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週刊READING LIFE vol,113

結婚してから気がついた夫のドラハラ《週刊READING LIFE vol.113「やめてよ、バカ」》


2021/02/01/公開
記事:武田かおる(ライターズ倶楽部編集部 公認ライター)
 
 
結婚してからパートナーの癖や習慣に気がつくということは、結婚した人なら少なからず経験するだろう。新婚当初だったりすると、相手を好きな気持が勝って、その癖も気にならなかったりすることもあるかもしれないし、同じ癖でも一緒に過ごすにつれて気になって仕方ないとか許せないとか、状況によってはそれを改めてほしいと思う場合もあるかもしれない。
 
癖や習性というものは、無意識でやってしまうことがあるので、相手に理論立てて説明すれば直してくれる場合もあるだろう。また、アルコール中毒だったり、ドメスティック・バイオレンスだったり、そういった複雑なことも結婚して発覚することがあるかもしれない。
 
私は夫と知り合って1年余で結婚したので、相手のことを知る時間があまりにも少なかった。そういう経緯と、私の夫はアメリカ人のため、文化の違いも相まって、結婚してから気がついた相手の癖とか習慣がいくつかあった。
 
例えば、結婚当時、今から20年前になるが、夫は帰宅時手を洗う習慣がなかったのでそれを改めてもらった。最初は私が「手洗いが病気の予防になる」と言っても半信半疑のようだったが、後日サイエンス系の記事を読み、手洗いが病気の予防として有効だというのを知り納得したようだった。当時、「キミの言うことは正しかったよ」と誇らしげに言っていたのを今でも覚えているが、日本では手洗いは子供の頃からの習慣なので、文化や生活習慣の違いに驚いたこともあった。
 
私もいろいろ言われて改めたりしながら、結婚生活が進んでいった。数年経って、もう大体相手の気になる癖は一通り知りつくしたような気がして、これ以上はもう無いだろうと思っていた。だが、あることをしているときの癖だけは、たまたまそれをする機会がなく気が付かなかった。

 

 

 

私達夫婦は日本で知り合い日本で結婚し、数年間日本に住んでいた。何度か引っ越ししたが、いずれの住まいも交通の便が良いところだったので、車を所有しなかった。私もペーパードライバーだったし、夫も日本の運転免許証を持っていなかったので、あえて車を買う必要もなく数年間が過ぎた。
 
その後、アメリカに移住した。アメリカでは都市部を除いて公共の交通手段が整っておらず、車での移動が一般的になる。当初私の住んでいた場所もどこに行くにも車が必要な状態だった。まさに車がないと、コロナ禍に隔離生活をしている状態と同じで、家族以外の知人にも会えないし、さらに食料品の買い物すら行けない状態だった。
 
そのため私は必要に迫られて車を運転をするようになった。夫もアメリカの運転免許の有効期限が切れていたので再度ライセンスを取得した。
 
こういう状態だったので、当時、夫と知り合って10年近く経とうとしていたが、二人でドライブというものに行ったことがなかった。父の運転で旅行に行ったことはあったが、夫が運転する車には乗ったことがなかったのだ。
 
夫は若かった頃、アメリカ海軍の特殊部隊に所属していた。その時、訓練の一環として通常の車の運転の講習とは異なる、特別な運転のクラスを受けたそうだ。超スピードで走ったり、急ブレーキを掛けたり、想像だが、カーチェイス的な訓練もあったのだろう。それだけあって、教習所の先生よろしく、私に悪天候中の運転のコツなどを教えてくれたことがある。都市部にて渋滞に巻き込まれて、カオスになった状態でも「集中するから話しかけないで」とは言われるが、冷静に運転していたので、まあ、運転に自信がある方なのだろうと思った。
 
アメリカに来て数ヶ月が経って、まだ3歳くらいだった子供を連れて車で出かけたときのことである。
 
その時は夫が運転していた。どこを走っていたのか詳しく覚えていないが、混み合った時間帯だった。
 
すると、いきなり隣車線を走っていた車が、私達の車の前に無理やり割り込んできた。もう少しで私達の車に当たりそうなくらいの勢いだった。その瞬間夫は聞いたこともないぐらい大きな音でクラクションを鳴らした。と同時に、Fから始まるアメリカの放送禁止用語を叫んだのだ。聞いたことある言葉だったが、実際に夫の口から聞いたのは初めてだった。
 
私は、事故になるんじゃないかという不安と夫の豹変ぶりに怖くなった。しかし、夫は割り込んできた車の隣車線に移り、その車に横付けし、再度その車の前に割り込もうとしたのだ。夫が割り込もうとしていることに気がついた隣の車の主は、入れるものかと前の車との車間距離を詰めた。夫は怒り、今度は別のAから始まる放送禁止用語を叫んだ。後部座席には子供が座っていたが、手が届けば子供の目と耳を覆いたいぐらいだった。
 
夫はその時、私や三才の子供のことは眼中にないようだった。まるで急に気性の荒い別人が夫に憑依したようだった。いつもの夫がどこかに言ってしまったような気がした。普段からこんなに荒々しい人ではないので、荒々しい運転と言動、そして、夫が吐いた汚い言葉が信じられなかった。私が知らなかった夫の違う一面を見たような気がした。
 
夫のいらだちは収まらず、割り込んだ車に自分の車を横付けしながら車を走らせて「前に入れろ」という意思表示を続けていた。相手はクラクションを鳴らし、私達に向かって中指を立てていた。このままだったら車を止めて小競り合いになりかねない雰囲気だった。
 
なぜ夫がそこまで見ず知らずの相手に執着して怒り続けるのか理解できなかった。確かに理不尽な割り込みに対して苛立つのはわかるが、自分が同じことを相手に対して仕返しする必要性はどう考えてもない。しかも運転に自信があるからといって、車という自分を含めて家族や他人を簡単に傷つけたり殺したりできる凶器を乱暴に扱うのかわからなかった。
 
事の始まりから一分経ったかどうかの短い時間だったが、私にはとても長く感じた。私はいろんなストレスや感情がマックスに達し、この状況に耐えられなくなり、気がついたら車中で叫んでいた。
 
「ちょっと、やめてよ、バカ! 落ち着きなさいよ。この車に乗ってんのあんただけじゃないのよ。私も子供も乗ってんのよ。事故にでもなったらどうすんのよ!
 
それに、そんな悪い言葉子供に聞かせたくない!」
 
夫ははっとして、現実に戻ったようで、横の車と競り合うのをすぐに止めた。
 
その後も自宅に帰るまで、私はとても嫌な気分だった。夫はいつまでもさっきのことで怒っている私が理解できず、逆ギレし、車内の空気は最悪だった。夫には言わなかったが、私はその時、結婚したことすら後悔するぐらい、夫の嫌な部分を見てしまったような気がした。

 

 

 

後日、別のところへまた車ででかけていたとき、お腹が空いたので、おやつとしてバナナを車の中で食べていた。夫は食べ終わると、何事もなかったように窓を開けて、バナナの皮をポイっと道端に捨てた。私は目を疑った。
 
私が、「ゴミを捨てないで!」
 
と注意すると、夫は、「どうせ自然に還るのに何をそんなに怒ってるの?」と全く悪びれた様子がなかった。たしかに雑木林が周りにあるような田舎道を走っていた。夫の言い分は、ある意味間違っていないかもしれないが、話の論点はそこではなくて、子供がそれを見て、車からゴミを捨ててもいいと理解するのが困ると説明した。夫はふてくされたような仕草だったが、一応納得してくれた。だが、その日も夫のポイ捨ての行動が頭から離れず、車中はしばらく最悪な空気が充満していた。
 
窓からゴミを捨てるなんて、マナー違反で言語道断だ。そんな人とは知らずに夫と結婚した自分が嫌になった。めったに日本の母に電話しないが、その日に限っては家につくやいなや、母に国際電話を掛けて愚痴を聞いてもらったぐらい動揺した日となった。夫はいつまでも根に持っている私に苛立っていたが、これからポイ捨てをしないという約束をしてもらうことで事態は落ち着いた。
 
後から、アメリカ人と結婚した友人にこの話をしたら、その人のパートナーの方も全く同じ理屈で果物の皮を車の窓から投げ捨てたそうだ。また、このバナナの皮やりんごの芯を車からポイ捨てすることに対する質問やそれに答える記事が多数あることから、百歩譲ってこの果物を窓からポイ捨てする行為が文化の違いや考え方の相違としても、最初に書いた、運転中の悪態は、文化の違いという一言で片付けられる問題ではない。
 
最近、たまたまオンラインでこのことについての記事を見つけた。こういった運転中に与えられる不快感について「ドラハラ」と呼び、ハラスメントとなりうることが説明されていた。
「本人が意図する・しないに関わらず、相手を不快にさせる「〇〇ハラ」。
『セクハラ(セクシャルハラスメント)』や『パワハラ(パワーハラスメント』などは、誰もがさまざまなシーンで気をつけるべきこととして認識されています。もちろん、それは運転中にも言えること。
何気ない運転が、同乗者を不快、不安にさせる『ドラハラ』になっているかもしれません」(1)
 
あのときのドライブ中の恐怖や夫に言動に対する不快感は、夫から受けたドライブハラスメント「ドラハラ」だったということに気がついた。
 
確かに、私自身、運転中に理不尽な割り込みをされたり、全く私が悪くないのに、大きなクラクションを鳴らして威嚇されたり、私が車線を変更したくてもなかなか入れてくれない状態とかだと、舌打ちしたり、小さな声で「なんやねん!」と独り言を言ってしまうことも否定できないが、そこまで悪い言葉を大きな声で言ったり、荒い運転をすることもない。
 
ネットで調べてみると、日本人も程度の差はあれ、運転中に悪態を付く人は珍しくないようだが、程度というものがあるように思った。
 
結婚前に夫の運転中の癖を知らずに幸か不幸か結婚し、家族となった。だが、もしも、結婚する前に、夫と二人でドライブに出かけて、夫があんな乱暴な運転をしたり汚い言葉を怒鳴っているのを間近で聞いたら、私は間違いなく夫の性格を疑って別れようと思っただろう。窓からのポイ捨てだってそうだ。
 
幸い、夫は運転中の悪態もゴミのポイ捨ても改めてくれたので、夫の車に乗ることは今ではストレスではなくなったので、色々あったが結果的には丸く収まった。
 
もし、あなたも結婚を考えている人がいて、これまでドライブに行く機会がなかったとしたら、ドライブに何度か行って相手に運転してもらい、運転中の態度を確認することをおすすめする。結婚してから運転中の悪態を知ると、私のようにショックが大きくなるため、できたら結婚前に確認し、必要なら話し合って改めてもらえるようにお願いするのが理想的だろう。
 
 
 
 
引用文献
(1)林田孝司 「運転中に無意識のハラスメントが?  同乗者に不安・不快を感じさせない⽅法とは」Lifehacker (2021年1月25日 最終閲覧日)
https://www.lifehacker.jp/2019/11/nissan_note_e-power.html

□ライターズプロフィール
武田かおる(READING LIFE編集部公認ライター)

アメリカ在住。
日本を離れてから、母国語である日本語の表現の美しさや面白さを再認識する。その母国語をキープするために2019年8月から天狼院書店のライティング・ゼミに参加。同年12月より引き続きライターズ倶楽部にて書くことを学んでいる。
『ただ生きるという愛情表現』、『夢を語り続ける時、その先にあるもの』、2作品で天狼院メディアグランプリ1位を獲得。

WEB READING LIFEにて、「国際結婚ギャップ解消サバイバル」連載中。
https://tenro-in.com/international-marriage-gap/153851

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2021-02-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol,113

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