週刊READING LIFE vol.121

友だちの不倫話は、「VRゴーグル」 をつけて聴け《週刊READING LIFE vol.121「たとえ話で説明します」》


2021/03/29/公開
記事:射手座右聴き (天狼院公認ライター)
 
 
「ダメ、不倫なんてダメ」
友だちの不倫話って聴くの疲れませんか?
「先週の土日は、仕事だって嘘ついて泊まりに来てくれたの」
そんなんどーでもいいわ!
と思いませんか。
 
それ、友だちにも伝わっているんです。
 
「周りの友だちには話せないんです。今の彼は不倫で」
 
そう。私のところには、月2,3人の女性が不倫の話をしにきます。
ネット検索した方が、おっさんレンタルのサイトで私を見つけます。
私は、1時間1000円いただいて、その話を聴いているのです。
 
「彼と別れたほうがいいでしょうか」
彼女たちは聴いてきます。
でも、アドバイスはしません。
そんなこと、求めていませんから。
なぜ、わかるかって?
 
「別れたほうがいいですよ」
なんて言ってみた日には大変です。
彼女たちは、口をとがらせて、こう言います。
「それができたら、苦労はしません」
 
「ほかにいい男性はたくさんいますから。思い切ってLINEを消してみたら?」
こんなことを言った日には、さらに反発を生みます。
「いい男性がいないから、妻子持ちとつきあってるんですよ」
と叱られかねません。
「もう、話を聴いてくれないならいいです」
となりかねません。
 
ここまで書いたら、もうあなたは気づいていますよね。
これは不倫の相談じゃないんです。
不倫してる気持ちを聴いて欲しいんです。
 
「そんなこと言われても、人の不倫なんか聞いてるだけでストレスだ。
でも、友だちだからなあ」
という方は、少なくないんじゃないでしょうか。
 
ところがですね、私はストレスを感じないんです。
他人事だから、というわけではございません。
できるだけ丁寧にお話を聴いています。それでもストレスは感じないんです。
 
どうしてストレスを感じないかって?
それは「聴き方」 を意識的に変えているからです。
今日は、「友人の不倫、みたいな話をストレスなく聴く方法」
についてお伝えします。
 
まず第一に、なぜ、ストレスがたまるのでしょうか。
ひとつの原因は、あなたの判断です。
「不倫はいけないこと」 という判断がずっと頭にありませんか。
「ダメじゃん、ダメじゃん」 と思いながら
目の前の友だちは、その「ダメな話」 を延々としている。
時には楽しげに、時には悲しそうに。これは疲れそうです。
かと言って遮断してしまったら、うわの空で
「この人話を聴いてくれない」 となります。
 
つまり、話を聴くためには、判断を捨てること、
でも、親身に聴いていることを伝えること、の2つが必要なのです。
 
そんなことどうやってやるの? という質問を何度となく受けてきました。
答えにくい質問でした。
が、しかし、ついに見つけたのです。
わかりやすいイメージを。
今日は「ストレスの溜まらない、疲れない、話の聴き方」 を
お伝えください・
 
仮に友人をA子さんとします。
彼女の話が始まったら、イメージしてください。
心にVRゴーグルをつけるところを。
 
そう。あなたは、A子さんの世界に、VRで入って擬似体験するのです。
両手に、少し重い、大きなゴーグルが乗っているとします。
バンドを調整して、目に装着します。
さあ、ここは、A子さんの世界です。
もう、あなたの判断は必要ありません。
いいも悪いもない、他人の世界ですから。
VRゴーグルをつけたら、A子さんと同じ方向に向くイメージをしてください。
そう。ここから、いわばVRツアーがスタートします。
A子さんの話に身を委ねてください。
ゴーグルの先に彼が現れます。
視点はA子さんですから、素敵な彼として登場します。
この際、彼のどんなところがいいと思っているのか、聴いてみましょう。
生き生きと話してくれるはずです。
話す光景はどんどん目のまえに現れます。
コロナ前にたまたま職場近くのバーで知り合った、なんて話がでてくるかも
しれません。
A子さんが最近はまっていたワインに詳しかったり、同じ海外ドラマにはまっていることもわかりました。
さらに聴くと、その日は連絡先を交換もせずに帰ったことがわかります。
それどころか、第一印象は「うざいおじさん」 と思っていたこともわかります。
そう。A子さんは、何も最初から不倫しよう、
と思っていたわけではないのです。
 
続いて、なれそめの話がでてきます。何回かバーで出会ううちに、ある日突然、常連同士で連絡先を交換することになったこと、がでてきます。
そこからマメに連絡がくるようになったことがわかります。
たまに返信をしたり、スルーしたり、適当に扱っていたことも。
 
なぜこんなにA子さんは喋ってくれるのでしょうか。
それは、あなたがVRゴーグルをしているからです。
VRゴーグルを通して、彼女の世界を追体験しているからです。
「うざい」 と思った時には、うざい、と思い、偶然連絡先を交換したところでは、「こんなおじさんに連絡先渡すの?」 という微妙な気持ちには微妙な気持ちを追体験する。そんな聴き方になっているからです。
 
そう。頭から否定せずに聴いていくと、
A子さんの話もどんどんでてくるのです。
逆に、あなたはどうでしょうか。
どんどんでてくる話を追体験することはそんなに苦ではないはずです。
だって、これはVRの世界。友だちの視点に没入しているわけですから。
つまり、あなた自身の判断をする余裕もないわけですから、ストレスもたまりにくいはずです。
 
こうして、A子さんはどんどん話しやすくなり、あなたは聴くのが苦にならなくなり、話は進んでいきます。
 
彼の強引なアプローチにだんだん心を開いてきた様子や
好きになった経緯などを聴いていきます。
 
恋愛が始まって初期の楽しかった頃の話から
だんだんと話は核心に近づいていきます。
 
ある日、A子さんは休日デートが少ないことに気づきます。
あれ。もしかして。と思います。
でも、怖くて聞けません。「結婚してるの?」 とは聞けません。
彼の口から事実を訊いたら、ショックを受けてしまいそうだからです。
知らずにつきあっていたことへの後悔があるかもしれません。
プライドが傷つくこともあるでしょう。
信じていた人に裏切られた、という悲しみもあります。
 
心にVRゴーグルをつけているあなたはそんな気持ちを追体験していくのです。
一緒に落ち込みそうになったら、思い出してください。
「これはVRだ。私の世界ではない」
ということを。
 
そう。心のVRゴーグルが優れている点は、
「追体験はする。けれど、自分ごとにならない」 という点なのです。
 
これは、共感しながら聴く、でも、自分までダメージを受けない。
という聴き方です。
 
同情してはいけません。「かわいそう」 という同情もまた、
あなたの判断だからです。
「不倫は悪い」 と判断することが、話を聴くストレスになるのと同じように
「後から不倫がわかってかわいそう」 という気持ちもまたあなたに悲しみのストレスを与えることになります。
 
「彼は結婚してるのかも」 と疑念を抱きながら付き合っているA子さんに
お約束の時が訪れます。
彼のスマホから、妻子と一緒の写真を見つけてしまうのです。
疑いが的中した時の気持ちを、あなたは聴いていきます。
 
裏切られた気持ち、ショックな気持ち、自分を責める気持ち、
一言で不倫と言っても、様々な気持ちが交錯していることを
あなたは知ります。
 
A子さんはA子さんで、
話しながら、いままでの経緯を振り返ることができました。
そして言います。
 
「私、ダメな男とつきあっていたかも」
そう。頭ごなしに悪い、と言われるのでなく、彼女は彼女の力で気づくのです。
今の恋愛があまり好ましくないものだ、ということに。
こんな風に言うかもしれません。
「結婚してることに気づかない私が悪いんだよね」
彼女が初めて、あなたに意見を求めました。
 
そんなとき、心のVRゴーグルをしているあなたは、なんと言うでしょうか。
「そうよ、A子(友だちの名前)が悪いのよ」 と言いますか?
 
いままでの追体験からおそらく、つい、こう言ってしまうかもしれません。
「A子は悪くないよ。知らなかったから」
 
これこそが、彼女が待っていた言葉ではないでしょうか。
 
そして彼女は自分で感じるでしょう。
「知らなかったときは悪くないけど、今は知っちゃったから、悪いよね」
 
心のVRゴーグルをつけて見えた世界。いかがですか。
 
聴くストレスを受けないようにしながら
相手の話を丁寧に聴いていくこと。
こちらが判断するのではなく
話している人に、自分で考えてもらうこと。
 
これを私は毎回心がけています。
 
心のVRゴーグルの考え方は、私が勝手に言ってるのではありません。
実は、元ネタがあります。
カウンセリングの三原則といわれるものを説明しようとした例え話です。
 
これは傾聴の基本ともいわれるもの。
カウンセリングの原点を作ったロジャースという先生が考えた原則です。
 
ひとつめは、共感的理解。
相手の立場で相手の気持ちに共感しながら聴くこと。
まさにVRで相手の世界を体験するように聴くことです。
 
ふたつめは、無条件の肯定的関心。
相手の話を否定せず、その背景に肯定的な関心を持って聴くこと。
評価しないこと。
VRは相手の世界なのですから、いいも悪いも評価せずに没入しますね。
 
みっつめは、自己一致。
聴き手が相手にも自分にも真摯な態度で、わからないことはわからないと
真意を確認すること。
現実では知ったかぶりすることでも
VRの世界とイメージすれば、「それどういうこと?」
と素直にきけるということです。
 
人の話と自分を切り分けるのは、とても難しいことです。
共感しようと思えば、同情してしまうし、
理解しようとすれば、自分に置き換えて考えてしまう。
 
自分と話し手を切り分けながら、同じものを同じように見る。
VRゴーグルは自分の周りの世界と自分を切り分けてくれます。
そして、相手の世界に没入させてくれます。
相手の世界を先入観なく感じることができます。
 
先日、「話を聴くのが苦手」 という方が、私のところに相談にきました。
「どうしても、人の話を判断してしまうんです」
とおっしゃいました。
「たとえば、どんな話が苦手ですか」
と質問したところ
「不倫みたいな、悪いに決まってる話を聞くと、ダメって言ってしまうんです」
とおっしゃったのです。
 
その時、咄嗟に思ったことが「VRゴーグルをしてるとイメージしてみたら」
という言葉でした。
するとどうでしょう。
 
「話を聴くのが苦手」 と言っていた人が
相槌を打ったり、うなづいたり、急にいきいきと聴き始めたのです。
 
まだ、この説明が完璧かはわかりません。でも、そこには手応えがありました。
ほかのどんな説明よりも。
 
だから、もし、
不倫の話に限らず、聴きにくい話に出会ったら
試して欲しいのです。
 
「心のVRゴーグル」 がみんなのコミュニケーションに
役立ったら、これほど嬉しいことはありません。
 
それでは、今日も誰かの話を聴いてきますので
このへんで。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)

東京生まれ静岡育ち。広告会社を早期退職し、独立。クリエイティブディレクター。再就職支援会社の担当に冷たくされたのをきっかけにキャリアコンサルタントの資格を取得。さらに、「おっさんレンタル」メンバーとして6年目。500人ほどの相談を受ける。「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。天狼院公認ライター。
メディア出演:声優と夜遊び(2020年) ハナタカ優越館(2020年)アベマモーニング(2020年)スマステーション(2015年), BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演

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2021-03-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.121

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