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週刊READING LIFE vol.124

「多様性」があなたの会社にイノベーションを起こす《週刊READING LIFE vol.124「〇〇と〇〇の違い」》

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2021/04/19/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
「あ、いいこと思いついた!!」
 
ふとした時に、突然良いアイデアを思いつくことがある。
 
しかもそういう時はたいてい、その問題を一生懸命考えているときではなくて、寝ようとうつらうつらしているときとか、お皿を洗っているときとか、トイレに入っているときなど、まったく違うことをしているときに、突然閃いたのではないだろうか?
 
実は「アイデアのつくり方(ジェームズ・ヤング著)」という古典的名著にはアイデアを思いつくためには以下のステップが必要と書いてある。
 
① 様々な情報をたくさん入手する
② 得た情報を使って必死で考える
③ 脳を休める
④ アイデアが閃く
 
人がアイデアを思いつくのは、このステップになっているというのだ。
つまり私たちが「いいこと思いついた」となるのは、たくさんの情報を入手して一生懸命考えたあとの、リラックスしているときに閃くというわけだ。
 
さらに①の情報入手する時には「できるだけ多様な情報を集めたほうが良い」のだと言う。「同じような情報」だけ入手するのではなく、まったく異なる分野の情報も仕入れることが重要なのだ。
 
この「多種多様な情報」を仕入れられるかどうかが、良いアイデアを思いつく「鍵」と言っても過言ではない。ところがここに落とし穴がある。私たちが普段入手している情報はかなり偏っているということだ。
 
私たちの脳には特殊なフィルター機能が備わっていることが最新の脳科学から解明されている。「RAS(ラス)」と呼ばれる情報を取捨選択する機能があり、その人にとって重要度が高い情報しか、脳は意識に上げられないのである(重要度が低い情報はスルーされてしまう)。
 
そのため、あなたが問題を解決するために、一生懸命考えれば考えるほど、脳はその情報に関連する同じような情報だけを集めてしまうのである。
これでは「アイデアのつくり方」の最初のステップからして踏み外してしまうことになる。
 
私たちが良いアイデアを頻繁に思いつくことが出来ない理由は、実はこの「同じような情報だけを集めてしまう」ことに原因がありそうだ。
逆に言えば、次から次へとアイデアを思いつく人は、この仕組みを利用し「多種多様な情報」を意図的に仕入れている可能性が高い。
 
もしあなたの周りにアイデアマンがいたらぜひ聞いてみてほしい。おそらくその人は普段から色んな事柄に興味を持ち、様々な情報を入手しているはずだ。
 
実は私が専門としている「発達障害」の分野では「ADHD」の特徴がある人は発想力がある人が多いと言われている。「ADHD」は「注意欠陥多動性障害」と言い、一つのことに集中することができず、注意力が散漫で、じっとしていることが出来ないという障害だ。
 
ところがこの「ADHD」の人に中に、実は有名な経営者や発明家が沢山いるのだ。
有名なところではマイクロソフトを創業したビルゲイツ、Appleの創業者スティーブジョブズなどは「ADHD」の傾向が強いと言われている。
 
またその他にもアインシュタインや、エジソンも「ADHD」の傾向があったと言われている。彼らは幼少期から集中力が散漫でじっとしていることが出来ず、中には手の付けられない暴れん坊だった人もいる。ところが大人になり突然才能を発揮し、発明や突飛なアイデアを思いつき、名を馳せるのである。
 
ただ、誤解が無いように断っておくが、全ての「ADHD」の人が天才的な閃きや才能を発揮するかと言えばそんなことはない。実際私が支援している方々は「ADHD」の特性に悩み、苦しんでいる人が大半だ。
その人の強みを活かせるかどうかは、個人の努力だけでなく、どんな環境にいるかが重要であると研究者は言っている。
 
先に挙げた著名人たちも、もちろん個人の才能や能力があったことは疑いないが、彼らの才能を活かすことが出来る環境があったことは間違いないだろう。
 
このようにその人の特性を活かすも殺すも、実は環境に大きな要因があるのである。
 
私は障害者支援を本業としているため、日々どうしたら彼らの生きにくさを軽減し、強みを活かし、自分らしく生きることが出来るかを考えている。
 
そのためには個人の支援はもちろんだが、環境を少しでも変えていく必要があると考えている。そこでよく話題に出るのが「ダイバーシティ」や「インクルージョン」という言葉である。
 
だいぶ一般的にも浸透してきた言葉だが、実はよく分からないという方もいると思うので、簡単に説明をしておきたい。
 
「ダイバーシティ」とは「多様性」という意味である。もともとは生物学で使われていた「バイオ・ダイバーシティ(生物多様性)」とい言葉から派生したと言われている。
世の中には様々な生物がお互いに影響を及ぼし合うことによって生存しているという考え方である。
 
ここから派生して、組織も「同質性・均一的」な状態よりも「多様な価値観」や「個性」を重視しようという動きが強まり、1980年代ごろから「組織のダイバーシティ(多様性)」ということが叫ばれるようになった。
 
一方で「インクルージョン」という言葉も最近耳にするようになった言葉だ。
「インクルージョン」とは「包摂・包含」という意味である。つまり「異なるもの同士を一つに包み込む」というイメージをしてもらうといいかもしれない。
 
ただ、この説明だけ聞いて「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の違いを理解できた人は天才かもしれない。正直私は最初に聞いたときは「どちらも組織の中に色んな人たちを一緒にするということだから、同じことなんじゃないの?」と考え、理解することが出来なかった。
 
しかし、この2つの言葉に「調和」という言葉を入れると分かりやすくなる。
卑近な例で恐縮だが「マヨネーズ」を想像してもらいたい。
 
マヨネーズの主な原料は「卵」と「油」「お酢」である。
この3つを一つのボールに入れると、最初は混ざり合っていないので一つのボールには入っているけど、お互いがまだ「分離」している状態である。当然だがこの状態で「はい、マヨネーズですよ~」とお母さんに食卓に並べられたら「いや、そうかもしれないけど、これ美味しくないでしょ」と突っ込みを入れたくなるはずだ。
つまりこれが「ダイバーシティ」の状態である。
 
ところがこれを一生懸命かき混ぜるとだんだん「卵」と「油」と「お酢」が混ざり合い、三つの要素の「調和」が取れてくる。お互いがお互いを引き立て合い、そこにちょっと塩、コショウで味を調えれば美味しい「マヨネーズ」の出来上がりだ。
もともとは混ざり合わない異なる素材を上手く「調和」させることで、お互いがお互いを引き立て合い、絶妙な味になるのだ。
この状態が「インクルージョン」である。
 
人間とマヨネーズを一緒に考えてしまって大変恐縮だが、お分かりいただけただろうか?
 
つまり皆さんの会社の中でも多様な人材がただそのままでいる状態が「ダイバーシティ」で、お互いがお互いを助け合い、それぞれの強みを活かす状態にできて初めて「インクルージョン」になるということだ。
 
ここが分かると「ダイバーシティ」の状態から「インクルージョン」の状態になることがいかに難しいことかお分かりいただけるだろう。
 
実は障害者支援の仕事をしていると、日々この「ダイバーシティ」と「インクルージョン」の壁に頭を悩ませることになるのだ。
 
現在日本の法律では「障害者雇用率制度」という法律があり、一般企業では社員の2.3%にあたる「障害者手帳」を所持している人を雇用しなければいけないという義務が課せられている。この雇用率を達成しないと「納付金」という罰則金のようなものを支払わなければいけない。
しかしここで難しいのが、単に雇用率を達成するために雇用している場合、入社した障害者が会社の中で「調和」がとれた状態になりにくいのである。
もちろんこれまで雇用されていなかった人が、雇用され仕事を持つことが出来ているだけでも何十歩も前進したことは間違いない。
 
これで良しとする企業の気持ちもよくわかる。私も以前は会社の中で障害者を雇用する側にいたので、会社が事業運営しながら雇用率を達成することがどれだけ難しいかは痛いほどよくわかっている。
 
しかし、一緒に仕事をしていたからこそ、私は障害者の気持ちもよく分かるのだ。
当たり前だが自分が単に雇用率を満たすためにだけに雇用されているとしたら、気持ちいいわけがない。
 
会社で仕事をするということは、世の中に対して価値を提供する行為である。
その価値が十分に発揮できない状態でただ雇用率のために雇われている状態は情けをかけられている気がしていたたまれないのだ。
 
「自分だって誰かの役に立ちたい」
「自分だって誰かに認めてもらいたい」
 
こういった気持ちを抱えながら、でも自分の障害特性から他の人のように成果を出すことが難しいことも理解しているため、もどかしい気持ちを抱えているのである。
 
そしてこれは障害者の方に限らない。
子育て中のお母さん、高齢者、外国人、LGBTQ、介護従事者など、いわゆる働く上で制約がある方たちはいずれもその組織の中で肩身の狭い思いをしながら働いているのである。
 
この問題は、個人がいくら努力をしても、環境が変わってくれないと解決することは難しい。そこで国はこの数年「働き方改革」を進めることで、多様な属性の方たちの雇用を増やそうとしてきた。実際一定の効果はあったが、しかし「インクルージョン」の状態にはまだまだほど遠いのが現状である。
 
なぜ「働き方改革」では「インクルージョン」が実現できないのだろうか。
それは、結局のところ「働き方改革」の中心的な話題が「時間」と「場所」にフレキシビリティを持たせるということだけに終始してしまったからだ。
 
実は「働き方改革」は前安倍内閣の主要なテーマではあったが、現場ではそれほど進んでいなかった。ところが新型コロナウィルスの影響で一気に在宅勤務が進み、「時間」と「場所」の自由度が高まった。
 
ところが、これは「ダイバーシティ」がし易くなったというだけで、お互いがお互いの強みを活かして組織の「調和」が取れるようになる「インクルージョン」になったわけではないのだ。
 
本当に「インクルージョン」の状態になるためには、そもそも全社員がその状態を望んでいることが前提になければならない。一部の人だけが「調和」を望んでも、大部分の人たちが望んでいなければ実現することはないだろう。
 
ではどうしたらいいのか?
 
ここで冒頭の「アイデアのつくり方」の話しを思い出してほしい。
良いアイデアはどうしたら生まれるのだっただろうか?
 
そう「できるだけ多様な情報を集めた」あとに閃くということだった。
現在どの企業でも「イノベーション」の必要性が叫ばれている。
 
どんな業界であれ他社と差別化し、優位な状態を保たなければあっという間に淘汰されてしまう。とくにAIやロボットなどのテクノロジーの進化により、今では業界が丸ごと数年でなくなってしまうということが起こるようになった。
 
その時に「良いアイデア(= イノベーション)」を起こせない会社はどうなってしまうだろうか?
おそらく世の中の流れに対して常に後手に回り、気づいたときには自社の商品、サービス、組織の在り方が時代遅れになり、取り残されてしまうはずだ。
 
これを避けるためには「多様な状態」を意図的に作るしかない。
実は組織が「ダイバーシティ」「インクルージョン」を目指す本質的な目的はここにあるのではないかと私は考えている。
 
組織が採用活動を行う中で均一的な能力や価値観を持った人だけを集めることは、実は組織の柔軟性を奪っている可能性が高い。そうではなく、様々な経験、能力、価値観を持った人たちが働ける状態を意図的に作ることで、多様な状態が出来上がり、新しいアイデアが浮かびやすくすることが、これからの企業には求められているのではないだろうか。
 
もしこれを読んでいる皆さんの会社が激しい競争にさらされているのであれば「インクルーシブな組織」を目指すことは、実は重要な経営目標なのかもしれない。
 
自社と競合、業界の流れをぜひ見てほしい。
皆さんの会社が目指す方向性が見えてくるのではないかと思う。
そのためにぜひ「多様な人材」を集め「調和」のとれた状態を目指してほしい。
もしかしたらあなたの会社がイノベーションを起こし、業界や社会にインパクトを起こすことが出来るかもしれない。
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(READING LIFE編集部公認ライター)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2021-04-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.124

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