週刊READING LIFE vol.197

「サランヘヨ」と言われて《週刊READING LIFE Vol.197 この「音」が好き!》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/12/12/公開
記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「サランヘヨ(愛しています)」
 
以前、韓国ドラマにハマって、韓流ブームにどっぷりつかっていた時があった。
その当時、お気に入りの俳優さんがいて、その方の韓国でのファンミーティングに参加した時のこと。
 
最後のお楽しみ、のツーショット写真タイムでそっと囁かれた言葉が今でも忘れられない。
これは、韓流スターによる、一つのファンサービスだと頭では理解しながらも、内心ではドキッとしている45歳の私がいた。
 
韓国ドラマ、いわゆる韓流ブームが何度か訪れているが、私は2008年、ユンソクホ監督の「春のワルツ」というドラマにハマった。
その年の5月にテレビのパチンコのコマーシャルで流れてきた、そのドラマの主題歌のほんのワンフレーズが耳に残り、そこに映る主人公の俳優さんがまるで王子様のように見えたのだ。
「ビビッときた」、という表現を一目惚れの時によく使われるが、私もその時そんな衝撃が走った
なんなんだ、この素敵な俳優さんは。
そんな衝撃を受けたのだ。
 
その「春のワルツ」というドラマは、当時、韓国ドラマ界の巨匠と呼ばれていた、ユン・ソクホ監督の「四季シリーズ」の中の春の作品だった。
ユン・ソクホ監督といえば、日本中の女性たちがときめいたあの、「冬のソナタ」も手がけた監督だ。
一大韓流ブームの立役者でもある。
あの冬ソナ、ヨン様のおかげで、当時の日本女性の更年期の症状を和らげたとも言われるくらい、素敵な韓流スターに皆が心をときめかせたのだ。
私は、冬ソナのヨン様も素敵だけれども、そこからは一足遅れてしまったが、「春のワルツ」の主役、ソ・ドヨンさんの虜となったのだ。
 
画面で見るドヨンさんは、長身で端正な顔立ちだ。
まるで、王子様のようでうっとりと見とれてしまうほどだった。
その出会いをきっかけに、韓国ドラマにハマり、それから毎日、明け方までドラマ三昧の日々を送ることとなった。
 
この韓流ドラマにハマることになって、私は初めてゆっくりと韓国語を耳にした。
韓流ドラマには、日本語の字幕がついているので、何度も観ているうちに、日常会話でよく使われている単語は少しずつ覚えていった。
 
オンマ (お母さん)
アッパ (お父さん)
オッパー (お兄さん)
オンニ (女性が呼ぶ時のお姉さん)
カムサハムニダ (ありがとう)
ミヤネヨ (ごめんなさい)
サランヘヨ (愛している)
 
特に、小さな子どもが舌ったらずの発音で、「オンマ」と呼ぶ時には、なんともいえない郷愁を誘うのだ。
あまりにも韓流ドラマにハマってしまい、とうとう韓国語の教室にも通うようにまでなっていった。
韓国語を習ってみて初めてわかったのは、韓国語の表記はハングルという文字で表すが、今から600年ほど前に朝鮮第4代国王の世宗大王が創製し公布されたそうだが、一見、記号のようにも見えるがとても覚えやすく、書きやすい。
新しく言語を学ぶ際、その文字を覚えるのがまず大変なのだが、その文字の組み立てがとてもわかりやすく、発音も日本人にも発声しやすかった。
韓国ドラマをきっかけに韓国語を学ぶようにもなっていったが、何よりもその発音がとても可愛く聞こえ、耳に心地良く残るのだ。
母国語でもないのに、異国の言語なのに、そこへ込められた感情がとてもよく伝わってくるのだ。
 
それほどまでに韓国ドラマ、春のワルツの主役、ソ・ドヨンさんにハマっていた私は、当時、ドラマのロケ地巡りと俳優とのファンミーティングというイベントが催されていて、初めての韓国へも行くこととなった。
韓国の街では、当たり前だが街中の看板、交通標識も全てハングル文字が並ぶ。
これは、韓国語を学んでいないと、どの店がレストランで、どの店がブティックなのかもさっぱりわからない。
ハングルが読めないと、ただの記号が羅列してあるようにしか見えずに不安にもなっただろう。
 
そんな初めて訪れた韓国でワクワクしながら観光もしたが、何よりのお楽しみは、初めて会う、ソ・ドヨンさんだ。
「ロケ地巡りとファンミーティング」というイベントは、本当に良く出来ている。
ドラマファンならば、何度も見た劇中のシーンで使われたお店や街並み。
そこに実際に行けるのは、至福の経験だ。
 
「あのシーンで出て来たお店だ!」
 
「あの二人が思いを打ち明け合った湖だ!」
 
40代のおばさまたちは、まるで生娘のようにキャーキャーと騒いでいる。
本当に、更年期障害も吹っ飛ぶのもわかるような気がする。
きっと、このときめきの体験は、体中から名前は知らないけれど、良いエナジーが湧き出ていると信じられるような気がした。
 
そして、そんなおばさまたちの興奮が絶頂を迎えるのが、ファンミーティングだ。
多くのファンミーティングでは、主役のソ・ドヨンさんに質問をしたり、ドラマの裏話を聞いたり、普段の本人の人となりに触れることが出来る。
 
そして、最大のお楽しみが、ツーショット撮影会だ。
参加者が順番に舞台に上がり、ソ・ドヨンさんの隣に座り、まるで恋人のような写真を撮ってもらえるのだ。
今考えると、思いっ切り恥ずかしい光景なのだが、当時、ソ・ドヨンさんにぞっこんで、韓流ドラマにどっぷりとハマっていたので、このツーショット撮影会の瞬間は、私は5歳は若返るほどの興奮状態の中にいた。
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そして、いよいよ私の順番になって、初めてソ・ドヨンさんを至近距離で見ることとなった。
ああ、端正な顔立ちは、近くで見るとさらにきれいじゃないか。
あのドラマの中のシーンが思い浮かんできて、さらに興奮状態に陥る。
そして、会場の何十人のファンとツーショットを撮り、何度も同じポーズをしているにもかかわらず、笑顔で迎えてくれた。
隣に座ってカメラにポーズを決めた時、「サランヘヨ」と、言葉をかけてくれた。
 
「サランヘヨ(愛しています)」って!!
いやいや、これは彼がファンミーティングに参加しているファンに対する、最上級の感謝の言葉だったんだろう。
でも、なんて素敵な響きなんだろう。
韓国ドラマ、恋愛ストーリーでは、もう何度も聞いたことのある「サランヘヨ」
 
でも、あの5月のある日、突然テレビに現れ、私の心をわしづかみにした、ソ・ドヨンさんに直接「サランヘヨ」と言われた時には、もう天にも昇るような気持ちだった。
しかも、甘いマスクとギャップのある、少し低音で響く「サランヘヨ」
その時の音の響きが、いまだに綿私の耳に残っている。
 
「サランヘヨ」というソ・ドヨンさんからの言葉に対して、私は本当は習いたての韓国語で伝えたい言葉を考えてきていたのに、それらは一気に飛んでしまって、私が振り絞るように言えたのは、「カムサハムニダ(ありがとう)」だけだった。
そうすると、またソ・ドヨンさんも、「カムサハムニダ」と返してくれた。
ああ、韓国語の響きはなんて優しく、素敵なんだろう。
 
あれから15年ほどが経つけれど、まだ私の心には、低音で素敵な響きのソ・ドヨンさんの「サランヘヨ」が残っている。
 
実際に大好きなソ・ドヨンさんに会って、その姿形を記憶しているつもりだ。
でも、不思議なことに一番強く残っている記憶が、言葉の響きなのだ。
あの日、あの時、私に囁いてくれた「サランヘヨ」という言葉の音。
きっといつまでも忘れることはないだろう。
 
ソ・ドヨンさん、韓流ドラマでずいぶんと元気をもらいました、サランヘヨ。
人生において、キラキラと輝く時間を与えてくれて、本当にありがとう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2022-12-07 | Posted in 週刊READING LIFE vol.197

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