週刊READING LIFE vol.190

この本がなかったら仕事をクビになってたかもしれない話~アマギちゃんを例に~《週刊READING LIFE Vol.190 自分だけの本の読み方》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/10/24/公開
記事:陣(Jin)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私が最近買った本で「良かったなぁ~」と思った本は「もう、あばれない、かみつかない、さけばない」という本です。
 
この本の副題は”発達障害がある人たちのストレスを和らげ行動を改善するガイドブック”と書かれていました。
 
仕事で発達障害を持っている子どもと関わる仕事をしているのですが、ここ最近仕事がうまくいかないことが多くなってきました。
 
どんなに心を砕いても、どんなに話を聞いても、どんなに子どもたちのことを思って動いても全くはまらないということがありました。
 
ある子からは物を投げられ、ある子からは引っかかれ、そしてこちらの声かけに対しても全く聞く耳を持ってくれない子もいました。
 
(子どもたちは悪くない、悪いのは自分だ。だけど、どうしたら良いんだろう・・・?)
 
そして負のスパイラルにハマってしまったようで、何をしてもうまく行かず、職場の雰囲気も悪くなり、上司からは「このままではやめてもらうことも考えている」とさえ言われました。
 
何かを変えなければならない。このままじゃいけない。どうにかしなければならない。
 
そう思っているのに、何を変えれば良いのか、どうすればよいのか全くわからなくなっていました。
 
そんな時にふと寄った本屋さんで見つけた本。
 
発達障害がある子どもたちに関わる本はその殆どが親御さんに向けたものが多い中、この本は支援する側に立った本でした。
 
なかなか分厚い本で、一度買おうかどうかためらいましたが、中身を読んでみるとはっと気付かされることが多く、いつの間にか没頭して読んでしまい、何度も頭を縦に動かしていました。
 
「この本なら、私を救ってくれるかもしれない」
 
そう思いレジに向かいました。
 
店員さんから受け取り早速電車の中で読みました。
 
ページをめくる手が止まりません。
 
知りたかったことの全てがここに詰まっていました。
 
どの項目も自分自身が今抱えている問題に対して、何故うまくいかないのか、その答えを語りかけてくれるのです。
 
どの項目にも例がいくつか出てくるのですが、本を読んでいると似たような状況が浮かび、「あの状況だ!」と想像しながら読み進めることができました。
 
そしてすぐに実践できそうなものばかりだったため、つい熱中してしまい、気づいたら深夜になっていました。
 
寝不足で次の日の仕事に響いてしまっては元も子もないと思い、
「行きの電車の中で読んで、読んだところを頭に入れてその日実行してみよう!」
 
そう思い明日への充足感を感じながら寝床につきました。
 
翌朝、早速電車の中で読み始めました。
 
大体6pほど読み進められるので、丁度1項目毎に読めるかな? という長さでした。
 
早速読んだページを頭に入れて実行してみました。
 
すると、見えていなかったものが見られるようになりました。
 
何故この子はこんな行動をするのだろう。何故そんなに嫌がるのだろう。
そんな疑問が少しずつ溶けていくようでした。
 
ある日、ある子と一緒に公園に行くことになりました。
 
その子は、公園に行くと必ず帰る時にごねて、泣き出して、走って、逃げ回ったり座り込んで、しまいには、自宅に送る時間も近くなり、無理に連れて帰ろうとするとその先生を叩いたりすることもありました。
 
なので帰る間際にはなかなか公園に連れていくことが難しい子でした。
 
そこで本で読んだことを早速試してみることにしました。
 
仮にアマギちゃんとします。まず公園に出かける前に玄関で話しました。
 
「アマギちゃん。先生がタイマーつけておくから、タイマーなったら帰ろうね。できる?」
 
「うん!」
 
「じゃぁタイマーなったらどうする?」
 
「帰ります!」
 
そこまで話して公園にでかけます。
 
時間になるまで好きなように遊びました。滑り台、散策、ブランコ……
ここでは私も思いっきり遊びます! ブランコでは背中を押したり、隣でブランコを漕いで競争したりしました。
 
そろそろと思い、タイマーを見てみると残り2分。
 
「アマギちゃん。あと2分だよ~!」
 
すると「は~い!」と元気のよい返事が聞こえてきました。
 
いよいよタイマーがなります。
 
「アマギちゃ~ん!タイマーなったよ~!」
 
ブランコに乗っていたアマギちゃん。なかなか降りてきません。
 
いつもの私ならイライラし始め、声も低くなり言葉もきつくなります。以前の私であれば、もしかしたらブランコを無理に止めてまでやめさせようとしていたかもしれません。
 
ですが今日の私は一味違うのです。
 
「そうだよね~。もっと遊びたいよね~。せっかく来たんだもんね~。」
 
そんな事を言いながらどうしようかなぁと考える余裕が生まれたのです。その余裕が生まれたこと自体に驚きながらも、ふとある案が思い浮かびました。
 
その本の中には”ストローでぶくぶくするのが好きで、9回ぶくぶくしたらやめるつもりだったのに、先生が無理やり取ったから先生に手を上げた”という話があったことを思い出しました。
 
そんな風にこの子が思っていたら……
 
「じゃぁ、あと5回漕いだら終わろうか!」
 
「うん」と答えるアマギちゃん。
 
「1-! 2-! 3-! 4-! 5-!」
 
と数えますが降りてきません。
 
「5回なったよ!」
 
そう言うと
 
「あと10回!」
 
そうか、この子はあと10回で終わろうと決めていたのか……
 
そう思いながらも、タイマーは過ぎていたので、瞬時にさっきの5回と合わせて「じゃぁあと5回ね!」と声をかけてみました。
 
「いや!10回!」そう言われれば10回にしようと思っていました。
 
しかしアマギちゃんは瞬時に5+5=10という暗算ができたのかどうかはわかりませんが
「うん!」と答えてまた5つ数えました。
 
今度は逆に「5-! 4-! 3ー! 2-! 1ー! 0ー!」
 
数え終わった時に「終わりー!」と声をかけると何事か叫んでいました。
 
まだだめかな……
 
そう思っているとなんとアマギちゃん、
 
「止めて~!」と言っていたのです!
 
ブランコが足のつかない位置でくるくると巻き上げられていて、自分で降りることができなかったのです。
 
それを聞いて、あんなに帰るのを渋っていたアマギちゃんが、自分から「止めて」と言ってくるなんて……と驚きながらもブランコを止めるとすっと降りて公園を後にすることができました。
 
あまりの変貌っぷりに施設に帰る道すがら、アマギちゃんと手をつなぎながら、ちょっと泣きそうになりました。
 
そして帰ったあとも大事なことがあります。
 
たくさん褒める!
 
他の先生にも協力してもらって「時間どおり帰れたんです!」そう伝え、めちゃくちゃ褒めてもらいました。
 
その事があってからか、今までそんなに私に話しかけてこなかったアマギちゃんは、度々私に「〇〇しよう!」と誘ってくれるようになりました。最近では絵本を8冊ぶっ通しで読み聞かせをしました。
 
どうやらアマギちゃん、少し私のことを信じてみてもいいかな? と思ってくれたみたいです。
 
支援する側とされる側でとても大事なのは「信頼関係」です。
 
”身を委ねることができる環境であれば、今までできなかったこともできるようになる、子どもはできない何かしらの原因があるから行動することができない、できる環境さえあれば時間を守ったり人に手を出したりせず、穏やかに過ごすことができる。”ということがその本には書いてありました。
 
そんなある日、ゲームをしていたアマギちゃん。
 
こちらは一定の時間を決めていて、タイマーが鳴ったらやめるというルールになっていました。
 
しかしアマギちゃん、タイマーが鳴ってもやめることができません……。
 
ゲームを手渡す際に、アマギちゃんにうまく伝わっていなかったのと、残りどれ位というのがわからず、終わりに向けての心構えがうまくできていなかったようなのです。
 
残念ながら、このときの私のコンディションはあまり良くありませんでした。
 
また、周りにいた子どもたちも、「タイマーなってるのにやめないよ! やめなきゃだめだよ!」「僕が使いたいのにまだ終わらない!」という声にも後押しされてしまい、「じゃぁあと○○秒ね」という余裕さえありませんでした。
 
ついに電源をブチリっと切ってしまうという強硬手段に出てしまいました。
 
するとアマギちゃん、なんと泣き出してしまったのです。
 
もしかしたら自分で決めていた秒数があったのかもしれない、もしかしたらここまでしたら終わろうと決めていたのかもしれない……そう思うと、アマギちゃんに対して申し訳ないという気持ちでいっぱいになりました。
 
なにより、以前うまくいったことができなかった自分が腹立たしかったのです。
 
そんなことを思いながらしばらくアマギちゃんの様子を見ていました。
 
すると、アマギちゃん、しばらくすると「よいしょっと」と言って涙を拭き、座っていた椅子から降りておもちゃ箱の方に行き、自分で別の遊びに切り替えることができたのです。
 
発達障害の子たちは、切り替えがとても苦手なのです。公園から帰るときや何かの活動から別の行動に移るとき、そして何か嫌なことがあり泣き出してしまうと、なかなか気持ちの切り替えができず、30分以上泣き続けてしまう子もいます。
自分の気持ちをことばにできず、自分の気持ちを整理することができず、ものや人に当たってしまう子もいます。
 
アマギちゃんもそうで、一度泣き出してしまうとなかなか次の行動に移れません。どうしたの? と声をかけても「うるさい!」と言って、声をかけた人を叩いたり蹴ったりすることもありました。
 
ですが今日のアマギちゃんは、泣きはしたものの3分ほどで泣き止み、物や人に当たることもなく、ぬいぐるみで遊び始めました。
 
ものすごい成長です。
発達障害を持つ人は、自分の気持ちを自分でコントロールするのがとても難しいのです。自分の嫌な気持ちを発散するのに手っ取り早いのは物を投げたり、良くない言葉を言ったり、きっかけとなった人や物に手を上げたりすることです。
 
ですがそれは周りにいる人にも危険が及ぶ場合があるので、なるべくなら避けたいところです。
 
理想は、周りに危害が及ばない方法で、自分の気持ちをコントロールしていくというのが理想です。
 
それを伝えるのはとても難しいのですが、アマギちゃんはそれをスムーズに行うことができました。
 
「あの本に書かれていたことは本当に正しかったんだ……」
 
アマギちゃんの成長を見て感じました。
 
実はこの本は、海外の方が書かれた本を翻訳したものだったので、日本人である私達にも当てはまるのかと言うのが気になっていました。
 
実際にアマギちゃんや、他の子にも試していますが、もちろん状況によっては使えないものもあるですが、全体的にうまくいっている印象を受けています。
 
数日後、上司から呼ばれ、こう言われました。
 
「先生はこの仕事、合っていると思います。」
 
どうやらクビを回避することができたようです。
 
この本がなかったら……
 
もしかしたら私は今頃無職だったかもしれませんね。
 
 
 
 

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2022-10-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.190

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