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週刊READING LIFE vol,110

転職するために今の仕事頑張りなよ《週刊READING LIFE転職》

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2021/01/11/公開
記事:山脇 将賢(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私の心はボロボロだった。
ひとりでいると気付かぬうちに涙が頬を流れることもあった。
今の会社に入社してから8ヶ月ほどのことである。
 
その4ヶ月後、私は証拠資料ではち切れそうになった角2号封筒を持って会社のコンプライアンス室の前に立っていた。
パワハラやセクハラなどに関する社員からの訴えの窓口になる部署の部屋である。
 
私が今の会社に入社したのは、2017年9月である。
I Tコンサルの会社で、経営・I Tコンサルの仕事から実際のシステムの開発構築、そして保守運用まで全てをやる会社である。
ビジネススキルだけでなく、かなり高いI Tスキルも求められる。
 
そのために入社してから3ヶ月間はI Tの社内研修を受けることになっている。
この研修で、基礎的なプログラミングスキルやシステム構築の基礎知識を習得することができる。
研修後は、サーバーなどを自分で用意し、簡単なシステム構築が一人でできるようになる(ことを期待されている)。
 
私の成績は45人中15番目ぐらいであった。
そんなに悪くはなかったと思う。
 
簡単なシステム構築もひとりでできるようになったし、なんとかやっていけるだろう。
今まで全く自分とは無関係だと思っていたI Tの世界が、ひとりでシステム構築ができるようになったことですごく身近に感じることができるようになっていた。
この研修で大きな自信がつき、この会社でやりたいことなど、これからの展望について毎日のように同期の仲間と一緒に話していた。
 
そう浮かれていられたのは研修プログラムが終わってから配属先が決まる2週間だけだった。
この時はこれからはじまる地獄を想像することなど全くできなかった。
 
2017年12月25日の月曜日に私の配属先は決まった。
地方銀行グループである。
地方銀行向けにコンサルとシステム構築をするチームである。
日本中の地方銀行に対してコンサルをしており、日本中を出張できるチームであった。
 
日本中を出張できるなんてなんて最高なんだ。
そう喜んでいられるのも最初の1週間だった。
 
研修でのI Tスキルでは日々の仕事をこなすことはできない。
I Tの知識が全然足りないのだ。
おまけに銀行業務の知識もなかったために、指示内容を30%ほどしか理解することができない。
 
「最初は全然わからないと思うから、指示内容がわからなかったら、遠慮なく聞いてね」
 
プロジェクトチームのリーダーからは、とにかく理解しないまま仕事をすることだけは絶対にしないでほしいと念を押された。
 
その言葉を聞いて少し安心した。
今は全然わからないけれど、I Tと銀行業務の勉強をして、早くキャッチアップしよう、と考えていた。
 
それから1週間後、私は銀行が顧客管理をするために使う画面機能を開発するチームに配属された。
同時に、私のO J Tトレーナーが決まった。
10年以上のシステム構築キャリアを持つFである。
 
早速、次の週から客先でミーティングの議事録係として参加させてもらうことになった。
 
事前に準備した方が良いと思ったので、次の顧客ミーティングではどういったことを話すのか、をFに尋ねてみた。
 
「はあ。そんなの議事録読んどけよ。そんなことで話しかけて来るなよ」
 
Fから強い口調で怒鳴られた。
周りも一瞬静まり返った。
 
「申し訳ありません。議事録を読んでおきます」
 
議事録があることをその時に初めて知った。
しかし、議事録があるのは当然と言えば当然か。
確かに読まずに聞いたのはまずかったかもしれない。
そう自分に言い聞かせた。
 
しかし、専門用語も多く、システムの理解が追いついていないために、ほとんど理解することができない。
ネットや資料をあさりながら、読んだが、理解できない。
このままではほとんど議事録が取れなくなる。
あせった私は、Fに相談しに行った。
 
「自分で考えろよ。そんなことで無駄にリソース使わせんな」
 
仕方なく私は周囲に聞いたりしてなんとか議事録を理解するように努めた。
 
結果は惨敗だった。
想像どおり議事録は40%ほどしか取ることができなかった。
 
ボイスレコーダーで録音していたので、その内容をほぼ徹夜で書き上げていた。
しかし、内容そのものが理解できていなかったので、議事録としてのできはひどかった。
 
「お前、マジで終わってんな。こんなくそみたいな議事録書きやがって。お前、それなりに給料もらってんだから、その分しっかり働けよ」
 
オフィスで罵倒され続けた。
 
それから議事録以外にも設計書の作成など、どんどん新しい業務を振られるようになる。
わからないことだらけである。
調べるなどして理解をするように努めたが、理解することができない。
 
Fに聞くが、毎回返事は同じだった。
 
「そんなの自分で考えろ。無駄なリソースを使わせるな」
 
しかも、毎回オフィス中に響くような声で怒られるので、私はFに聞かないようになってしまった。

 

 

 

これは最悪の選択だった。

 

 

 

周囲の同期はわからないことは遠慮なく、O J Tトレーナーに聞いて、どんどん新しい仕事を覚えていった。
私は聞けないので、仕事を覚えていくことができなかった。
 
差はどんどん開いて行った。
 
さすがに差がどんどん開いていく状況に焦り始めた。
このままではダメだと思い、怒られることを覚悟でFに遠慮なく、わからないところを聞きに行った。
 
しかし、やはり「自分で考えろ」の一点ばりだった。
しかも、私から避けるようになった。
私が立ち上がり、質問しにいこうとすると立ち上がり、別の場所に行ってしまう。
 
メールや社内チャットでメッセージを送っても返ってくることはなかった。
 
チーム内の他のメンバーに聞いて解決することも考えた。
だが、周囲も忙しく、しかも自分の担当領域でないので、うまくいかなった。
 
「なんでお前の同期はできてお前はできないんだよ。お前の方が年は上なんだから、しっかりしろよ。年下に負けて悔しくないのかよ」
 
「文系出身のやつってみんなお前みたいにできないの」
そういったプライドを傷つけるようなことを他のメンバーがいる中で言われるようになった。
 
「こいつマジで使えないですよ。〇〇さん、下につけてみます」
 
「お前、普段使えないんだから、こういったとこではちゃんと働けよ」
 
飲み会の場などでもこういったことを言われるようになった。
 
こういった発言のせいで周囲も私をできない奴だと思うようになっていった。
 
私も自信をどんどん失っていった。
言動も弱々しくなり、いじめてください、というオーラを出すようになった。
この人には強く言ってしまうというのがあると思う。
まさに私は強く言われる対象であった。
みんな私に言いたい放題だったと思う。
 
6ヶ月でO J Tは終わることになっていたが、同期はみな卒業した。
私は卒業できなかった。
 
すっかり自信を無くしてしまった。
同時に、悔しくて、悲しくて仕方がなかった。
その気持ちでひとりでいると気付かぬうちにいつも涙を流していた。
 
このままではダメだ。
このままだと自分はダメになる。
 
この会社を辞めるしかない。
しかし、このままタダで辞めるわけにはいかない。
最後に今まで不満に思っていたことをぶちまけてやる。
 
Fと差し違えるつもりでコンプライアンス室に今までFからされてきたことを訴えることにした。
今までのチャットのやり取りやメール、同期などからの証言を紙に印刷し、A4封筒につめた。
はち切れそうな封筒を持ってコンプライアンス室に行き、今までされてきたことを全てコンプライアンス室の担当者に訴えた。
 
その後、事実関係などの調査が始まり、私が伝えた内容が事実であることが認められた。
 
プロジェクトには、厳重な注意とペナルティーが与えられた。
プロジェクトには、今後O J Tを監視する人員を配置し、その内容をコンプライアンス室に毎週報告する義務が課された。
 
Fには想像以上に重いペナルティーが課された。
Fはシニアコンサルタントからマネージャーにランクアップすることになっていたが、そのランクアップはなしになった。
同時に、今のプロジェクトからの移動が決まった。
 
このペナルティーは自分が想像する以上のものだった。
この問題で多くの人を巻き込み迷惑をかけてしまった。
 
一番迷惑をかけてしまったプロジェクトリーダーと面談する機会をもらった。
その中で会社を辞めることを考えていることを伝えた。
 
この騒動で一番面倒な目にあったのは、プロジェクトリーダーである。
上からもかなり叱られたらしい。
しかも、コンプライアンス室から報告義務も課されてしまった。
 
一番私にやめてほしいと思っているはずの人物である。

 

 

 

しかし、予想外の返答が返ってきた。

 

 

 

「今本当に辞めちゃっていいの。無理やり止めはしないけど、せっかく要件定義までやったんだから、設計、開発フェーズもやったらいいんじゃない。将来転職するためのスキルアップのために最後までやった方が良いよ」
 
驚いた。
正直、罵倒または嫌味のひとつでも言われることを期待していた。
しかも、将来転職するためのスキルアップの場としてこのプロジェクトを使ってくれとまで言っている。
 
結局、私はこのプロジェクトに残ることになった。
将来、転職するためのスキルアップのために。
(今考えるとなんと傲慢だったんだ、自分は、と思う)
 
そのマインドになってから会社の外の人間のスキルも意識するようになり、仕事の取り組み方も大きく変わった。
社内だけでなく、外の勉強会にも参加するようになった。
 
また、人との接し方も変わった。
今までは相手に対して意見を言うことはあまりなかった。
しかも、目上の人だと何も言えなかった。
しかし、転職するためと思うようになってからは、目上の人でも意見をはっきりと言うようになった。
あの時自分は本当はやめていた。
どうせ将来転職するんだし。
そう思うと自然に意見を言うことができた。
 
もちろん意見を言って嫌われることや罵倒されることもあったが、気にならなくなっていた。
 
転職を意識するようになってから、自分の仕事にもプライドを持つようになった。
ここでこの仕事をちゃんとできなければ、自分の経歴に傷が残る。
自信を落とす要因になる。
そう思うと絶対に失敗しないという強い動機となった。
 
設計フェーズ、開発フェーズ、テストフェーズ、保守・運用フェーズと全てのフェーズに関わった。
それぞれのフェーズで納期に追われ、徹夜を何日もして肉体的に限界を感じることも何度もあった。
テストフェーズに客先でテスト環境で何度もエラーを起こし、顧客から責められ続け、精神的に追い詰められそうになることも多々あった。
本番環境へのリリース時期は、本当に寝ることができないほど気が張り詰めていた。
 
それでも最後まで続けられたのは、自分の仕事にプライドを持つことができたからだと思う。
 
このプロジェクトで顧客からのシステムに関する要望のヒアリングからシステムの開発構築、保守・運用まで全て経験することができた。
入社してからちょうど3年である。
 
そしてこのプロジェクトが終わった後、プロジェクトリーダーからまた面談の機会をもらった。
 
「このプロジェクトの後、どうするの? もう転職しちゃう? ちょっとやってもらいたいことがあるんだけど」
 
銀行の延滞管理システム構築プロジェクトの開発リーダーを任されることになった。
延滞管理システムは中規模のシステムで2020年9月から7月までの約11ヶ月プロジェクトである。
 
転職のために今まで仕事を頑張ってきた。
でも最近はやりたいと思った仕事をやらせてもらえるようになっている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山脇 将賢

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2021-01-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol,110

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