週刊READING LIFE vol.121

クローゼットの中の元カレ《週刊READING LIFE vol.121「たとえ話で説明します」》


2021/03/29/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「私、捨てられないんです」
 
私の元にやってくるお客様は、口を揃えてそう言われる。
人間の三大悩みは、お金、健康、人間関係と言われているが、主婦の三大悩みは、夫、子ども、片づけではないかと思う。
それくらい、今は片づけられないという悩みの人が多い。
例えば、レストランでランチをしていても、周りの主婦のグループのテーブルから漏れ聞こえる会話は、最初は夫のこと、子どもの話だったのが、最後には片づけられないという内容でよく盛り上がっている。
 
そんな私は、断捨離トレーナーという仕事をしている。
以前、職業名を言うと、家には来てほしくないと言われたことがある。
当時、断捨離は捨てること、と捉えられることが多かった。
だから、私が家に行くと、「コレ、捨てなさい、アレ、捨てなさい」と、言われるとでも思ったのだろう。
ご安心ください、私は「コレ、捨てなさい」とは言いません。
 
さらに言うと、断捨離とはズバリ、思考の片づけ術である。
身の周りのモノを片づけながら、結果、片づいているのは思考だったり、気持ちだったりするのだ。
もちろん、要らないモノを手放してお家はスッキリした空間が広がっているのだが、何よりも気持ちにもゆとりが生まれる。
 
思考なんて、どうやって片づけるの?
そんなふうに思われるかもしれない。
ネガティブな思考を変えたいと思い、自己啓発セミナーに通ったり、心理学を学んだりした経験がある方も多いはずだ。
でも、その結果、一体どれくらいの人が目的を達成できただろうか。
学んでいるときは、「うん、そうだ、そうだ、そう考えられるようになったらいいんだ」と、深くうなずくことばかりだと思う。
理論は理解できるのだが、それを実行に移すことは、また別のことになる。
 
思考や、気持ちというのは、自分自身の一部分でありながら、どうやら思い通りには塗り替えられないようにできている。
それは、やはり見えない領域のことだから、ダイレクトにアプローチするのは難しいのだ。
しかも、頭では理解でき、納得したことも、気持ちが同意しない限り、人間というものは行動に移さないのだ。
心理学で言われるところの、顕在意識(思考)は、4~9%ほどで、潜在意識(気持ち)は、90%以上を占めているからだ。
だから、頭でいくら、「うん、そうだ、そうだ」と納得しても、心の方はこれまでの気持ちのクセのままでいると、結果は一向に変わらないのだ。
良い話を聞いて、「スゴイな、それ、やったら良いだろうな」と頭では理解しても、新しいことをするのは面倒だと感じたり、一歩を踏み出す気持ちになれなかったりすることがあると、やっぱり実践には移さない。
 
潜在意識というのは、このように人間の行動を司っているといっても過言ではない。
そして、その心の領域である潜在意識は、見える現実のカタチあるモノの世界に表れているのだ。
実際、お家が散らかっているお客様と話をしていると、考えがまとまらず、言いたいことが上手く伝えられなかったりするのだ。
用事をするときにも、優先順位がつけられず、あちこち手を着けて混乱したり、重要なもの、期限があることをすっぽかしてしまい、「しまった!」という結果になったりすることはよくあることのようだ。
やはり、お家が散らかっている方は、気持ちも散らかっていると言えるのだ。
 
よく、断捨離のセミナーに来られる受講生さんに「どんなお家で過ごしたいですか?」と、尋ねると、
 
「ホテルやモデルルームのようなお家」と答える人が圧倒的に多い。
 
お家がホテルのようだったら、そこで過ごすことを想像してみると、いかに気分がいいかは誰にでもわかることだ。
 
反対に、家が汚部屋で、散らかり放題だったとしたら……。
現にお客様でかつてそのような住まいだった方は、時々ネットカフェで寝泊りしたことがあると言われていた。
 
このように、身近な環境であるお家から、とても大きな影響を受けているのだ。
これまでのことを読んでいただくと、お家という環境の状態が、ただ暮らしやすいかどうかの問題にとどまらず、思考、気持ち、行動を左右することにつながり、それこそが人生にも影響を及ぼすということを理解していただけると思う。
 
だから、断捨離を実践すると、住まいが変わり、やがては人生も変わってゆくと言われるのだ。
あんなにも、自己啓発セミナーや心理学では変わらなかったのに、モノの片づけ、お家を片づけることが、思考を調えることに繋がるから不思議なものだ。
 
では、なぜモノを片づけると思考が片づくのか。
それは、モノにはその持ち主の思いが貼りついているから。
それが良い思いならば、とても良い関係を結んでいるのだから、身の周りに置いてあっても気持ちがいいし、それらが生活を応援してくれているはずだ。
ところが、こんなモノがないだろうか。
 
好みではないが、〇〇さんからいただモノだから飾っておかないと……。
履いた時にちょっと痛いけれど、イタリアのブランドの靴だし、そうそうは買えない値段だし……。
気づいたら、ウエストがちょっときつくなったけれど、また痩せたら着られれるし……。
 
そんな思いが貼りついたモノが周りに大量にあったとしたら。
そのお家に住んでいて、良い気持ちになるだろうか。
どれを見ても、好きでもなく、心浮き立つこともなかったとしたら、その空間にいること自体、楽しいのだろうか。
 
断捨離では、そういった、すでに関係が終わったモノ、執着心だったり、モノや他人が軸となったりしたモノを手放してゆく。
すると、これまで捨てられないと悩んでいた人たちは、その不要な思いをモノと共に手放すことで、何より心が軽くなってゆかれるのだ。
思いとは、実に重いものだということがわかるはずだ。
 
そして、特に女性が捨てられないと悩むモノが洋服だ。
これまで、どれだけのお客様の洋服の断捨離をサポートしてきたことか。
私自身もそうだったが、20年、30年ものがクローゼットにぶら下がっているのだ。
ここ何年も着ていないのに。
いや、それどころか、あることさえも忘れてしまっていたのに。
断捨離する際、1枚ずつ手に取ってみると、
 
「これ、高かったし」
 
「これ、〇〇ブランドだし」
 
「これ、いつか着られるし」
 
そんな言葉が舞う。
 
じゃあ、今シーズン着るのか?というと、今年は今年で、また新しく購入しているのだ。
 
つまり、目の前の、洋服がギュウギュウに詰まっているクローゼットにあるのは、着ようと思ったら着られる洋服であって、今の私が着たいと思う洋服ではないということ。
 
それは、例えてみると、元カレのようなものだ。
 
かつて、よく着た洋服。
若い頃、キラキラした時代によく着ていた洋服。
けれども、今は……。
手に取ることもなく、忘れてしまっていたのだから、元カレだ。
元カレを誘って、ランチに行こうとはあまり思わないはずだ。
いくら付き合っていた時は、楽しい思い出がたくさんあったとしても、過去の存在だからだ。
今、お付き合いしたい人は別にいるはずだ。
 
元カレがギュウギュウに詰まったクローゼット。
そりゃあ、開けるたびにため息をつきたくなるはずだ。
 
「あ~、着る服がないな……」
 
そりゃあそうだ。
元カレからワクワクする相手を選ぶなんて、それほど気分が乗らないことはないだろう。
過去、良い関係だった洋服。
でも、今、それらはどうなのか?
是非、今と未来を輝かしいものにしたいのであれば、関係が終わった元カレのような洋服から断捨離してみて欲しい。
自分の思いに向き合い、取捨選択してゆくことで、きっと住まいは清々しい空間を取り戻し、人生までも好転してゆくはずだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2021-03-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.121

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