週刊READING LIFE vol.144

でたな、終わらないケン・イシカワワールド!!《週刊READING LIFE Vol.144 一度はこの人に会ってほしい!》

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2021/10/25/公開
記事:高橋拓己(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「でたな ゲッタードラゴン!!」(ゲッターロボアーク)
 
「これよりラ=グース神の軍団との戦い3000年に及ぶ そして!!」(虚無戦史MIROKU)
 
「やってみろ!! 天草四郎!!」(魔界転生)
 
これらは全て、1人の漫画家が描いた作品の最終回の台詞である。戦いは終わらず、主人公達が最後の力を振り絞って敵と対峙し最終決戦という時に物語は唐突に終わる。こんな場面が、これ以外にも1人の漫画家の手によって何十作品とある。
連載雑誌の廃刊などもあるが、そもそもこれを描いていた石川賢という人物の作風に理由があったのだ。
ゲッターロボという作品の原作者であり、世間的にはマイナーであり、知られても打ち切り作品で有名な故・石川賢先生の作品を知り、そしてそれに内包されている先生の哲学を知ることで、石川賢先生自身の人柄を感じ取ってほしい。
 
石川賢(KEN ISHIKAWA) 1969年より漫画家の永井豪のアシスタントを務め、翌年に漫画家として掲載デビュー。ゲッターロボや虚無戦記など数多くの作品を世に生み出し、その多くが唐突に終わる打ち切りのような結末であった。2006年に急逝。
 
生前の石川賢を、家族や編集者は静かで素朴、家に仕事は持ち込まない、家族思いな人だったと語ると同時に、家族を楽しませる為であるが夕方からいきなり家族を海に連れ回すなんてこともする破天荒な人物であったらしい。
 
そんな隠れた一面は、作風にも彩り強く表れている。ゲッターロボシリーズを始め、『魔獣戦線』というバイオレンスと悲哀の復讐劇、『極道兵器』というSFアクションと任侠の融合、『魔界転生』のように原作のあるストーリーへ新たに宇宙や西洋神話の要素を取り入れるなど、独自の作風を多く築いてきた。
 
氏の作品はアクの強い登場人物と展開がウリだ。破天荒で、それ故に自分に真っ直ぐな主人公達。敵は己の理想の戦いに殉じ、戦いの果てに異空間や宇宙へと突入し、そこで真なる神との戦いへと発展し物語はそこで打ち切られる……
 
代表作として、最近アニメ化もされた作品『ゲッターロボアーク』のあらすじを挙げよう。
これは前作主人公の息子である“流拓馬”、前作の主役機パイロットの弟である“山岸獏”、かつてゲッターと死闘を繰り広げた恐竜帝国人と人間のハーフである“カムイ・ショウ”の3人が主役機ゲッターロボアークを駆り、宇宙からの敵であるアンドロメダ流国との熾烈な戦いに身を投じる物語だ。
それまでのゲッター作品を歴史として一纏めにした本作は、ゲッターロボシリーズの集大成という形を取りながらも、冒頭の台詞通りの場面で物語は第1部完となりそのまま未完となってしまった。
 
物語終盤、なぜ人間とアンドロメダ流国が対立するかの理由が明かされ、アンドロメダ流国との決戦に終止符が打つも人間を危険視した主人公チームの一人によって人類は滅亡に追い込まれる。
このあらすじだけでも怒濤の展開であることは窺えるのだが、最後はゲッターロボアークの攻撃が一切通じない強大な敵の出現、更にはその敵が最も恐れるゲッタードラゴンの登場によって物語は「一旦」締め括られる。
 
真の敵との決着はどうなったのか、進化しすぎた未来の人類の軍勢は宇宙と敵対し続けるのか、ゲッタードラゴンとは何なのか、ゲッターロボシリーズはどこに向かおうとしてるのか。
それら一切の説明がないまま、石川賢が全てのゲッターロボシリーズを集めて描き上げた漫画は終わりを迎えた。
先ほど「つまり、何がどうなったんだよ!?」や「オチが見えないということは、作者が何を伝えたいか分からないのでは?」とあらすじだけ読んで感じる人も多いだろう。
では果たして、ゲッターロボアークとは未完となってしまった残念な作品なのか?
 
違うのだ、石川賢の描く漫画に理屈や結論はないのだ。あるのは激動を生き抜く主人公達の気概と、どこまでも広がるストーリー構成の魅力なのだ。
 
ゲッターロボアークに込められたのは、ゲッターロボシリーズを通じて主人公が受け継ぎ続けた戦い続ける気概と人類を信じ続ける愛なのだ。
例え自分等の子孫が宇宙の敵になろうとしても、例え友が自分の種族の未来のために人類と敵対することになろうとも、流拓馬は自分の親の仇討ちに、山岸獏は兄の真意を知るために、カムイ・ショウは親の為に死闘の戦火へと身を投じる。
 
自分の道に真っ直ぐに、愛するものの為に、例え過酷な結末へと突き進もうが我が道を往く主人公達のひたむきな意思は、物語のスケールが広がると共にその行動力と意志の強さも上げられていく。
あるパイロットはゲッターロボの真実を知るために異空間へ残り、あるパイロットは止まらない修羅の道を突き進み、あるパイロットは進化し続ける人間の為に命を賭けて地獄の釜に眠るゲッタードラゴンを起動する……
 
「でたな ゲッタードラゴン!!」
 
この台詞は、そんな壮大な叙事詩を締め括るに相応しい言葉なのかもしれない。
 
そんな言葉をゲッターロボシリーズの最後にし、石川賢先生はこの世を去り、一説には異界に旅だったとも同士を連れて宇宙と戦い続けるなんてことも言われている。
 
話を広げるだけ広げ、唐突に終わらせるいつもの終わらせ方を、氏は尻切れとんぼ、中途半端だと自嘲していた。
しかし氏には、大切にしている作家としての思いがあった。「描きたい場面を描く」「登場人物の内なる宇宙をハッキリさせる」だ。流儀というわけでもなく、ただそう描くのが好きだから。それが自分にとって一番描きやすい方法であるし、漫画家として正しいやり方だと思っている。人類は常に進化し続ける、そんな思想を元に様々な要素……ロボや宇宙、任侠や時代劇など様々な要素を取り入れ、無限に広がる世界観を作り出す
そこで戦う主人公達は世界の荒波や摂理に呑まれずに目的や意思をブレさせずにハッキリとした思いで生存競争に勝ち続ける。
 
自分のエネルギーに載せて描き上げた作品の持つ魅力を、石川賢は自作を通して我々に伝えてきている。
一つのものに向かってバーっと描く。自分の好きなことを真っ直ぐに描ける石川賢の破天荒な性格は、今でも私達作家の胸にバイブルとして生き続ける……そんな石川賢の作品を、誰もが一度は読んでほしい。
 
そして来るべき宇宙との戦いへ先生と共に特攻すべく、私達は先生の作品を終わらせない意思を受け継ぎ、作家として今日も作品を描き続け幾何年、そして!!(完)
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
高橋拓己(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京成徳大学人文学部卒。石川賢の紙の本を探して古今東西の書店を回るのが最近の日常。

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2021-10-20 | Posted in 週刊READING LIFE vol.144

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