fbpx
週刊READING LIFE vol.161

何に目を向けて生きてく?《週刊LEADING LIFE「人生100年時代の働き方」》


2022/03/14/公開
記事:川﨑裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私の職業、専業主婦。仕事はない。正確に言うと、夫の扶養の範囲内でちょっと働いている。
 
私は、新卒以来18年勤めた職場を辞めた。夫の仕事と子どもの進学のためだ。いわゆる家庭の事情というやつだ。当時、私たち夫婦は週末婚をしていた。それぞれが、それぞれの場所でキャリアをキープするためだ。が、パパっ子の娘が、父親との時間を強く求めた。週明けは、保育園の園庭でパパを恋しがってさめざめと泣いた。
 
もちろん、簡単に決断を下したわけではない。夫のキャリアのこと、私のキャリアのこと、娘の学校のこと。私たち家族にとって第一のことを考えた。一番幸せな選択をしたつもりだ。
 
「仕事を辞めてもなんとかなる」そう、思っていた。18年のキャリアを生かしつつ、何か新しいことができるだろう。意気揚々と働くつもりでいた。興味の赴くままに働こうと思っていた。たくさんの転職イベントにも参加した。
 
でも、結果は厳しかった。理想が高過ぎたのかよく分からない。慣れない土地で、子どもは幼稚園まで電車通学だった。私は送迎しつつ、その足で職を探した。なかなか仕事は見つからない。自分の理想の姿に近づくために必死だった。でも、難しい。本当に難しい。
 
そんな中、やっと自分の思い描く仕事を得ることができた。女性活躍を推進するベンチャー企業だ。子どもの送迎もでき、子どもが学校に行っている間に働ける。願ってもない好条件だった。久しぶりに人前で話した。同僚とプロジェクトに取り組めた。新しい経験に胸が躍った。
 
が、働き始めて3か月足らずで私は体を壊してしまった。家も仕事も学校もすべてが新しい環境だ。気づかぬうちに無理をしていたのだろう。想像よりも適応はすんなりとはいかなかった。
 
「今まで、ワンオペ育児をしていたのにナゼ?」
 
現実を突きつけられた。私の見通しが甘かったのか。
 
「キャリアの分断をしなければ良かったのか」後悔の念が頭をよぎる。ただ、過去には戻れない。決断を覆すことはできない。
 
「あれ、そもそもなんで仕事を辞めたのだっけ?」ふと我に返った。
 
もちろん、キャリアの分断は怖かった。決断は容易ではなかった。でも、あの時、家族と一緒に過ごす時間は、私にとって何よりも優先事項だった。
 
決断をする少し前のことだ。昇進異動の時期に「私の子どもにはガマンしてもらうしかないな」仲良しの先輩が言った。何気ない一言が、私には刺さった。刺さったものは、私の中でなかなか取れずにいた。
 
私の場合は、事情が違う。一時期の話ではない。夫も私も転勤はなく、永遠に週末婚なのだ。まずは私と家族の幸せが大前提だ。その上で、いろんなことに思いきりチャレンジができる。
 
私が20代の時に、最愛の母が他界した。子煩悩で本当に面倒見の良い母だった。病床の母を看て、家族あっての物種と強く感じた。母はたくさんの家族に見守られながら旅立った。予想より早く幕を閉じたけど、幸せな人生だったと思う。仕事に家庭に、一生懸命な母だった。あの時、母のように生きようと心に誓ったのだ。
 
「今の人生に一番大切なものはなんだろう?」
 
私の場合は、家族だ。もちろん、バランスは大事だ。本音を言えば、仕事も家族も欲張りたい。ただ、優先順位が必要な時だって人生にはある。
 
仕事をしている人が家族をないがしろにしていると言いたいのではない。私だって仕事をしてきた。両親だって共働きだった。
 
私は何にモヤモヤしているのか?
 
以前の自分と比べて稼ぎが少ないことだ。夫の扶養の範囲内で働いていることだ。だからって、過去には戻れない。家族一緒に住めるようになって、心から満足している自分もいる。
 
「今の自分にできることってなんだろう?」もう少し、視野を広げてみたい。柔軟に考えてみたい。
 
人生遊びがメインで仕事はオマケっぽい国だってある(笑)。
やたら休みの多い国だってある(笑)。
失業率がとても高い国もある。
戦争している国もある……。
子どもが学校に行けない国だってある……。
 
今は人生100年時代。私はまだ、折り返し地点にも来ていない。焦りは置いておこう。今を味わい尽くしてみよう。今を楽しんでみよう。
 
「だから、専業主婦は甘い?」「必要に迫られていないからそんなことが言える?」
 
私はそんな声を恐れているのだと思う。でも、そんな人の目を気にして、モヤモヤして、誰が得するのだろう。誰も私の人生に責任を取ってくれるわけではない。
 
キャリアもない。
稼ぎもない。
ない。ない。
 
ずっとこう考えてきた。でも、無闇に不安になっても何の意味もない……。
 
モヤモヤしたっていいじゃない。
モヤモヤしてもいいんだよ。
 
まずはモヤモヤしていることを受け入れる。モヤモヤは、より良くなりたい向上心の表れなのだ。
 
モヤモヤを受け入れて、今に目を向けてみよう。先のことを考え過ぎる必要もない。昔の自分と比べて焦る必要もない。一歩一歩、目の前のことをやっていこう。
 
人間はどうしてもないものに目を向けがちだ。生きていくための防御本能だから仕方がない。私もつい、ないものを数えてしまう。不安になって未来に備えたつもりになってしまう。でもそれではあまり前に進めない気がする。
 
だから私は、思考をシフトチェンジしてみたい。今、あるものに目を向けてみたい。
 
健康な家族。
フルタイムで働いている夫。
いつも新鮮な学びをもたらしてくれる娘。
書く仕事やその仲間。
 
「そうだ!」こんなにある。いっぱいある。私にはいっぱいある。

 

 

 

再就職した仕事は3か月で辞めた。ドクターストップで泣く泣く辞めざるを得なかった。
 
仕事は一旦諦めた。時間が空いた私は、子育てや心理学の勉強を始めた。面白過ぎて、グングンとのめり込んだ。
 
その結果、辿り着いたのが今の仕事だ。
 
当時の私は、取れる講座を受けまくった。その感想をブログに書きまくった。そんなことの繰り返しだった。誰に頼まれたわけでもない。自分がやりたくてやっていた。
 
受講から半年経った頃、私はそこで職を得ていた。その団体で書く仕事をするようになっていたのだ。
 
「私には何もない」と思っていた。が、こんな幸運が他にあるだろうか? 人生どう転ぶかなんて誰にも分からない。
 
今は、家事育児が中心で、さらに仕事の生活だ。フルタイムの仕事を辞めたら、もっと暇になるかと思った。けど、心地よく忙しい。自宅から3駅先のスクールバス停まで、子どもを送迎している。子どもが学校に行っている間、掃除や食材の買い物、仕事をする。その繰り返しの毎日だ。
 
ああ、忙しい。それなのに、夫の稼ぎがなければ私は暮らしていけない。だからずっとモヤモヤしていたのだ。今は結果や肩書きが求められる社会だ。だから尚更モヤモヤするのだ。
 
でも、決めた。
 
稼ぎがないことにいたずらに不安になるよりも、過去の決断をグルグル考えるよりも、目の前にあるものと私は向き合いたい。
 
焦りや不安は誰のためにもならない。10年後、20年後の自分が振り返ったら「なぜそんなことで悩んでいたの」と笑うかもしれない。

 

 

 

今は「まだ」そこまで胸を張れるキャリアはないかもしれない。「まだ」思うように稼げていないかもしれない。
 
単に「まだ」というだけだ。希望を持って生きていたい。人生のフェーズで働き方が変わってもいいと思う。私がどう行動していくかで、今後の私のキャリアだって変わるのだ。
 
目の前のことに真摯に向き合う。
いい人生、面白い人生が送れるよう注力する。
少しでもいいから行動していく。
 
それでいいじゃない。人生に無駄なことなんて1つもないのだもの。
 
私の場合、時間を見つけて書く。ちょっとでも書く。少しでもいいから何かにトライする。そんなスタイルだ。不安に駆られて何もしないよりはましだろう。
 
こうして私は、小さな偶然を楽しんでいきたい。そうしないと人生100年、やっていけないじゃない?
 
人生の答えはどこにも転がっていない。大事なのは人の目でなく、自分が決めたかどうかだ。「あの時の判断が良かったのか」そんなの、人生が幕を閉じるまで分からないのかもしれないのだから。
 
あるものに目を向けて、自分なりに人生を面白がる。それって結構ハッピーな生き方なのではないか。
 
私は、モヤモヤを受け入れたら、現実を見つめることができた。あるものを数えたら、やる気が出てきた。そして「書く」という私なりの表現方法を見つけた。
 
ペンがあることに感謝して、私はこれからの人生100年時代を歩いていこう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川﨑裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

茨城県出身。元公務員。ウェルビーイングライター&ウェルビーイング ファシリテーター 。カナダ人と国際結婚。バイリンガル子育てに奮闘中。
2020年4月、ライティング・ゼミ日曜コースを受講。週間ランキング第1位が3回。天狼院メディアグランプリ35th Seasonチャンピオンシップ総合第1位。

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2022-03-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.161

関連記事