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週刊READING LIFE vol.130

これからの人生の旅支度《週刊READING LIFE vol.130「これからの旅支度」》


2021/05/31/公開
記事:九條心華(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
 
 
登山好きな人に聞くと、重い荷物を持っているのが、安心なのだという。
登るのがしんどい上に、重い荷物を背負いこむのが大変だから、できるだけ軽い方がいいと思っていた。
 
ハワイ島に行くのに、財布とスマホと化粧ポーチのいった、近所に出かけるような身軽な荷物だけになってしまったことがある。
 
数年前のハワイ旅行は、20年ぶりのハワイで、とても楽しみにしていた。海外旅行も10年ぶりだった。
関西空港の夜発の飛行機のため、半休を取って午後に、東京から移動する予定だった。ANAのマイルを使って、羽田空港から関西空港への飛行機を予約していた。
大きなスーツケースをガラガラとひきながら、気持ちはハワイ、ワクワクしながら、羽田空港にも早めに着いて、スーツケースを預けて、私が乗る飛行機の搭乗を待っていた。
 
シャトルバスに乗って、私が乗る飛行機の前で停まった。飛行機を目の前に見ながら、案内を待っていた。
が、なかなか搭乗の案内がない。
だいぶ時間が経った。
どうしたんだろう、と皆が思い始める。
私も、だんだん不安になってくる。
アナウンスが入った。
「現在、飛行機の点検中です。もうしばらくお待ちください」
 
もう、ずいぶん待っている。
気が気でない。
目の前に乗る飛行機はあるのに、乗せてもらえない。
 
シャトルバスの運転手さんに様子を聞いてみた。
「シャトルバスの中でお待ちください」としか、返事がもらえなかった。
 
時間はどんどん過ぎていく……。
 
アナウンスが入った。
「飛行機に不具合が見つかったため、欠航となりました」
 
「えっ! どうしよう。この飛行機に乗らないと、ハワイに行く関西発の飛行機に間に合わない!!」
スマホで、関西空港までの交通を検索する。新幹線移動するにしても、たくさん乗換をしたうえ、2時間前の集合に全然間に合わない。
 
「代替につきましては、ご案内しますので、このままシャトルバスの中でお待ちください」
 
しかも、シャトルバスに閉じ込められて、ここから移動すらできない状態だ。
とりあえず、関西空港で合流するはずだった先輩に電話した。
 
「関空へいく飛行機が欠航になりまして、間に合いそうにないです」
泣きそうになりながら、話した。私はかなり深刻だった。
電話の向こうで、声が聞こえない。えーん、私はどうしたらいいの!?
やっと声が聞こえたと思ったら、笑っていて苦しいという感じだった。
「腹を抱えて笑い転げたわ。 おもしろいことしてくれるなあ。」って。
 
「えええ! 私は笑いごとではなく、必死なんですけど」と言うと、
「とにかく、旅行会社には事情を説明してぎりぎりまで待っておくから、あかんかったら、
置いていくだけやし」と言われた。
 
私は、シャトルバスの中で走りたい気持ちでいっぱいだったが、シャトルバスはなかなか動いてくれない。
ようやくシャトルバスが、空港の建物まで私たちを連れて行ってくれて、受付カウンターには、すぐ行列だった。
代替便があるのかさえ、はっきりしない。
スーツケースも預けてしまっている。
 
待ってられない!!!
 
荷物も手続きも何もかも放って、私はとにかく、新幹線で移動することに決めた。
いま最優先すべきは、ハワイに行く飛行機に乗ること!!!
焦りに焦って、どの電車に乗れば最速なのかがわからない。モノレールなのか京急なのか、迷いながら、京急に乗って、品川駅の新幹線までの混雑した人込みの中を、走りに走って新幹線に飛び乗った。
 
新幹線の座席に座って、ようやく一息ついて、どうすべきか考える。スーツケースはどうしたらいいのか、ANAに電話した。荷物は、ハワイ便には間に合わないし、本人がカウンターで手続きすることが必要だという。
もうスーツケースなんて、どうでもいい。
私はハワイに行く飛行機に乗りたい!
 
よく海外旅行前に忘れ物がないかチェックするときに、財布とパスポートさえあれば行けるというが、まさに財布とパスポートだけは持っている。
 
でも、飛び乗った新幹線でも、全然間に合わない。先輩の話では、1時間前に着けばなんとかなると言われたが、どんなにがんばってみても45分前になりそうだ。
どうしよう……。
 
先輩から電話がかかってきた。
「いま、スマホで渋滞状況見ているけど、だんだん渋滞が緩和してきているから、もっと時間が経てば道路も空いてきて、新大阪からタクシーで飛ばせば、早いかもしれんよ」
ただ、渋滞していれば、遅いということだ。
通常、新大阪駅から関西空港駅までは、なんば駅まで地下鉄に乗って、なんば駅から南海電車の特急に乗る。電車のほうが確実だけれど、遅刻間違いなし。1時間前に到着できない。
 
慣れない新大阪駅の改札を抜けて走って、タクシー乗り場を探す。
タクシー乗り場に行って、1番前に止まっていたタクシーの運転手さんに聞いた。
「21時までに関空まで行ってもらえますか?」
運転手さんは、首を横に振って、「そりゃあ、無理です」
そうですよね、、、と思いながら、地下鉄のほうへ歩き始めた。
 
が、やっぱり諦めきれなくて、踵を返した。
 
走りながら、タクシー乗り場に停まっているずらりと並んだタクシーの窓越しの、1台1台の運転手さんの顔を見ながら、選ぶ。
あたりをつけて、もう一度聞いてみた。
「すみません! 21時までに関空まで行ってもらえますか?」
その運転手さんは、うーん、と言いながら、私の必死な様子を見て、「よっしゃ行こう!」と言ってくれた!
 
「ありがとうございます! よろしくお願いします!!」
 
新大阪駅から、御堂筋の通り沿いの銀杏並木には、クリスマスのネオンが美しく輝いていた。さすがに、大阪の街中は渋滞している。でももう乗ってしまったのだから、どうしようもない。運転手さんを信じて、任せるしかなかった。
 
タクシーを選択した後は、私の力では何をすることもできない。
ただ祈るだけ。
 
街中を抜けると、道路がすいすい流れ出した。
運転手さんがスピードを上げて飛ばしてくれた。
かなりいい感じだ。
 
スムーズに関西空港に到着し、間に合いそうだ!!!
 
降りたところで、旅行会社の人が待っていてくれているという。
 
どこ???
会えない。
焦って、先輩に電話する。
何もかもがじれったい。
 
旅行会社らしき人を見つけて走る!
 
「スーツケースなしだったら、搭乗に間に合います」旅行会社の人に案内してもらって、
急いで、出国手続きを経て、搭乗口へと急ぐ。
 
先輩の姿を見つけた。
 
なんとか間に合ったぁー!
 
先輩は笑っていた。
「めちゃくちゃおもしろかったで」
 
いやいや、私はおもしろくともなんともなく、泣きそうになりながら必死ですよ!
 
安堵して、勝手に涙が流れた。
 
そして、私は、かなり身軽で、ハワイ島に行くことになった。
 
オアフ島と違って、ハワイ島は田舎でお店が近くにない。
それでも、ハワイにさえ行けばなんとかなる。
そう思った。
 
あんなに、あれが必要かな、これもあった方がいいかな、と悩みながら荷物を詰めてたのは、いったい何だったのだろう。
 
空港で、取り急ぎ必要なものを購入した。
 
ホノルル空港での乗換えのときに、スーツケースのことをカウンターで相談したら、JALの方が助けてくださり、翌日の便で、ハワイ島のヒロ空港に届けてくださる手配をしてくださった。よかった。
 
こんなことは初めてだったけれど、指示通りせずに、ハワイへ行く飛行機に乗るんだ! と思って、スーツケースや手続きもほっぽり出して、必死に動いて希望通りになった。
 
そして、何も持たなくてもハワイに行ける、ということを経験した。
 
私が顔面真っ青になって、欠航した目の前の飛行機を見ながら、電話をかけたとき、先輩に大笑いされて、よかったと思った。
大笑いされたから、私は大したことじゃないんだと思えた。このゆゆしき事態は、笑いごとなんだと。
あのとき、先輩も泣きそうになっていたら、深刻度が増して、私は冷静にすばやい行動がとれなかったと思う。
 
笑いって、必要だなと思う。
ワクワクしたり、旅行を楽しみに思ったり、自分が望むことを想像したり、そんな気持ち
で行動することが大事なのだ。
もうダメかもしれないと、諦めてしまったら、そこまでだ。ストップして、ゲームオーバーになってしまう。
「私はなんとしても、たとえ1%の可能性だって、ハワイ行きの飛行機に乗るんだ!」って強く思って、笑われるほどのことで大して深刻な状況ではないと感じられたから、それほど気も動転せずに動くことができた。
 
気持ちのもちようだ。
 
その翌年、私は、生まれて初めてクルージング船に乗った。
日本一周のクルージングだ。
毎日、ディナーはドレスコードがあった。
今まで結婚式の披露宴でしか着たことがなかったドレスやスーツを詰め込んで、
ワクワクして乗船した。
 
話は変わるが、断捨離するときに、こんな質問がある。
 
「今からクルージングに行くなら、何を持っていきますか?」
その持っていく荷物だけで、日々の生活もできるいうのだ。
それ以外は不要なので、なくても生活できる。
しかも、夢のようなひとときのために準備する。いいものだけを持っていく。
 
確かに。
クルージングの旅支度だけで、ワクワクした夢の生活が送れるのだ。
 
断捨離するのに、もう一つ、質問がある。
 
「大富豪と結婚するとなったら、あなたは何を持って行きますか?」
 
大富豪だから、何でも買ってもらえるから、何もいらない。
お金では買えない大事なものだけを持って行く。
 
それが、本当に自分にとって必要なものだ。
 
そう考えると、残るものはわずかだ。
 
その、本当に必要なものだけで暮らしていくと、感覚が研ぎ澄まされて、余計なものが入ってこなくなる。自分にとって、大切なものと不要なものがはっきりしていく。
 
これからの人生という旅支度は、余計なものを削ぎ落して、本当に自分が大切なものだけにしたい。
そうすれば、私の時間は、幸せに満たされる。
 
ワクワクして、日々の幸せをかみしめながら、人生という航海の旅支度をしよう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
九條心華(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

READING LIFE 編集部ライターズ俱楽部で、心の花を咲かせるために日々のおもいを文章に綴っている。

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2021-05-31 | Posted in 週刊READING LIFE vol.130

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