週刊READING LIFE vol.190

院生のジュディに教わった、意外と便利な「飛ばし読み」の方法《週刊READING LIFE Vol.190 自分だけの本の読み方》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/10/24/公開
記事:飯田裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
仕事柄(教師)もあるが、普段は、あまり小説などは読まず(読めず)、ビジネス書や概説書、研究論文や研究書の類を読むことが多い。自分の興味に沿って探すこともあるけれど、手に取る本のほとんどが、「授業の役に立たないかな」という観点で目に留まり、その観点で素早く目を走らせてチェックして、本気で授業に役立てるつもりで、我が家の本棚に連れて来られている。本当は、小説や体験談、それにマンガも好きなのだが、これらの類のものは、飛ばし読みが難しいし、考えながら読むと時間がかかってしまう。結局、通勤電車の中などで、2~3か月ほどかけて、ゆっくり読むことになったりして、読む冊数が少ないか、敬遠してしまっている状態である。(とはいえ、先は知りたいので、あらすじだけを先にざっと読んでしまってから、間を詰めることはよくある)
 
つまり、私の読み方は、普段から、かなりの程度「ザッと読み」「飛ばし読み」になってしまっていて、小説を読む時などにも、気を付けないと、間を飛ばして読もうとしがち、という状況になっている。
 
そうなってしまったのは、いくつか理由があるだろうと思うのだが、きっかけになった出来事として思い当たるのは一つだ。学生時代に、留学した先で、英語の本をたくさん読まされた時の経験が、そうさせているのではないかと思ったりする。

 

 

 

私が留学していた先の、アメリカの大学の一年生は、理系だろうが芸術系だろうが、教養として、必ず1年間、アメリカの歴史をみっちりと勉強しなければいけなかった。おそらく、自分の国の歴史ぐらいは知っておこうよ、という先生方の願いがこもっていたのだろうと思う。どれぐらいみっちり勉強させられていたかというと、講堂に全学部の1年生が集められて、月水金の朝9時から50分間授業を受け、さらに、20人ほどに分かれての大学院生による補習授業が50分あった。その学校はクォーター制(4学期制[うち1学期は夏休みにあるので取らなくてもよく、実質3学期制])で、1学期10週間で進んだので、計算すると、アメリカの歴史の講義だけで、週200分×30週間も費やしていたことになる。
 
でも、問題は、授業を聞くだけでは済まない、というところである。A4ぐらいの大きさで幅4センチもある教科書を毎週20ページ以上読まないといけなかったし、課題本も数冊出ていて、それを読んで補習授業に出席することにもなっていた。日本語の教材を読むのだったら、まだどんなにか良かったか! でも、そんなわけはない。当たり前だけど、全部英語だった……。(ほんとはそれだけでなく、10週の間に2回レポートが出たし、別の時間に授業に関連したドキュメンタリーや映画を見るノルマもあった。ほんとに大変な授業だった)
 
この課題量、こなせる日本人留学生はたくさんいたと思うのだが、私には、けっこうつらかった。その週の教科書の関連章や課題本を、最初から順番に読んでいくのだが、当初は、途中で力尽きる(教科書を枕に寝てしまう)、という感じになり、次第に、全部は読めないで授業に出なくてはならないこともしょっちゅうになっていってしまった。アメリカの授業は、発言しないといけないので、何か言えるようにしないといけないのだが、読んでいないと何も言えない。補習授業で、読んでいないところについて質問されたらどうしよう、などと、いつも心配をするようになってしまった。

 

 

 

数回目の補習授業の時だった。とうとう、「その時」がやってきてしまった! 読んでない! 何が書いてあったかと聞かれても、感想を求められても、とにかく、読んでない! しどろもどろになっていたら、院生は、他の人にも話をふった。でも、その日は何かがおかしかった。しどろもどろだったのは、私だけではなかったのだ。そこにいた、アメリカ人の学生たちも、しどろもどろな返答をしていた。
 
「あなたたち、読んでこなかったでしょう」
 
「……」
 
みな、だまっていた。その後、数人が、なぜ課題を読んで来られなかったのか、と聞かれたが、「えーと、いろいろあって……、他の授業の課題もあるし、読みきれなくて……」などという、はっきりしない返答が続いた。誰も、はっきりとは言わなかったが、そこにいた全員が、その本を読まずに出席していたことは明らかだった。だってね、研究書1冊まるごとですよ。250ページのその本を全部読んでこられる人っているのかな。
 
院生は、とても怒っていた。誰も読んできてない! その後、院生は説教をし出したのだが、それは、短い留学生活でも一二を争う、けっこう役に立つ説教だった。
 
「あのね! 本1冊読んで来い、と言われたら、まずすることは、表紙と裏表紙、それと、表紙めくって裏側にある著者紹介や要約部分を読むことよ! 他の著者の推薦とか、何が書いてあるか、とか一通り書いてあるでしょう?
 
それからね、前書きと結論を読みなさいよ。前書きには、どんな理由でその本を書いたか、とか、どの章には何が書いてあるか、ということがかいつまんで書いてあるし、結論は、書いてきた結果何が分かったかが、簡潔にまとまっているから!
 
その後はね、それぞれの章の最初と終わりを読みなさい。章ごとのことが分かるわ。それが終わったら、それぞれの段落の後ろか前を読んでいくのよ。本てのはね。そうやって読むのよ!」
 
言われてみれば確かにそうなのだ。英文は、実に便利に出来ていて、「1段落で言いたいことは1情報」にとどめる、という決まりがある。その言いたいことは、段落でも、最初か最後に書いてあることが多くて、段落の他の部分に書いてあることは、その主張を裏付ける細かい事実だったりする。そして、その構造は、章全体にも、それを越えた本全体にも通じているということだ。院生は、授業の予習がどれだけ大変かも知っているから、英文の構造を利用した飛ばし読みの仕方を、説教という形で伝授してくれたのだった。
 
その説教の後は、本当にその通りに、まず表紙と裏表紙を読み、その後、目次と前書きを読んで本の内容を簡単に把握し、それを、箇条書きに書き留めていくようにしてみた。そうしてから、さらに読んで得た細かい情報を、間に書き込むようにしてみたら、本の内容把握だけは、ずいぶんと楽に出来るようになった。こうやって、内容を大まかに箇条書きしておいてから、必要なところをしっかり読み込むようにしてみると、先がはっきりとは見えないトンネルをやみくもに進むような感覚もなくなって、地図を手に入れてから、主体的に本の中を探検しているような感覚が持てるようになった。おかげ様で、その後、他の授業で出た読書課題にも応用できたし、無事に一応単位もいただけた。その時の院生のジュディには感謝しかない。

 

 

 

日本に帰って来てから、実は、この読み方が、日本語の本の一部、それこそ、研究書や簡単な概説書、ビジネス書、ハウツー本などにも有効であることが分かったので、今も、内容を把握して必要な情報を抜き出すという作業のためには、ありがたく利用している。
 
必要に迫られて、急いで調べなければいけなくなった時、ある程度本などを読んで情報を仕入れなければならないが、全然時間がない! そんな時に、この飛ばし読みの技術が、特に役に立っている。
 
また、最近は、読むべき本を選ぶ時もこの方法を応用していて、
①題名で手に取る。
②目次を見てざっと本の内容を確認する。(ネットの「試し読み」は、目次を飛ばしていたりするものもあり、私は、ストレスがたまる)
③奥付(本の末尾にある出版情報)で出版年を見る(情報がどれだけ新しいものかを確認)。
④奥付などで著者の経歴を見る(どんな専門家でどんな思想傾向の方なのかを確認)。
⑤まえがきをざっと読む。
⑥結論を少し読む。
⑦あったら、参考文献も見る(何を見て書いたのかで本の傾向が分かったりする)。
⑧目次で気になった章や小見出しを少し読む。
といった8項目を、順不同だが、本棚の前で行い、自分が知らない情報がどれだけ載っているかや、読みたいと思ったところがどれぐらいあるかで、家に買って帰るかを決めている。いつも手元に置いて読みたい、とか、絶版になって読めなくなると困る、とか、生徒へのスピーチやら授業で種本にしたい、ということがあれば、迷わず購入している。
 
先に書いたように、このクセがつくと、予測がつかないことにドキドキして読みたい小説などに手が出しづらくはなるので、難しいところなのだが、短い時間でたくさんの情報を仕入れなければいけない、という時には、とても役には立つので、みなさんにも、「締切に追われた時などに、ぜひ一度試してみて!」と声を大にして言いたい。
 
そして、採点と授業準備に追われる私は、いいのか悪いのか、今日も、院生のジュディに感謝しながら、バリバリに飛ばし読んでいるのである……。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
飯田裕子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年11月に、散歩をきっかけに天狼院を知り、ライティング・ライブを受講。その後、文章が上手になりたいというモチベーションだけを頼りに、目下勉強中。普段は教師。

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2022-10-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.190

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