週刊READING LIFE vol.190

脳の老化を防ぐための読書《週刊READING LIFE Vol.190 自分だけの本の読み方》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/10/24/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「荒れる中二」
 
今から13年前、娘が中学二年生の頃、そのような表現が全国的にされていたように思う。
思春期もあってのことか、なぜか中学に入って2年生になると親や先生に反抗し授業も成立しなくなることも多かったという。
 
娘の通う、公立の中学校も例外ではなく、たびたび授業が中断されることがあった。
例え、参観日であっても、暴れる子は暴れるし、勝手に教室から出て行くし、授業を受ける態度が悪いと思われる生徒はたくさんいた。
 
給食の時間には、パンが飛び交い、時には椅子も飛んでくると娘が言っていた。
あまりにも騒がしい環境に、とうとう娘は体調を崩してしまった。
それでも、自分で中学受験を選ばずに決めた学校だから、大丈夫と言って毎日通っていた。
そんな中でも、勉強をしっかりし、運動面でも成績が良かった娘はクラス内でも一目を置かれていたようだったが、それにしても騒がしい毎日は辛かったことだろう。
 
そんな娘の中学校生活を支えてくれたのは、本だった。
娘が小学3年生の時に転校してきた小学校は、図書館が充実していて読書に力を入れている学校で、その時に本の面白さを味わうこととなったようだ。
当時、毎月10000円くらいが本代で、好きな本を買ってはそれを黙々と読んでいる子どもだった。
中学校であまりにも周りが荒れて、騒がしかった中、それでも娘は休み時間になると本を読んでいたようだ。
 
ある時、よく暴れているメンバーの一人の生徒が、娘に言ったそうだ。
 
「本の何がそんなに面白いんや?」
 
すかさず、娘は答えたそうだ。
 
「ファンタジーの世界に入れること」
 
その答えを、尋ねた男子生徒は理解が出来なかったようで、
 
「何やそれ!」
 
と言い放って、どこかへ行ってしまったらしい。
それにしても、あれだけ騒がしく、モノが飛び交う教室でよくも読書が出来たものだと感心する。
 
ちょうどその頃、私自身は夫が設立した会社を毎日手伝っていた。
夫が突然、サラリーマンを辞め、会社を作ると言い出し、もれなく私は経理や補佐でその会社を手伝うこととなったのだ。
慣れない個人起業だったが、会社の経営はありがたいことにすぐに軌道に乗り、金銭面では困ることはなかった。
ところが、元々、折り合いが悪かった夫婦の関係は、仕事を一緒にすることでさらに溝が深まっていった。
人の意見を聞かず、勝手に突っ走る夫。
周りの人間を労い、感謝するという心を持ち合わせていない夫。
私のストレスは、マックスにまで到達するくらい、今思うと良く生きていたな、生活出来ていたなと思うくらいの精神状態だった。
 
大阪にある事務所へは、私鉄と地下鉄を乗り継いで、1時間程度かかった。
その中でも、電車に乗っている30分間は、私の読書タイムだった。
当時、大好きだったのは宮本輝先生の作品だった。
宮本先生は私が住む街の近くで暮らしていた時代があったようで、その街を舞台にした作品も多かった。
知っている地名や学校が出てくることで、とても親近感がわき、より作品にのめり込むことが出来た。
そんな描写されている背景への懐かしさに加え、やはり文章表現が大好きだった。
より、私自身が情景を描きやすく、想像力を掻き立てられる瞬間がたまらなく心地良かったのだ。
その、作品の世界に入り込んでいる時だけは、イヤな現実を忘れられるのだ。
私は、数年間の通勤の時間で、ほぼ宮本先生の作品を読破してしまった。
最後には、新しい作品が出ることをいつも待っていたように思う。
 
どうやら、私たち母娘は、読書の仕方も似ているようだ。
娘は、荒れた中二時代、その騒がしい周りの環境から逃げるように本のファンタジーの世界に入り込み、その時間をやり過ごしていたのだ。
私は、結婚生活に疲れ果てていた時、その見たくない現実から逃れるように、小説の世界に浸っていたのだ。
本を、現実逃避の手段として使っていたようなものだった。
本が私たち母娘を、心の部分で支えてくれていたのだと思うと、あらためて感謝しかないな。
 
その後、娘は進学校に進み、あの中学時代は夢だったのかというような落ち着いた環境を手に入れた。
私は、夫と離婚することとなり、日々イライラしていた環境から逃れることが出来た。
 
ところが、だ。
私自身の本の読み方といったら、やはり読みなれた宮本先生の本ばかりを探していた。
読み始めると、1行目から懐かしい、読みなれた文章運びに出会える。
そうすると、いつでもまた私はその小説の世界に入り込めるのだ。
つまり、ハズレがなく、100%安心出来る世界なのだ。
それはそれでとても面白いし、読後感は最高なのだけれど、先日ある記事を読んでハッとすることがあったのだ。
 
「馴染みのラーメンばかり食べる」和田秀樹が警鐘を鳴らす40代から始まる前頭葉萎縮の初期兆候(PRESIDENT ONLINE)
ここで、精神科医の和田秀樹先生が、「脳の老化」について書かれていたのだ。
前頭葉の機能の低下は、感情のブレーキが効かなくなるという問題を起こすそうだ。
「暴走老人」と呼ぶそうだが、急に、そんなことで?と思うようなことでキレて怒り出すというものだ。
「脳の老化」と言うと、記憶障害を思い浮かべていたのだが、それよりもずいぶん前に、この前頭葉の機能の低下が起こっている人が多いという。
 
前頭葉の機能が低下してゆくと、さらには意欲低下や前例踏襲思考も目立つようになるそうだ。
特に、日本人はこの前例踏襲思考が強いというのだ。
学校では、先生が書いた黒板の内容を写し、そこから出るテストの問題を答えると好成績がもらえ、その結果の学校、就職をしてゆくこととなる。
つまり、前例踏襲思考が出来る人間が出世してゆく。
 
反対に欧米では、小学校の頃から、自分の意見を述べ、皆で議論するというスタイルで学ぶ。
そういった点からも、日本人は前頭葉を鍛える機会が少ないと言われるそうだ。
日本人は40代後半になると、この前頭葉の萎縮が目立ち始めるようだ。
それは、だんだんと行きつけのラーメン店ばかりにしか行かなくなったり、同じ著者の本しか読まなくなるという行動になってくるというのだ。
 
このことを知って、私はドキッとしたのだ。
ただ、現実逃避するために、当時の環境が辛かったので、心地良さを求めて読みなれた宮本先生の作品ばかりを読み漁っていた。
でも、そのことを続けると、どうやら私の前頭葉は鍛えられないようなのだ。
このことを書いた、精神科医の和田秀樹先生は、前頭葉は鍛えることが出来るという。
それは、行ったことのないお店に通い、読んだことのない作者の作品を読むことから始められるのだ。
前頭葉というのは、ルーティンでないことに反応するという。
例え、その挑戦が思わぬ結果となっても、実験の一つと思い、また新しいチャレンジをしてゆくことが大切だという。
さらに簡単なことは、いつもと同じ道順で駅に行くのではなく、違う道を使ってみてもいいそうだ。
安心、安定に浸っていた私は、その読書の仕方からも、どうやら脳の老化を招いて行くらしい。
だったら、これからの読書は、読んだことのない作家先生の作品や、これまで興味を持たなかったジャンルの本をパラっとめくってみることから楽しんでみようか。
 
現実逃避のための読書は、ここから先は前頭葉を鍛えるための読書へとシフトしてゆこうかと、今後の人生をさらに謳歌したいと考える私は、一人ワクワクしている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-10-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.190

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