問間違えたかな。え!? 子ども2人なくしているどういうことですか??」
正直、とても戸惑った。もっと気軽な答えを想像していたからだ。彼女のことをまっすぐみれずに、目が泳いだ。
 
戸惑う僕の様子を見ながら、彼女はこう続けた。
「だからね、彼女たちのためにも前を向かないとね」。
嘘偽りのない笑顔で答えた。
 
ズガーン、雷が落ちた。今思い出しても涙がにじんでくる。
「僕が子どもをなくしたら本当にこんなに笑顔でいられるか? 何かに向かって動くことはできるのか……。この人すごいな」。
戸惑いは尊敬に変わっていた。
続けて、彼女はこう言った。
「そういえば先週ホンダのバイクを盗まれてね。だからこそ前を向かないとね」。ニコ。
 
ズガーン、また雷が落ちた。なんってすごい人なんだ。
ホンダのバイクはカンボジア農家の2年分の年収に当たる。2年間の給料をごっそりと盗まれたのと同じである。2人の娘をなくし、さらに家宝のバイクまで盗まれても笑顔で前を向いて生きようとする姿に、僕は雷に打たれた。すごいよ。心から彼女を尊敬した。
雷に打たれた私へ止めを刺しに、旦那さんが農作業から帰宅してきた。
「あー来てたんだ。良かった、良かった」。
僕たちを彼も暖かく迎えてくれた。どうしても気になることがあり、僕は旦那さんにも質問をした。
「奥さんからいろんなことを聞きました。これからどうするんですか?」
旦那さんは笑顔で、「
こういうときだからこそ前を向かないとね、だから畑を今の2倍の広さに広げて、頑張って収入を増やすよ!」
ズガーン×3、なんてこったい、夫婦ともどもすごすぎるよ。前を向いて生きる天才だな。それに比べて僕は何をやっているんだ。
 
僕はカンボジアの農家さんに対する見方が変わった。本気でこの農家さんたちのためにがんばりたいと思えるようになった。
研修の結果として、一本の動画を作ることにした。農家さんたちの笑顔をあつめて、頑張っている姿をPRする動画だった。
日本にいる僕たちにとって、そんな動画もらっても全然うれしくないだろうが、カンボジアの農家さんは違った。カメラ越しで自分の姿をみることが始めての人がほとんどだった。
加えて、自分にスポットライト当ててくれる人も始めてだったのだ。笑顔を見ている農家さんたちはみんな笑顔になっていた。ある言い訳の天才であった農家さんが、
「動画ありがとう。こんなに応援してくれたんだから、仕事を頑張らないとね」と言ってくれた。
僕は気づいた。言い訳の天才は誰にも認められないから、なっていただけなのかも知れないと。誰かがいれば、前向いて生きていけるのかも知れない。
研修は大成功であった。
 
カンボジア研修は終わったが、僕の自信の研修は終わらない。
帰国後に、僕は自分自身の自分の見方に違和感を覚えたので、一人考え続けた。僕はどうなりたい。僕は何に迷っているんだ。何を嫌がっているんだ。
一番見たくない闇は、
「お前はなまけもの」
だった。なまけもの=社会的に存在価値がない人と飛躍して考えていた。そうならないように焦っていた。
 
僕は自分の見たくない部分、つまり自分の闇を拒否し続けていた。闇は敵だった。頑張る自分、成果を上げる自分という光だけを見せようとしていた。
だから、カンボジアの農家さんたちに激しい怒りを覚えたのだ。見たくない闇の自分が目の前にいたから。気付きとして言い訳の天才たちは、僕自身であった。
頑張ろうとアクセルを踏んでいても、自分の闇を見たくないとブレーキを踏んでいたのだ。それが結果として、自分の痛いところをつかれると、ハリネズミのごとく自分を守り、相手を攻撃していた。人に自分の闇を見ると怒りを覚えた。
 
しかし、カンボジアで出会った前を向いて生きる天才と僕を比べてみた。
「人になまけものと思われたくない。なにより、自分のことをなまけものと認めたくない」
だから、人に光を見せ続ける自分。
なんだそれ。そんなことに悩んでるのって、かっこ悪いな。子供に見せたくないな。自分が見せたくないなと思ったもって、子供が死ぬことに比べたら、大したことなさすぎるな。
なまけものも自分、それで良いじゃないか。
 
この瞬間、光と闇が融合し、霧が晴れっていった。
焦りが消えて、心にやすらぎが生まれた。そしたら、本当にやりたいことが見えてきた。
なんだ、自分って自然と頑張れるじゃん。僕は本当の意味で自分を信頼することができた。
 
光と闇が融合する時、「ありのままの自分を受け入れることができる」
これを心理学では自己肯定感*という。その時の人間のエネルギーは凄まじいものがある。僕自身、カンボジアで前向きの天才に出会ったので、自分を肯定することができた。
 
おかげで、僕はほしいと思っていた、人からの評価は望まずとも得ることができた。
しかし、それより嬉しいことは、僕が僕らしく生きていることだ。30数年生きていて、一番楽に過ごすことができてる。
前向きの天才たちへ、
「本当にありがとうございました」。
 
 
 
 
*参考文献:高垣 忠一郎 著『生きづらい時代と自己肯定感』
 

□ライターズプロフィール
和田誠司(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2020-07-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.88

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