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週刊READING LIFE vol.172

花が欲しいと思う、その心とは《週刊READING LIFE Vol.172 仕事と生活》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース、ライターズ倶楽部にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/06/06/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
友人から、猫の動画のリンクが送られてきた。
動画の中の猫は、スーパーで買ったお寿司の蓋をあけようと、必死に蓋の上からガリガリと引っかいていた。
そりゃ、開かないよ。
でも、その姿がとても可愛かった。
 
「猫、可愛いねぇ」
 
私は素直な感想を送った。
すると、友人から予想外の返事が返ってきた。
 
「弱っとんな」
 
なんですと!
猫を可愛いと言っただけなのに!?
なぜ、そう思う?
 
「猫、可愛いって言っただけじゃん!」
と私は返す。
 
「普段、言わないじゃん」
 
確かに……。
 
一応、言っておくが、私は動物が嫌いなわけではない。
自らすすんで動物をさわりにいったり、動画をみたりするほどではないというだけである。
動物は見ていて可愛いと思うし、動物のフィギュアはたくさん持っている。
なんだか言い訳っぽくなってしまったが、「動物好き イコール いい人」
という昔から言われている公式が頭の片隅にあるので、「動物好き」と胸を張って言えない自分が後ろめたいのである。
動物好きでも悪い人はいるし、動物嫌いでもいい人はたくさんいるのでこの公式は成立しないのだが、なんとなく気にしてしまうのだ。
 
この友人とは長い付き合いで、趣味、嗜好、性格はもちろん思考のクセまでも、すべてわかっている。
自分では普通に書いたつもりの返事でも、いつもと少しニュアンスが違うだけで、文体から違和感を感じ取り、心配をしてくれる。
なんともありがたい存在だ。
 
そんな友人が、私が猫の動画をみただけで、いつもは言わない「可愛い」という言葉を使ったので、心が弱っていると判断したのだ。
確かに弱ってはいた。
しかし、年のせいなのか、最近、動物や景色、旅番組など、ほっこりできるものに心を動かされるようになったということもある。
以前であれば考えられなかった。
ただ、今までは素通りしていたものに立ち止まるようになったのは、加齢のせいだけではない気がする。
私は続けて友人に返事をした。
 
「この前、ちょっと花が欲しいと思った。生きているものを近くに感じたいと思ったのかもしれない」
 
生きているものを近くに感じたい……そんなふうに思ったのは、生活様式がガラッと変わったことにも要因がある。
 
コロナ禍を契機として、仕事と生活が明らかに変化した。
働き方、生活様式等の多様化により、コロナ禍前の2020年以前とはガラッと世界中が変わってしまった。
よく、昔の人が現代にタイムスリップしたら……みたいな設定の話があるが、コロナ禍になる前、3年ぐらい前から今の時代にタイムスリップしただけで、結構驚くと思う。
街を歩くと皆マスクをしている。
ちょっと前までは、マスクは花粉症や風邪、顔を見せたくない人がするアイテムだった。
しかし、今はどうだ。
ほぼ全員がマスクをしている。
タイムスリップをしてきた人は、空気が悪すぎてマスクをしないといけない世の中になったのかと思うかもしれない。
 
人との付き合い方も大きく変わった。
黙食がすすめられ、大勢で賑やかな食事もできないようになり、そう簡単に人と食事に出かけることができなくなった。
2年ぐらいこのスタイルを続けたため、たとえGOサインが出ても、飲みに行ってもいいのだろうか、複数人で食事に行っていいのだろうかと、昨日までと何か変わったわけでもないので、元のスタイルに戻すのに躊躇したりする。
 
私は会社員だが、働き方にも変化があった。
多いときは週3日の在宅勤務になった。
働いた実感でいうと、週3日の在宅勤務はちょっと多い。
コミュニケーションも希薄になるので、週2日ぐらいが望ましい……なんて勝手に思っている。
在宅勤務、それは情報通信技術を活用し、会社に出社しないで自宅等を働く場所として柔軟に働く勤務形態のことをいう。
在宅勤務は通勤時間のストレスがなくなるので、片道1時間ぐらいかけて出社していた人にとってはそれがなくなるだけでも大きい。
私は会社からそれほど遠くない場所に住んでいるので、そこのストレスはあまりなかったのだが、多くの人は会社から離れている場所に住んでおり、在宅勤務によって時間や場所を有効に活用することが可能になった。
会議もオンライン会議が増え、家にいても会議に参加することができる。
すごい時代がきたものだ。
セキュリティ対策さえしっかりしていれば、在宅勤務はメリットしかないように思える。
しかし、忘れてはいけないのが、誰もが在宅勤務をできるわけではないということだ。
同じ会社内であっても、在宅勤務ができる部署とできない部署がある。
私は偶然、パソコンさえあれば業務ができる部署に所属しているため在宅勤務が可能だったが、そうでない部署もたくさんある。
在宅で仕事がしたくてもその環境が整わない限り、在宅勤務はできないので、当たり前のように在宅勤務の話をするのはためらわれることもある。
 
実は私は在宅勤務がそれほど好きではない。
オンとオフの切り替えが苦手だからだ。
独り暮らしのため、在宅勤務になると人と話す機会がめっきり減った。
もちろん、電話やオンラインで話すことはある。
その場合はたいてい問題が発生するなどして厄介なことが多い。
そう、目的がはっきりとしていない限り、声を発することがないのだ。
世の中でテレワークが普及しても、テレワークをする人すべてがテレワーク万歳というわけではなく、テレワークが向いている人と、そうでない人と2極化する。
私は微妙なラインかもしれない。
 
家族と一緒に暮らしていれば、家族と話すことで仕事と自分の生活に線引きができるかもしれない。
独り暮らしだとそういうわけにもいかない。
もちろん、自分が選択して暮らしているので後悔はない。
出社しているときは、会社から離れた違う場所へ戻ることで、仕事と自分の生活との線引きができていたのだが、ずっと狭い部屋で仕事をしていると、仕事から解放されても同じ部屋にいるため解放された感じがしないのだ。
私は積極的に人と話すタイプではなかったのだが、些細な会話の積み重ねが、意外と自分にとっては良い影響を与えていたことに気が付かされた。
今はメリハリをつけるため、在宅勤務が終わると、必ず外に出るようにしている。
閉じこもっていると歩かないので、無理にでも歩くことで、運動不足を解消するようにしている。
 
そして、在宅勤務が終了して歩いていたとき、ふと、花屋が目に入った。
花が欲しい、そう思った。
花をプレゼントしたことはある。
ただ、自分のために花を買ったことはあっただろうか。
部屋に花は飾ってあるが、すべて造花だ。
こんな自分が花を欲しいなんて……生きているものに飢えているのかな?
弱っていると言われたらそうかもしれない。
動物もさわりたいと思うようになり、花の香りも感じたくなった。
 
そんなことをLINEで友人と話していると、友人からこう返ってきた。
 
「さみしさみたいなのって、普段まったく気にしないのに、ある日突然自分の顔に鼻がついていたのを気づくみたいにして思い出すんだよな。もうそうなったら自分で自分の機嫌を取りに行く感じだよね」
 
まさしくそうなのだ。
さみしいなんて思ってもなかった。
コロナ禍で色んなことに制限がかかり、不要といわれるものがそぎ落とされて自分に必要なものだけが手に残ると、手元に残ったものは、人よりなんて少ないのかと思った。
不安を払拭するためとは言わないが、自分の機嫌をとるのは大事なのだ。
少し遠出をして美味しいものを食べに行ったり、本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりする。
そういったもので自分を労わってあげて、何とか生きることができる。
無気力になることもあるけれど、空っぽにならないように、ご褒美を自分という器にいれておく。
明日を生き抜くために、自分への栄養は怠ってはならないのだろう。
 
そして友人は続ける。
 
「健康で住む家もあるし、仕事も友達もいる。いくばくかの貯金もある。悩むことなんて何もないはず! と思って寝る。寝ればだいたい落ち着く……」
 
そうだ、悩んだら寝よう。
 
私たちの会話の着地点は「寝る」ということで収まった。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2022-06-06 | Posted in 週刊READING LIFE vol.172

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