僕は君のセクシーを守り続ける《週刊READING LIFE Vol.159 泥臭い生き方》
2022/02/28/公開
記事:吉田健介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
ここ最近、相棒を手に入れた。
もはや「相棒」という位置付けを勝手にしている。
それは棚。明るいベージュをしたA4サイズの整理棚。2段しかないコンパクトな使用。購入してから2週間ほど経つが、実はかなり重宝している。どれくらい重宝しているかというと、自転車についているチェーンくらい。自転車にとってチェーンは命のようなもの。これがないと、足からの力を車輪に伝えることはできない。チェーンが外れた時ほど、漕いでいて悲しい姿はない。みなさんも1度が経験もあるだろう。カラカラと寂しい音を響かせながら、足だけが必死に回る自分。
僕の仕事の中枢を担っている。この棚のおかげで、仕事の回転率がグンと上昇。というか、僕が目指すのは柔らかな明るいベージュの色。その柔らかさを妨害するやつらは全てやっつける。常に君にはそのまま、ありのままでいてほしいから。
購入した棚は無印良品の木製書類整理棚(A4)。
きっかけはnoteで読んだある記事。デスク環境を整えた、という内容で、買ってよかったものとして紹介されていた。
そして「なんかほしい」と思って買った。
普段、デスクの上にノートパソコンしか置かない。理由は、スッキリした見た目になるから。ただそれだけ。中学校で仕事をしていると、自分の指導教科以外にも、様々な書類が日々舞い込む。世間一般にいう雑務というものの80%がここに含まれているのではないかと推測している。関係諸機関からの資料や、会議の案内、告知。学校内での連携資料や、配布物などなど。中には、僕自身が目を通して判子を押す必要のあるものも少なくない。あらゆるもののデジタル化が進んだとはいえ、必要資料は紙でファイル保存をしなくてはならない。必要な書類を必要なファイル毎に仕分ける。穴あけパンチで穴を開けたり、クリップやホッチキスでグループ分けしたり。まだまだアナログな作業は多い。なので、デスクスッキリ作戦は、一瞬で崩壊する。1日学校を不在にした日には、悲惨な有様。書類の色で染められた僕のデスクは、見た瞬間に生命エネルギーを吸い取ってくる。
そんな僕だが、noteで見た記事をきっかけに、無印良品のA4棚を購入。ノートパソコンの横に小さな棚がプラスさらた。
さすが無印。置いた瞬間に、無印良品らしい清潔感、スタイリッシュ感があたりを包み込む。かといって、デスクの雰囲気をこわすことはない。ちなみに普段使っているデスクは、昔ながらのグレーの鉄製デスク。引出しはスムーズに開くことはない。それぞれのツボを押さえてあげないと、言うことを聞いてくれない。昭和感の漂う、良くも悪くも趣のあるデスク。せめて机と呼ばすにデスク、と先程から表現しているのも、古びたテイストを薄めるべく、ささやかな僕の抵抗である。そんなデスクだが、無印棚の環境適応能力は恐るべし。棚の部分だけ色飛びして違和感を与えるようなことはしない。むしろアクセントとなり、ちょっとおしゃれ。スーツのポケットにいい感じに畳まれたハンカチを入れたときのよう。いつもと違う空気感を見た者に印象付けてくれる。
「いいじゃないですか」
そういいんです。これは買ってよかった。2,490円もしたが、100円均一では出せない風合いがある。
さて、僕の使い方は至ってシンプル。やるべき書類を一番上の棚に乗せている。これだけだ。ありとあらゆる書類。チェックするべきもの。制作途中でプリントアウトしたもの。手書きのメモ。教材用の資料などなど。A4サイズなので、置かれる書類は、スッポリときれいに棚に収まる。2段目は使用していない。棚を購入する前はは、全てノートパソコンの横に書類を置いていた。デスク上にはパソコンと書類がある状態。グレーのデスク上に、ノートパソコンの黒色と書類の白色。実は、この状態、個人的には若干ストレスではあった。裸で置かれた書類がスッキリ感を薄めるから。しかしどうだろう。棚に書類が入れられた様子、悪くはない…… はずだった。そう、棚に書類を入れて、きれいにスッキリ! という作戦だったのだが、その日を境に、僕の中で妙なスイッチが入ってしまった。
「おいおい、明るいベージュが消えてるじゃないか!?」
当たり前の話。一番上の棚に書類を乗せるということは、棚の風合いを放つベージュは、白色に変わる。そうこれは当然のことであり、想定内のことであり、むしろそのための道具なので、そこにイチャモンを入れるポイントではない。そこに突っ込むやつなど、面倒臭いやつの何者でもない。そしてどうも面倒臭いやつのようだ。
書類を置いた瞬間、白に変わった棚の色が気になって仕方がない。むしろ僕の小さな棚に何してくれてんねん!? くらいの勢い。君の魅力はそうじゃないだろう。君はありのままでいないといけない!
即座に取り掛かる。上に乗せられた書類の作業に取り掛かる。どんな些細なことでも捌きにかかる。そして元のベージュを取り戻す。同時に心は落ち着きを取り戻す。
つまり、棚の上に書類が乗せられると、気になって気になって、仕方がなくなってしまっているのだ。まるで病的。中には即座に捌くことのできないものもある。時間が必要な仕事も当然ある。その間、僕の心は落ち着かない。怪我をした美人を抱き上げて「大丈夫か! すぐに助けるから、待っていてくれ!」と叫ぶ。これは大袈裟に言っているのではない。本当にそう思っているのだ。書類の積まれた棚はもはや、分厚い服を着たグラビアアイドル。違う! 君の魅力はそこじゃない! カメラを手にしながらモデルに指示をする。海へ行こう! 水着になろう!
自ずと仕事の回転率は上がる。すごく上がる。爆上がりする。
むしろ、侵入者を一瞬でやっつける自動レーザーマシンのよう。敵を排除する。
中学校での仕事は、隙間時間がモノをいう。授業の入っていない時間や、生徒が登校する前と、下校した後。先生たちの帰宅時間が遅い理由はこの点にある。生徒がいる時間帯は、落ち着いて集中することが難しいから。電話対応や急なトラブルも舞い込んでくる。その中で如何に隙間時間を有効活用するか。生まれた隙間時間に鋭い集中力を覚醒させ、どこまで仕事量を圧縮させられるか。その報酬として得られた時間は、生徒とのコミュニケーションや自分の家族の時間へと還元される。どうやら僕は最強のスイッチを手に入れたようだ。
「これだよ」
そう確信している。なぜって、美人の女性を守るくらいの勢いがあるだから。僕にとっては、強い欲求を生み出しす動機だ。これ以上にないモチベーションを生み出させてくれている。そんな最強スイッチ。
常にセクシーなベージュを露わにしていてほしい。ちょっと周りに見せつけるくらい。いや、見せつけてやろう。いいじゃないか。人目など気にすることはない。どんどん君のセクシーを見せつけてやれ。いや、やろう! そのためなら、僕は何だってするさ。最強の盾となって、悪を根絶やしにしてやろう。君に服を着せるなんて、なんたること! 許し難い行為だ全く。誰だよそんな酷いことをするやつは。冷静に考えて、書類を乗せているのは紛れもない自分なのだが。
とにかく、仕事の回転率は上がった。いや上げなくてはいけない。これは僕の仕事。やるべきこと。もう使命に近い。小さな棚のセクシーを保つこと。君の魅力を世間に晒し続けることが僕の使命。目指すは柔らかなセクシーベージュ。そのために僕は、どこまでも集中力を圧縮させて書類を捌いてあげよう。いや、裁こう。制裁を加えてやろう。悪に魂を売ってでも。
ということで、今日も僕は仕事をします。
□ライターズプロフィール
吉田健介(READING LIFE編集部公認ライター)
現役の中学校教師。教師が一方的に授業をするのではなく、生徒同士が話し合いながら課題を解決していく対話型の授業を行なっている。生徒が能動的に学習できるような授業づくりを目指している。
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