週刊READING LIFE vol.182

初めて父親になったあの日の私と、あなたへ贈りたい手紙《週刊READING LIFE Vol.182 令和の「家族」像》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/08/22/公開
記事:久田一彰(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
写真やビデオに父や母はそんなに登場していなかった。めくっても見返しても、代わりに色とりどりのクレヨンのような笑顔いっぱいの私がそこにいた。
 
実家から送ってもらったアルバムをめくったり、ビデオテープをDVDにして送ってもらい見たりもした。結婚式で自分の生い立ちを振り返る時に使える写真はないものか、探している途中に色々と見てしまい、
 
「う〜ん、どれにしようか迷うな。使えそうなやつはないかな」
 
と、中々選定作業が進まないでいるのだ。最終的にはいくつかをピックアップし、なんとか結婚式で流せたので良かった。
 
改めて見ながら思い返すと、記憶にはないドッペルゲンガーのようなもう1人の私が、写真やビデオの中で生きている。福岡県にある海の中道公園で、プールを走り回ったり観覧車に乗ったり、当時の私は大はしゃぎ回っている。他にも親戚といったキャンプ場で木々の間に吊るしているブランコに乗ったり、大阪城や今はハウステンボスになっているオランダ村、でもはしゃいでいる。
 
父は休みの日になると、車を出してくれて家族で一緒に出かける。ビデオカメラを肩に担ぎ、ドキュメンタリー番組のように私の後を追ってくれていた。
 
「お〜い、こっち向いて〜!」
 
声はするけれども姿は見えないが、紛れもなく父の声だ。今は片手で持てるコンパクトなサイズだが、今見るとTV局のカメラマンじゃないかと思うほどのサイズだ。おかげで家にはビデオテープが何本もあり、そこには私と弟がたくさん映っていた。
 
昭和や平成の父親像として、家族を振り返らないモーレツ社員、24時間働けますか? なんていうCMもあったくらいだし、会社の先輩からも、
 
「家族サービスは今のうちにしておけよ。してなかったら一生言われ続けるし、一生許してもらえないぞ」
 
と、アドバイスをもらっている。
 
しかし、私の父はそうでもなかった。まあ、平日は夜遅くに帰ってきたり、私のオムツを1回しか取り替えたことがない、とは聞いていたので子育てをあまりしていないというイメージだったが、紛れもなく父が撮ってくれたおかげで、私は画面の中で動いているのだ。
 
それに、習い事の送り迎えにも父は車を出してくれていた。スイミングの大会があるときは、朝早くから会場まで送ってくれたし、そこで自分のベストタイムが更新されると、外食をしてくれたり、プレゼントには当時私が夢中になっていたガンダムのプラモデルも買ってくれた。人参をぶら下げられた馬のように、ご褒美があるから習い事を頑張ってこれた。
 
だけど、あまり車の中で生活や学校のことについての会話は思い出されない。その代わりに、父が好きでよく流していた、クラッシック音楽についての会話は記憶に残っている。車の中では、父と向かい合うテーブルのように会話をした。
 
「この楽器は何? 誰が作曲したの? 今の音はトランペットでしょう?」
 
と、私が聞くたびに父は答えてくれたし、どんな指揮者がいるのか、どんな楽団が世界にはあるのかも、めちゃくちゃ快適なネット回線のよう素早くに教えてくれた。
 
当時はカセットテープを沢山車に入れていた。市販のカセットテープでシリーズもののテープもあったが、父はお気に入りの曲をカセットテープに自分なりにアレンジして入れていた。クラシックもあるし、洋楽、オールディーズ、映画のサウンドトラックも入っていた。私も自分なりのクラッシックカセットテープを真似して作ってみたく、父からいくつか音源をもらい、ラジカセで1曲ずつ録音していった。
 
車の中で子守唄のようにクラシック音楽を聞いていたおかげで、初めてお小遣いで買ったCDもチャイコフスキーという作曲家のピアノ協奏曲が入っているものを選んでいた。
車を買い替えた後はCDもかかるようになった。
 
父親は、多くは語らないのだが、写真やビデオに残してくれて、日々の生活を一緒に過ごすだけで、今日までの私の趣味や生き方の土台になっている。
 
私が中学・高校・大学、そして社会人になっても趣味の音楽が続いているのは紛れもなく父の影響だし、中学校の部活を選ぶときも、父親が吹奏楽部を選んだ。好きなウイスキーやブランデーがあるのも、父が家で飲んでいたからこそ真似をしてみたくなったのだ。こうして「学ぶことは、真似をすることから始まる」を体現してきたようだ。父のおかげで今の自分がある。
 
では、私は今2歳の息子に何をしてあげられるだろうか? 父のような立派な父親になれるのだろうか? 家族の数だけドラマがあるので正解はないのかもしれないが、ふと悩む瞬間はある。
 
今、この時代に子育てについて迷ったとき、ネットや本を探せばいくらでも情報はある。顔も名前も知らない先輩ママ・パパさんが書いたブログ、保育士さんが書いた子供についてのアドバイス、お医者さんがTwitterで発信してくれる病気になった時の対象法、実に星の数ほどある。
 
私は福岡にいるが、妻は里帰り出産で神奈川にいた。子供が生まれる時に立ち会い出産となったが、自分ひとりではどう妻に声をかけるか、どう手術室で振る舞えばいいのか、全くわからなかった。でも、誰かが体験したことをブログにしてくれたり、記事にしてくれたりしていたので、それを読むことで、寒い日にあったかいお茶を飲むように安心した。
 
立ち会いをするときも、会社から有休をもらう時のお願いの仕方や、仕事の割り振り・すすめ方も、SNSで繋がっている仲間から教えてもらった。文字だけのやりとりではなく、zoomなどのオンラインツールを使って、1時間ほど悩みを聞いてもらったり、アドバイスを話してくれた先輩パパもいた。網のネットは、縦方向・横方向に混ざり合っている。子育てもこういった網のネットのように縦横で繋がれているからこそ、父親としてやれている。
 
かつては、地域ぐるみで、ご近所さん、両親兄弟親戚、みんなで顔を合わせてして子育てしていたというが、現代もネットを通じた仲間で子育てをしているので、社会全体で子育てをしているようなものだ。人との関係が希薄になったとか、人付き合いがなくなったといわれることもあるが、全てがそういう訳ではない。
 
家の周りを息子と散歩していると、近所の方から「おはよう」とか「大きくなったね」や「今からパパとお出かけ? いいねぇ」と声をかけてもらえる。立ち止まって最近の息子のことで話をしたり、ちょっとした近所の様子などを聞くのも、ミネラルやカルシウムのような体に必要な栄養分みたいに、いい関係を築く上では欠かせないものだ。スーパーに行くと「かわいいね。今何歳?」とご婦人からいってもらえる事もある。そういってもらえるだけでも嬉しい。
 
公園に散歩に行くと、息子より大きい子、同じような年齢の子や、小さい子もいる。初対面で他のママやパパと会話するのは何だか気恥ずかしいが、「今何歳ですか?」が、こんにちはと同じような意味を持っている。子供同士は顔を合わせた瞬間から何かしらのコミュニケーションがとられているようにも見えるし、そこから遊びが始まって会話や遊びが弾む事だってある。
 
幼稚園に送り迎えに行くと、「◯◯君のパパ、おはようございます」とも言ってもらえる。担任の先生や園長先生と話をするのも、普段の息子がどんな様子かを把握していないと、会話にならない。会社に行っている間の家での様子は、妻から聞いておく。私が会社を休みの日は、朝からご飯、オムツの交換、幼稚園の制服への着替えなどを担うので、回数をこなしていくと自然とできるようになるし、様子をよく見るようにもなる。やがては子育てができるという父親の自信にも繋がっていく。
 
こうして子育てをしていると、ゴールの見えないマラソンのように走っているが、時には力を抜くことも必要だ。そのためには一緒に遊んであげることも大事である。特に重要なことは、父親自身が楽しんで遊ぶことだ。
 
そのためには、一緒になって遊ぶ、声をかける、表情豊かに接する、ことがポイントとなる。
 
私の父のように、一緒に出かけることもしたいのだが、このご時世は外出することがはばかられる事もある。そんな時は、家の中で遊ぶこともしてあげよう。大好きな自動車や電車のおもちゃを使ってもいいし、白い画用紙に向かってお絵描きしてもいい。音の出るおもちゃでひたすらボタンを押し続けるのも遊びだ。数字やアルファベットのパズルで、うまくはまるかどうか見守るのもいい。こどもと一緒になって遊んであげよう。だってこどもの仕事は全力で遊ぶことなのだから。
 
遊んでいるうちに声もかけてあげよう。それが言葉を覚えることに繋がっていくし、父親の言うことを真似するようになり、おしゃべりが上手になってくる。簡単ではない言葉は、始めのうちは、お風呂のことをチャプチャプや、救急車をピーポーピーポーとオノマトペを交えてもいい。ゆくゆくきちんとした言葉で覚えれば問題ない。自分のこども時代のことを思い出すと、バスと言えずに「アシュ」と言っていたし、滑り台のことを「すでりばい」と「べ」を「で」と言っていたではないか。でも大人になってからはきちんとバスも滑り台も言えるようになっている。言い間違いをあえて楽しむ余裕も必要だ。
 
声をかけるときは、表情もしっかりと見せてあげよう。息子が何かできた時は、一緒にできたと拍手しながら精一杯の笑顔を見せるし、もし、叩いてきたら、「痛いよ」と悲しい顔を見せてわかってもらおう。そうすると息子は困った顔を見せるし、何度も繰り返すなら、その度に顔を歪めればいい。いずれそれがどういうことなのか分かってくれる。
 
全ては息子を信じてあげよう。子育てをしているとそう思えるようになる。たった1人の息子を、妻と2人で信じてあげよう。
 
幼稚園の他の子は、よくおしゃべりができるとか、着替えが上手にできるとか、お利口さんにしているとか、文字がわかるとか、他の子と比較しなくてもいい。ちょっと前の息子と比べてできることに注目してあげて、できるようになったことを褒めていこう。
 
これは父親に対しても同じだ。少し前の自分と比べて、できるようになった自分を褒めてあげるといい。おむつを変えるのも、手順を頭に入れてから変えていたが、今では勝手に手が動いてくる。お風呂に入れば、どうやって入れようか、どんな力加減で頭を洗えばいいか、息子が動くたびに途惑っていたが、そんなことはもう慣れていっている。まるで起きたらすぐ顔を洗って歯を磨くように、すんなりとできるようになっている。寝かしつける時も、あれだけ苦労した。
 
「ママじゃないと、寝かしつけられないよ!!」
 
と、泣き言をいって半ば諦めていたのに、今では寝室に行って絵本を読んで、一緒に布団に横になるときちんと寝てくれるようになった。ミルクを飲ませてゲップをさせるのもなかなかうまくいかなかったけど、成長としたらちゃんとスプーンやフォークを使って食べてくれるようにまでなった。
 
こうやって振り返ると、父親になれるのだろうか? 子育てをうまくできるのだろうか?と思っていた2年前の自分で作り上げた壁を、大きく乗り越えられている。
 
こうなれたのも、息子がいてくれて、妻がいろいろと子育ての情報をネットや本、Twitterなどのネットの広い海から必要なことを収集し教えてくれているからだ。あとは、その通りにやっていけばいい。会社の仕事だけでなく、家の中でも子育てでもPDC Aを回せばいい。
 
そして、帰省した時には、私の両親や妻のご両親に、大きくなった姿を見せてあげよう。いつでも見られるように、みんなのスマホにあるGoogleフォトで共有しよう。家族のアルバムもアナログとデジタルの両方を使いこなそう。画像だけでなく動画も送れるので、散歩の様子や家の中で遊んでいる様子を見てもらえる。いざとなったらオンライン帰省で、LINEのビデオ通話や、zoomを使うこともできる。
 
今ある道具をうまく使いこなすことで、さらに楽しく子育てはできるようになる。だから、あの日父親になった私へ、こうして手紙を贈りたい。そしていつかこれを目にするだろう息子へも書き残して贈る。かつて私の父が写真やビデオで記録してくれたように、私もWebを通じた文字で記録しておこう。
 
手紙も便箋で書いたものではなくて、Webの手紙を使って書くのもまた一興である。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
久田一彰(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県生まれ。駒澤大学文学部歴史学科日本史専攻卒。
幼少より父の仕事の都合で、福岡・兵庫・愛知・東京の各地を転勤。
通った小学校は4つ、中学校は2つ、高校・大学は1つ。
現在、福岡で男児の父をしつつ、2022年7月よりライターズ倶楽部へ在籍。

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2022-08-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.182

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