週刊READING LIFE vol.202

結城紬の町と、新たなチャレンジとの共存が生み出すもの。茨城県結城市が目指す町おこしの未来とは《週刊READING LIFE Vol.202》


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2023/1/30/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
鎌倉時代より城下町として栄えた茨城県結城市。国の重要無形文化財に指定された、名産品の結城紬(つむぎ)でも知られている。
 
茨城県と栃木県の県境に位置し、都心からも在来線で90分、新幹線を使うと1時間とアクセスしやすい結城にも人口減少や高齢化の波が押し寄せており、改めて地方創生の動きが盛んになっている。結城市が辿った町おこしについて、結城市企画政策課・広瀬愛さんにお話を伺った。
 
 

いにしえからの交通の要衝・結城の現状とは

 
——広瀬さんの結城市でのお仕事について、簡単にお聞かせください。
 
広瀬:結城市役所に入職して13年目で、2022年4月から結城市の企画政策課で勤務しています。結城市の地方創生、移住・定住を促進する仕事がメインです。出身は結城市の隣の筑西市ですが、実際仕事で結城市に関わってみるとそこで新たに知ることや得たものも多くて、今では結城の方が地元みたいですね。
 
 

広瀬 愛 (Megumi Hirose) 氏 結城市企画財務部企画政策課主幹 / 茨城県筑西市出身。2010年結城市役所入職後、2022年4月より現職。
 
——広瀬さんから見た結城市は、どんなところですか。
 
広瀬:結城は新幹線が停車する小山から在来線で2駅なので、説明するときは「小山の隣」と言っています。実際都心まで通勤する人も多く、首都圏からはアクセスしやすいです。鬼怒川がそばにあり、昔から人の往来が盛んな土地柄でした。
 
結城は昔ながらの城下町の名残を残している北部市街地、駅南部の新興住宅地、農業中心の南部田園地域の3つに大きく分かれていて、それぞれ雰囲気があります。
地方都市の勢いが衰えているといわれて久しいですが、結城も例外ではありません。駅から北へ10分ほど歩くと歴史的な景観が残っている通りに着きますが、シャッターが下りている住居兼空き店舗が多いです。
 
以前から住んでいる人たちは高齢化が進む一方、若い人たちは一様に「町がさびしい」「遊ぶところがない」と言います。大人には魅力的な静かな町も、高校生や学生さんだと少し物足りないのかもしれませんが、結城は駅周りが静かで生活圏としてもコンパクトで、よく言えば「無理をしすぎていない町」なのです。
 
近隣市町と合併していないため自治体としての町のエリアも広すぎず、その分、いい意味での田舎らしさや、行政面でも顔の見える関係とかが残っています。最近では働き方が変わってきたことに合わせ、テレワークをしながら暮らす場所として結城を選ぶ人も現れてきました。大きすぎない町ゆえの利点はあるし、そういう雰囲気がお好きな人には向いている所ではないでしょうか。
 

産業と伝統の狭間で生き残りを賭ける結城紬

——結城といえばまず結城紬が浮かびますが、結城市の産業の主力なのでしょうか。
 
広瀬:結城の特産である結城紬は、古くは奈良時代から記録がある織物です。2010(平成22)年にユネスコの無形文化遺産に登録されましたので、結城の名前を聞くこともあったかと思います。
 
結城駅前には市民情報センター、観光案内所があり、結城紬をその場で着る体験もできます。紬は豪華絢爛ではないけど日常的に着るものなので、そういった世界が好きな方にはとても響くのでしょうね。結城紬の生地自体は高級なので、古着を作務衣にリメイクして普段着にするなど、手軽に楽しむ人もいます。
 
しかしながら産業としての結城紬は着物離れの背景もあり、衰退の一途をたどっています。最盛期に織られた反物は年間約30,000でしたが、今は1,000を切っています。後継者不足などで、かつては十数件あった結城紬の問屋は今や半減しました。
 
結城紬は観光の目玉であることは間違いないのですが、着物と普段から関わりがある人は全体からすると限られてきます。どうしても市全体として関わるというよりは、興味のある方々が中心に関わっているのが現状です。
 

 
——着物離れは避けられないかもしれませんが、結城紬そのものを盛り上げる取り組みはありますか。
 
広瀬:結城紬のイベントである「きものday結城」は好評で、2022年11月に14回目を開催しました。ここ数年は結城市で年に数回開かれている「桐箱朝市」とコラボするなどして、大勢の方に楽しんでいただいています。
 
実は「きものday結城」は、結構、リピーター率が高いんですよ。
年に1回のこのイベントを、市外の着物愛好家や、きものdayをきっかけに結城を知った人たちが、楽しみにしてくださっています。規模は決して大きくはないのですが、着物や結城紬を本当に好きな人たちが訪れてくれる機会なので、市としては盛り上げたいのです。
 
結城紬は産業としての活性化もそうですが、伝統技術として確実に残していくべきものですので、支援にはかなり力を入れています。これからもどんどんPR活動をしていきたいですね。
 

「町おこしをしたい」熱意が作る信頼関係

——結城の町おこしの最初のきっかけは、どんなことだったのでしょうか。
 
広瀬:最初は有志の企画からだったんです。結城が持つ魅力と、いろいろな人やモノとを結びつけて町を盛り上げたい、町おこしをしたいということで「結い市」が始まったのが13年前のことでした。
 
神社の夜神楽祭のときに境内や町中の空き店舗をお借りして、飲食や物販が各地から出店し交流します。結城以外からもたくさんの参加があり、人気になって毎年行われるようになりました。これがきっかけで、今まで結城では見かけなかったような若い人、おしゃれな人たちが町にだんだん入ってきてくれるようになりました。
 

 
そこから「結いプロジェクト」というチームが生まれ、町おこしの活動をしています。コネクションができて取材も増えました。活動拠点のyuinowa も、元々は築90年の呉服店の空き店舗だったところで、それまではマルシェの時だけ一時的に借りていたのを、常時使える場所にしたいとシェアスペースにリノベーションしたものです。
 
——町おこしの拠点ができているのは心強いですね。
 
広瀬:そこに行きつくまでに、いろんなことがありました。最初に「町おこしをしたい」という働きかけが有志からあったとき、空き店舗を数日見ず知らずの人に提供するということで考えてしまう方もいらしたようですが、出店したい側が御礼の品を用意してみたり、一緒に掃除をしてみたり、そんな細かなことの積み重ねでだんだん信頼の輪が広がっていったと聞いています。
 
自分たちの利益ばかりを考えずに努力している彼らの姿を見て、「それなら応援しようか」と商店街の方たちや地域の主だった人たちの心が動いたことで、町おこしが受け入れられた背景がありました。
 
「結い市」を立ち上げた方たちは、結城のコーディネーター的存在になっています。今ではその後に続く人たちも出てきていて行政とも協力しながら町おこしをしており、全員が欠かせない存在で心強いです。皆さん、ご自分の足でいろんなところに出向いて縁故を繋げていて、見習わなくてはと思っています。
 
——有志から始まった町おこしが、行政ともスムーズに連携できるような工夫はありますか。
 
広瀬:町おこしに携わった方たちとの繋がりは個人的にも大事にしたいと思っています。市が主催のイベントでは実行委員会を立ち上げますが、新しいメンバーが委員会に加わることがあります。結城を広く知っていただく、できるだけ多くの方の視点がほしいので、そのイベントが終わっても関係は終わりにはしたくない。だからこれまでに知り合った方たちがイベントをなさるときは積極的に顔を出しますし、サポートをします。
 
町おこしに関わっているのは、若い人から年配者まで様々です。そこで実際にお会いして、同じ活動をして同じ苦労をして、気心が知れて話をしていくと「本当はこう思っている」みたいな本音を聞ける場面があります。それを聞くとこちらも「じゃあ、行政はどうしたらいいのか?」と考えるきっかけになります。そういうことの繰り返しが互いの信頼に繋がる気がします。一時しのぎのお付き合いではない、「顔がわかる繋がり」を多く作りたいですね。
 

結城の町に誇りを持って、共に未来を作ろう

——以前から結城にお住いの方たち、そして新しく結城を知った人たちは、それぞれ結城をどんなふうに見つめているのでしょうか。
 
広瀬:結城には「見世蔵」という歴史的な蔵の建物があり、観光スポットにもなっています。市としてはこれらを保存したいという考えがありますが、実はそこに住んでいる方が意外にも古い建物を残したがらないことが多いのです。
 
古い建物を復活させるよりは、用がないのであれば壊したい人も少なくはなく、たまに通り道で更地になっているところを見ると残念ですね。結城に住む人たちに改めて歴史的建造物の価値を見直していただくとともに、一緒に暮らしやすい町にしていくために何かできることはないかと思っています。
 

 
一方、初めて結城に来た人からは「結城ってすごくいいね」という言葉をいただくことが多いです。「都心から近くにこんな素敵なところがあるんですね」と。でも地元に長くいる人たちは意外とその実感がなくて「そうでもないよ」「隣の町の方がいい」などと言うんですね。
 
結城市の市民性なのか、茨城県の県民性なのかはわかりませんが、この地域の人は総じて控え目で、結城のいいところをあまりアピールしたがらないのかもしれません。
 
だから地元のよさを気づかせてくれるという点でも、結城の外から来た人たち、新しい人たちは貴重な存在なんです。新しい提案や意見はウェルカムだし、チャレンジしていきたい人を応援したい、連携したいのは行政としてもそうですし、市民の考えも最近はその方向に変わってきていると思います。
 

 
——広瀬さんが描く、今後の結城の町おこしについてお話しください。
 
広瀬:結城で行っている町おこしで成功しているものは、古くからあるものや歴史を生かしつつ新しいことを織り交ぜるものですね。例えば見世蔵や古民家といった建築物と、喫茶店、パン屋、小料理屋などの店舗を掛け合わせたものから、伝統工芸にちなんで桐材や桑の実を使った、新しいスタイルのマルシェやワークショップなども生まれてきています。最近では蔵をリノベーションしたサウナも大人気です。今使える資源と、新しいチャレンジを合わせるのが1つの成功例になっていて、こういった流れがいろんな分野で生まれていくといいのではないでしょうか。
 
ただ、いつまでも町おこしの中心メンバーだけに頼っていてはいけないと思っていて、次世代に繋げることや新しい動きも少しずつしていきたい。例えば結城にマルシェなどで出店した方たちも1回で終わりとせず続けてほしいですし、ゆくゆくは行政が支援しなくても、ご自分たちで続けていけるようになってもらえたらなと期待しています。
 
「チャレンジする人を応援できる町」にしたい気持ちは個人的にもありますし、組織としても市としても協力したいです。行政と聞くと「固い」「こんなこと言ってもどうせダメなんじゃないか」というイメージが強いと思うんですが、そのイメージは取り払って、できたらそんな希望を持っている人と一緒に見つけていけたらいいなって。自己実現の場として、結城という土地を使ってほしいのです。
 
歴史があって文化遺産があって、結城ならではの資源もある。いいものは確実にいいんです。まずは町に住んでいる人が誇りを持って、新しく結城にやってきた人たちも交えて、さらに町づくりをしている行政とが同じ未来を目指したい。結城とは、そんな町であってほしいなと思っています。
 
(取材・撮影・文:河瀬佳代子)
 
 
<編集後記>
淡々と結城の現状を語っていても内面からは熱い想いが溢れ出てくるような広瀬さんのお話は、今後新しく結城で何かをチャレンジしたい人にとっては頼もしい後押しになることでしょう。結城が持つ町の魅力が今後どのようにパワーアップしていくのか、とても期待を持たせるインタビューでした。
 
<参考>

茨城県結城市HP https://www.city.yuki.lg.jp/
結いプロジェクト https://yuiproject.jimdo.com/
結いマルシェ https://localletter.jp/articles/yuimarche/
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)

2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul 、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/  連載中。

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2023-01-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol.202

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