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週刊READING LIFE vol.190

ときめき不足の方へ提案するときめきの自給自足方法《週刊READING LIFE Vol.190 自分だけの本の読み方》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/10/24/公開
記事:板井さやか(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
最近、ときめいていますか?
 
もし、ときめき不足の方がいたら、そんなあなたへときめき方法を提案したい。
もう長い間恋のドキドキを感じていない私でもしっかりときめくことができる方法である。
しかも、ときめきを感じるだけでなく、本を読むモチベーションも上がる。
しかし、この方法は極めて限定的な層の人たちにしか効かない可能性が高いので、その点はご了承いただきたい。
 
最後に彼氏がいたのが何年前だったのかはっきり思い出せない。
デートの仕方とか、人と付き合うってどんな感じかもうすっかり忘れてしまった。
そしてこの先、新しい出会いもなさそうな予感がしている。
なので、ときめきを実体験する機会が全くない。
 
でも困っていない。
私、ときめきは自給自足できるので。
 
ジェーン・スーは『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない』と書いたが、私はInstagramと本で遥か昔に忘れた恋のリハビリとひたすら待ち続けている新しい恋の準備運動、そしてときめきの補充をしている。
 
誰が作ったのか、Instagramに「Hot Dudes Reading」というアカウントがある。
そう、文字通りHot(かっこいい、セクシーな、イケてる)、Dudes(男の人)がReading(読書)している写真がひたすらアップされているアカウントである。
2022年10月現在、フォロワーは129.6万人。(サッカーの長友佑都選手やきゃりーぱみゅぱみゅとほぼ同じ)
最初の写真がアップされたのが、2015年2月、おそらくニューヨークの地下鉄で男性が新聞を読んでいるものが第1号のようだ。
最初はキャプションもアカウント所有者が想像するその男性像をすっきりと描写しているが、キャプションは回を追うごとに荒ぶり、写真に写っている男性の職業やその人と自分が一緒に過ごす方法の妄想があふれ出てきていて、それもまた私たちを楽しませてくれている。
 
写真に載っている男性はさまざまな人種で、読んでいる本のタイトルがわかるものや、おそらく隠し撮りと思われるような角度や大きさいろいろだが、全員間違いなくHotで、世の中の好みを全てカバーしているラインナップだ。
最近は写真をアップデートする前にストーリーで「この本のタイトルわかる人いますか?」という投稿もあり、もはや一歩間違えればストーカーである。
最初から一貫して、ニューヨークの電車内で読書している写真がほとんどだが、たまにビーチやカフェ、外国の電車内、はたまた軍人が装甲車の横で撮られたものもある。
 
さらに驚くなかれ、2016年4月には写真集、8月にはカレンダーも発売されているのだ!
なんたる人気ぶりだろうか。
私も陰ながら、その人気を支えているつもりでいるが、このアカウントは読書中のイケメンの写真を見せてくれるだけじゃなく、人に本を読ませる不思議な力がある。
「人が読書する姿はこんなに素敵なものなのか」
「こんな素敵な人も読んでいるんだから、やっぱり本は楽しいんだよね」
「私もこんな魅力的に読書する人になりたい」
という感情があふれ出てくるのだ。
 
特に本から少し遠ざかっているとき、目の前に本も時間もあり、読みたいという気持ちもあるのに、動くことができないとき、このアカウントは本を読むモチベーションをあげてくれる。
 
それはどの写真の人も揃って楽しそうに読書をしているからだろう。
テストの問題文を読むときのような、嫌そうな表情をしている人はひとりもおらず、その姿だけで、「自分も本を読みたい」と思わせてくれる。
そして実際に読み始めたときにはきっと自分も彼らと同じような表情をすることになるのだろう。
 
そして、Hot Dudesとの電車や本屋での出会い、夏はビーチ、冬は暖炉の前で隣同士で本を読む姿、そして出会ったときにどんな話をするかなどを妄想し始めるとやってくるのは、たまらなく幸せな時間だ。
ときめきが少しずつ補充されてくる。
 
ここである程度のときめきの準備運動はできた。
ここからが本番である。
 
ロマンティック・サスペンス(略してロマサス)というカテゴリーをご存知だろうか。
 
ロマサスの舞台と登場人物とストーリーは決まっている。
舞台はアメリカ、たまにヨーロッパ。
女性主人公は検事、デザイナー、ジャーナリストなど専門職女性で、仕事で成功している強気な女性。
主人公が恋に落ちるヒーローは、警察官、FBI捜査官、元・現エリート軍人のアルファメールたち。
アルファメール(Alpha Male)とは軍団を支配する雄、ボスのこと。
女性たちは決まって事件に巻き込まれて危険な状況に陥り、命を狙われ、その彼女たちを偶然知り合ったアルファメールヒーローが身を挺して助け、守り、事件を解決するというストーリーである。
終わりは必ずハッピーエンド。
 
ひとつの物語の中にロマンティックな恋愛の要素と事件のサスペンス要素が含まれていているので、ロマンティック・サスペンス。
サスペンス部分は本格的な殺人事件のトリックを推理するものではなく、ざっくり背後にいる悪役を見つけ出し、やっつける程度である。
最後には正義が勝ち、主人公たちが結ばれるとわかっていても、スリリングな展開と爽快なアクション、揺れ動く登場人物たちの気持ちの描写にひきつけられて読み始めると止まらない。
 
ときめき不足と感じる女性へ、私はロマサスからときめきを補うことを提案する。
 
ロマサスはファンタジーである。
本格的に探してみると世界のどこかにはこういう人もたちもいるのかもしれないが、登場人物たちがとにかく現実離れしているのだ。
アルファメールヒーローたちは恐ろしいほどに仕事ができ、リッチで、さらに恐ろしいほど強い。
彼らは銃で撃たれても死なない。
そしてとにかく主人公女性にベタ惚れである。
出会ったばかりの女性たちにそそぐ愛情はまるで自分の子どもに対するもののように強く、女性たちに警戒されるほどだが、読者としては「こんな風に大切にされてみたい!」と思わずにいられない。
女性陣は本人に非は全くないのに事件に巻き込まれてしまうある意味不運な人たちだが、自立していて、スタイルが良く、みんな美貌の持ち主だ。
みんな揃って男性陣が惚れるのも納得するほど心優しい。
そしてそれぞれのカップルは絶対にセックスの相性が抜群に良く、必ずお互いにこんなのは初めてという感想を持つのがロマサスにおける様式美である。
 
これまで恋愛小説なんて読んだことのなかった私は偶然、今年1月にロマサスを手にした。
最初は反目しあう主人公同士が過去の誤解を解いて思いを通じ合い、共通の敵を倒すために協力し始める。一度は去ったと思った危機にはさらにラスボスがいて、最後にはそのラスボスもやっつけてハッピーエンド。
供給過多と言えるほどのときめきと、ドキドキ、爽快感と幸せな気持ちを1冊で体験したのだ。
500ページもあっという間に終わってしまい、それから中毒のように9か月で54冊も読んでしまった。
ストーリーの展開をわかっていても決して飽きることがなく、これはもしかして実生活でときめきを感じ始めても変わらないのではないかとも思っている。
 
それまでの生活に潤いがなかったわけではない、かわいい洋服やインテリアを見るとワクワクしたし、ときめきだって感じていた。
しかし、それとはまた違った自分の周りの現実では起こらない状況の設定であるロマサスを読むことによって実生活で遠ざかっているときめきを感じることができた。
新しい出会いが期待できない今、私は本から十分すぎるほどのときめきを得ている。
 
しかし、ロマサスに対してもうちょっと何とかできないかと思う点が2つある。
それは、邦題と表紙だ。
映画でもよく言われることだが、英語の原題と邦題の乖離があまりにも大きい。
英語の原題は大体が名詞だけ、もしくは形容詞と名詞の2単語、長くても単語4つに対して、邦題はとてつもなく長く、複雑なのだ。
例えば、私のお気に入り作品は原題『Law Man』に対して邦題が『愛の夜明けを二人で』となっている。
同じシリーズの『Mystery Man』は『恋の予感に身を焦がして』とされた。
日本の出版社も物語の内容を考えて邦題を付けているのだろうが、なんせ覚えにくい、というか覚えられない。
なので、内容は覚えていても邦題が全く思い出せない作品が多々あるので、読み返したいと思った時にどの本が探しているものかわからなくて困ることが多々ある。
無理に日本語にしなくても、原題のままや直訳でも魅力的なタイトルになるはずだ。
 
また、表紙についてもリクエストがある。
ロマサスの表紙は、どこかの街の景色のうえにきれいな外国人女性が意味ありげに微笑んでいたり、気だるげな表情で遠くを見たりしているものが多い。
なんというか、悪くはないのだけど、何というか人前で堂々と広げられないのだ。
いけない本を読んでいるような気分になる。
実際、私は外で読むときは必ずブックカバーをかけるし、フォロワーがいないブクログでさえ非公開で登録している。
私のロマサスデビューの本は本当にたまたまかわいいイラストだったため、抵抗なく手に取ることができた。
それからストーリー展開が面白いことに気付き、怒涛の沼に落ちて、50冊以上読み続けることができているが、表紙のせいで手が出せない人、もしくは内容を勘違いしている人もいるのではないだろうかと思っている。
もし、電車のなかでHot Dudesにこれを読んでいるのを見られたら、正直恥ずかしくてたまらない。
なので、出版社様にはどうにか表紙デザインの方向転換をお願いせずにはいられないが、邦題や表紙を含めて、ロマサスなのかもしれない。
 
ときめき不足の方には、ぜひInstagramの「Hot Dudes Reading」というアカウントを見て読書モチベーションをあげた後に、ロマサスを手に取ってみてほしい。
溢れんばかりのときめきを感じることができるだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
板井さやか(週間READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2022-10-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.190

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