PTA役員ってヤツは《週刊READING LIFE Vol.153 虎視眈々》
2021/12/27/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「いや、全部壊してしまいます。来年の役員さんがラクするなんてイヤやから」
私は一瞬、耳を疑った。
あなたは、お母さんだよね。
6年生のPTA役員だよね。
わが家は、娘が小学3年生の夏休みに、私の生まれ育った街に引っ越した。
それまでは、大阪市内に住んでいたのだが、新しく家を購入するのを機会に私の実家近くに戻ってきたのだ。
娘が編入するのは、私が通っていた小学校。
自分自身がそこに通っていた時にはわからなかったが、今では特に読書に力を入れ、図書館の蔵書も充実している評判の良い小学校となっていた。
娘もすぐに新しい小学校に馴染むことができ、友だちも出来て、楽しい日々を送っていた。
そして、そんな小学校のPTAでは、誰もが一度は役員を経験することとなっていた。
3年生から引っ越してきたわが家では、4年生、5年生でもその役員選出から漏れ、とうとう最終学年となってしまった。
まだ役員をやっていない家庭は、文句なしに選出され、私以外に2人の若いお母さんが決まった。
その中で、クラス代表というのを決めなくてはいけなかった。
普通は、じゃんけんなどで公平に決めて来たのだろう。
ところが、私以外の2人のお母さんたちは、幼い弟や妹をそれぞれが連れてきている様子を見て、思わず「私が代表をやりますね」と、言ってしまったのだ。
だって、どう考えてみたって、大変だろうと思ったからなのだが、それがその後にどんなことが待っているかを知ることもない私だった。
クラス代表の役員は、学年全体の役員会にも出席する。
そして、そこでは年間行事それぞれの係の役員を決めることになっていた。
各クラスから選出されたクラス役員は、年間行事の何かしらのお手伝いをすることになっていて、その行事の代表者には、各クラスの代表が就くことになっていた。
クラス代表役員を中心に、各行事の開催の準備を進めるのだ。
私はと言うと、確かじゃんけんで負けてしまい、なんと、学年代表となってしまった。
全ての役員の総代表になってしまったのだ。
これまで、娘が小学生の6年間、一度も、何の役員もしなかったのに、最後の最後にスゴイ所まで昇りつめてしまったのだ。
それでも、役目だから、やるしかない。
経験の有無なんて言ってはいられない。
そして迎えた初めてのPTA役員会。
20名ほどのお母さんたちが集まってくれたが、年間行事の説明、そこの係を決めることなど私が前に立って話すことになったのだ。
いざ始まってみると、これがまた何というか、ちゃんと聴いてくれないのだ。
携帯を出して夢中で見入っているお母さん。
隣の、仲の良いお母さんとの話が途切れない人たち。
みんな、大人だよね。
子どものお母さんだよね。
私は心の中で舌を打ちたい気持ちになったが、一応笑顔で話しを続けた。
それでも、しっかりとこちらに目を向け、うなずきながら聴いてくれるお母さんもいる。
これって、まるで普段の教室の授業と同じじゃないか。
子どもが勉強をしない、授業を聴いていないと嘆くお母さんの声をよく耳にしたが、いやいや、あなただって聴いていないじゃない、と私は言いたいくらいだった。
生まれて初めてのPTA役員。
これまで、私自身が学生時代にも、役員なんてやったことはなかった。
ましてや、代表になって全体をとりまとめたり、会議を動かしたりなんて、全く経験なんてなかった。
それでも、前年度までの活動記録を参考にしながら、年間の行事の役員を決め、それぞれのクラス代表のお母さんも決まり、後はそれらを進めてゆくだけとなった。
私は、学年代表なので、何かの行事の担当役員にはならないが、全体を把握する必要があったので、各行事の話し合いには参加して、手伝えることは手伝った。
それぞれの代表のお母さんがいるので、滞りなく進み特に問題はなかったのだが。
ところが、夏のある行事の時期になると、その担当の役員のお母さんから、色々と話が入ってきたのだ。
夏休みの一日、その日は夜に学校に集まり、お楽しみ会のようなものを催すのだ。
ちょっと特別な感じがする、子どもたちにとってはとても楽しみでワクワクする行事だった。
夜に出かけられるし、学校で友だちと遊べるし、年間行事で一番人気のあるものだった。
その年、行事担当のお母さんたちは、毎年恒例の「お化け屋敷」の準備をしてくれた。
それは、まず、お化け屋敷を作るための材料集めから始まった。
大量の段ボールを集め、それらを切ったり、ペイントしたりして組み立て、それは、それは立派なお化け屋敷が完成していた。
担当の役員をしてくれたお母さんたちから、相当な力の入れようだと聞いてはいたが、ここまでやってくれているとは本当に驚いた。
お楽しみ会の当日、私たち役員や先生たちもそのお化け屋敷を体験したのだが、ある先生は泣いて出てくるくらい、よく出来たお化け屋敷だった。
それと同時に、いかに担当してくれたお母さんたちが大変だったかと思うと頭が下がる思いだった。
夏の暑い日に、段ボールを求めて、スーパーマーケットや量販店、ホームセンターなどを何か所も回り、材料を集めては作成してくれたのだ。
その年の夏のお楽しみ会も盛会となって、子どもたちにとっても忘れられない思い出の一つとなった。
そして、その翌日には、役員や有志のお母さんたちが、夏祭りの後かたづけにと学校に集まった。
立派なお化け屋敷は、日中に見てみると、本当によく出来ていた。
あらためて、担当のお母さんたちにお礼が言いたくなるくらいだった。
小学校には、PTA室があり、そこには物置のようなスペースもあって、必要なモノはそこに保管できるようになっていた。
今回のお化け屋敷は、相当苦労して作られた、それは、それは立派なモノだったから、来年の行事の際にも何かの役に立つであるに違いないから、いくつかは物置で保管するものと思っていた。
ところが、制作を担当したお母さんが、全部壊して捨てるというのだ。
最初、意味がわからなかったが、何か理由があるのかと尋ねると、来年のお母さんたちにラクをさせたくない、と言われた。
私は、目の前にいるお母さんと向き合っているのだが、なんだかとても遠くにいる人のように感じていった。
気持ちがどこかへと流れて行ってしまうのではないかと思うくらい、衝撃を受けたのを今でも覚えている。
自分たちが頑張ったこと、素晴らしい評価を受けたこと、それは誇らしいことであって、作品ならば、また後任の人たちに活かしてもらいたいとは思わないんだろうか。
自分たちが大変だったから、この後のお母さんたちには同じような苦労をさせないように、残してあげたいと思わないんだ。
お母さんって、何?
お母さんって、どうなのよ……。
私は役員を経験することで、お母さんというものは、こうあるべきだ。
子どもを育てているのだから、自分たちも育ってゆくよね。
そんな思いを抱きながら生きてきていたことに気づいた。
お母さんって、突然出来上がるものじゃないのよね。
そういえば、同じ学年の先生方にもそれぞれのカラーがある。
ある先生は、子どもたちの記録を熱心に撮ってくださり、子どもたちに配布してくれたのだ。
運動会、遠足、合唱コンクール、大きな行事から、普段の授業の様子までを撮影し、編集し、DVDに焼いて子どもたちへとプレゼントしてくれた。
それを、他のクラスのお母さんたちは、羨ましかったのだろう。
そこからまた批判が始まって……。
私は、クラス役員をするまで、他のお母さんたちとの交流があまりなかった。
話しをすることも、噂を耳にすることもなく6年生を迎えた。
初めて密に接するお母さんたちを見て、どうやら成長してゆくのは、子どもだけではなく、母親という新しいポジションに就くことになった私たちでもあるのかもしれないと感じだ。
いつも、自分に与えられたこと、自分に出来ることを喜び、感謝し、周りに貢献してゆくこと。
そんな基本の気持ちが親となった立場にある私たちお母さんは、少しずつ欠けて行ってしまっていたのかもしれない。
人と比べ、人よりも秀でること、人よりもひいきされること、そんなことを虎視眈々と狙っているような鼻息の荒さを感じずにはいられなかった。
子どもを育て、子どもの成長を見守る立場にいる母たちも、PTA役員の活動を通して、いくらでも成長する伸びしろを持っているのかもしれない。
ある意味、人間味に溢れているのかもしれないが、私は娘の小学6年生の時、クラス役員、学年代表を経験することで、大きな学びをたくさんもらった。
□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
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