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週刊READING LIFE vol.133

伝えられなかった思い《週刊READING LIFE vol.133「泣きたい夜にすべきこと」》


2021/07/05/公開
記事:ちー(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ずっと好きだった人が亡くなった。
 
中学を卒業してからずっと片思いしていた人だった。その知らせを友人から受けたのは、社会人2年目の初夏、通夜の前日だった。
当時一人暮らしをしていた私は喪服を持ち合わせておらず、知らせを受けた次の日、仕事中に抜け出して慌てて買いに行ったのを覚えている。
 
通夜に向かう道中、彼との思い出が走馬灯のように頭を駆け巡った。
 
彼と私は小学校で生徒会として活動し、中学2年、3年と同じクラスだった。私は彼と真面目に取り組むべきところと、ふざけるときの波長が合っているように感じ、一緒に過ごす時間が増えていったのを覚えている。彼と過ごす時間は心地よく感じたし、何より話していて楽しかった。
 
彼は野球部のエースで、ピッチャーだった。勉強はできる方ではなかったけれど、真面目で、誰に対しても優しかった。
そんな彼に片思いをしている女の子も少なくなかった。
 
中学の卒業式で、第二ボタンをもらう勇気がなくて校章を欲しいというのが精いっぱいだった。卒業式当日、何度も、なぜ校章なのかと聞かれたけれど、答えるのが恥ずかしくて、ただ校章を持った彼の手を見つめるだけで精一杯だった。彼に対する気持ちは、ずっと大事に心にしまっておきたい、誰にも触られたくない大事な宝物にしておきたかった。
 
中学を卒業してから社会人2年目の今まで会う機会はなかったが、彼の活躍は中学の友人を通して耳にしていた。高校でも野球部のエースとして活躍していたこと。高校を卒業し大学入学後は、地元の少年野球チームでコーチをしていたこと。中学の先生になるんだと言って、教育実習で母校を訪れたこと。
 
彼にはただ片思いをしていただけの私だったが、彼の活躍がなぜか嬉しく、そして私も彼に負けないように頑張ろうとさえ思えた。
 
彼と直接会うことがなくても彼の活躍を頻繁に耳にするくらいに人望に厚く、友達や仲間を大事にする人だった。
 
そんな彼が、亡くなった。
 
新卒で大手商社に入社し、いつの間にかエリート街道を歩みだしていた彼は、出張先の九州で事故に遭い、そのまま帰らぬ人となった。
 
彼の通夜には彼の勤務先の上司や同僚は勿論、彼の小中学校のときの担任の先生やクラスメイト、地元や高校・大学の先輩・後輩、更には彼がコーチをしていた野球チームのコーチ陣、子どもたちまで駆け付けた。
 
参列者の多くは、彼の生前の活躍や人柄を思い出していた。
 
「真面目な仕事ぶりがとてもよかった」
「誰にでも分け隔てなく接し、自分の見たもの・感じたことに正直だった」
「そんな姿勢を尊敬していた」
「彼の丁寧な対応にいつも助けられていた」
「チームやクラスがバラバラになったときも、みんなの意見を聞きながら引っ張って行ってくれた」
「しっかり者だったが、どこか抜けていて完璧じゃないところも魅力的だった」
「仲間思いの人だった」
「部活でメンバー同士が衝突したときも、彼が居てくれれば大丈夫だという安心感があった」
「野球の教え方が上手だった」
「子どもたちに好かれていた」
「一緒に野球をしてくれて楽しかった」
「彼という人間が大好きだった」
 
参列者は口々に彼に対しての思いを、気持ちを述べていたが、その言葉たちは言葉の受け手を探してすべて宙に消えていった。
参列者の言葉を聞きながら、そしてかつてのクラスメイトたちの顔を見ながら、果たしてここにいるどれだけの人が、彼が生きていた間に彼に対する気持ちを直接伝えたのだろうと思った。
通夜会館には彼がどれだけ素晴らしい人だったかを口にする人が多かったが、彼が生きている間に実際にその気持ちを伝えていた人は、ほとんどいなかったに等しいのではないかと思う。
 
彼が亡くなったという知らせを受ける前、私は彼に会ったら伝えようと思っていたことがあった。
 
ずっと好きだったこと。
この先の人生を一緒に歩んでくれたら嬉しいと思っていたこと。
 
そんな大事なことを伝えようと考えていたのに、自分から連絡する勇気もなく、誰かがどうにかして彼と会う機会をくれるのを待っていた。一人じゃなにもできないと思い込んでいるおとぎ話のお姫様のように、ただ待っているだけだった。
 
それなのに。いや、そんな姿勢だったからか。次に会う機会がまさか彼の通夜になってしまうとは、まったく思ってもいなかった。
通夜で久しぶりに会った写真の中の彼は、いつも通りの優しい笑顔で微笑んでいた。棺桶の中の彼は、野球のユニフォームを着ていた。いや、正確には、彼の野球のユニフォームがそっと置いてあった。
 
棺桶の彼のユニフォームを見た瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。
 
もし、中学を卒業してから勇気を出して彼に連絡していたら、こんなに涙を流すことはなかったかもしれない。
いや、泣いていたかもしれないが、きっと涙の意味は違っただろう。
 
なぜ、連絡をしなかったのだろう。
彼が生きている間に、どうして気持ちを伝えようとしなかったんだろう。
自問自答を繰り返したが、結局は勇気がなかったという事実に行き着くだけだった。
 
あのとき彼に連絡をしていたらと思うこともあった。
私自身テニス部に所属していて、彼の通う高校のテニス部と練習試合をすることが何度もあった。そのときに一言、今度君の高校で練習試合があるから、そのあと会えないかと、一か八かメールをしてみればよかっただけの話だ。
でも、怖かった。もう彼女がいるかもしれないし、彼に無視されたらどうしようという不安の方が大きかったのだ。何より、彼の生活の一部になりたいと願ったくせに、彼の高校生活を邪魔したくないとさえ思ってしまったのだ。
私は気持ちを伝えようとしないまま、ただ時間に身を任せて過ごしてきてしまった。
 
通夜会館を後にしてから、止まる気配の無い涙とともに電車に乗りながら、彼が実現したかった未来に思いを馳せた。
誰と、どんな未来を描きたいと思っていただろうか。おこがましくも、その未来に私は1ミリでもいただろうか、などと思ってしまった。
また社会人2年目で人生の幕を閉じた彼に、彼が生きている間に会えていたら伝えたかったことが、数えきれないほど溢れ出してきた。
 
それから日が経つにつれ、彼への気持ちを少しずつ自分の中で整理していった。
彼への気持ちは、消えることはないが、完全になくなったわけではなかった。
ふとした瞬間に思い出すし、彼と過ごした青春時代を思い出すと勝手にくすぐったい気持ちになる。
 
それはまるで、初めて買ってもらった携帯電話で撮った写真のようだ。その当時はすごく大事にしていたものだけれども、時間が経つにつれて思い出すことも少なくなり、でも大事なものという認識は変わらず、ずっとそこにあるキラキラした、大事にしまっておきたい宝物のようなものだ。
 
実際、中学生になって初めて買ってもらった携帯電話で初めて撮った写真は、確かその当時仲がよかった友人複数人と遊んだときに撮ってもらった、彼と2人の写真だった。
 
彼がどういう気持ちで写真に応じてくれたのか、卒業式の日に彼がなぜ何度も校章なのかと聞いてきたのか、今となってしまってはその答えは分からない。大事にとってあった校章も、大学入学時や就職時の卒業などを繰り返して、気が付いたらどこかに行ってしまった。
 
物はなくなってしまったが、クラスメイトとして、友人として彼と共に過ごした時間が消えるわけではないし、卒業アルバムにも彼が生きた痕跡がしっかり残されている。
 
彼との出会いと別れを振り返り、気づかされたことが一つある。
自分が大事にしたいと思う人には、伝えられるときに自分の気持ちを伝えるべきだということ。
 
上手に伝えられなくてもいい。
伝えたいと思ったときに、ほんの少しの勇気をもって伝えることができたら、それで十分だと思う。
 
泣きたい夜は、わんわん泣けばいい。
自分の未来が見えなくて不安になることもある。
パートナーの気持ちがわからず、自信を失うこともある。
ただ涙を流すことが、自分の気持ちのリセットにつながることもある。
誰かを、何かを大好きな気持ちが大きすぎて、自分を見失うことだってある。
 
なぜ泣いているのか、それすらもわからなくてもいい。
 
涙を流したあとに、誰かに何かを伝えたい気持ちになったら、臆せず伝えてみたらいいと思う。
 
卒業や転職、転勤などで環境が変わり対面で話すことが少なくなっても、SNSなどで繋がっていられるという安心感に甘えてしまうが、いつかこの気持ちを伝えようと思っていた人が居なくなってしまってからでは、そうして伝えられなくなってからでは、遅い。
 
いつの間にか目の前にあったもの。目新しかったものがいつのまにか見慣れてしまい、あることが当たり前だと思ってしまった瞬間、それが特別な存在に戻ることはほとんどない。いつの間にか1人1台はスマホを持っていることがあたり前になったように、最初は特別な存在として認識していたものが、いつの間にか必需品になり、いつのまにか、複数あるうちの一つになり下がってしまうことも少なくない。
 
いつかやってみよう。
いつかできるだろう。
いつか会ったら伝えよう。
 
明日やろうは馬鹿野郎という言葉あるように、その”いつか”の中に、たくさんの特別が詰まっていることを、決して忘れてはならない。
またその”特別”は、決して永遠に存在するものではなく、まだ訪れていない未来のどこかで消えてなくなってしまうものであることも、忘れてはならない。
 
何かに思いを馳せて泣くということは、自分のなかの大切なものを再認識するための場になるかもしれない。
あるいは、何か大切なものに気づくことがあるかもしれない。
 
人間は自分の気持ちで動く生き物だから、他人の気持ちを読み取ることは難しい。
言葉にしなければ、自分の気持ちは伝わらない。
 
大事な人がいなくなる時は、突然だ。
 
涙を流し、自分の気持ちの変化に気づいたとき。その気持ちそのままに、大事な人に気持ちを届けること。これを一番大事にしたい。
 
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
ちー(READING LIFE 編集部 ライターズ倶楽部)

千葉県出身。2021年GWの集中コース 人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」に参加した後、2021年6月度READING LIFE編集部ライターズ倶楽部へ入部。

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2021-07-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.133

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