週刊READING LIFE vol.199

子どもの偏食と17年間つきあい続けてたどりついた親子の付き合い方《週刊READING LIFE Vol.199 あなたの話を聞かせて》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2022/12/26/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
17歳の息子さんの発達障害(ASD)と向き合い続ける小東真由美さん。偏食は生まれた時からあったといい、子どものために悩み学びながら、少しでも食べられる方法を模索してきました。2年前に取得した鉄ミネラルアドバイザーの学びを実践する中で、息子さんとの付き合い方が大きく変わったそう。また、息子さんがいたからこそ自分も変われたと言います。2人はどう変わったのでしょうか。自分の学びを発達に凹凸を抱えるお子さんを持つ多くのお母さん達に伝えていきたい―そんな思いを伺いました。
 
 

発達障害の子の偏食は「食べるための環境づくり」から


一般的な偏食は、「食べ物の好き嫌い」をイメージされると思いますが、息子の場合はそれだけではないのです。まず、音がうるさかったら、食卓につくこともできません。電灯も蛍光灯はダメで白熱球だし、カトラリーは金属が使えないので、木かプラスチックです。食べ物を食べるために、環境を整えないといけない。発達障害の子どもの中には、そういう環境要因で食事ができない場合があります。息子はまさにそういう子で生まれた時から既に偏食でした。どれがよくて、どれがダメなのか……わかるまでの試行錯誤はとても大変でした。発達障害のことを知るために、5つも療育センターに通い、実験したり、教えてもらったりしながら、環境を整えるためにありとあらゆることを試しました。それでも食べてもらえなくてとても苦しかったです。そんな状態だから、お通じもよくなくて、毎日3時間、長い時には5時間も、ずっとトイレに籠りっぱなしで、学校にもいけなかったり、せっかくの旅行をドタキャンしたり、普通の生活は夢のまた夢でした。食べ物を食べないから出ないんだ、ということが分かっていたので、無理やり口をこじ開けてご飯を押し込んだこともあります。そのせいで、彼からの信用を失いました。自分もそんなことはやりたくなかったのに、息子の信頼を失ってその反動が来るというのを何度も体験しました。とても苦しかった。
 
食べられないから成長も遅くて、小4の頃だったでしょうか、学校の先生から、成長ホルモンが出ていないんじゃないか、という指摘を受けて調べたことがあります。病院の先生に相談したところ、その可能性があるから、ホルモン注射をしてみようかと提案されました。悩みましたがやりませんでした。彼には合っていないと判断したからです。必要な注射ですら、ベッドに寝かせて拘束しないと打てないので、ホルモン注射を毎日打つなんていうことは想像もできませんでした。それが医療機関への不信につながって、肝心な時に医者を拒否するということがあったらそちらの方が困ってしまいます。
 
そんな状態でしたので、中3の時には体重が30キロなくて、学校に行くための体力すらなく、不登校になりました。どうにかしなければと、ありとあらゆるところに相談しました。特殊な検査を受けてサプリメントを飲むという民間の療法を試したこともあります。それは効果があって、どうにか生活できるところまで元気になりましたが、かなりの出費だったので長く続けるのは難しかったんです。それで、他になにかできることがないだろうか、と探していたところ、一般社団法人鉄ミネラルの先生のお話を聞きました。発達障害には、鉄を中心にしたミネラル不足が関わっている。栄養不足を食生活で解消することで元気な身体を取り戻すという内容が腑に落ちて、テキストを取り寄せて、試してみました。
 
 

自分も栄養不足だったということを自覚した


鉄ミネラルの食生活をまず、私が試してみました。息子にいきなりさせるのは怖いと思ったからです。そうしたら、ものの見事に自分が体調を崩しました。あとで勉強すると、そのやり方だと体調を崩す可能性があるということがわかりました。
 
結局、私自身もひどい鉄不足で、鉄ミネラルの食生活が必要だったのです。思い返せば中学・高校時代は昇圧剤を飲んでいました。今では起立性調節障害という病名がついていますが、当時はそんな名前はなく、原因不明でしたね。出産時も自然分娩でしたが、輸血寸前と言われるくらいの出血量で、しばらく起き上がれないような状態でした。生理痛もひどかったです。でも、体調の良い時代なんか知らないから、その状態が自分の当たり前、ごく普通の状態だと思っていました。この体調は付き合っていかなければいけないもの、解決するなんて思ってもみませんでした。
 
改めて、アドバイザーになるための勉強をして、少しずつ鉄ミネラルの食生活のやり方を実践し始めました。そうしたら、私の体調が整っていく実感がありました。でも、息子に鉄ミネラルの食生活を実践していくためには、まだ超えないといけないハードルがありました。
 
 

信頼関係があってこそ


鉄ミネラルの食生活を学んで実践すると、私も、私の夫も体調が整うようになりました。だからといって、すぐに息子の食生活を変えるわけにはいかなかったのです。息子の偏食は、急激な変化を嫌います。例えば、お豆腐ひとつとってもメーカーを変えるだけですぐに気づかれてしまいます。鉄ミネラルの食生活が身体にいいからすぐに取り入れましょう、って言って取り入れてくれる子だったらこんなに悩んだり苦労したりしないんです。
 
鉄ミネラルの食生活は、タンパク質と鉄、ビタミンを意識して食生活に取り入れていきます。タンパク質を効率よく摂るために、骨を煮込んだボーンブロスというスープを作って飲みます。そのボーンブロスをお味噌汁のおだしの代わりに使ってみようと試したら、見事に大失敗でした。ボーンブロスの油分が浮いているのが気に入らなかったようです。厚揚げやお揚げさんを具材にしたら、具材から出た油だと納得してもらえたかもしれないのに後の祭りでした。また、鉄ミネラルの食生活で使う鉄分摂取の方法も見た目で拒否されてしまいました。拒否されたものを再び出すことはできず挫折しました。
 
無理やり食べさせるというのも一つの手ではあります。でも、良かれと思って親がやっているという気持ちは、彼には届きづらいんです。多少は無理もきくかもしれないけれど、それ以上に、彼の私に対する信頼感が失われてしまう方が怖いのです。これまでにも何度もウソつき呼ばわりされて、傷つきながら彼との適切な距離感をはかってきました。極力誠実に対応すること、なるべく彼の意志を尊重すること、彼が嫌なことはしないようにすること。彼の気持ちをじっくりと汲み取ることが、私達の親子の信頼関係を積み重ねて行くコツです。
 
そうは言いながらも、どうしても鉄ミネラルの食生活を取り入れたいとありとあらゆるおかずで試してみました。そうしたら、炊き込みご飯に一緒に炊き込んだり、肉じゃがのお出汁やカレーのベースに使ったりすると食べてくれることがわかりました。もうそれだけで、とても安心しました。とにかく、食べてもらうことができた。それが、母親としての喜びなんだ、ということに気づきました。日々の生活の中で、子どもから自分が作ったものを拒否されるのってすごくつらいことだったんだ、ということに気づきました。ただ、食べてもらえるのが嬉しい。何品か食べてもらうことができたら、それを作る時に鉄ミネラルの食生活が使える。ようやくスタートラインに立てた気がしました。
 
 

偏食がほんの少しだけ緩んだのを感じた時の感動は格別


鉄ミネラルの食生活を取り入れられる品数が少しずつ増えたある時、息子の偏食がほんの少しだけ緩んだことに気が付いたのです。それは、私にしかわからないような本当にささやかな変化でしたが、それが本当に嬉しかった。いつもとは少し色が違うご飯を見ても、「今日は天気のせいかな? 色が違って見えるけど」と言いながら食べてくれて、拒否されなかった時には、心底嬉しかったのです。
 
最近では、食材は彼の好みを尊重し、調味料やスープベースは鉄ミネラルの食生活を取り入れながら、彼には黙っておく部分として使い分けています。以前は、「この食材は、今日は食べたくない」と拒否されると、いちいち落ち込んでいたんです。でも、考えてみれば、大人だって、日によって食べたくない食材はありますよね。食材を選んでもらって、それ調理するときに鉄ミネラルのやり方を使う。その部分をまだ本人にオープンにしていないのは心苦しい部分ではありますが、いずれ段階を追って伝えて行きたいと思っています。
 
 

劇的改善を望まず、ダメもとでゆるくやってみてほしい


私の元には、同じような偏食の悩みを抱えたお母さん方が話を聞きに来てくださいます。最近では、栄養を満たすことが発達障害の子どもに有効だという話も広がってきているので、栄養のことを勉強されてきている方が多いです。実際に、サプリメントやタンパク質補給のためにプロテインを取り入れている方もいらっしゃいます。鉄ミネラルの食生活はとても有効だと思っていますが、「コレさえやっていれば大丈夫」というような過度な期待は持ってほしくなくて、いつもどうやって伝えようかと悩みながらお話をしています。
 
子ども達にはそれぞれに特性があるので、私が息子との信頼関係を築いていくのに苦労したように、ご家庭にはご家庭のやり取りがあります。子どもさんがどの程度受け入れてくれるのかというのは、親子関係の中で探っていくしかないのです。それは理解してあげられるけど、試行錯誤をしなければいけないのは、親御さんなのです。
 
だから、無理せずにやって下さいねってお伝えしています。すごく頑張って、子どもに受け入れてもらえなかったら、お母さんが傷ついて立ち直れなくなってしまいますから。試しに作った一品が食べてもらえた、じゃあ、次にはこれにトライしてみよう、こっちもやってみよう、と少しずつ試してできたことを、まず自分が喜んでほしいなと思います。そして、その積み重ねを経てできそうだと判断した時に鉄ミネラルの食生活を始められたらいいかなと思うんです。
 
彼に鉄ミネラルの食生活を渡してあげたい
彼の偏食は、残念ながらドラマのように解決したりはしないと思っています。これからも、信頼関係が崩れたり、立て直したりしながら試行錯誤は続くでしょう。それでも、ほんの少しずつの変化を喜んでいきたい。ほんの少し受け入れることができた息子を喜び、息子の反応に以前ほど一喜一憂せず受け入れられるようになった自分を褒めてあげたい。
 
最終的な目標は、彼が、自分の意志で選んで鉄ミネラルの食生活を取り入れてくれることです。彼がストレスなく、栄養をきちんと取れる方法として、鉄ミネラルのことを教えてあげたい。親の私がいなくなっても、鉄ミネラルの食生活を渡してあげられたら少し安心できるかな。でも、まだまだ道半ばです。
 
これからも、日々の彼との食生活に向き合い続けます。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)

2022年は“背中を押す人”やっています。人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、愛が循環する経済の在り方を追究している。2020年8月より天狼院で文章修行を開始。腹の底から湧き上がる黒い想いと泣き方と美味しいご飯の描写にこだわっている。人生のガーターにハマった時にふっと緩むようなエッセイと小説を目指しています。月1で『マンションの1室で簡単にできる! 1時間で仕込む保存食作り』を連載中。天狼院メディアグランプリ47th season & 50th season総合優勝。

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2022-12-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.199

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