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週刊READING LIFE vol.148

理想の上司は占い師《週刊READING LIFE Vol.148 リーダーの資質》

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2021/11/22/公開
記事:吉田みのり(週刊READING LIFE ライターズ倶楽部)
 
 
理想の上司というと、一般的にはどんな人物像なのだろうか。
有名人の理想の上司としてよく名前があがる、内村光良さん、天海祐希さん、イチローさんのように、かっこよく、行動力があり、頭の回転が速く、どんなピンチにも高速の判断、指示が飛び出しあっという間にトラブルを解決する力があり、でも気さくで人柄もよくて……のような。俳優さんのように外見も中身も完璧な上司なんて夢物語なのだろうけれど、でも仕事ができることと人間としての魅力がないことには、人の上に立って成功するということは難しいのだと思う。
 
私が理想の上司として真っ先に思い浮かぶのは、20代前半に出会った関西人の男性の上司、Aさんだ。Aさんはその当時30代後半だったと思う。
Aさんが直属の上司だった期間は1年弱だったが、その後もその会社を辞めるまでの約8年間、私は誰よりもAさんを信頼していたし、Aさんもいつも心配して気にかけてくれていた。そんな信頼関係を築けた上司は、後にも先にもAさんだけで、また私が上司として部下とそんな関係性が築けたこともなく、とても貴重な経験ができたと思っている。
そのAさんと忘れられないドラマティックな出来事がある。
お互いに異動してもう直属の上司でも部下でもないときに、悩みのどん底にいた私は仕事から帰って来た夜22時半頃に相談のメールを送った。そうしたらすぐに電話をくれて、「今から行くから」と私の家の近くのファミレスまで車をとばして来てくれたのだ!
そして1時間ほど話しを聞いてくれて帰って行った。当時私は中野に住んでいて、Aさんはたしか調布あたりに住んでいたから家が近所だったわけでもないのに、そんな夜中に駆けつけてくれるなんて、彼氏だって一度もそんなことをしてくれたことがないのに、そんなドラマのようなことをしてくれたのは私の人生でAさんただ一人である。そのときは本当に仕事で行き詰まっていて、もう辞めるしかないと思っていたけれど、Aさんが話しを聞いてくれたことでその後も頑張ることができた。
 
 
そんなAさんとの出会いは、私は食品販売店のアルバイト、Aさんはエリアマネジャーという立場だった。
私は就職氷河期に就職活動をし、入社試験に数え切れないほど落ち続けた中でやっと内定をもらった営業職の仕事に就いたのだが、ノルマを達成できず残業の嵐と休日出勤、そして毎日朝礼で全員の前で上司や先輩から怒鳴られ、夜も営業から戻っては怒鳴られるという社会人1年目を送ったところ、1年ももたずに心身ともにボロボロになり退職してしまった。
そこから頑張って再就職に向けて努力することなく、当時付き合っていた彼氏と来年には結婚して彼がいる地方へ引っ越す相談をしていたため、それまではアルバイトでいいか、デパ地下で働いてみたいなー、というノリで始めたアルバイトだった。
しかし、アルバイトを始めて数ヶ月で彼氏と別れることになってしまった。
あれ、結婚する予定で、だからこそ就職は結婚後引っ越してから考えればいいやと思っていたのに、あれ、私の人生この後どうなるの……、と会社を辞めたこと、退職後の仕事について真剣に考えなかったことをものすごく後悔して、毎日毎日モヤモヤしていた。アルバイト仲間は劇団員だったりバンドマンだったりと夢を追いかけている人が多く、夢も目標もない自分に焦りを感じていた。何か目標を持たなくては、フリーターをやっている場合ではないと頭ではわかっているものの何も行動できず、一歩を踏み出せない自分に自分で苛々を募らせていた。
 
最初のAさんの印象は、それまであまり関西の方との交流がなかったこともあるが、関西弁ですごい勢いでいつもまくし立てていて、その関西弁がすごくきつく聞こえて、なんて怖い人なんだ! あまり関わりたくないな……、というものだった。
しかし、フリーターとして社員と変わらないほど働いていた私は店舗の仕事をいろいろと任されるようになり、自然とAさんからも指示を受けたりやり取りをすることが多くなるうちに、最初の印象とは異なり、はっきりした性格で裏表がなく、仕事に一生懸命な人なんだな、というものに変わっていった。
 
あるとき、やはりこのままでいいわけはなく、就職活動をすることを決意し、そのために店長にアルバイトの日数を減らして、就職が決まったら辞めさせてもらうという相談をした。すると、この会社の中途採用試験を受けたらどうか、自分も推薦するし、Aさんが推薦してくれれば大丈夫だと思うよ、と思わぬ言葉をもらった。嬉しかったが、果たしてやっていかれるだろうかとかなり迷った。しかし迷っている間に、店長がAさんにその話しをし、Aさんが「任しときー」ととんとん拍子に話しは進み、中途採用試験を受けて合格することができた。これはご縁だと思って頑張ることに決めた。
 
こうしてフリーター生活を卒業でき、社員として働き始めた。
その会社では社員=まずは店長、という流れで、新卒で入った人たちも1年以内には店長になるのが当たり前だった。私も社員になって数ヶ月後にはそのAさんが担当しているエリアのいちばん小さい店舗の店長となることが決まった。
突然店長となり、スタッフや商品、売り上げのマネジメントがうまくできるはずもなく、また人間としても本当に未熟だった私はスタッフとうまくいかず、あらゆる失敗を繰り返した。そのたびにAさんから怒りの電話がかかってきたり、店舗へ駆けつけてきて、「ちょっと、来い!」と裏に連れて行かれて泣くまで怒られたり(今だったら問題となりそうだが)、という日々が続いた。
しかし、どんな些細なことでも、相談すれば真剣に一緒に考えてくれたり、時には店舗の運営について意見がぶつかることもあったが、納得できるまでとことん話し合う時間を作ってくれた。私が落ち込んでいればごはんに連れて行ってくれたり、他の店舗の店長とうまくやっていかれるように交流の場を用意してくれるなど、私が働きやすいように、安心して働けるようにとの配慮をしてくれた。
しかしAさんは信頼できる上司である一方、そうでもない部分もあり、自分がミスして会社で怒られたときに八つ当たりされたり、仕事の連絡をしたときに機嫌が悪いと「いつもいつもお前に構ってられるほど暇じゃないんや!」と電話を切られたり、Aさんが推した販売計画が失敗に終わると、自分のことは棚にあげて私の計画が甘いから予算達成できないんだと怒られたり、そのほかにも数え切れないほどの「は!?」と思う場面があった。
でも、それ以上にAさんは私にとって魅力的な上司であり、頼れる存在であり、大変な仕事を続けられる心の拠り所でもあり、どんなに理不尽なことがあっても、それで信頼関係が崩れるということはなかった。Aさんもどんなに私が失敗しても躓いても見放すことはなく、私にいつも期待してくれていて、それに応えたいという思いが強かった。
社内でもAさんと吉田はできているんじゃないか? という噂が飛び交うほど、上司と部下という関係性を超えた信頼関係ができていたと思う。実際には何もなく、出会った時からAさんはバツイチだったが彼女がいてのちにその彼女と再婚したし、私もAさんに片思いをしていたわけではなく、普通に恋愛はしていた。
 
その後1年弱で私が異動することとなり、Aさんとは月に1回の会議のときくらいしか会えなくなってしまったけれど、Aさんは心配してよく連絡をくれたりたまにはごはんに連れて行ってくれたし、私も何かあればすぐに相談していた。
その関係性から冒頭のドラマティックな出来事へと繋がり、Aさんには本当に感謝しかないし、私が誰かにそこまでしてあげられたことは今までになく、Aさんのようにはなれない自分をまだまだだなと思う。
 
Aさんがリーダーの資質があり、誰にとっても理想の上司だったのかというと、私にとってはそうだったが、その後Aさんが異動して別のエリアのマネジャーとなったときに、その部下の店長が「Aさんとは合わない。エリアマネジャーがAさんになって苦痛だ。異動したい」と言っているのを聞いたことがある。
リーダーと合うか合わないか、信頼関係が築けるか築けないかは、占い師との関係のようなものかもしれない、とふと思った。
占いが好きな友人がいて、その友人はお気に入りの占い師の所へ悩みがあるときや何かの節目に必ず行っている。その占い師はテレビで取り上げられるようなすごく有名で当たると評判の占い師というわけではないが、その友人との相性がよく、毎回すごく当たったりいいことを言ってくれるわけではないのだが、言われたことを参考に行動すると事態が好転する、ような気がするのだそうだ。その友人が言うには、一般的には占い師は誰にでも当てはまりそうなことを、さも「今のあなたは……」とうまい話術で「そうそう! そうなのよ! 当たっている!」と思わせるパターンが多いという。そうやって少しずつ「そうそう!」ということが積み重なっていくと、占い師に絶対的な信頼を寄せるようになり、そうなると多少当たらないことがあっても盲目的に信じるようになり、依存してしまう人もいるのだそうだ。
上司、リーダーとなる人は、万人受けして誰にでもあてはまるような人間性で信頼関係を築く資質も必要だと思うが、でもそれだけではなくて、そもそも占いに興味がない人がいるように、そのリーダーに共感できない人がいたとしても、占い師との相性のように、万人受けはしないけれどピンポイントにはまるような、心をわしづかみにするような、そういう魅力がある人が濃密な信頼関係を築くことができて、唯一無二のリーダーになるのだと思う。
私は占いにあまり興味がなく、友人が占いの話しをしても、いつも「ふーん……」と適当に聞いていたのだが、理想の上司は占い師のようなものかもしれないとの思いが浮かんだ途端、友人の気持ちや占いにはまる人の気持ちがわかったような気がした。今度会ったときにその友人が占いについて話してくれたら、そのときは今までのお詫びもこめて、興味津々に身を乗り出して話しを聞こうと思う。

 

 

 

 

私にとってのAさんは、まさにそんな占い師のような、万人受けはしないけれど唯一無二の存在となり、絶対的な信頼を寄せていたのだと思う。
尊敬しているけれど恐れ多い、大好きだけど大嫌いだと思う場面もあり、近づきたいけれどある程度の距離は保っておきたかったり、失礼な表現なのだが上司ではあるが時には友達のような関係性であったり、ある意味社内の噂通り恋愛感情にも似た気持ちに近いものもあったのかと思う。
そんな関係性を築けたこと、それを20代で経験できたことは、私の大きな財産となっているし、いつかAさんのように誰かの役に立ちたいという目標を持つこともできた。
今はたまに連絡を取る程度でなかなか会うことはないけれど、何かこの先Aさんの力になれることがあったら、今度は何を差し置いても私がAさんの元へ駆けつけたいと思っている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
吉田みのり(週刊READING LIFE ライターズ倶楽部)

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2021-11-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.148

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