週刊READING LIFE vol.159

中途半端な自分を変えるには《週刊READING LIFE Vol.159 泥臭い生き方》


2022/02/28/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
ああ、私って本当に中途半端な人間だなぁ。
 
何かにつけて、頭にふっと浮かぶ独り言。
小学校でも中学校でも、成績は中か、中の上くらいだった。
高校も大学も、偏差値は中くらいだった。
そこから社会人になって営業職に就いて今に至るまで、営業成績は中くらいだ。
可もなく、不可もなく。大学の成績を「優」「良」「可」の3つに分けるとするならば、きっと「良」なのだろう。
 
普通。中途半端。平凡。どこにでもいるモブ。イコール、私。
 
こんなはずだったのか? いや、こんなはずじゃなかったはずだ。私はいつからモブに成り下がってしまったんだ……?
 
子どもの頃は、こんなんじゃなかったはずだ。一緒に住んではいなかったが、祖父母が「かわいい、かわいい」と存分に甘やかしてくれていたのもあり、私は自分のことを特別な存在だと思っていたところはあったと思う(当時、祖父母は孫が無条件にかわいいと思ってしまうという事実は知らなかった)。
 
あの子より私の方が走るのが早い。あの子より私の方が成績が良い。あの子より私の方が、たぶんちょっとかわいい。あの子より私の方が友達が多い。あの子より私の方が劣っていない。優れている。
 
あの子より私の方が、私の方が……。
 
私はいつからこんなに自分と周りを比べてしまうようになったのだろう?
いつからこういう自信のつけ方をするようになったのだろう?
どうしてこういう方法でしか、自己肯定感を上げられなくなってしまったのだろう?
 
現在私はメーカーの営業職として働いている。会社にはいろんな職種があるが、営業は一番人数が多い部署だ。人数が多いということは、自分との比較対象も多いということだ。お得意の「あの人より私の方が思考」を炸裂させるには持ってこいの部署だ。
 
同年代でマネージャーになっている人がいたり、予算の割り振りを行う人がいたり、どんどん新規開拓していく人がいたり、数字にめちゃくちゃ強い人がいたり、エクセルでハイテクすぎる資料を作るのが得意な人がいたりする。
 
そして始まる、自分との比較。
私は平社員だし、新規開拓とか苦手だし、数字とか見たくもないくらい弱いし、だって文系だし、エクセルなんて四則演算の数式入れるくらいしかできないし、というかなんでみんなそんな仕事できるんだよ。
 
そして自己肯定感を上げるため、脳内でマウント取りが始まるのだ。
「あ、今月の予算届かない。でもあの人の方が私より予算と実績乖離してるから、私まだマシか」
「あの人は営業職しかしてないけど、私は他の業務にも携わっているから大丈夫」
 
何がマシで、何が大丈夫なんだ。
予算の乖離が少なくても、予算を達成していないことに変わりはない。
営業職以外の業務をやっていたって、本業がしっかりできていないなら本末転倒じゃないか。
 
決して落ちこぼれてはいないけど、優秀なわけでもない。
そして冒頭に戻る。私はなんて中途半端な人間なんだ、と。
 
こんな自分を変えたいと思うことは、数十年生きてきて何回も思った。思ったし、実際に変えようと行動したこともある。
数字に強くなろうと、いろんな数字とにらめっこして電卓をひたすら叩いたこともある。営業以外にも武器を作らねば! と、声をかけられるままに他の部署の業務にも携わったこともある。「なんかできることないですか!」と鼻息荒く、先輩にガツガツ詰め寄ったこともある。
 
でも、続かない。頑張ればある程度のところまでは出来るようになるけれど、めちゃくちゃ出来るようになるわけではない。やっぱり、中途半場なところで終わってしまう。やっぱり、私は中途半端な人間なのだ。そういうことなのだ。そういう人間なのだ。そう思い込むことでしか、「自分は中途半端な人間だ」という自己肯定感の低さを救う術を、私は知らない。
 
そもそも、私は営業職を一生続けたいとは思っていなかった。というか、営業職は一番なりたくなかった職種だったと言っても過言ではない。営業って、アポなし訪問のイメージしかなかったから、というのもあるかもしれない。私はルート営業なので新規開拓はしないのだけれど、もちろん売上予算はある。その予算をどうやって達成させるかを考えて行動するのが仕事だ。ほぼ予算未達が確定する締め日近くになると、机に突っ伏していることもなくはない。
人見知りなので、見知らぬ人と喋ることが苦でしかない。営業になりたての頃は「私はなぜこんな苦行をしているのだ……?」と思いながら、先輩に言われるがまま商談に同行していた。
 
こういうことを先輩や上司に吐くと「なんでお前はそんなネガティブなんや」と言われる。ああ、これってネガティブなのか、と他人事のように思う。そういうつもりじゃ、なかったんだけども。
 
 
ある日の部長との面談で、思い切って「私、営業じゃないと思うんです」と言ってみた。たぶん、私は営業向きの人間ではないのだろう。できなくはないけど、そこそこできるけど、そこそこ止まり。もっと、自分を活かせる職種が何かあるんじゃないのか、と思ったのだ。それが何かはわからないけど。
 
案の定、じゃあ何がやりたいんだ、と聞かれた。さて、私は何がやりたいんだろう。
 
文章が書きたい。何かを伝える仕事がしたい。
 
ふと頭に浮かんだのは、それだった。この会社で文章を書いて、それを外部に伝える部署は、広報部しかなかった。
 
「私、広報がしたいです」
 
結論から言うと、会社の答えはノーだった。理由は、私に何も実績がないからだ。どの会社でも、広報は重要な部署だ。世間に自社のことを広めて良いイメージを持ってもらうための部署だ。営業も「売上を作って会社の運営のための資金を作る」という点において重要な部署だが、営業と広報では業務内容が違いすぎるし、未経験者がポンっと入って上手くこなせる仕事ではない。
 
まぁ、そらそうだな、と思った。
じゃあ、私が「広報に異動させてください!」と自信を持って言えるようになるためには、
ライティングゼミは受講していたし、ライターズ倶楽部の受講も予定していたが、それだけじゃきっと足りない。追加で取材編集ゼミも申し込んだ。ウェブで掲載されている連載を読んだり、ライターの方が著者の書籍や文章に関する書籍を貪るように読んだ。「これがいいよ」と言われたらやったし、「これ読んだ方がいいよ」と言われたらすぐに買って読んだ。素直に行動できるところは、欠点ばかり見つけてしまう自分の中でも好きなところだ。
 
部長からは「こうなりたいっていう理想の自分になるための行動を、スケジュールに落とし込んで考えなさい」と言われた。たくさんの軸で考えたが、やりたいこと、やらなければいけないこと、全部詰め込んだらとんでもない量になった。スケジュール作成を指示した部長に見せると「……お前、ほんまにこれできるんか……?」と言われるくらいに詰め込んだスケジュールになってしまった。それに対して私は「できます、やります」と答えるのだった。
 
中途半端な人間だよな、と自分で自分のことを思う。なんでお前はそんなにネガティブなんだ、と他人から言われる。まぁ、私って所詮そこまでの人間だよ、と自分で自分を卑下もする。そのくせ他人に対してマウント取ったりする。
 
自分のことは、嫌いじゃない。
でも、どこかで変わりたいとも思っていた。
そして、それはきっと今なんじゃないかって、なんとなく直感で思ったのだ。
 
「これ持って社長のとこ行こう」と部長に言われた。お前のやる気を直接持ち込んで見てもらおう、と。俺も同席するから、と。
 
中小企業なので、大企業と比べると社長との距離は近い。けれど、やはり社長と面談となると、ものすごく変な汗が出てきてしまう。上手く話せるだろうか。「何言ってんのかわからん」って蹴られないだろうか。日程が決まってから、そんな不安がつきまとっていたが、それよりも「変わるなら今しかない」という思いの方が勝っていた。
 
訪れた三者面談の日。三者面談とか、高校生ぶりじゃないか? とか、そういうことを考えていないと胃がキリキリしそうだった。なんだかんだ、緊張しているらしい。
 
作ったスケジュールに基づいて、部長の助けも入りながら、社長に「私はこの会社で、こういう働き方がしたいです」と話した。「これはどういうことだ?」とか「これはちょっと違うかもしれないな」という指摘をいただきながらも、自分の言葉でちゃんと伝えた。そして社長も部長と同じく、「でも、これほんまにできるの……? できたら素晴らしいとは思うけど、詰めすぎじゃない……? 大丈夫なん……?」と心配してきた。
 
「やる気だけで考えました!」と、脳みそが筋肉でできている人間のようなことを言う私に、「お前そんな奴やったか……?」と社長が少し怪訝そうな顔をする。社長も、私を「ネガティブ人間」と位置付けていたうちの一人だ。
「いや、やる気があるのはええことやけれども……」と少し困惑しながら言う。
 
部長が「明らかに詰めすぎなので、ここはもう少し精査して現実的に再考させます」という話で落ち着いた。すぐに部署異動! という話にはならなかったけれど、なりたい像をきちんと伝えられた。スケジュールを立てたことでやるべきことも明確にできた。中小企業であっても、ただのイチ平社員が社長に直談判できる機会というのは、ほとんどないと思う。そう考えると部長や相談に乗ってくれた先輩、同僚に感謝しかない。人に恵まれているところも、自分の好きなところだ。
 
今はただ社長に意志表明をしただけで、私の実力は何も変わっていないし、営業以外の実績は何もない。でも、「社長、すごい喜んでたよ」と後で部長から聞いた。私のスペックは何も変わっていないけれど、確実に何かが変わった。風向きは、きっと良い。
 
ここから自分のスペックをちゃんと良い方向に持っていけるかは、私の努力次第だ。それによって、協力してくれた人たちにしっかり恩を返すこともできるし、仇で返すことにもなる可能性もある。ずっと中途半端な営業かもしれないし、希望する職種に異動することもできるかもしれない。
 
中途半端な自分を変えるには、何か行動を起こすしかない。それはもしかしたら反乱のように穏やかなものではないかもしれないけれど、何かを変えたいと思うなら、実際に何かを変える行動を起こさなければ、何も変わらない。当たり前だけど、今が平和なら波風立てたくないというのが人間の本能だ。
 
でも、波風も一度起こしてしまうとそれが普通になってしまうのかもしれない。そんな風に思えるようになった私は、まだ中途半端スペックではあるものの、ネガティブではなくなったのかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。大阪府在住。
自己肯定感を上げたいと思っている、自己肯定感低めのアラサー女。大阪府内のメーカーで営業職として働く。2021年10月、天狼院書店のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。文章を書く楽しさを知り、懐事情と相談しながらあらゆる講座に申し込む。

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2022-02-23 | Posted in 週刊READING LIFE vol.159

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