週刊READING LIFE vol,113

イライラする自分を変える方法《週刊READING LIFE vol.113「やめてよ、バカ」》


2021/02/01/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「危ない、なんだよ!!」
私は突然飛び出してきた人を見て思わず怒り交じりに呟いた。
 
車を運転しているときに道路に人や自転車が突然飛び出してくることがある。他にも突然車やバイクが車線変更して目の前に入ってきたり、急ブレーキをかけることもある。
 
そんな時に思わず私は「何だよ!!」とイラっとしてしまうのだ。
もしかしたらあなたもそんなことあるかもしれない。
 
例えば、仕事中に同僚がミスして自分に被害がおよぶと「やめてくれよ」と、声には出さないが、頭の中で呟くことがあるだろう。他にも彼氏が突然みんなの前で、彼氏しか知らない自分の恥ずかしいことを冗談半分で話し始めたら「やめてよ、バカ……」と彼氏を責めるかもしれない。
 
人はこうした何かのときにふっと口に出してしまう口癖がある。
しかし、この口癖があなたの人生の8割を決めていると言ったらあなたは驚くだろうか?
 
私はコーチとして活動しているが、コーチングではこの口癖のことを「セルフトーク」と呼び、非常に重要視している。
なぜならセルフトークは自分に対して暗示をかけていることと同じ効果があるからだ。
 
だから私はコーチングを行う際に相手がどんな口癖があるのか注意深く観察をするようにしている。
例えば以前こんな方がいた。Aさんは30代の男性で、仕事でさらに成果を出せるようになりたいと考えていた。そのため多くのビジネス書を読み、休日には学校に通って勉強をするような努力家だった。
ビジネス書にしても学校にしても謳い文句としては「最短1週間で〇〇をマスター」「あなたも3か月で〇〇試験に合格!!」と言った、これをやればすぐに結果が出ますと打ち出し、あたかも誰でもすぐに結果が出るように感じさせてくれる。
 
実際に本を読んだ読者や学校に通った人の中には短期間で結果を出す人がいたのは事実なのだろう。しかし、全ての人が同じように結果が出るわけではなく、人それぞれ習得するまでの時間には差があるのは当然だ。
 
Aさんも最初はすぐに結果が出ると思って本を読んで実践し、学校に通って勉強をしていたが、なかなか結果を出すことが出来なかった。そしてAさんは「自分は昔からそんなに要領が良いほうではない。だから自分は時間がかかるのだろう」と思うようになっていった。
 
そして私と話しているときにも、自分の目標の話しや、これまで取り組んできてくれたことを話す中で「時間がかかる」「すぐには難しい」という言葉を発していた。私も最初は、確かに結果を出すためには時間は一定かかると思ったので、なるほどとうなずいていたが、話しているうちに「時間がかかる」は彼のセルフトークだという事に気が付いた。Aさんは自分では自分が目標を達成するためには時間をかけないと結果を出すことが出来ないと考えていたのだ。
 
そして私はAさんが何度目かの「時間がかかりますよね」という言葉を発した瞬間に「いえ、一瞬ですよ」と切り返した。彼はその瞬間「え! 一瞬ですか?」と驚いた顔をみせた。私は「はい、一瞬です」と念を押した。
 
私はAさんに「時間がかかる」という言葉がセルフトークになっていることを教えてあげた。そしてそのセルフトークをしているうちは、自分のことを「俺は結果を出すためには時間がかかる人間だ」という「セルフイメージ」が出来てしまい、そのままだと結果を出すために常に時間がかかるようになることを伝えた。
 
Aさんは非常に驚いた様子で、しかし自分のこれまでの経験を振り返ると確かにそうなっているという事に気が付いた。そして自分が結果を出すためには口癖を変える必要があることを理解し、これからは「時間がかかる」という口癖をやめると約束してくれた。
 
そのあと数日してAさんと話したときに「本当に結果って一瞬で出るんですね。仕事の生産性がスゴい上がったと思います」と報告してくれた。私は「凄いですね。でもAさんならもっと早く出せますよ」と伝えてあげた。

 

 

 

実はこのセルフトーク(口癖)を変えると結果が変わるというのは誰にでも起こる。むしろ問題は自分が普段どんなセルフトークをしているかは、無意識で発しているので気づきにくいことが問題なのだ。だからコーチは相手のセルフトークを見つけ、変える必要性を気づかせてあげる。
 
例えば私は車を運転しているときに「何だよ、危ないな」とイラっとすることが多いと冒頭でお伝えした。
この「何だよ、危ないな」と発している自分はどんな人物だろうか?
 
自分にとって不測の事態が起こると、いつもイライラする。
自分の予期しないことが起こると、相手のせいにする。
問題を他人のせいにする器の小さい人間。
 
このように「何だよ、危ないな」と発している自分は、実は自分の中で「私は器の小さい人間です」というセルフイメージを無意識で常に想像しているのである。
 
器の小さい人間が大きな成果を出せるわけがないので、結果としていつも限定的な成果しか出すことが出来なくなっているのだ。

 

 

 

ではどうしたらいいのだろうか?
 
セルフトークは言い換えれば、自分が自分に着ける仮面のようなものだ。
あなたはお正月に「芸能人格付けチェック」という番組を見たことがないだろうか。この番組では色んな題材の一流と三流を用意し、それを芸能人たちが見極められるかどうかを楽しむ番組だ。
その中で、食べ物の問題のとき、芸能人に目隠しのために「オモシロ眼鏡」を着けて、見えないようにしてから味覚だけを頼りに、どちらが一流の食材なのかを当てさせる場面がある。
 
このオモシロ眼鏡をかけると、どんなに美男、美女も途端に面白い表情になる。間の抜けた表情になる人もいれば、怒った表情になる人もいて、私たちはそれをテレビで見ていて、その表情をした芸能人を見て笑ってしまう。
 
実はセルフトークとは、このオモシロ眼鏡と同じなのだ。
かける眼鏡によって、その人の印象を大きく変える効果がある。
 
問題は、人は知らないうちにオモシロ眼鏡をかけてしまい、かけていることに自分自身が気づかないことなのだ。結果としてあなたの判断や行動は、オモシロ眼鏡をかけたイメージ通りとなる。
 
「時間がかかる」というオモシロ眼鏡をかけている人は、結果を出すまでに時間がかかるし、「何だよ、危ない」というオモシロ眼鏡をかけている人は、いつもイライラして問題を他人のせいにする。
 
このように自分がどんな眼鏡をかけているかによって結果が変わってしまう。
物事は「セルフトーク→セルフイメージ→結果」の順番になっているのだ。
 
つまり「結果」を変えたければ「セルフトーク」を変えればいいことになる。
Aさんは「時間がかかる」というセルフトークを「一瞬で出来る」に変えたことで、「自分は頭の回転が速く、仕事を一瞬でこなすことが出来る」というセルフイメージに変わり、結果を変えることが出来たのだ。

 

 

 

この仕組みを利用して私も自分の「何だよ、危ない」というセルフトークを変えた。
 
私は傍から見ると比較的おおらかな性格に見えるらしい。ところが実際に頭の中では結構イライラしていることが多い。
例えば仕事で上手くいかないことがあるとイラっとし、家の中でも子供がわがまま言うとイラっとする。しかしそのイラっとしたことを表に見せないようにしているので、周りにはそう見えてないだけなのだ。
 
しかし、私はこうしてすぐにイライラする自分が好きではなかった。というよりも本当は器の大きな男になりたいと考えていた。そうでなければ仕事で大きな成果を出すことが出来ないと思っていたので、どんなことが起こっても、どっしりと構えて冷静に判断を下せる男になりたいと思っていたのだ。
 
だからこのイライラしやすい自分を変えたいとずっと思っていたのだが、変え方が分からず悩んでいたのだ。ではどうしたら器のデカい男になれるだろうと考えているときに、私は自分が発している「何だよ、危ない」というセルフトークに気が付いた。
であれば、このセルフトークを器のデカい男が使っている言葉に置き換えればいいのだと考えた。
 
そして悩んだ末に思いついたのが「想定内」という言葉だった。
器のデカい男は、どんな出来事が起こったとしても動じないはずだ。なぜ動じないかと言えば目の前で起こる出来事が、その人にとっては驚くような出来事ではないからだ。つまり全ての出来事が「想定内」なのであれば、器が大きな男になれるのではないかと考えたのだ。
 
そこで私は自分の口癖を「想定内」に変えることにした。
 
最初のころは「想定内」という言葉を頭の中で意識的に何度もつぶやいていた。仕事をしているときも「想定内、想定内」と頭の中で繰り返した。
 
もし頭の中を他人が覗き見ることが出来たら、相当おかしな人に映っただろう。しかし実際には人からは見えないので、自分の中だけで何度も繰り返した。
 
それでも車を運転していると突然自転車が飛び出して「なんだよ、危ない」と呟いてしまうことがあった。しかしこの時には既に自分のセルフトークを意識に上げることが出来ていたので、「何だよ、危ない」が浮かんだ瞬間に「いや、想定内、想定内」と置き換えるようにした。そしてこれを何度も繰り返した。
 
すると2週間ほど意識して繰り返しているうちに本当に「想定内」という言葉が自然と出るようになってきた。仕事で自分以外の誰かがミスをしてトラブルになったときも「まあ、そういうことも起こるよな」と考えることが出来るようになっていった。
 
さらには「この状況がそもそも起こる原因があったはずだ。それを自分が事前に手を打っていなかったことが本当の課題だ。どうしたらその問題を未然に防ぐことが出来ただろうか?」と自分以外の人のミスであっても自分事として捉えられるようになった。
 
全てのことを想定内にするためには、常にありとあらゆる可能性を意識していなければならない。
そしてもし、自分が予測できていないことが起こったとしても、それはその状況を意識することが出来ていなかった自分に責任があると考えられるようになってきたのだ。
 
こうしているうちに、だんだんと私はイライラすることが少なくなってきた。
もちろん人間だからイラっとすることはある。しかしそのたびに「この状況が起こらないようにするためにはどうしたらいいだろうか?」と考える癖がついた。
 
そして苦手な人がいたとしても、その人だったらきっとこう考えるだろうな?という事を予測するようになり、事前に先読みして対応することが出来るようになった。
 
おそらく仕事でも家庭でも成果を立て続けに出している人は、この「予測」する能力が恐ろしく高いのだと思う。
 
もしあなたも自分の出している成果を変えたいのであれば、自分がどんなセルフトークを使っているかを探してみてほしい。
 
おそらく最初のうちは、無意識に頭の中だけで発している可能性もあるので、見つけにくいはずだ。そんな時は、理想的とする結果を出している自分だったら、どんなセルフトークを使っているかを考えてほしい。
 
きっと理想のセルフトークが見つかるはずである。
そうしたら、理想のセルフトークをあらゆる場面で使ってみよう。すると理想セルフトークではなく、違うセルフトークを使っている自分に気づけるようになる。
 
そこまできたらこれまでのセルフトークを理想のセルフトークに置き換えることが可能になる。最初のうちは、既存のセルフトークを呟いてしまうかもしれないが、それでもかまわない。
とにかく発した瞬間に自分で気づき、置き換えることに意味があるのだ。
 
そしてしばらく続けていると、「あれ、口癖が変わった」と自分で気づくことがあるだろう。その時はきっとあなたの身の回りの現実も変わっているはずだ。
 
自分のセルフトーク探しは一つ見つけることが出来ると、次は見つけやすくなる。出来るだけ多くのセルフトークを見つけて、理想のセルフトークに置き換えていってほしい。きっと嫌いだった自分も好きになることが出来るはずだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2021-02-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol,113

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