週刊READING LIFE vol.202

あてのない航海を共に《週刊READING LIFE Vol.202 結婚》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/1/30/公開
記事:今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
ワイドショーで有名人の離婚が報じられると、数日間同じようにほかの局でもその話題について、コメンテーターがあれこれと議論する場面を見たことがある人も多いだろう。
いまや3人に1人が離婚すると言われる日本だ。本来ならそう注目する話題ではないのだろうが、相手が有名人となれば話は別。メディアはスクープ話を詳細に報じ、こちらは好奇心から他人の生活を安全な場所から覗き込む。考えれば気の毒な話だ。
離婚原因を作ったとされるほうにテレビでの印象が重なれば、「やっぱりね」と思うし、そうじゃないときは意外性に驚く。まさに、有名人はイメージが命なのだ。本当の原因なんて、2人にしかわからないはずなのに。
 
「損、なのよね」
私の母が、そう寂しそうに言っていたことを思い出した。
おしゃべり好きで社交的な母は、寡黙な父とは対照的な性格だ。仲の良い友達にも、ハッキリと物を言う母に対して父は穏やかなイメージを持たれているという。たられば話だけれど、もし離婚するようなことがあれば、原因は母にあると思われることが腑に落ちないらしい。
まあ、娘である私も母の友達と同じように思わなくもなかったが、最近母の主張も一理あると思い始めている。
 
無口な父は、自分の気持ちをストレートに表現することが得意ではない。「黙って、背中で語る」といえばカッコいいが、言わない分、何をどう思っているのかわかりづらい。こちらが察して動かなくてはならないのだ。いわゆる忖度が必要になる。
一体何がOKで、何がNGなのか? 反応の手探りに疲れた母は、自分が思う方向に思いっきり舵を取ることにしたのだろう。それがはた目には、母が自由に振る舞っているように見えるし、父はそれを受け入れている優しい夫のように見える。
娘から見ても、確かに父は細かいことを気にせずに優しいが、頑固なところがある。母は実は小心の持ち主だが、そう見せまいと強く振る舞うところがある。強い部分は似ているのに、黙している父よりも社交的な母がどうしても性格がきつく見えるから、母曰く「損」なのだ。
なるほど、夫婦のことは2人にしかわからない。
 
ふと、私たち夫婦にも置き換えてみる。私の夫も口数が多くないし、真面目な人だ。
きっと離婚するようなことがあれば、原因は私だと思われるクチに違いない。おしゃべりは不利なのだ。
しかも私は現在パート勤めで週の半分以上は家にいるのに、家事はそんなに得意でもなく、ライティングだ、コーラスだ、推し活だと好きなことで生活を埋めている。
一方、夫は仕事が忙しく残業も多いのに、帰ってきてから家事も手伝うし、何ならアイロンがけや洗濯物を畳むのは私よりも上手い。確実に、生活能力は夫のほうが高いのだ。
 
やばい。まだ離婚を口にされたことはないけれど、他人から見れば、原因は私だと思われるのが濃厚じゃないか。DVや浮気、借金など、離婚にはいろんな理由があると思う。けれど性格の不一致という原因も多いと聞く。性格の不一致イコール価値観の違いが積もり積もっての熟年離婚。なんか他人事じゃなくなってくる。献身的な夫と自由気ままな妻の組み合わせでは、圧倒的に妻の分が悪いんじゃなかろうか。我慢に耐え切れなくなった夫が、妻に三下り半を突きつける。ドラマの熟年離婚では妻から夫に離婚を申し出ることが多いけれど、我が家に至っては逆バージョンかもしれない。
 
お風呂から上がると、取り込んだままだった洗濯物を夫が畳んでいた。
「あ、私がやるから置いておいてよ」
すかさず言う私に、夫は手を止めずに「大丈夫」だと言う。
本当に「大丈夫」なのか? 内心「しょうがねえなあ」とか舌打ちしていない? 冷蔵庫からお茶のポットを取り出してコップに注ぎながら、ちらちらと夫の顔を盗み見る。ポーカーフェイスの夫の気持ちは読み取れない。
 
またある晩に、ライティングの記事を書くのに没頭していると、台所からカチャカチャと食器の音が聞こえる。振り向くと、夫が食器の後片付けをしていた。
「ごめんね。あとからやろうと思ってたんだけど」
パソコンを打つ手を止めて、私は一応そう言ってみる。
「いいよ。ご飯を作ってもらったから片付けはこっちがやるよ」
「仕事の後で、疲れてないの?」
「でも食器が片付いてないと、気になるから」
えー、ありがたいけど、本当にいいの? 再びイヤホンで音楽を聴きながら食器の後片付けをする夫の本心は、やっぱり読み取れない。
 
つまり、疲れているけど片付けないと自分が気になるから、やっているということ? 素直に受け取れば、本当にその通りなんだろうけど、臆病な私はやはり夫の顔を盗み見ながら、自分がやるべきでなかったかと気にしてしまう。もし、家事のポイントシールなんかがあれば、夫はすぐに貯めてしまいそうだ。そしてそれを見せながら「これだけやってます」と言われた日には、私は小さくなるしかないだろう。
 
そもそも、約4年前までは私がフルタイムで働いていたので、私たち夫婦は、ある程度家事や育児に協力する態勢が自然と出来上がっていたと思う。同じ職種だった私たちは、お互いの仕事内容や忙しさを何となく把握していたし、どちらかが残業や休日出勤をするときは、子どもの世話や送り迎えもサポートしあっていた。
 
ところが私に病気が見つかり、入院、手術に続いてリハビリ、そして仕事を辞める選択をすることになった。体調を第一に考えるようにと夫に言われて、私はパートの仕事に転職した。その後も、ガンや別の腫瘍が見つかって手術をする羽目になり、ここ数年は病院のお世話になりっぱなしだ。パートの仕事が3日も連続すれば、シフトが入っていない次の日は家で休んでいることも多い。気力はあっても体力がついていかないという、なんとも情けない体たらくなのだ。そんな自分の機嫌を上手く取るために、熱中できることを増やしてテンションを上げている部分もある。好きなことをやっていれば、あまり疲れを感じないはずだし笑顔も自然と増える。
 
子どもも一昨年巣立ったし、もうフルタイムで仕事をしているわけじゃないから、私としては以前よりも随分時間に余裕がある生活を送っている。なのに、部署や役職が変わり忙しさが増したにもかかわらず、前と変わらない量の家事を引き受ける夫の姿に、頑なさすら感じる。私がやるよと言っても、「自分がやるからいい」と断られる。ありがたいけど、ちょっと居心地が悪いのはぜいたくな悩みかもしれない。
 
近頃は、夫がいつもやってくれる夕食後の食器の後片づけ、洗濯物干しやゴミ出しは、始めからお任せすることにして、夫が帰宅するまでにそのほかのことを済ませることにした。たまには夫が好きなお菓子やアイスを仕入れてみたり、体育会系の夫に対して言葉尻がきつくならないようにしたりなど、私も案外気を遣っているのだ。でもやっぱり周りから見れば、私が自由にしているように見えるのだろう。母の気持ちが、ちょっと理解できるような気がした。
 
結婚とは、あてのない航海みたいなものだ。座礁しかけたり、知らない無人島へとたどり着いたりと思いがけないことが起こる。同じ船の乗組員である私たち夫婦は、協力して迫ってくる雨風を何とかしてしのがなくてはならない。「かすがい」である子どもがいなくなった船で、私たちは第二の航海を始めたばかりだ。いつかは一人で別のボートに乗り移らなくてはならない日が来るかもしれないけど、そのときまでは助け合うしかない。今のところ、助けてもらうことが多い私が言うのも何だけれど、お荷物にはなりたくない。
 
そんなことを隣で私が思っていることなんて知らない夫は、テレビを見て笑っている。若干笑いのツボが違う私にはその面白さがわからないけれど、夫が笑っているのを見て一緒に笑う。
さあ、あと10年後はお互いどうしているのだろう? そう尋ねたら夫は何と答えるのか、今度聞いてみようと思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
今村真緒(READING LIFE編集部公認ライター)

福岡県在住。
自分の想いを表現できるようになりたいと思ったことがきっかけで、2020年5月から天狼院書店のライティング・ゼミ受講。更にライティング力向上を目指すため、2020年9月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。
興味のあることは、人間観察、推し活、ドキュメンタリー番組やクイズ番組を観ること。
人の心に寄り添えるような文章を書けるようになることが目標。

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2023-01-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol.202

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