誰でもできる「本一冊を一時間で読む方法」 《週刊READING LIFE Vol.169 ベスト本レビュー》
2022/05/16/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「本を速く読めたらいいなあ」
私は昔から本を速く読むことに憧れがあった。
自分の読書経験を振り返ると、18歳まで私は一冊の本を丸ごと読んだことがほぼ無く、記憶にあるのは三国志の単行本を1冊だけ読んだぐらいで、それ以外の本をまともに読み切った記憶がない。しかし本が嫌いだったわけではない。子供のころは週末に父親と本屋に連れて行ってもらうのが楽しみの一つだった。本好きだった父は毎週のように本屋に行っては仕事の本や趣味のカメラやレコードなどの雑誌を買っては読みふけっていた。ただ当時の私が興味を持っていたのは漫画で、父親に「漫画買って~」とねだっていた。
ところが大学受験を始めたことをきっかけに私は教科書を読むことが出来ないという壁にぶつかった。これまで活字を読むという習慣がなかった私にとって、受験勉強でまず一番苦労したのが、教科書や参考書を読むという行為だった。
とにかく読んでも頭に文章が入ってこない。また机に座って本を読むという行動をとったことが無かったので、何時間も机に座って本を読むということが苦痛で仕方なかった。
そんな状態だから当然集中力も続かなかった。10分も机に座っていると頭の中では全く違うことを考え始めてしまい、ふと気が付くと教科書を全く読まずに空想の世界に浸っていたなんてことはざらだった。
そこから脱して受験生らしく、机で勉強できるようになるまでに半年以上は費やした気がする。
「本をもっと速く読めたらいいのに」と最初に考えたのはそんなときだった。
他の受験生に比べて圧倒的に勉強が遅れていた私は、予備校の授業についていくことで精一杯だった。それでも授業はどんどん進んでしまい、付いていくためには予習、復習をしなければいけないのだが、とにかく教科書を読むことが遅く、人の2、3倍の時間をかけなければ追いつくことが出来なかった。せめて本をもっと速く読むことが出来れば受験勉強も楽になるのではないかと思い、本屋で「速読」と書かれた本を手に取ってみた。これが私が「速読」に出会ったきっかけだった。
しかし受験勉強をしているときに、結局私は「速読」をマスターすることは出来なかった。速く読もうとすると理解度が落ちてしまい、結局何度も読み直すこととなり、効率が悪かった。また理系だったこともあり、数式を解いているときには「速読」はあまり関係が無かった。結局私は「速読」をマスターすることなく、受験を終えることとなった。
それから大学生になり、近所にあったマニアックな古本屋に通うようになり本を読むことの面白さには気付くことが出来た。しかし本を読むことは好きになったものの「本を速く読む」ということは、これと言って必要性が無かったので意識することは無くなってしまった。
ところが昨年、私は突如「速読を身に着けよう」と思い立ち、独学で訓練を始めたのである。
きっかけは仕事で研修講師を行うことになり、その研修内容を作るために大量の本を読む必要が出てきたからだ。社会人になってからの私の読書量は月に2~3冊で、続き物の小説などを読んでいる時でも5冊は読んでいなかった。しかし研修講師を本格的に行うようになって、資料を作成するためには1週間で3~4冊の本に目を通さなければいけなくなり、限られた時間でそれだけ読むためには本を速く読む必要性に迫られたのだった。
しかし、その時の私の読書スピードでは、300ページほどの本を読むのに4~5時間かかっていた。文字の大きさにもよるが、通常の本なら1ページに縦40文字、横16行ぐらいなので、およそ640文字になる。300ページの本なら192,000文字だ。しかしぴっちり文字が詰まっているわけではないので7割程度文字が書かれていると計算すると134,400文字が1冊の本の文字量となる。
これを5時間かかって読んでいるとすると1時間で26,880文字。1分間では448文字となる(ちなみに4時間なら1時間で33,600文字、1分間で560文字になる)
日本人の平均読書スピードは450~600文字程度とのことなので、私は平均的な日本人と同程度の読書スピードだったことになる。
しかし1年ほどたった今では、最近読んだ「サイコロジー・オブ・マネー」という本なら、65分で読むことが出来た。この本は321ページあるので、先ほどの計算だと1冊で205,440文字である。つまり私は1分間に約2,300文字の速さで読んだことになる。これは平均的な日本人の3~4倍の速さということだ。
このスピードで読むことを「速読」というかは別にして以前の自分と比べればかなり速く読めるようになったのは間違いない。そのため最近では月に10~15冊くらいは本を読めるようになった。おそらくこれだけでもかなり速く読めているほうではないかと思う。
ちなみに日本人の読書量は年々減ってきているらしい。
文科省が調査した結果では、日本人の平均年間読書量は12~13冊で、月に1冊も本を読まない人は47%、1〜2冊が34%、3〜4冊が18%、5〜6冊が10%、7冊以上読むと答えたのは4%しかいないというのだ。一番驚いたのは月に1冊も読まない人が全体の約半分という事実である。
これは16歳以上の男女に対して行った調査なので、自分のことも振返ってみても、10代はほぼ0だったし、大学生、社会人になってようやく月3~4冊程度なので、そんなに驚く数字でもないのかもしれないが、現代人の読書離れが進んでいるのは間違いなさそうである。
では私は実際どうやって本を速く読むことが出来るようになったのだろうか。
今回はそのポイントを少しだけお伝えしたい。
まず読書スピードを上げるには「心理的な問題」と「脳の処理速度の問題」の2つを解消しなければならない。
速読というと昔流行った「フォトリーディング」や「フォーカスリーディング」などの技術的な手法を学ぶことが大事だと思うかもしれないが、私の実体験では技術を学ぶ以前に「心理的な問題」を解決することが大事だと感じた。
皆さんの中での速読のイメージは分からないが、私の中では速読というと1冊を10分で読み、且つ内容も理解していて記憶できているという状態だった。これを先ほどの文字数で計算すると、私が読んだ「サイコロジー・オブ・マネー」であれば1分間に約20,000文字、ページ数にすると32ページとなる。つまり1ページ読むのに2秒という計算になる(これは一般人の30~40倍の速度ということだ)
ためしに皆さん実際にやってみて頂きたいのだが、見開き2ページを4秒でページをめくりながら、内容を読んでみていただきたい。おそらくほとんどの人には何が書いてあるのか理解できないはずである。もちろん単語や短い文章なら拾うことが出来るので、大雑把に「こんなことが書いてあるのかな」ぐらいは理解できるかもしれないが、普段皆さんが読んでいるほどの理解度では読めないのではないだろうか。
つまり普段私たちは「自分が理解できるスピード」があるのである。
しかしここにまず一つ目の「心理的な問題」がある。
私たちは普段自分が慣れ親しんだ読書スピードがあり、その速度で読むことが一番心地良いと感じているのである。そのためそれ以上速い速度で読むと「理解度が下がってしまうのではないか」「記憶できないのではないか」と感じてしまうのだ。そのため本当はもっと速く読むことが出来るのに、自分の読みやすい速度で読むクセがついているのである。そのためまずは「自分は、今の読書速度でないと本の内容を理解することが出来ないと思い込んでいるだけだ」「本当はもっと速く読むことが出来る」と、自分の思い込みを外すことが本を速く読むことの最初の一歩となる。
ちなみに読書スピードは人によって違いがあり、東大生に限定して計測すると平均で1分間に1500文字となるらしい。つまり平均的な日本人の2.5倍くらいの速度で理解度を落とさずに読むことが出来ているのである。
そしてもう一つ大事な点が「速く読む必要性がない」という「心理的な問題」をクリアーしないといない。私はたまたま仕事で短期間にたくさんの本を読まなければいけないという必要性に迫られ、速く読むことを実行することが出来たが、おそらくほとんどの人は「速く読めたらいいなあ」と漠然と憧れはあっても必要性の度合いは低いのではないだろうか。
これは「英語が話せるようになったらいいなあ」と漠然と思っているだけの人とよく似ている。ところがこういった人でも何かの都合で海外に住むことになれば、いやでも英語を話す必要性に迫られるので、半年もすれば大方のコミュニケーションが取れるようになるだろう。つまり「本をたくさん読む必要性」を自分で作ることが、本を速く読むためには必要なのである(これは仕事以外にも資格試験など期日が決まった目標があると良いだろう)
この「自分の読書スピードはこのくらいという思い込み」と「本を速く読む必要性がない」という2つの課題をクリアーすることがまず本を速く読むための第一ステップとなる。これが出来てから初めて実際に速く読む訓練にとりかかれば、本を速く読む能力を格段に身につけやすくなる。
そして次に重要なのが速い速度で文章を理解していくために脳の情報処理スピードを上げることだ。と言っても難しいことはない。とにかく速く読むことに慣れるだけでいいのだ。
これも今なら便利なアプリが沢山あり、本を脳の情報処理を上げるトレーニングは簡単に行うことが出来る。大きくは2つの訓練が必要で、一つは「自分が読める速度よりも速く文字を追う訓練(つまり速さに慣れる訓練)」。そしてもう一つが「速い速度で文章を聞いて理解する訓練」である。
この訓練は、車で高速道路を走った後に一般道を走るとすごくゆっくり感じるのと同じ原理を利用する。
つまり普段自分が読んでいるスピードを強引に上げて読むと、次第に目と脳がそれに慣れてきて、そこからスピードを下げると普段のスピードがゆっくりと感じるようになるのだ。そのため普段よりもスピードを上げても理解力を落とすことなく読めるのである。
この訓練には電子書籍を利用するのがおススメだ。私はkindleを使っているが、とにかくページを自分が読める速度よりも早い速度でめくっていく。例えば先ほどのように1冊10分で読もうと思ったら、1ページ2秒で読まなければいけないので、2秒経ったらどんどんページをめくっていくのである。その間にできるだけ内容を理解しようと集中して読む。これを最初から最後まで行ったら、次は少しスピードを落として1ページ4秒でページをめくっていく。すると先ほどよりも文章を読める時間が長くなったので理解できる内容が増えたことを実感できるはずだ。
ただ、それでも全部読めないし、理解も追いついてこないだろう。しかしそれはいったん気にせず速く読むことに特化して訓練を行っていくのがコツである。本の読み方には「見る」→「理解する」→「記憶する」と段階があるのだが、まずは「見る」能力を高めないと「理解する」「記憶する」能力も上がってこない。そのため最初は「見る」能力に特化して訓練し、次第に「理解する」「記憶する」能力も「見る」能力に合わせていくようにするのである。
次に「脳の処理速度を上げる訓練」は速いスピードで音声を聞くことが有効である。これには「audible」というアプリを利用するといい。このアプリでは電子書籍を最大3.5倍速まで上げて聞くことが出来る。原理は速く読む訓練と同じで、出来るだけ早い速度で聞くことで、だんだん脳の処理スピードを上げることができる。最初は3.5倍の音声を聞くのは早すぎると感じるかもしれないが、これも聞き続けることで理解できるようになってくる。
ちなみにkindleもaudibleもサブスクで月額1,000円程度で本を大量に読める(聞ける)ので、おススメである。
この読むスピードと、聞くスピードを上げる訓練を1日30分行い1か月も継続していると、普段の本を理解できるスピードで読んでも以前よりも断然早いスピードで読める実感があるはずである。
最後に私が読んだサイコロジー・オブ・マネーから一文を紹介したい。
この本はお金に関する心理を扱った本だが、お金持ちになるための金言として、「投資家のウォーレンバフェットの成功は、誰よりも早く初めて誰よりも長く続けていることである」と書いてあった。
これはあらゆることに通じる内容だろう。
本を速く読む訓練は、早く初めて、長く続けていれば必ずできるようになる。
そして多くの本を読むことできっと皆さんにとっての最高の一冊が見つかるはずである。
ぜひ皆さんも今すぐ初めて頂き、皆さんの人生を変える本に出合っていただきたい。
□ライターズプロフィール
佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
静岡県生まれ。鎌倉市在住。 大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。
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