週刊READING LIFE vol.186

本業こそが本分、だけれども……《週刊READING LIFE Vol.186 本業と副業》


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/09/19/公開
記事:黒﨑良英(天狼院公認ライター)
 
 
「本業と副業」というテーマを出されたら、それはやはり「効果的な副業の方法」とか、「自分にあった副業の見つけ方」、などといった、副業の実施を推進する記事を書くことがベストなのだろう。
 
しかし、だ。実際問題どうだろう? あなたは副業をしているだろうか? いや、それ以前の段階でもよい。副業をしようと思っているだろうか?
 
保守的日本人、特に、終身雇用制度を生きてきた日本人にとって、そもそも副業を考えること自体が難しいのではないだろうか。
 
無論、今は21世紀で、日本人の性格や認識も変わってきている。若者は変化に柔軟だし、何より、現実問題、本業だけでは生活できない人だって出てきている。
 
そんな現代日本にあって、副業はやはり推奨されるべきことであるとは思う。
 
だが、そこに至るためには、数々の障害があることは確かだ。
特に、私などもそうだが、そもそも、公務員は副業を“禁止”されている。
 
誰かが、副業の魅力や実施に当っての手軽さを語ったとしても、
 
「いや、私は公務員で副業は禁止されているので……」
 
と言えば、この一言で全てが無に帰する。
 
なぜ、副業が禁止されているのであろうか?
一番に考えられるのは、本業に集中してほしいからであろう。
公務員ということは、相手にしているのは国民や市民である。そういった人を相手にするのだから、一切手は抜けない。
 
無論、副業をしようとする人とて、本業の手を抜くつもりは毛頭ないとは思うが、しかし、影響が出ることは必至である。というか、そう考えられている。
 
この不確実な前提のもとに、しかし、雇う側は、その不確実性を恐れる。
 
実際、私は公立学校の教員として働いているが、この仕事だけでいっぱいいっぱいである。
昨今は、教師業のブラックさが世間に知られるようになって久しい。
教員の仕事は多岐に渡り、本職であるはずの授業に力を入れられないという、本末転倒な事態も横行している。
そんな状態で「副業をしよう」なんて、口が裂けても言えない。
 
また、私の後輩は民間企業ではあるが、そこでも副業は禁止されている。
その理由は、やはり、本業に集中してほしいから、ということが大きいらしい。
そして、その分の見返りたる給金は払っている、というのだ。確かに、彼の収入は、おそらく一般的な企業のそれを大きく上回る。
 
しかし、その副業が頭に浮かぶどころではないほど、彼は仕事に忙殺されているようだ。
 
こう考えると、副業は、本業の仕事量もさることながら、心にゆとりがないと実行できないようだ。
 
それに加えて、もう一つ、イメージというものがある。
このイメージというものは、覆すのが予想以上に難しい。
副業のイメージ、それはやはり、上記のイメージである。すなわち、「副業をすると本業がおろそかになる」、そこから、「本業をないがしろにする怠け者」等といったところだろう。
 
制度自体はいつ変わるか分かったものではない。ここまで副業を推し進める声が高まると、公務員も副業可能になる未来は遠くないだろう。
だが、実際それが可能か、となると、やはり話は別だ。
忙しすぎて、それどころではない。そもそも、本業以外に考えられない。そういう状態になる。
おそらく、雇用側にとっては理想の状態なのかもしれないが……
そして再度言うが、イメージは覆すのが難しい。副業のマイナスのイメージを払拭し、多くの公務員が副業を行うことは、制度が整っていてもなかなか難しいのではないだろうか。
 
もちろん、公務員とて、副業に否定的な人だけではないだろう。
何より、収入の増加は大きな魅力だ。
 
しかし、現制度下では、とにかく副業禁止なのだから、どうしようもない。
そういった中で、我々副業禁止組は、一体副業をどう捉え、どのように関わっていけばよいのだろうか。
いや、そんなの考えられるまでもなく、禁止なのだから、頭の片隅に転がることすら許さず、一切を払拭するべきだろうか。
 
悲しいかな、ここに確たる答えを見いだすことはできない。しかし、私は、そこまで否定的にならないでもよいのではないか、と考える。
なぜなら、副業をする意味は、収入の拡大だけにとどまらないからだ。
 
これもよく言われることだが、副業、つまりもう1つの仕事を持っていると、1つの仕事がなくなったときに、生活に困らないで住む、というメリットがある。
確かに、手に職を2つ以上持っていれば、可能性は多分に広がるし、本職にもプラスになることがある。
特に教員業は引き出しを多く持つことを求められる。中には、意外な資格を持っている先生方が大勢いる。
少なくとも、その必要性が感じられていることは、確かなようだ。
 
さて、先ほど公務員は副業を禁止されている、と言った。それは本当なのだが、少し抜け穴、というか、例外がある。
それは、家業や農作物の育成である。
 
私の在住地は山梨県である。
山梨県といえば、桃やぶどうの栽培が盛んな果樹王国だ。
そこで、この地域には、兼業農家が多くなる。
若い先生方は、さすがにその限りではないが、年配の先生方となると、ほぼ100%の確率で、休日は畑仕事をしている。もちろん、収穫した果物は商品として出荷し、代金をもらっている。
 
おそらく、あまりにもそれが浸透しすぎて、確かに副業には違いないが、禁止にできる状態ではないからなのであろう。
 
私は、この伝統的とも言える山梨の一般的な公務員の働き方に、新しい副業のあり方を見る。
 
つまり、農作業などの一次産業ありきの就労形態である。
これを国や自治体が前提として考えていると、例えば、忙しい収穫期には休みが取れるとか、農閑期に仕事を集中させるとか、そういう臨機応変な就労形態が可能となる。
農繁期には都会の人にも手伝ってもらい、都会の自治体は、そのための休暇制度を設けるなどすると、かなり理想的ではあるまいか。
 
これらは、確かに私の妄想ではあるが、しかし現実に、畑が忙しすぎるので本業に支障が出ない程度で休みをとる人は、実際にいる。これに周りが理解を示せば、制度として確立できるのではないだろうか。
 
また、「6次産業化」という考え方もある。
「6次産業」とは、一次産業、すなわち、農業・漁業・畜産業に携わる人が、食品加工から流通販売にまでも業務展開する経営形態を表すものだ。一次産業から二次・三次産業までも手がけるため、このように呼称する。
 
こちらは一部の職種の公務員ということになるかもしれないが、例えば、その知識を持って園芸科の教職員を務めるとか、農業関係の課の仕事をするとか、一次産業の延長上の仕事をすることもできる。
実際、一般の中高でも、今は農業実習を含めたインターンシップは多い。
 
無論、これには社会全体の理解と協力が必須であり、副業禁止を撤廃するより難解なことであろう。
しかし、何か新しいことを考える前に、今あることを前提として、物事を進めてみるのもよいかもしれない。
 
確かに、誰も彼もが一次産業の土台をもっているわけではない。しかし、何か、あなたが持っている何かが、副業の糸口になることがあるかもしれない。
そこから考えても、よいのではないだろうか。
 
ところで、公務員の副業にはもう一つ例外がある。
それは、「本を出し、その印税をもらう」ことである。これは「表現の自由」が優先されるためらしい。
個人的には、こちらを狙いたいところであるが、果たして……
 
どのみち、副業を考え、技術や資格を身につけていくことは、本業にプラスになるとか以前に、人間性をより深いものにしてくれると思う。
 
仕事をしていると、どうしてもその業界のことしか見えず、視野が狭くなってしまう。そしてそこでの常識が一般常識になってしまい、最悪、世間とのずれが生じてしまう。
 
結果はともかく、何かを起こそう、挑戦しよう、という心持ちは、人間として持っておきたい心持ちだ。
それが副業につながらなくとも、あなたという人間をより成長させる。
 
結局、今、副業が声高に叫ばれているのは、これからの時代、より深い人間性が必要となるからではないだろうか。
世間はより混沌としてくる。
その混沌とした社会を生き抜くには、何はなくとも、自分自身の人間性を高めることが必要というわけだ。
 
あせる必要はない。
世間は副業を促すかもしれないが、別にその波に乗る必要はない。
ただ、副業を始めたい、と思う向上心は大切だ。
まったく新しいことをはじめるのも手だが、今あるものをよくよく見回して、そこに活路を見いだすことも大事だと思う。
 
未来を見据えながら、今を大切に生きる。
これこそが、副業の真髄なのではないだろうか?
 
さあ、あなたは、どこに活路を見いだすだろうか?
どうであれ、あなたがより深い人間になっていくことを、願ってやまない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
黒﨑良英(天狼院公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨の高校に勤務している。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。持病の腎臓病と向き合い、人生無理したらいかんと悟る今日この頃。好きな言葉は「大丈夫だ、問題ない」。

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2022-09-14 | Posted in 週刊READING LIFE vol.186

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