「弱み」が「強み」に変わる!自分なりのキャリアの築き方《週刊READING LIFE Vol.199 あなたの話を聞かせて》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2022/12/26/公開
記事:深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
今の仕事は嫌いではないけれど、自分には向いていないかも――。組織で働いていると、必ずしも自分の希望通りの仕事ができるとは限らない。そもそも、自分は何が得意なのか、どんな仕事が好きなのか分からないという人も多い。
IT企業の総務部門で採用、新人育成などの仕事をしている久美子さんは、もともとはエンジニアとしてキャリアを積んできた。でも、他の同僚と同じようには仕事に取り組めない自分にコンプレックスを感じていた。同僚たちはひとりでコツコツと担当する仕事を進め、不具合が発生すると原因を見つけるまで粘り強く追求する。でも、久美子さんはそういう仕事の進め方が得意ではなかった。同僚のように自分ひとりで粘り強く仕事を進めていけないことを自分の「弱み」だと感じていた。
ところが、育休明けの時短勤務で働き方が変わったことをきっかけに、その「弱み」が「強み」になることに気づいた。今は自分の「強み」を仕事に生かすことで、仕事にやりがいを感じているという。久美子さんはどのように「弱み」を「強み」に変えていったのか。久美子さんの道のりをインタビューした。
1.働き方の変化で気づいたことは「人と関わることが好き」ということだった
「私はひとつのプロジェクトでコツコツとやるよりも、社内の色々な人と関わりながら仕事を進めていく方が好きかもしれない」
一人目の子どもを出産し、育休から復帰して時短勤務を続けていた久美子さんは、ふとそんな風に思った。
ITエンジニアの仕事は、プロジェクト毎にシステムの設計・開発、テスト、納品といった一連の仕事に最初から最後までどっぷりつかり、プログラミングやテスト、問題解決などを行う。
ところが、時短勤務になると今までと同じようにはいかない。自分の居ない時間にもプロジェクトは動いているため、何がどこまで進んでいるのか状況を把握しづらい。さらに、子どもの発熱などで突然仕事を休まなければならないこともある。久美子さんは毎日帰宅前に、「ここまではできています」と進捗を報告するなど、周りに迷惑をかけないように気を付けた。
「独身の頃、一緒に働いていた育児中の先輩から、久美子さんは好きなだけ残業できるからいいねと言われたことがありました。当時の私には、好きなだけ働きたいだなんて、意味が分かりませんでした。その人はとても仕事の好きな先輩で、何か不具合が出ると何とか原因を見つけようとしていた人でした。でも時間がくると帰らなければならない。そんなときに言われた言葉だったんです。でも、自分が同じ立場になってみて、やり残しがあっても帰らないといけない不完全燃焼のような気持ち、後ろ髪を引かれる思いというのが分かりました」
職場の人たちは「子どもが小さいうちは、仕方がないよ」と理解し、協力してくれたが、久美子さんは「できる仕事が減っているのが悔しい」と思っていた。
時短勤務の久美子さんに対して、会社は「最初は無理のないように」と、久美子さんの働き方を変えた。これまでのようにひとつのプロジェクトで最初から最後まで関わる働き方ではなく、社内で複数動いているプロジェクトで手の足りない仕事へスポット的に入って手伝う仕事だ。
「例えば、あるプロジェクトでテストをする人が足りないときには、今週はそのプロジェクトでテストをし、そこが落ち着いたら次の週は別のプロジェクトのパソコンの設定をするというような仕事の仕方です」
社内の色々なプロジェクトで、そこにいる色々な社員と話をして仕事を進めていくうちに、久美子さんは「私はひとつのプロジェクトで、ここからここまでをいつまでにと一人でコツコツと仕事をするより、こういう色々な人と会話をしながら仕事を進める方が好きかもしれない」と感じた。
「新人研修の仕事に関わらせてもらったとき、新入社員と一緒にプログラムをつくったことがありました。そのとき、この子はこういうのが得意そうだ、こういう力はこれからつけていくといいねと研修担当の人と話したりするのが楽しいと感じていました」
そんな久美子さんに転機がやってくる。5年前、二人目の子どもの育休から復帰するときだった。
2.弱みだと思っていたことが強みだと気づく
二人目の子どもの育休から復帰するとき、上司との面談で久美子さんは「色々な人と関わる仕事の方が好きかもしれない」という自分の気持ちを伝えた。
すると、「ちょうど総務の人員を補強しようとしていたところだから、総務の仕事をやってみる?」と言われた。
「私が人と話をするのが好きだというので、会社は新卒のガイダンスや企業説明会などのイベント対応を期待したのかもしれません」
久美子さんは、人のちょっとした変化にもよく気がつくタイプだった。「この人は最近、ちょっと元気がないんじゃないか」というのを無意識に見て感じ取ることができる。そういうことが自然にできてしまう久美子さんの能力を採用に生かせると会社は判断していた。
「他人に関心がないと、採用はできないから」と上司は言ってくれた。
総務に異動し、採用、新人育成などの仕事をしていく中で、久美子さんは自分に対する見方が変わった。
「私はエンジニアとして仕事をしていた頃は、ひとつのことに集中してやり遂げることが苦手でした。つい、周りが気になってしまう。そういうところが自分の弱点だと思っていました。プログラミングの仕事をしているとき、周りの皆は問題があると、自分でとことん調べて原因を見つけ出していました。しかもそれが楽しそうなんです。でも私はそこまでできない。私は専門家じゃないと思っていました」
採用の仕事をするようになったとき、先輩から「はじめは他人を見る目を養うのが大事」と言われ、適性検査や性格診断などについて学んだ。そこで久美子さんはまず、自分について診断をしてみた。
「最初、自己診断の結果を見るのが本当に嫌でした。私は、多角的・論理的に物事を追求する力が弱い、世話好きで困っている人を助ける、自由に動くタイプと出たのです。私は論理的、計画的でありたいと思っていたのに、真逆の結果が出て嫌だなと思いました」
でも、採用の仕事で色々な学生と接する中で、皆それぞれの考え方があり、社員を見ても同じで、色々な考え方があった。「この考え方が絶対にいい」と思うことはなく、「皆それぞれの考え方がある」と受け止めることができた。
「そうしたら、私自身も今の自分でやれることがあると気づけました。それに、今まで自分が弱みだと思っていたことは、今の仕事では強みになると気づいて、肩の力が抜けました」
3.仕事の時間を充実させることで自分の人生も充実させる
今、久美子さんは採用の仕事にやりがいを感じている。
「インターンシップで来た学生十数名と一緒に仕事をしながら、この子はこれが得意そうだなとか、この子はここでつまずいているなとか、この子はうちの会社に合っているかもと観察し、その子に合った声かけをしています。そうした関わり方をした結果、うちの会社に入社したいと言ってもらえて、実際に内定が出るところを何度か見ました。そういうときは、やりがいとか達成感を感じます」
「久美子さんのおかげで、安心して入社することができた」「久美子さんがよく面倒をみてくれたのが嬉しかった」と学生から直接お礼を言われることもある。そうした学生が、入社して一緒に働く仲間になるところに立ち会える喜びは格別だ。
しかし、「課題もある」と久美子さんは言う。
「プログラミングの仕事は、決められたところを決められた通りに進めれば、確実に進んでいきました。でも、採用や業務改善という今の仕事は、自分がこうしたいと思うだけでは進みません。上司や社長が承認してくれなければ、前に進みません。時短勤務でも成果は出したい。でも、何度提案しても、なかなかOKをもらえません。筋道を立てて説明する力が弱い自分を責めても仕方がないので、学びで補強しようと思いました」
今まで自分が感じていた「弱み」は、仕事の内容が変わって「強み」になった。でも一方で、「弱み」は「弱み」として存在する。久美子さんは、今の仕事を進めやすくするために、自分の弱みを補う武器になればと、名古屋市内で開催される講座を受講することにした。
「その講座は土曜日の朝から夕方まで1日がかりでしたから、夫にお願いして子どもを預けて家を出ました。朝9時過ぎに名古屋の会場に着いたときには、それだけで感激しました。今から考えると私の勝手な思い込みでしたが、小さな子どものいるお母さんが一日中家を空けて自分のために時間とお金を使うなんて、とてもすごいことをしているように感じました」
久美子さんはこれからも学びは続けていきたいと考えているが、休日は子どもの行事も増えている。自分のやりたいことに使う時間と子どもと過ごす時間をどう両立するのか模索中だ。さらに、来年二人目の子どもが小学校に上がると仕事はフルタイムに戻らなければならない。一方で上の子どもは小学4年生になり、地域の学童施設に通えなくなる。
子どもには寂しい思いをさせたくないし、自分のキャリアも諦めたくない。「フルタイムから短時間勤務へと働き方を変える」「働き方を変えずに両立する方法を探す」「さらに多様な働き方ができるように会社に働きかける」など、選択肢はいくつかある。まだ答えは出ていないが、ひとつだけ決めているのは「仕事は続けていく」ということだ。
「私にとって、仕事でしか会えない人との出会いは大切だからです。そういう出会いを通じて新しい世界を見たいし、後に続く人たちにも見せていきたい。先日、インターンシップで私と同期のプロの技術者に研修のサポートしてもらった時のことです。プロの技術者も学生と同じ仕様書でプログラムを組んで、互いに発表しました。そうすると、プログラミングの結果は同じでも、プロは説明の仕方や段取りが全然違うのが分かります。それを、技術者の卵である学生がみて、すごいですねって感動しているんです。プロの技術者の方も、こういうときはこう書いた方がお客様に対して親切だからと学生たちに嬉しそうに説明していました。その様子を、学生たちは尊敬の眼差しで見ていたんです」
その光景を見て、この「場」をつくった久美子さんは「私はこんなすごい感動の瞬間をつくれたんだ」と思いながら、技術者と学生の両方の顔を遠巻きに見ていた。
「良い仕事をしたなと思って……」と久美子さんは、ちょっぴり誇らしげに満面の笑みで語ってくれた。
この先に様々な制約があったとしても、久美子さんは人を巻き込み、足りないところは周りの人と補い合いながら乗り越えていくだろう。それが久美子さんの「強み」だからだ。そして、そんな久美子さんにこそ、多くの若者に「仕事の楽しさ」を伝えてほしいと私は思う。
□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部公認ライター)
愛知県出身。
国内及び海外電機メーカーで20年以上、技術者として勤務。2020年に独立後は、「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、取材や執筆活動を行っている。現在WEB READING LIFEで「環境カウンセラーと行く! ものづくりの歴史と現場を訪ねる旅」を連載中。天狼院メディアグランプリ42nd Season、44th Season、49th Season総合優勝。
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