週刊READING LIFE vol.161

65歳を過ぎても働くために準備する3つのこととは?《週刊LEADING LIFE「人生100年時代の働き方」》


2022/03/14/公開
記事:青野まみこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
65歳になったら、何しようか……。
最近、ぼんやりとよく考えることの1つである。
 
今の勤務先は、社員もパートも65歳が定年だ。
再雇用などもあるのかもしれないけど、うちの職場はそういうことに極めてファジーで、65歳を迎えて再雇用されたりされなかったりと、基準が極めて曖昧である。その時の職場のニーズや採用側の気分で再雇用は調整されてしまうから、65歳を超えても働けるかどうかの見通しは立たない。
もし65歳まで無事に勤め上げることができたとして「はい、さようなら」と言われたら、辞めた翌日からはただの人になる。次の日から、何すればいいんだろう。

 

 

 

人生100年時代と言われて久しい。
そして気がついたら、軽々と90歳超えの人生を送る人たちが増えてきた。
あの人も、あそこの人も、一体いくつまで生きたんだってくらいフツーに長生きしている。
 
例えば70代で不幸にしてお亡くなりになった方がいたとしたら「まだ若いのに」と言ってしまうんじゃないだろうか。昔はそれが、大体60代以下で逝去した人に対する言葉だったけど、確実に70代で言われるようになっている。それだけ日本国民は元気に長寿になってしまった。
 
医療費抑制のための取り組みや、健康診断制度の発達も、健康寿命の延長を後押しした一因なのだろう。どのメディアでも健康特集はひっきりなしに出ているし、健康に気を遣うことが日常的になっている結果、病気は早期発見になって回復し、否が応でも健康寿命が伸びている。
 
長生きすることはいいことだが、その分どうしたって「生きる」わけで、そのための備えについて多くの人が不安に思っているようだ。
とりわけ2019年に金融庁の報告書から生まれた「老後2000万円問題」というワードは強烈に人々の心に刺さった。定年になったあと30年あまり生きるとして、その間の生活費は足りないのではないか、病気になったらどうするのか。まず真っ先にそんな不安がよぎるけど、まだまだ先のことだからとして現実的に考えられない人も多いのではないか。
そうは言っても命ある限り生き続ける以上、霞を食べるわけにもいかない。「健康で長生きできる」保証なんてどこにもないけど、私たちはちゃんと生活をしなくてはならないし、そのためには先立つものが必要なのだけど、たぶんそれは十分な額ではない。
 
現在年金をもらっている層は、高度経済成長を支えてきた世代。その人たちは暮らしていくのに十分な金額の年金をもらえるけど、そこから下の世代はそうはいかない。2020年総務省の統計によると、2人世帯での平均生活費は約30万円だという。30万円を2で割ったら15万円だ。大学を出て新卒で優良企業に入ったり、公務員になったりした人なら楽々もらえるだろうけど、私のように途中キャリアブレイクして紆余曲折あった人は、年金としてまともな金額はもらえないであろうと予想している。
 
こんなふうに「65歳で退職したらどうすればいいかわかんない問題」を真剣に考え始めると、うっすら答えが見えてくる気がする。
要するに「働ける限りは働き続ける」しかない。

 

 

 

65歳を過ぎても安心して暮らせるだけの収入を得るためには、一体どうしたらいいのだろうか?
この問いにはいくつか選択肢があるような気がする。
 
65歳を過ぎてもどこかで雇われる
家業を手伝う
起業する
資産運用をする(株、不動産、……)
(すでに資産がある人は)働かないで食いつぶす
 
まあいくつかは冗談みたいな話だからそれは置いといて、現実問題としては収入を得るために人は働く。問題は「どうやったら齢を重ねても働く手段を得るか」だ。
 
日本ではまだまだ新卒だの第二新卒だのと、若い人ばかりを採用したがる、重用する姿勢は変わっていない。寿命が伸びているから年配者を雇用しましょう、定年を延長しましょうとは言うけど、では定年後の人を雇用しますかと問われたらYESと言い切れない企業は多い。年配者は高い給料をほしがって頭は固く、若い人たちとうまくやっていけない、病気になったら働けなくなる、いろんな理由で尻込みされる。
 
こうしてただでさえ敬遠されがちな中高年なのに、定年後でもどうしても収入が必要なら自分が望まないジャンルの仕事をしなくてはいけなくなるかもしれない。
でも、それはあまりにもつまらなくないだろうか。
齢を取って、気の進まない仕事に1日の大半の時間を費やすことは虚しくないだろうか。
 
かくいう私も今の仕事を辞めてしまったら、収入の道を探すのにものすごく苦労するような気がしていた。
40代で士業に挑戦しようかと思ったこともあったけど、いざ勉強を始めてみると驚くほど頭に入らない。もう20代の若い頭ではないのだ。吸収力が弱まった頭でする勉強は恐ろしく効率が悪く断念した。
パンを作るのが好きで講師資格も取って、自宅でパン教室をやったこともあったけど、集客の難しさ、収益をあげるための苦労もあった。加えて腰痛持ちだったため体力的にもしんどいと思ってこれも早々に断念した。
特に手に職があるわけでもないし国家資格だって持っていないし、断念することばかりだったから、給与所得の他には収入は得られないんじゃないかと思っていた。つい2年くらい前までは。

 

 

 

もしかしたら、自分でも稼げるんじゃないか。
そんな希望が見えてきたのは天狼院書店でゼミを受けてしばらく経ってからのことだ。
 
昔から書くことが好きで、ブログに映画レビューなども書いていたけど、次第に自分がやりたいことは単に映画について書くことだけじゃないような気がしてきた。世の中にライターという仕事があって掲載する媒体がある以上、何も映画だけに限らずいろんなジャンルで書いて収入が得られれば、それはすごくいいことなんじゃないかと思うようになった。
 
ちょうどそのタイミングで「フリーライター講座」というものを受けていた。ライターとしてやっていくためにはどんなことが必要か? どのくらいのスキルが求められるか? どうやって仕事を取るのか? など、今後ライターを目指す人にとってはとても有益な情報ばかりが詰まっている講座だった。
 
その講座を終了して少ししたころ、知り合いのサイトでライターを募集しているのが目に止まった。私は手をあげて応募して、採用された。仕事の内容はシンポジウムを書き起こしてWEB記事にまとめることだった。それまでにライターとしての経験はなかったけど、講座で聞いたことに注意して準備すればどうにかなるんじゃないかと思っていた。
 
下調べを入念にする、ICレコーダーの動作をチェックする、書き起こしのソフトを用意する、どれも講座のことがとても役に立った。内容の濃いシンポジウムだったけどどうにか文字起こしをして記事にまとめた。何回かの校正を経てWEB上で公開されたときは喜びもひとしおで、そしてその報酬をいただいたこともとにかく嬉しいことだった。
 
(これって、ライターデビューってやつだよね)
 
雇われの身ではあるけど、こうして他のことでも自分で稼げる自信が少しだけついた私は、本業とのバランスをとりながらできるようなライティングの仕事を少しずつ受けた。
不思議なことに、いわゆる求人サイトのライター案件に応募したことはない。今まで受けたライティングの仕事は、ほぼ知人のつてで話が来たものばかりだ。
 
私にとって本当に嬉しかったのは、天狼院書店の課題で書いてWEBに掲載になった私の記事をずっと読んで下さった上で「こんな案件があるんだけど、書きませんか?」と声をかけてくださる人がいることだった。
先日受けた案件では、きちんと書き起こしをして時間配分まで記入して提出した。その時こんな言葉をかけてくださった方がいた。
 
「本当に、青野さんにお願いしてよかったです……」
 
「誰でもいいわけではなく、あなたにお願いしたい」と言われること、さらに「あなたにお願いして本当によかった」と言われることはライター冥利に尽きる。誇ってもいいと思っている。そうやって信頼の上に成り立つ仕事の方が、単にお金だけで引き受ける仕事よりも結びつきが強い気がしている。

 

 

 

そんな嬉しいお仕事を少しずつ広げているところで、さらに最近チャレンジしていることがある。それは写真だ。
 
ライターにもいろいろあり、単に書くだけの人もいれば取材込みで書く人もいる。私の場合、取材記事も引き受けていたので、どうせなら取材ついでに写真も撮れればすごくいいんじゃないか? と単純に思ったのが、写真を勉強しようと思ったきっかけだった。
 
写真の世界は奥が深い。
単純にスマートフォンだけでも、今の機器はレベルが高いからいい写真は撮れるけど、「ぼけ」の世界、雰囲気重視な画像を求めるならやはりカメラかなと思っている。オートモードではない、その場に合わせて絞りやシャッタースピードを合わせて撮影することは本当に難しいけど、1年くらいかけて勉強していくうちに自分の写真に足りないものはなんなのかがわかるようになってきた。
 
最近受けたECサイトのライティングの仕事で、もしかしたら商品写真を実際に使っている様子を撮影した方がいいのではと思うことがあり、提案したら「じゃ、やってみて」と採用された。まだまだ拙い技術だけど、もしかしたら写真を使ってもらえるかもしれないからと、その時点での自分のできる限りの技術を投入して撮影することになった。
 
お題は、揚げ物の撮影。写真を採用する条件は「美味しそうに見えること」「料理している臨場感があること」だった。
さあどうしよう、美味しそうに見せるには光を工夫しないといけない。自然光の他にもLEDライトを用意して、立体的に見える位置から撮影しないといけない……考えることは無数にあった。
 
油を熱して、具材を投入する。
じゅわじゅわじゅわ……と揚がり初めてから、色が変わっていく様子を夢中で撮影していた。どの時点が最も美味しそうに見えるのか、ただそれだけを考えながら。
そのカットだけで200枚くらいは撮影していたと思う。終わってからチェックするとちゃんと使えそうなのはほんの数枚。こんなに難しいものなのかと愕然としたけど、どうにか使えそうなものを出してみると、採用しましょうということになった。
 
(これって、初の写真の仕事なんだよね)
 
なんだか無性に嬉しかった。何が嬉しいって、自分が書いたこと、撮影したことがきちんと対価になったことだ。これって、クリエイターって言ってもいいんだろうか。でもなんだかおこがましいし、ちょっと恥ずかしくもある。
 
自分が作り上げること、それは唯一無二のものである。他の誰も侵すことのできない、自分だけの作品で収入が得られるのなら、それは最強の武器になる。これだったら例え定年になったとしても、なんとかどうにか稼げるんじゃないか。少しだけどそんな自信がついた。
 
自分オリジナルの稼ぎ方は1つの手段だけではなく、できるならいくつもの手段を用意しておけばそれだけ強みになる。「二足のわらじを履く」とはよく言うけど、二足どころじゃなく何足ものわらじを履き替え用に用意しておくこと。
自分を認めてくれる人をたくさん作っておくこと。
認められるように自分を磨くことを忘れない。
この3つを続けていくことが、今後長く生きないといけなくなった時代では必要なことではないだろうか。
 
チャンスはいつ回ってくるかわからない。少しずつでもいい、ゆっくりでもいい、信頼と実績を積み上げていこうと意識することで自然と行動も伴っていくように思う。人生100年時代、いつまで生きるかわからないけど、65歳を過ぎてから働くための備えは、なんとなく道筋が見えてきたような気がしている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
青野まみこ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

「客観的な文章が書けるようになりたくて」2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月READING LIFE編集部公認ライター。
言いにくいことを書き切れる人を目指しています。

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2022-03-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.161

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