週刊READING LIFE vol.182

年齢差32歳の「姉妹」がうまれた背景は《週刊READING LIFE Vol.182 令和の「家族」像》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/08/22/公開
記事:西條みね子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「……」
 
テーブルの上に2つ置かれたグラスを前にして、私たちは無言であった。
 
姉夫婦と、その娘である姪と、私の4人で、レストランに入った時のことだった。姉と義兄の前には、温かいお茶の入った湯のみが置かれている。私と姪の前には、氷と水が入ったグラスだ。
2つのグラスは、私と小学生の姪が、姉妹だと判断されたことを意味していた。
その年齢差、32歳。コロナ禍でマスクをしており、目元と服装でしか判断出来ないとはいえ、まさか自分が、小学生の子どもの「姉」だと思われるとは。
 
「……ハハハ」
 
一拍おいて、誰からともなく、笑いがこぼれたあと、姉が、全員の感想を総合して言った。
 
「まあ、この4人を見て、家族関係を正確に当てよ、と言われたら、難しいかもしれないね……」

 

 

 

4つ年上の姉は、29歳の時、当時50歳の義兄と結婚した。年齢差21歳。年の差婚も大概である。
今、21歳年上の人と付き合っている、とメールをもらった当時大学生の私は内心、
「それ、どーなの……!!」
と思ったが、実際に会ってみると、大変、人柄もきちんとしており、社交性と謙虚さがほどよい塩梅で同居した、とても良い人であった。見た目は確かに「年齢を重ねた人」以外の何物でも無いのだが(ようするに若作りではない)、口元と顎のロマンスグレーの髭もあいまって、紳士的な素敵さがあったのである。
ジャズバーのマスターをしている、と聞いて、なるほど、と頷いた。見た目と職業は比例するものである。
 
両親はというと、年齢差を理由に反対、などドラマのような展開にはならず、絶大な信頼のもと、むしろ「娘をよろしくお願いします」と、姉にもうひとり保護者が出来たかのような顔を見せていた。
かくして姉と義兄はめでたく結婚に至った。
私にとっては、兄というより親戚のおじさんがひとり、増えた感覚であった。
姉妹の中で育った私は「お兄さん」というものにちょっと憧れがあったのだが、「まさか、『50歳のお義兄さん』が出来るとは思ってなかったなァ……」と思ったことを覚えている。
 
そして、10年程前に姪が誕生し、現在に至る。
 
還暦をとうに超えた義兄と、40代の姉と、私と、小学生の姪。
これが、レストランに入った顔ぶれなのだ。
 
この4人を見て、一体、この人達はどういった家族構成なのか、と瞬時に判断することは難しいだろう。
おそらく、唯一、見た目と年齢が明らかに一致する「小学生」の存在から、多分、年長の2人が両親であろう、と判断され、余った私が「姉」としてくっつけられ、「4人家族」の枠に収められたのだと推察される。

 

 

 

「間違ってはないんだけどさー、なんか、釈然としないなァ……」
 
32歳の年齢差を飛び越えて姉妹とみなされた、というのはネタとしては面白かったが、私はなんだか、もやっとしていた。
 
姉夫婦と姪が私にとって「家族」であるという点については、間違ってはいなかった。
私と姉は仲が良く、姉が結婚する前から、たびたび、姉と義兄が暮らす家に遊びに行き、時には泊まったりもしていた。おしゃべりに花を咲かす我々をほどよく放置し、義兄は時々、そっとコーヒーを出してくれたものである。
姪が生まれてからは、私も姉夫婦の傍らで、姪の成長を一緒によろこんできた。赤ちゃんの頃は、私も一緒に子育てをしているような気持ちで見守ってきたのだが、成長するにつれ、私と姪の関係は、叔母と姪というより、年の離れた友人同士に近くなった。
兄弟やいとこのいない姪にとって、最も年の近い親族である私は「親ではないが、他人でもない、ほどよい距離感にいる大人」なのである。
「家にいると、パパが『くもん』しろってうるさいからね」
歩いて10分の距離にある私の家にひとりで遊びに来ては、くつろいでYoutubeなどをみる姪を見て、私の方も、「身近な大人」として、親には話せないことを相談できたり、人生になんらかの良い影響を与えてあげられたりするような、そんな存在になれると良いなぁ、とおぼろげに思った。
 
時々、車を出して、4人で遊びに出かけることもある。
誕生日などの行事ごとは、一緒にごはんを食べる。
世間で言う「お父さんがいてお母さんがいて子供がいる」という家族とはちょっと異なるが、私にとっては、姉夫婦と姪は、家族と称してよい存在なのだ。
 
姉家族以外に忘れてはいけないのが、2匹の猫である。
1年と少し前に、コロナ禍で在宅ワークになったのをきっかけに、保護猫団体から迎え入れ、私の家族となった。自由気ままに暮らしてきた身としては、2匹の猫の甘えん坊ぶりに目を回した時期もあったが、今では猫たちは楽しく愛しい同居人だ。
猫好きな姉や姪も、私が在宅・不在時かかわらず訪れては、猫を愛でていくのがあたりまえとなった。
 
姉夫婦と、姪と、2匹の猫。これが私にとっての「家族」である。
それは間違ってはいないんだけど……。
何が、釈然としなかったのか。
私にはうすうすわかっていた。
家族扱いされたのは良いのだが、何となく「お父さんと、お母さんと、2人の子供」という枠組みにおさめられたのが、釈然としなかったのだ。
 
まあ、一般的ではないかもしれない。
でも、こういった『これまでの枠組みにおさまらない家族』とか、『ぱっと見わからないけれど、本人たちにとっては家族』というのは、少しずつ増えているのではないだろうか……。
 
総務省の統計をみると、1970年代には「両親と子供」の家族が41%を占めており、対する単身者は21%だった。それが、2020年代になると、「両親と子供」は25%になり、単身者は38%である。もはや単身者の方が多いのだ。
「単身者」という枠の中には、実際には相当のグラデーションがあると思っている。
いわゆる籍をいれているかいないか、で言うと「単身」に該当するのかも知れないが、その生活をどのように過ごしているか、で言うと、友人とくらしていたり、籍を入れずに夫婦でくらしていたり、私のように家族ぐるみの付き合いがあったり、ペットがいたり、と、そのくらし方は様々であるはずだ。
そして、そのそれぞれが、本人たちにとって「家族」なのだ。
家族、という言葉で「お父さんお母さんと子供」を指すのならば、それはあまりにもスコープが狭く、一緒にいて心地の良い人たちと支え合って生きていき、幸せを感じている「家族」は、案外、多いのではないだろうか……。

 

 

 

10年20年前なら、猫が家族です、というと世間ではハナで笑われたかも知れない。(今でも笑う人はいる気がする)
が、つい最近、思わずアッと声をあげることがあった。
 
この春、私の勤める会社は、従業員の規程を全面的に改訂した。
もともとは、コロナ禍で在宅ワークが浸透したため、働き方についての条項を改訂して、より自由な働き方を許容する会社に変えようとしたのが発端だと思う。それを、働き方以外の規定についても、よりこれからの未来を見据えたものになるよう、全面的に見直そう、と、満を持して改訂に臨んだらしい。
 
説明を聞きながら、パラパラと新規程をみていた私は、ある箇所で、思わず、
「アッ」
声が出そうになった。
 
介護・ケア休暇や、弔辞休暇の箇所に「ペットも可」の文字が加えられていたのである。
これまでは、家族つまり2親等以内の親族、に限られていた。そこに、明確にペットが加わったのである。
うちの2匹の猫のうち、1匹は猫エイズウィルスのキャリアだ。人と同じく、猫エイズも潜伏期間が長く、一生、発症しない可能性もあるが、発症したらそれなりにお世話が必要である。保護猫団体から引き取るとき、もし発症しても、家族と思ってお世話しよう、と覚悟をもってうちに迎えた。
「子供の入院で仕事を休むことは出来ても、猫が入院で休むって、やっぱアレなのかなぁ……」
いざとなれば有給でもなんでも使う所存だったが、「子供」と同様のウェイトで語るのが憚られることに、ちょっともやっとしたものを感じていた私は、「ペットも可」の文字を見つけて、素直にうれしかった。
我が家の猫たちも「家族」としてみなされたのだ。
 
アッと思った変更箇所は他にもあった。
結婚、出産祝い金がなくなったのである。
「手当」ではなく「祝い金」なので、たいした額でもなくお小遣い程度だが、入籍や出産をした人にだけもらえるお金であり、結婚しなかった人、子供に恵まれなかった人はもちろん、パートナーと籍をいれなかった人、養子縁組をした人には支給されない。
なんだか、不公平な制度だなァ……。と、ぼんやり思ってはいたものの、「お祝いごと」というのは、正面切って非難しにくい。
 
それが、なくなったのである。
そのかわり、男女ともに、育児休暇や介護休暇が手厚くなった。
 
きっと、会社として、何の制度に力を入れることが、多様な生き方をそれぞれに支援し、かつ、事業の拡大という会社の目的にも合致するのか、を考えた結果なのだろう。
「お祝い」なら個人で行えば良く、「子育て世帯への金銭的な支援」はおそらく行政の役目だ。
それよりも、会社の役目は、育児や介護など、従業員の大事な家族が手助けを必要とする場面で手を差し伸べられるようにすることであり、そのことで従業員が仕事に復帰できなくなったり、離職する羽目になったりせず、継続してキャリアを築けるようにすることだ。
そして、その「大事な家族」には、いわゆる親子供だけでなく、「ペット」のような多様な家族も含まれているのだ。
 
「……やるじゃないか、会社!」
 
規程の改定をみて、総じて、よりフラットで平等、かつ多様な生き方を認める方向に向かうよう、会社も頑張っているのだ、と感じた。
私の、型にはまらない家族も、家族である、と認めてもらったようで、素直にうれしかった。
世の中の全部が全部、このような方向に向かうには、まだちょっと時間が掛かるかも知れない。
しかし、社会は、少しずつ、多様な家族を認める方向に向かっているのだ、そう実感できた瞬間だった。

 

 

 

「家族」の枠組みは、これからもどんどん多様化していくだろう。
個人の中にある「こうあるはずだ」という意識は、少しずつ解放していく必要があるのだと思う。
 
かくいう私も、失敗したことがある。
友人(男性)の1人が結婚し、1年後に女の子が生まれた。
お祝いの品を送る際、私は何も考えず、宛名に友人の名前と並列に奥様の名前を記載した。
彼からのお礼のハガキを見てアッと思った。友人の名前の横に、奥様の名前が名字つきで書かれていたのだ。
日本では夫婦別姓はまだ認められていない。仕事名として名字を残したかったのか、理由は詳しくは聞いていないが、彼らは籍をいれない選択をしたのだ。
結婚した、と聞くと、当然のように男性の名字になるものだと思っているフィルターが、私の中にもあったのだ。
籍をいれていないかもしれないし、何なら、奥様の方の名字になっているかもしれない。一見、ごく一般的な3人家族に見える友人たちだが、「こうだろう」という思い込みで勝手に決めつけるわけにはいかないのだ。

 

 

 

家族とは何なのか。
 
それは家族の数だけ形があり、答えがあるのだと思う。
お父さんとお母さんと子供がいる、それだけが家族の象徴ではないはずだ。
一緒にいて居心地の良い人が、お互いに助け合い、支え合い、幸せを感じていられれば、それは紛れもなく家族なのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
西條みね子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

小学校時代に「永谷園」のふりかけに入っていた「浮世絵カード」を集め始め、渋い趣味の子供として子供時代を過ごす。
大人になってから日本趣味が加速。マンションの住宅をなんとか、日本建築に近づけられないか奮闘中。
趣味は盆栽。会社員です。

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2022-08-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.182

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