fbpx
週刊READING LIFE vol.144

ごく普通のオジサンが教えてくれた人生が変わる魔法のスイッチ《週刊READING LIFE Vol.144 一度はこの人に会ってほしい!》


2021/10/25/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「邂逅、と言う言葉を知っている?」
 
社会人5年目の時だっただろうか、会社でも5本の指に入るというトップ営業の方のカバン持ちをしていた時代がある。陰で色々な噂が飛び交う人だったので、最初のうちは恐る恐る付き合っていたが、未熟だった私をとてもかわいがってくれた。
 
飲みにつれて行ってくれた時に、彼女は、かいこう、とゆっくり読み上げながら、その漢字をコースターに書きつけて私によこした。
 
「邂」の字がしたたった水滴でにじむのを見ながら、彼女の次の言葉を待った。
 
「邂逅と言う言葉がね、好きなの。思いがけず出会うこと。でもね、その思いがけない出会いは、自分が人生を努力して積み重ねていかないと出会えないものだし、運だって左右する。本当はそんなとても貴重な状態なんだけど、人間ってそのありがたみがわからないことも多いわね」
 
その時の私には、やっぱりよくわかっていなかった。ふうん、そんなものなのか、と思いながら、自分が経てきた出会いを思い出す。彼女は、そんな私を普段は見せないようなすごく優しい目で見つめてくれていた。
 
「あなたにも、この人がいなければ今の自分はいない、と思うような出会いがこれからたくさん訪れると思うわ。私にとって、あなたもそうよ。頑張りなさいね」
 
その時には、そうやって言ってくれた言葉が誉め言葉のように思えて、ただ嬉しいだけだった。

 

 

 

私にとって「邂逅」と言う言葉は、年を増すたびにじんわりと厚みを増している。
 
哲学者、森信三さんの
「人間は一生のうちに逢うべき人には必ず逢えるしかも一瞬早過ぎず、一瞬遅すぎない時に」
という言葉も実感がわくようになった。
 
自分にも転機となるような沢山の出会いがあり、その出会いで受けた影響で自分の人生が思わぬ方向に進んでいくような楽しさを感じている。年を重ねるごとに沢山の出会いの中で変化できる自分の人生を悪くないな、と思う。
 
「邂逅」という言葉に出会った当時には、若すぎて想像もつかなかった気づきもある。それは、自分の夫や子ども達が色々な人達に会うことで変わっていく姿も楽しめるということだ。
 
特に子育てをしていると、子ども達には、自分が全てを施してあげないといけないというような勘違いに陥ることもあるけど、実は、多くの出会いによって変わっていくことの方が多いんだな、と実感する。
 
普段は勉強しろと口うるさいばかりの親だけど、そんな出会いを自分が作ることができて子どもがハマった時のキラキラした表情をみると、親が子どもにできることは、勉強云々をいうことではなくて、こういう出会いをセッティングしてあげることのほうが重要なのではないかと思うのだ。
 
まさにハマった出会いが昨年の夏にあった。
 
長男が北海道の植松電機という会社を営む植松努社長に出会った。そのたった半日の出来事で息子の雰囲気がガラっと変わる、そんな体験をした。
 
植松さんは、小説『下町ロケット』のモデルになったと言われている人、というと伝わりやすいだろうか。彼のTEDの講演は、気づけば号泣していたという人も多く、572万ビューという驚異的な再生回数を誇っている。
 
出会わなければいけない人には、そのタイミングが波のようにやってくる。その人に会いたくなるようなきっかけが色んな方向から訪れて、ある日出会えるチャンスが訪れる。そのタイミングはまるで用意されていたかのようだ。
 
私が植松さんのことを知ったのは、もうだいぶ前のことだ。宇宙のことが大好きな子を持つママ友が、その子が一人で北海道までロケットを作って飛ばしに行ったという話を聞いたのだ。その当時は長男が小学生だったから、中学生が一人で広島から北海道まで行ってしまうということ自体に驚いたし、そんなに夢中になれることがあるなんてすごいな、と思った程度だった。そのあとに、別の友達が、やはり北海道までロケット飛ばしに行ったという記事をSNSで見かけたのだ。その友達は、小さな子どもがいるママだ。子どものためではなくなぜ北海道までロケットを飛ばしに行くんだろう? とそのギャップに逆に興味をそそられたのだ。その時に植松さんのことを調べて、TEDの動画に出会った。
 
TEDの動画の内容は、とても衝撃的で、とにかく涙が止まらなかった。確かに友達が、子どものためでなく自分がロケットを飛ばしたいという理由がわかったし、北海道に行きたいと思う衝動がわくのも理解できた。
 
そうはいっても、植松さんの住む赤平という土地は、北海道のどこにあるのかよくわからない。新千歳空港から、車に乗って数時間はかかるだろう、というのを見て、とてもじゃないけど自力ではいけないかもなあ、「どうせ無理だろう」と半ばあきらめていたのだ。
 
植松さんは、この「どうせ無理」を「だったらこうしてみたら?」に変換したらいいよ、という話をされる。そうは言っても、あまりにも遠すぎていい案も浮かばない。そう思って半ばあきらめていた時にチャンスは突然訪れたのだ。
 
ある時に、SNSの誰かのシェアで植松さんの無料オンライン講座がある、という記事をみかけたのだ。
 
当時は、突然やってきた新型コロナウイルスに学校も休校になり、世界中が右往左往していた時期だった。
 
学校の自粛で思うように勉強できない子ども達に東京のとある教育に関わる団体が植松努さんのオンライン講演会を開いてくれたのだ。その講演会を見て私はやはり彼に会ってみたいそう思いを強くした。その場に集まっていた多くの人たちも彼に会いたいと言って、その団体の代表の人が植松さんに会いに行くためのバスツアーを組んでくれることになった。
 
新型コロナウイルスが一体どのようなものかも分からず、みんなが移動を自粛していた時期だ。広島から北海道への飛行機も利用者が少なくて欠航になるような状況の中、私は勢いで赤平という町に行く決意をした。後で気付いたのだが新型コロナウイルスの自粛がなかったら、植松さんのスケジュールは修学旅行の子ども達への対応で忙しい時期なのだそうだ、こんなことがなければ私達が彼に会いに行けるような状況ではなかった。
 
私が勇気を出して北海道に行くと決めた選択肢は、その当時、他人様に言ったらどんな批判を浴びても仕方ないことだったということも十分承知している。でも、もうその時以外チャンスがないという絶妙なタイミングだったと思っている。
 
そのときめきを胸に、北の大地に降り立った私だったが、植松さんにお会いした時の第一印象は、かなり失礼なものだった。
 
なんというか、ごく普通の町工場にいそうな気の良さそうなオジサン。
 
北の大地に、憧れていた初恋の人に会いに行くような胸の高鳴りで乗り込んだ私は、完全に拍子抜けした。これが、TEDで580万近いビューを誇る天下の植松努氏なのか?
 
その時に息子は、植松さんのことは知らず、ただ単にロケット工作をできる、くらいのノリでついてきただけだった。もちろん、植松さんの話も聞いていない。なんだか早まったのだろうか、そんな不安が行き来してしまった。
 
でも、杞憂だった。
植松さんの話は、子ども向けに話されたものだったが、その場にいた大人たちもみんな前のめりで聞けるような面白い内容だった。その場にいた高校生や大学生からも次々と質問が出た。その場にいた全員が植松さんの話で、自分が今から何ができるか、何をしていこうか考えられるような雰囲気になっていたのだ。
 
「多くの大人は、今も昔も子どもに『何になりたいのか』と聞くけど、『医者になりたい』と決めてしまったら、医者になれなかった人生は失敗に見えてしまう。でもね、その子が『人を助ける仕事をしたい』と言うならば、選択肢は医者だけではない、医療機器を作る人も、薬を開発する人も、消防士もみんなみんな人を助ける大事な仕事になるんですよ」
 
そんな話を植松さんが話されていた時、手元にあった袋をもてあそんでいた息子の手が止まり、うつむいたままでも、じっと耳を傾けていることに気が付いた。やっぱり私がここに来た決断は間違いではなかったと思った。
 
その当時、息子は学校のことで少し気持ちが揺らいでいた時期だった。クラスメートからの心無い言葉に傷つき、学校に行くことに気が向かない日もあった。そういう時、子どもは本当に具合が悪くなるものなんだな、ということも実感した。
 
そういう話は、先輩ママからも聞いていたので、心が風邪を引くようなものだ、ごくたまに休むことくらい、大したことないと思ってきた。でも、人から聞く話と自分の子どもがそうなるのとは全く違う。クセになって学校に行けなくなったらどうしよう……母親の私も揺れることが多かった。
 
そんな時には、二人で植松さんのYouTubeの講演録を聞きながら、友達に理解してもらうためにはどうしたらいいか、「だったらこうしてみたら?」を一緒に考えた。人間はロボットではない。勉強面だけではなくて、生活面だって苦手なことはある。もちろん努力する必要はあるけど、どうしてもできない時には、どうしたらいいだろう? ちゃんとクラスメートに話をして、自分が苦手なことも話して、サポートをしてもらったらいいのではないか?
 
植松さんの言葉は彼の心の傷を上手に癒してくれた。次第に、息子が休みたいということは減って、攻撃してくる同級生とも折り合いがついたようだ。日に日に表情が明るくなり、植松さんとの出会いに感謝しかなかった。
 
やはり、沢山の人に植松さんの話を聞いてほしい。できたら、ロケット教室も一緒にやって子ども達が元気になってほしい。今までの私だったら、自分たちさえよければそれでいいと思っていたかもしれない。
 
でも、コロナの時代になり、目に見えないものにくじけて社会全体があきらめることに慣れているようになっていたことが気になっていた。学校がオンライン化してしまって仲間と励まし合う機会が減ることで、本当に自分がやりたかったのはこれだったのだろうかと悩む学生の親御さんの話も聞いたし、自分の子どもの学校で次々と行事が中止や縮小に追い込まれていくやるせなさも体感した。
 
みんなが、あきらめることが当たり前になりそうな今だからこそ、植松さんの話を地元の人達と共有したい。
 
そんな一心で、植松さんに連絡を取ったところ、私の個人的な思いを受け入れてくれて、快く講演会に来てくださることになったのだ。
 
植松さんと出会ってから、息子だけでなく自分の行動が変わったと思う。「どうせ無理」が「だったらこうしてみたら」に変わったら、世の中は思ったよりも冷たくない、と感じることができた。もちろん、うまく行かなかったことも沢山ある。学校に植松さんを呼べないか働きかけたけどタイミングが合わず頓挫したり、講演会自体もコロナ対策など運営方針がまとまらず、一度はあきらめざるを得ないこともあった。それでも、その度に自分の「どうせ無理」を「だったらこうしてみよう」に根気強く転換してきた。
 
自分が思考を転換することで、自分の家族も、友人も少しずつ味方してくれてどうにか協力できないか申し出てくれる人が増えていった。
 
そして気づいたことがある。
 
「どうせ無理」だと思うのは、周りの人達が言うからではない。自分の心の中の「どうせ無理」が一番大きい。だから、自分の中の無理だなと思う心が変われば、自分の人生はきっと変わるんだ。
 
日々の生活の中で難しいな、と思うことは沢山ある。
けれど、そんなくじけそうなことがあったら、ぜひ植松努さんの話を聞いてみてほしい。できたら動画ではなく、「本当に普通の人なんだな」と感じられるライブの講演会をおススメしたい。
 
ごく普通のオジサンが教えてくれる「どうせ無理」をなくす「だったらこうしてみたら」のスイッチを押したら、きっとあなたの人生が変わる。
 
あなたにも、そんな魔法のスイッチをぜひ手に入れてほしいのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

自称広島市で二番目に忙しい主婦。人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、自分が好きなものや人が点ではなく円に縁になるような活動を展開。2020年8月より天狼院で文章修行を開始し、身の上に起こったことをネタに切り取って昇華中。足湯につかったようにじわじわと温かく、心に残るような文章を目指しています。

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-10-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.144

関連記事