週刊READING LIFE vol,110

社会人になってまだ半年の息子が転職したいと言ってきた!《週刊READING LIFE vol.110「転職」》

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2021/01/11/公開
記事:松本さおり(READIBGLIFE編集部ライターズ俱楽部)
 
 
「転職したい」
 
社会人になってまだ半年の息子がそう言ってきた。
 
柔道整復師という仕事を選んで、資格を取り、4月から新社会人として就職したばかりなのに、もう転職を考えているのか。
 
「転職は不利になる」
 
息子の告白を聞いて、最初に思ったことはこれだ。
 
母親の私としては、やはり心配なのだ。
自粛ムードのこのコロナ禍の社会情勢の中、半年しか働いた経験のない若者を雇ってくれる会社があるのか。
 
「半年でやめちゃった人」という目で見られるのは不利だ。
もう少し頑張ってからのほうがいいのではないか、と不安前提の行動を押しつけたくなった。
 
よく考えてからにしなさい! と言いたくなる自分がそこにいた。
 
なぜ「転職」という言葉に、私は心配になるのだろう。
自分だって若いころ、いくつも転職してきたくせに。
 
自分のことなら気にせず転職したければするのだが、親という役割になると「自分の子どもにはできれば苦労してほしくない」という気持ちが湧いてくる。
 
今の会社をやめたい理由は何なの?
 
そう聞いたら
 
「息つく暇がない」
 
そう言って、彼は深いため息をついた。
 
彼の勤める整骨院は、繁盛店らしく、お客様がひっきりなしに来店する店舗なのだそう。
 
コロナで外出自粛の時期も、仕事の形態がリモートになり、出勤の必要がなくなった人が
増えたのもあって、肩こりや腰痛の人たちで需要が増え、余計に忙しくなったのだという。
 
あまりにも忙しくて、お客様の話を聞いている時間もない。
休憩もなかなかとる時間がない。
 
施術ベッドは工場のベルトコンベアーのようだ。
「はい、次、はい、次」と目の前のお客様を流れ作業のようにこなしていくしかない。
 
本当は、一人一人の体調をじっくり聞きながら、その方にとって一番いい施術を提供したいのに。
 
ここが一番の転職したい理由のようだ。
 
社会人になったばかりで転職を考えるのは、少し早すぎる気もするし、もう少しだけ頑張ったら? と言いたくなる自分はいるが、よく考えたら、私自身も若いころは何度か転職は経験している。
 
転職することで得た経験もある。
転職のたびに新しいスキルを手に入れたり、新しい出会いがあったりもした。
 
私も過去、エステティックサロンに勤めていて、そこで出会った上司が独立してエステティックサロンをオープンするとのことで、声をかけていただき、4年半務めていた会社を辞め、上司についていったがことがある。
 
しかし、経営がなかなかうまくいかず、給料をもらえなかった。
結局は1年でその店は閉じることになった。
 
そのときは、いろいろあったし悩んだりもしたが、それも今、自分で、小さいながらも経営をやるようになって、あの時の経験があってよかったなと思う。
 
経営がうまくいかなかったこと、給料をちゃんともらえなかったことを、経営者のせいにして文句を言っていたが、自分が経営者になってみて、初めて分かることもたくさんあった。
 
なぜあのときうまくいかなかったのか、どうすればもっとお客様を呼べたのか、今なら考えることができる。
若い時に「閉店」という貴重な体験ができたおかげで、あのとき何をするべきだったのかを知ることができた。
 
コツコツやり続けること、そして諦めないことが重要だということは、あのときの
「みんなでさっさと諦めてしまった」という後悔があったからかもしれない。
 
大変なときには「なんでこんなことに?」と考えてしまうものだが、そんな体験も悪いことばかりではないということだ。
あのときの経験は、お金を稼ぎ出すという視点と覚悟の大切さを身に染みて体験できたこの上ないギフトだったのだと思う。今になってみれば感謝しかない。
 
ということは、うちの息子も転職を通してきっとたくさんの貴重なギフトを得るのだろう。
そう考えたら転職も悪くない。
 
転職は、人生において大きなターニングポイントだ。
 
転職に限らず、転校、転勤、などのときには、今までとは違う世界を知ることができる
チャンスに溢れている。
 
「転」とは「変わり目」である。
 
そのときは、もがいたり苦しんだりしていたとしても、何年か経って、振り返ったときには
「あの時の経験のおかげで今があるのだな」と思うことも多い。
 
そして、そのたびに「何を大切にしていきたいのか」を思い出させてくれた。
 
辛い出来事や理不尽な出来事は、自分が本当はどうしたいのかをはっきりと目の前に
現してくれる。
 
変わり目のときに感じた気持ちは、いつでも私の世界を確実に広げてくれていた。
息子は「ベルトコンベアーのような流れ作業的な仕事の仕方」ではなく、
人と人の繋がりの大切にし、一人一人とコミュニケーションを取りながら丁寧に仕事をしたい、と思っているのだな。
 
それは素敵なことじゃないか!
 
「同じ店に長くいると、同じ技術しかやらないから、自分のスキルが偏る。そうならないためには、いろいろな店にいっていろいろなやり方を学びたいのもあるんだ」
 
そう考えるのは、将来、独立して自分で事業を起こすことを考えているからだ、と言った。
 
ほほ~~。
そこまで自分の将来を考えてのことなら、やってみたらいいじゃないか!
社会人になったばかりで、独立することまで視野に入れて彼が将来設計をしているとは、
正直、思ってもいなかった。
 
若いうちに、たくさんの経験をすることは、きっと将来大いに役に立つ。
 
彼も、経験を通して、自分の仕事に対しての想いを形作っていくのだろう。
そして、それが自分の在り方を決めていく。
 
きっと転職は、自分の理想を知るために必要なことなのだと思う。
 
心配しなくても大丈夫だ。
 
母は、彼を応援する人になろう。
 
息子を通して、大切なことを思い出させてもらえたなと思う。
 
たくさんの経験をした息子が、自分の理想を形にしたとき、息子のお店のお客さんに
なれたら最高だな。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
松本さおり(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)

介護福祉士 心理セラピスト
心理学、タロットセラピー、占いを通して自分を知り自分と仲良くなる方法を伝えている。
言葉の使い方、言葉の持つ可能性を広げるためにライターズ俱楽部に入部。言葉の持つ力をもっと活用できる人を増やしていくのが目標。

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2021-01-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol,110

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