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週刊READING LIFE vol,110

副業ライターから専業になれたのは《週刊READING LIFE vol.110「転職」》


2021/01/11/公開
記事:篁五郎(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
2011年3月11日。
 
あの日あなたは何をしていましたか?
 
僕は、当時派遣社員をしていたコールセンターの仕事がお休みの日だった。家でゆっくり過ごしてた後、買い物をしに近くのドラッグストアへと向かっていたのがあの時間の少し前。
 
必要な買い物をして、レジでお金を支払う瞬間に地面が大きく揺れた。
 
「地震だ」
 
誰もそう思ったに違いない。揺れるのは慣れっこだったからすぐに収まるだろうと支払いをしたが中々収まらない。しかもどんどんと大きくなる。
 
レジから見える商品棚からシャンプーがどさどさと落ちていく。
 
ただ事じゃない。
 
そう思って思わず外へ駆け出した。周りは誰一人歩いておらず静かな日常を過ごしているように見えた。
 
胸騒ぎがして買ったものをビニール袋に詰め込み、部屋と戻り、パソコンに電源を入れる。
 
ブラウザを立ち上げると東日本全体で大地震が起きたという速報が流れていた。特に宮城県、福島県、岩手県の被害はかなり大きくなると予想されていた。
 
Twitterを見てみるとあちこちで地震の被害がつぶやかれていた。
 
「戸棚が倒れた」
「信号が止まって車が動けない」
「電車が止まってしまい閉じ込められた」
 
あらゆる被害のつぶやきがタイムラインに流れてきた。
 
「とんでもないことが起きた」
 
誰もがそう思ったに違いない。そしてあの大津波による大惨事。福島第一原子力発電所で津波によって放射性物質が漏れてしまうほどの事故が起きてしまった。
 
たくさんの人が亡くなり、たくさんの人が事故に遭い、たくさんの人が心や身体に傷を負った。
 
あの地震が僕を今の仕事に向かわせるきっかけだったのだ。
 
震災当日の夜、電車は事故で止まってしまい、首都圏では大勢の帰宅難民が出ていた。歩きで家路へと向かう人達。僕はトイレを貸してくれるコンビニや商店を見つけてはTwitterに流していた。
 
たまたま休みで家にいたけど、もしかしてしたら自分があの中にいたかもしれないから。
 
宮城県は母の地元。親戚も大勢住んでいたので安否の確認で電話をするも繋がらない。無事なのがわからなくて不安だったのをかき消すかのようにTwitterで情報を流した。
 
そして情報をまとめたブログを作った。
 
そこで緊急避難的な内容を少しでも見てもらえればと思って書き続けた。
記事の更新はそこから色々な情報をまとめるように始まった。
 
支援や給付、避難所のお知らせをブログで伝え、時には愚痴やら行政への怒りやら、被災地へボランティアに行ったときのことやらを書き続けていった。
 
それが僕が継続して書くことを始めたきっかけ。
 
そこから内容はエスカレートしていったが書くことだけは続けた。どうして続いたのか理由はわからない。でも毎日毎日誰が見ているのかわからないブログを更新し続け、いつしか日課となっていた。
 
アクセス数が増えれば嬉しいし、やりがいにもなった。
 
でも、物書きになって飯を食おうなんて思ってはいなかった。恐らく仲間内に「すごい」とか「お前頭良いね」と言われたいという承認欲求の方が強かった。
 
誰からも認められずに生きてきた僕は、表向きの自己評価はかなり低い。しかし実際は「なんで誰も俺を認めないんだ!」と思うくらい自分を高く買っていた。根拠などないのにね。どこかのドラマか小説で言っていた「自分が自分を信じられなくなったら終わり」という台詞を信じ込んでいたのだと思う。
 
もしかしたら単にプライドが高かっただけかもしれない。
 
そんな男がブログネタを探すのにネットを巡回していたらとあるサイトのライター募集のバナー広告を見つけた。
 
面白そうだなと思って飛び込むと自分の好きな記事を書いて公開されたらギャラが入るという。応募するのに特に資格もいらないというからやってみた。
 
すると、すぐに合格をもらっていわゆるまとめ記事を書き始めた。
 
そう、今ではすっかり見かけなくなったキュレーションサイトのライター募集に応募をしていたのだ。
 
そんなことも知らない僕は足りない頭を使って一生懸命に記事を書いた。派遣社員の仕事がある日は帰ってきてから記事を書き続けた。
 
報酬は1本300円。
 
信じられないくらい安いけど自分で書いた記事に報酬が付いたという事実だけが嬉しかった。PV数が増えれば認められたような気持ちになって益々やる気になった。
 
そうして記事を書き続けて月に20本ほど公開されるようになった。
 
それだけ書いても中学生のお小遣い程度にしかならなかったけど誇らしい気持ちだった。自分の書いた文章をどこの誰だかわからない人が読んでくれて、お金までもらえたという事実が自分にとって自信になった。
 
「記事を書いて実績ができたら本物のライターになれるかもしれない」
 
今でこそそんな甘くないのはわかっているし、キュレーションサイトの記事なんて実績にならないのは知っている。それでもライターとして生きていきたいと思ったのはこの時だった。
 
それから当てもなく毎日のように記事を書き続けていく。
 
ネタを探すのは面倒だったけど「いつかライター専業になるんだ」と中年の夢が自分を支えていた。1本300円から500円に上がったときも嬉しかった。そうやって結果が見えるのが励みになって安くこき使われるだけのキュレーションサイトのライターとして時間と神経を費やしていくようになった。
 
そんなある日、メールボックスを見てみると誰もが知っている有名IT企業からメールが届いていた。
 
「あなたの記事を拝見しました。是非とも私達のサイトで記事を書いてください」
 
なんと記事執筆の依頼だった。ギャラは一本7000円。キュレーションサイトの14倍だ。
 
この時のことは今でもはっきりと覚えている。天にも昇るような気持ちとはこういうことを言うのだろう。足が宙から浮いているような感覚で、声も出せないくらいの喜びだった。腕を後ろに引くようなガッツポーズ(プロ野球ファンの方は西武にいたデストラーデのガッツポーズを思い出してください)を繰り返していた。
 
しかも記名の記事。自分の名前があの有名ポータルサイトにライターとして掲載されるのが本当に嬉しかった。。
 
この時からはっきりとライターとして生きていくのを目指すようになった。
 
もちろんキュレーションサイトとポータルサイトだけでは実績として足りないから仕事を探す。ちょうどクラウドワークスやランサーズがサービスとして始まった頃だったので、登録をしていくつもの仕事に応募を繰り返した。
 
結果は芳しいとは言えなかったけど受注した仕事は全力でこなした。良く覚えているのが各自治体の介護への取り組みを紹介する記事。介護保険の仕組みすら知らなかったけど色々なサイトを見て回り、仕組みを覚えて指定された自治体の取り組みを一次ソースから見て回った。
 
時には厚生労働省や内閣府が発表した資料も読んでライティングを続けた。
 
その間、派遣社員の仕事も続けていたから完全なる二重生活。寝ているとき以外は家でも仕事をしているようになった。
 
それから少し経った後、クラウドワークス経由で企業案件を紹介してくれるサイトに登録をして医療系の記事を書くようになった。
 
それが2017年の6月のこと。報酬は今までとは比べものにならないくらい高額だった。運の良いことに知り合いの編集者さんから芸能記事を書く仕事も紹介してもらっていた。これもかなり美味しい仕事で今も続いている。
 
そう、僕は晴れてライター専業になったのだ。
 
それから必死になって仕事をしてきた。医療系のライティングは専門用語をかみ砕かないといけないし、記事の内容によっては医療広告ガイドラインや薬事法に引っかかる。
 
丁度キュレーションサイトが作った医療系の記事が医師の監修を受けておらず医学的根拠がないまま掲載されていた問題があっただけに、当時クライアントの社内は相当ピリピリしていた。文言一つまで細かくチェックされ、少しでも引っかかりそうな文章は容赦なく突き返された。
 
はっきり言って辛いし、面倒臭かったけど何とかくらい付いてライティングを続ける日々だった。
 
それと逆に芸能系の記事は評判が良く、納品する本数も増えていった。
 
調子こいて月60本も納品したことがある。それでも文句一つ言わずに校正と編集をして掲載をしてくれたのだから有り難い。
 
そして2020年になって一旦ライター専業ではなくなった。
 
コロナ渦によって三つあったクライアントのうち、二つから仕事が来なくなった。残っているのは芸能記事を書くことだけ。
 
それでは生活ができないから先ずは飯を食うために始めたのが警備員のバイト。一日9000円ほど稼げるから月に12~3日出れば自分一人食うだけならば何とかなった。
 
空いている時間を使って探したのはライターのお仕事探し。いくつかの紹介サイトに登録をして紹介を待ちつつ自分でも応募を繰り返すのを始めた。最初に2件のクライアントと新規で契約を結べた。3年近く専業でやってきたから評価されたんだなと調子こいていた。
 
しかし、その後が全く上手くいかない。
 
応募しても「強みとのミスマッチ」「テストライティングの結果、ご希望に添えません」「今回はご縁がなかったということで」という文面ばかり帰ってくる。
 
返事があるのはまだいい。
 
応募したのに無視するところがいくつもあった。そんなこんなを繰り返す日々が春を過ぎ、夏を迎えても続いていた。尋常ではない暑さの中、外で長袖の制服を着て交通誘導をしている日々(今でも片側交通整理できる)を過ごしていた。
 
バイト終わりのアイスクリームを食べるのが楽しみだった夏を越して、サンマの不漁が話題になった秋も変わらない生活を送っていた。
 
ハッキリ言ってこの頃はライターとして自信を失いかけていた。何をやっても上手くいかない。応募しても落ちるのだから自分はダメライターなのだろうと思うようになっていた。
 
テストライティングをしても色よい返事が来ないのが当たり前。応募するときもダメだろう思いながらメールを送っていた。
 
しかし、そんなことを吹き飛ばすような結果が年の瀬が聞こえてきそうな時期に僕の元へ届いた。
 
「テストライティングを拝見して、是非お会いしたいのでご都合のよろしい日時をご連絡ください」
 
メールにはそう書かれていた。
 
「よし!」
 
再びデストラーデのガッツポーズをしてすぐに返事を返す。そして指定された日に向かうと採用前提での話が進んでいった。唯一残っていた芸能記事を書く仕事、新しいクライアントの仕事と合わせるとライター専業としてやっていける。
 
僕は何とか専業のライターとしての生活を取り戻した。
 
 
あれがなければ、あそこでこうしていれば、後悔すること、反省することは山のようある。今でも新しいクライアントさんで似たような失敗をしている。試用期間だから本採用にならないかもしれない。
 
でも、諦めないで食いついていけばチャンスは必ず巡ってくる。逃すことなくつかみ取るためにはやっぱりライターなら書くことだったのかもしれない。
 
毎週5000文字の記事を書いて、フィードバックされる環境に身を置いていたからこそ掴めたんだろうな。
 
そして、僕は今日も課題の記事を書く。自分自身の足りない部分を埋めるためにね。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
篁五郎(READING LIFE編集部公認ライター)

現在、天狼院書店・WEB READING LIFEで「文豪の心は鎌倉にあり」を連載中。

https://tenro-in.com/bungo_in_kamakura

初代タイガーマスクをテレビで見て以来プロレスにはまって35年。新日本プロレスを中心に現地観戦も多数。アントニオ猪木や長州力、前田日明の引退試合も現地で目撃。普段もプロレス会場で買ったTシャツを身にまとって打ち合わせに行くほどのファンで愛読書は鈴木みのるの「ギラギラ幸福論」。現在は、天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティング学びつつフリーのWEBライターとして日々を過ごす。

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2021-01-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol,110

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