週刊READING LIFE vol,116

勤め先が見つからないなら、ひとつ自分で創ってみましょうか。《週刊 READING LIFE vol.116 「人間万事塞翁が馬」》


2021/02/24/公開
記事:白銀肇(LEADING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「自分の進むべき道はどこにある?」
 
会社勤めを辞めてから半年以上が経った。
「これだ!」というものが、まだ見つからず、いまだこの自問が続いている。
失業保険の受給も、あと残り数ヶ月という期限が迫ってきているのに、だ。
さて、どうする?
このままでは先細りになる。
 
そしてここに来て、わかってきたことがある。
こんな状況でも、どうやら次にまた会社勤めするという選択を自分はしそうにない、ということを。

 

 

 

いま、再就職支援会社のサポートサービスを受けている。
前会社の希望退職者支援サービスのひとつだ。
そこでネットによる求人企業の検索サービスがある。
必須項目として希望職種をまず入力し、続いて希望業種、希望勤務地域、と入力していくルールだ。
そうしないと、検索結果が得られない。
だけど、そこに入力する希望職種を選ぶことでつまずいてしまう。
職種が絞り込めないのだ。
 
前の会社は、新卒で入社し29年と3ヶ月勤めた。
国内の外勤営業を10数年、海外営業を数年、工場管理系部門を10年ほど、その中で辞める直前の2年ほどは海外法人のサポートや現地マネージャー代行など、いろいろと経験した。
管理職も経験した。
だから、企業検索の職種には、営業とか工場管理系とか、経験のある職種を入力すればいいだけだ。
でも、それができない。
というか、まずそこを絞って企業を検索する、という流れに何故か「違和感」を覚えるのだ。
他の転職サイトも同様だ。
仮に経験のある職種で検索したとしても、「ここで働いてみたい」という企業は見当たらない。
 
辞めてから2ヶ月ぐらいしてから、ボチボチと次の道を探し始めて以来、ずーっとこんな調子の繰り返し。
 
「自分が一体何をしたいのか」
これが明瞭にわかっていないなかで「生活のためだけに、その働き口を探す」ということができなくなっていることに気がついた。

 

 

 

この29年間、生活のために働き続けてきた。
「働かないと生活できないやん」
そう思ってきた。
 
生活費を稼がないと。
子供を育てないと。
ローン返さないと。
親の面倒も見ないと。
 
そのためには、少々パワハラにあったって歯を食いしばって頑張る。
不向きな仕事でも、課せられたものであればひたすらこなす。
それが、サラリーマンとしてのプロだ。
その対価として給料をもらっているのだ。
それが一家の大黒柱としての義務だし、責任でもある。
自分のやりたいことは二の次。
働くって、そういうことでしょ?
稼ぐって、そういうことでしょ?
そう思って走ってきた。
 
そしていま、自分に問うてみる。
「また、そのような思いで働ける?」
 
答えは……、「No」だ。
自分を押し殺して働く、ということに抵抗の気持ちが生まれる。
先の会社生活でそれはもう十分味わった。
もうそうやって働くことは、もういい。
同じことを繰り返すパワーもない。
それが素直な気持ちだ。
そんな自分の思いに嘘はつけない。
 
「じゃ、自分は何をしたいの?」
それもわからない。
悲しいぐらいに、わからない。
没頭できる深い趣味があるわけでもない。
どれもこれも中途半端。
 
思った。
結局、本当に自分がしたいことがわからない。
だから、次の道が選べない。

 

 

 

そんな思いのとき、ビジネス系コンサルをしている知人に出会った。
彼のコンサルは、自分が何をしたいのか、本当にやりたいことは何なのか、というところから入り込むものだった。
彼は、このコンサルをする前は建築関係の事業をしていた。
あるとき、本当にその仕事が本当に自分としてやりたいことなのか、ということを真剣に悩んだという。
その末に、彼はそれまでの自分の事業をたたみ、様々な思い、体験を得て今のコンサルの道を選び歩んできたという。
さらにその内容は、自分が心底やりたい事として立ち上げたものだ、とも。
そんな彼のビジネス論は、「やり方」ではなく、「在り方」から入るという。
 
「売り上げは自分たちが創り出しているものではない。お客様がお金を払ってくれているからだ」
確かにお客様がお金を払ってくれるからこそ、売上が成り立つのは道理中の道理だ。
「お客様がお金を払いたい、という価値がないビジネスは継続しない。まず集客どうこうとかの話はそのあとのこと。自分もお客様も喜べる価値提供ができないと意味がない。それは、どこかの企業に勤めるにしたって同じこと」と言い切る。
そんな彼のコンサルを受けた人のなかには、今までの事業をたたんで別の道に進んだ人も実際にいる、という。
 
この話を聞いて、私はそのコンサルを受ける決意をした。
結局のところ、自分の本心がわからなければ、何を選んだって上っ面のものでしかない。
そんなことで選んだものが、継続できるわけがない。
いまこそ、自分と向き合うとき。
その時間は、まだまだある。
本当に、自分のやりたいこと、自分の本心、それを見つけることがまず先。
そう思ったからだ。
 
数回目のコンサルワークでのことだ。
彼から言われた。
「肇さんは、会社勤めの人ではないなぁ。どうも違いますね。 ちょっと起業の方向で考えましょう」
 
えーーー!?
そっち???
考えてもみなかった。
 
「そんなこと言われても、そもそもそんな起業するようなコンテンツなんて持ち合わせていませんよ」
「それを一緒に考えていきましょう」
そう彼は言ってくれた。
 
なんということだ。
今まで生きてきて、自分が起業するなんて考えたことすらなかった。
趣味だって深くのめり込んだものなく中途半端なものばかり。
何か特別なスキルがあるわけでもない。
資格だって、普通免許と生産マイスター1級ぐらいのもん。
本当にコンテンツなるものなんて持っていない。
 
そういえば、彼はこんなことも言っていた。
自分もどこかに勤める、ということが考えられなかったから、自分でいまの職業を創った、と。

 

 

 

「不労期間が6ヶ月を超えてくると、再就職率は下がってくるのですよね……」
つい先日、ハローワークで失業保険の受給認定面談で、担当者はそう言った。
 
「そうですか。でも色々と当たっていますが、これと思うのがないのですよね」
起業コンサルを受けているとかは言わずに、普通にそう答えた。
「でももう、そんなことも言っていられないですよ、受給できるのも限られてきますしね」
担当者はそのようにたたみかけてくる。
 
コンサル受けているとはいえ、まだ探究の答えは明確に見つかってない。
だから、担当者が放ったことばは正直いって心に刺さった。
そのことばで、不安と焦りを感じたことは否定しない。
それは、再就職の道が狭まってきた、という実感からくる焦りだ。
 
ちょっと時間をかけすぎているのだろうか?
もっと早くから動くべきだったのだろうか?
 
わずかながらにも後悔の念を含ませながら、そんな思いすらよぎった。
 
でも、待てよ。
自分は、自分の本心を探すために、いまこうして時間をかけている。
その結果として、いまに至っているだけだ。
それが自分のペースだ。
もし、仮に自分が再就職しようとしたとき、それが理由で採用に至らないのであれば、そもそもそんな企業とは自分のペースとは合わない、ということだ。
 
「そんなこところでお前はやっていけるの?」
自問する。
この問いの答えも、やはり「No」、だ。
 
家に帰ってから、自分の気持ちを確かめるためネットでいろんな企業検索をしてみた。
何か自分に感じるところがあるか、自分の思いに何か変化はあるかどうかを確かめた。
どれもこれもピンとくるものはない。
自分が心を惹かれる企業も職種も見つからない。
いくら焦ったとしても、どこかの企業にエントリーしようという気持ちにもならない。
そうしたところできっと自分は長続きしない、ということがわかるからだ。
 
再就職支援団体やハローワークは、これからも色々と言ってくるだろう。
そしてそれらのことばは、過去の経験からくる確率の高い事実なのだろう。
だからといって。そのことが100%自分に当てはまるもの、ということも言えない。
そんなことばを聞いただけで迎合したくはない。
そのことだけは、今の時点ではっきりとしている答えだ。

 

 

 

ということで、いま自分で自分の職業を創ることに専念しようと心に決めた。
正直言って本当にどうなるか、自分でもわからない。
不安や焦り? あるに決まっている。
だって、やってみたことないもの。
でも、いまのところの本心は、再就職の道で迎合することよりも、こちらの道をチャレンジするのもありだ、という気持ちが強いのも事実。
 
きっと数年前の自分であったら、そんなリスクは背負えない、という理由で間違いなく再就職(迎合)の道を選んでいただろう。
今それを選ばないのは、さんざん自分と向き合ってみて、自分の気持ちに素直になることを優先してみよう、と思えるようになったから。
この機会だからこそ、こんなこともやれるのかもしれない、とも思うのだ。
まったく何も持っておらず、何も準備してこなかったヤツが、起業なんて無謀と思えるかもしれないだろうけど、でも、まぁ、そんな人間が世の中に一人いてもいいでしょ。
とにかく、やれるところまでやってみよう。
 
家族もそんな自分の思いを理解して見守ってくれている。
このことをコンサルサポートしてくれる知人もいる。
こんな思いを応援してくれる友人たちもいる。
このことは、とてもありがたい環境だ。
 
はてさて、一体どうなるか。
だけど、決めて乗りかかった船だ。
とにかく、悩んでいてもしょうがない。
 
「人間万事塞翁が馬」だ。
 
このことば、本当にいいよなぁ、と思う。
ちょっと唱えると、重たい荷物を下ろして体が軽くなった気になる。
いまの私にとっては、癒しのことばであり、そしてこれから動き出そうとする体に力を与えてくれる。
 
そして、このことばをつぶやくと、あとからこんなことばも響いてくる。
 
ケ・セラセラ。
明日は明日の風が吹く。
 
さらに気持ちが軽やかになってくる。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
白銀肇(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)

京都府在住。
「書くこと」を一番の苦手としていたが、「あなたの人生を変えるかもしれない」というライティング・ゼミのコピーに目を惹かれ、今年7月開講のライティング・ゼミに参加。
2020年6月末で29年間の会社生活にひと区切りうち、セカンドキャリアを目下探究中。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-02-24 | Posted in 週刊READING LIFE vol,116

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