週刊READING LIFE vol.190

せや! 曲も「本」にしてまえ!!《週刊READING LIFE Vol.190 自分だけの本の読み方》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/10/24/公開
記事:村人F (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
もはや人類全員の悩みではないだろうか?
本を読めていないのは。
私も当然すごく悩んでいる。
 
一日の読書時間はわずか30分。
30ページ程度しか進まない。
だから1冊読み切るのに2週間はかかってしまう。
それなのに本を買う量は年間20万円を超えているから全然ペースが追いついていない。
家の積本タワーも罪を感じる高さになってきた。
この具合に大抵の人は読書にコンプレックスを持っているのではないだろうか。
 
だから「本の読み方」をテーマに文章を書くことは苦痛以外の何者でもない。
出来ていない自覚があるのにどう披露すればよいのだ。
この難問に頭を抱えながらウォークマンで曲を再生しようとした時、逆転の一手が頭に浮かんだ。
 
「せや! 曲も『本』にしてまえ!!」
 
そう、J-POPなどの音楽も別に「本」と言って差し支えが無いことに気づいたのである。
最近はオーディオブックも流行っているではないか。
本も耳で聴く時代なのだ。
ならば「歌詞」という文章を歌っている曲も1つの本と捉えてよいではないか!
 
これならばコンプレックスは大幅に改善される。
なぜならウォークマンの中に入っている2200曲は、全て1度は聴いたことがあるからだ。
つまり本を2200冊読んできたと自慢できるのだ。
しかも全てを暗記している作品も100冊以上になる。
こりゃトンデモない読書家だと名乗っても差し支えないだろう。
 
そして同じように読書に悩んでいる方も本案で光が見えてくるのではないだろうか。
サブスクやYouTubeの発達で大量の作品に安価で触れ合えるのだ。
これらをカウントすればものすごい読書量になるだろう。
もはや本を読めていないなんて嘆く必要もなくなるのだ。
これは凄まじい妙案を思いついたと最初は自画自賛していた。
 
しかし考えるうちに段々と別の意識が芽生えてきた。
私たちの悩みは「本を読めていない」ことなのだろうか。
むしろ「読書をしすぎている」ことこそ本当の問題点ではないのか。
この発想に変わってきたのである。
 
その理由はウォークマンの曲リストを見返した時に気づいたからである。
タイトルから内容を思い出せない作品が大量に存在することに。
確かに買ったくらいだから1度は聴いたはずである。
しかし本当に再生したことがあるかすら思い出せない曲が、あまりにも多かったのである。
 
そしてこの悩みを持つ人は結構多いのではないだろうか。
契約しているサブスクの履歴を見返してほしい。
その中で何曲思い出せるだろうか。
ほとんど忘れている場合も多いのではなかろうか。
 
そうなる理由もよくわかる。
あまりにも曲が多すぎるからだ。
そもそも紙の「本」をなぜ読めないのか。
曲形式の「本」が多すぎるからであり、動画形式の「本」が多すぎるからである。
つまり最も労力の掛かる紙の本を読んでいる時間が無いから読めないのだ。
 
そしてこれは既に読んだ「本」に対する扱いにも悪影響をもたらしている。
大量の物をとりあえず詰め込まないといけないから個々に対する扱いも雑になってしまう。
それゆえ、もはや読んだか聴いたかすら定かではない作品も大量に生まれるのである。
よって私達は人類史上、最も読書をしすぎて悩んでいると言えよう。
 
この大問題にどう立ち向かえばいいだろうか。
そう悩んだ私が取り組んだのは振り返りだった。
ウォークマンの中に入っているサブスクを一切使わず、1曲200円の配信サービスやCDで買った大量の曲に対し、自分がどの程度理解しているか振り分けたのである。
 
ランクは次の3段階とした。
A:語りたいほど大好き
B:好き
C:思い出せない
 
この指標を元にエクセルで分類していったのである。
作業は思ったより時間がかかった。
2200曲もあるから思った以上に時間がかかる。
かれこれ1週間は作業していたように思う。
そうやって振り分けた結果、次のようになった。
A:200曲
B:800曲
C:1000曲
 
どうやら好きな曲と、よくわからない曲が半々ずつ存在しているようである。
この結果は正直、意外だった。
好きな曲が1000曲もあると思っていなかったからである。
 
だが考えてみれば当たり前だった。
購入するほど好きなのである。
その段階まで行った時点で相当な思い入れがあるに決まってる。
だからそれほど不思議なことではなかったのである。
 
また1000曲も思い出せない曲があることにショックを受けなかったのも予想外だった。
これは自分の部屋が大量の積本に溢れていることに起因しているかもしれない。
なにせ1冊1500円とかする本を1年で20万円近く買い、ほとんど読んでいないのである。
ならば曲も同じ状況だろうというのが想像できていたからだ。
それ以上に好きな曲が1000曲ある方の満足感が勝ったのも大きい。
 
実際Aランクに分類した200曲はどれも私の人格に巨大な影響を与えている。
例えば100曲近くある全て暗記するまで聴き込んだ「Sound Horizon」の楽曲は作品に本気で向き合う時の指標だ。
自宅にある中で最も優れた再生環境を用意して最低3回は再生する。
そしてライブツアーにも財布の許す限り参加し全身に染み込ませる。
このように本気で吸収する方法は彼らの作品を通して自然に身に付けた。
 
他にも「相対性理論」や「サンボマスター」、「aiko」に「Dos Monos」、「サニーデイ・サービス」そして「X JAPAN」と、Aランクになったアーティスト達からは大変な影響を受けている。
天狼院書店の『ライティング・ゼミ』で文章を書くことが多くなったが、その節々にも彼らから着想を得た韻律が確かに存在するのだ。
その意味で私の文章は本当に曲を通した「読書」で培われていると言える。
どうやら「本」と言うのは、あながち間違いではないようだ。
 
この事実はアーティストについて調べてるとより見えてくる。
星野源さんは『逃げ恥』の『恋』といった曲の印象が強いが、実はエッセイを何冊も発行するほど文章が上手い。
『よみがえる変態』に書かれたしょうもない話からくも膜下出血で倒れた時の壮絶な闘病体験のギャップは今でもトラウマになるほどの衝撃を覚えている。
 
そしてこれは他のアーティストも同じだ。
インタビューやSNSを見れば言葉が洗練されていることがよくわかる。
つまり彼らは「本」の代わりに「曲」に文章を書いているのだ。
よって、これらを噛みしめることも十分に読書と言えるだろう。
 
だが、このように作品について考え直すと結論がまた戻ってしまう。
私はやはり読書が出来ていないのだと。
 
なぜならアーティストたちに比べたら圧倒的に足りていないからである。
彼らは本棚で壁を埋め尽くしている。
そして聴いてきた曲数も数千という桁ではない。
 
さらに恐ろしいのは吸収量も圧倒的に多いことだ。
 
普段、曲を聴く時のことを思い出してほしい。
どれほどの情報を仕入れているだろうか。
おそらく大抵は「すごい」や「かっこいい」などザックリした印象で終わるだろう。
 
しかしアーティストは違う。
コード進行、韻やリズムといった構造だけでなく、なぜこの言葉をその音に乗せたのかという意図まで徹底的に喰らい尽くす。
もはやどれだけ深く調べているのか想像することすらできない。
とにかく徹底的に1作と向き合っているのである。
そして、そういった作品が膨大にあるのだ。
これはおそらく漫画や動画など、他のクリエイターにも当てはまるだろう。
このインプットがあるからこそ、私達を魅了する作品を生み出すことができたのだ。
 
ならば私も、彼らに少しでも近づけるような読み方を出来るようにしたい。
なぜならアーティスト達はインプットと同じように、作品制作も全力で取り組んでいるからである。
それなのに1%も理解できない状態で満足するのは失礼極まりないではないか。
だから可能な限りしゃぶり尽くすことこそ礼儀だろう。
 
そしてこの練習として曲は最適である。
5分以内の作品が多いから、1時間あれば12回は繰り返すことができる。
そして歌詞カードなどを見ながらそれくらい聴き込めば暗記も比較的スムーズに行える。
さらに暇な時間に思い出せば、思いがけない発見も結構な頻度で起こる。
これを日常的に繰り返すことで作品に対する理解度が飛躍的に深くなるだろう。
 
それが可能なのも、たかだか5分程度で完結してくれるからである。
短いからこそ私のような凡人でも比較的スムーズに行えるのだ。
それでいて内容は想像の何十倍も深い。
飲み会で質問されたら1時間は語り倒してしまうかもしれない。
これほどの意図をアーティストが込めているのである。
よって「曲」は最も精読の練習に最適な作品といえよう。
 
私がAランクに分類した200曲は、こういった精読を知らず知らずのうちに行っている作品だった。
だから実は既に「本」の読み方は、十分に身に付いていたのだ。
 
ならば次に行うことは、「曲」以外で実践することである。
漫画や文章、YouTubeの動画や映画。
これらに範囲を広げればよいのだ。
 
『トップガン マーベリック』も劇場で2回見ると前作との関連や表情、音楽の意図まで所見の10倍以上の情報が押し寄せてくるだろう。
漫画『ONE PIECE』も同じだ。
アプリ『ジャンプ+』で無料配信されているが、何度読み返しても新たな発見がある。
トップクリエイターはこれほどのポテンシャルを持つ作品を生み出したのだ。
 
そしてこのような読み方が出来れば、きっと世界の見え方は一変することだろう。
現代は人類史上で最も、優れた「本」に囲まれた時代なのだから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
村人F(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

名乗る名前などございません。村人のF番目で十分でございます。
秋田出身だが、茨城、立川と数年ごとに居住地が変わり、現在は名古屋在住。
読売巨人軍とSound Horizonをこよなく愛する。
IT企業に勤務。応用情報技術者試験、合格。
2022年1月から、天狼院書店ライターズ倶楽部所属。

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2022-10-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.190

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