週刊READING LIFE vol.202

大嫌いなドラマ「101回目のプロポーズ」《週刊READING LIFE Vol.202 結婚》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/1/30/公開
記事:山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
(ネタバレあり)
もう30年も前になるだろう私の中学時代はとにかくドラマが熱かった。特に月曜日の9時からのドラマは「月9」という呼び名で、その時間は街から人が消えるといわれるぐらい誰もがテレビにかじりついてドラマを見ていたそうだ。
 
我が家も例にもれず、月曜日の20時に塾が終わり21時には食卓に着席し、母と妹と一緒にドラマを見ながら夕食を共にしていた。当時の月曜21時のドラマは「東京ラブストーリー」、「ひとつ屋根の下」、「あすなろ白書」などを家族と共に、翌日は学校につくなりドラマの話題を振りまいていた。
 
ドラマをちゃんと見始めたのは中学生に上がるぐらいのころで、「東京ラブストーリー」の大人がキラキラとした日常を過ごすことに憧れていた。ヒロインの鈴木保奈美のようなかわいい彼女と楽しく過ごせることを本気で妄想していた。そして、社会人になったらスーツを着こなしてバリバリと働いている未来を思い描いていた。他にも様々なドラマを妹と一緒に楽しんでおり、ブラウン管の向こう側には私の明るい未来が映し出されていた。
 
「東京ラブストーリー」のような明るく華やかなドラマもそうだが、(月9ではないが)「高校教師」のようにちょっとドロドロしているが、先が気になって翌週が待ちきれなくなるドラマも楽しく見ていた。まさに私の中学、高校時代は1つ下の妹と一緒にテレビドラマと共に過ごしていたのである。
 
ところが中学時代にあえてテレビに背を向けたドラマがある。

 

 

 

「101回目のプロポーズ」いう90年代の代表的なドラマで毎週の視聴率は30パーセントを超えている。当時小学6年生の妹はいつもテレビの前で感極まって泣いていた。小学生のころから妹とドラマを楽しんでいた私がテレビに背を向けて部屋にこもるのは、妹にとって異常だとしか思えなかったはずだ。
 
101回目のプロポーズは本当によくできたドラマであり、決してつまらない作品ではないが「嫌い」なドラマだった。
 
主人公の武田鉄矢さんはさえないルックスで40歳をこえた真面目だけが取り柄の万年係長の平凡なサラリーマン、そして何よりタイトルの通りお見合いを100回やっても結果が出てない独身男性だ。もちろん武田鉄矢さんは嫌いではなく、むしろ金八先生に代表されるように名役者のひとりで好きな役者の一人だ。
 
私は将来の夢をちゃんと持っていたわけではないが、両親に期待される通り良い大学に入ってよい会社に入って順調に出世して、当たり前のように結婚して子供を二人もうけて、幸せな家庭を手に入れることが当たり前の未来だと思っていた。妹とはしょっちゅう喧嘩もしていたけど、仲良く同じテレビドラマを見ている家庭を築くことも理想の未来であった。社会人になってからの私はテレビドラマのようにキラキラとした世界で仕事もバリバリとこなし、鈴木保奈美のような女性とデートできると思っていた。
 
一方で武田鉄矢さんのようなキャラクターは絶対になりたくない大人の姿だと思っていた。それでいて自分もこうなるのではないのかという予感がしていたのだ。
 
何しろ私の小学校・中学校時代はコミュニケーションを取ることが苦手で、挨拶もろくにできない子供だった。真面目だけが取り柄でこれという自慢できるようなものがなく、自分に自信が持てなかった。幸いにもファミコンやジャンプなどを通じて同性の友達には恵まれて、今にして思えば楽しい学校生活を送ることができたと思う。しかし、女性からは全く相手にされず、席替えで私の隣になろうものならあからさまに机を離されてしまうぐらいの存在だった。真面目であることを親や先生から褒められることもあるのだが、口の悪いクラスメイトからすると、全くしゃべらないだけで真面目ではなく気持ちわるい存在だと言われる始末だった。
 
そんな私でも、どこかで可愛い彼女ができて30歳を前に結婚して幸せな家庭を築くことができることを当然のように考えていたのだが、無意識のうちに結婚もできないうだつの上がらない大人になってしまうのではないかと強烈な不安が襲っていた。
 
だからこそ、さえない大人が99回お見合いしては結果も出せずに、100回目の相手に嫌われお断りをもらっても、しつこくアプローチを繰り返し、挙句の果てにはトラックの前に飛び出して捨て身のプロポーズしているさまを汚らわしいものと思っていた。

 

 

 

2023年BSフジで「101回目のプロポーズ」の再放送があり、その日のうちに地元のTSUTAYAに駆け込んでDVDを一気に見てしまった。もちろん、101回目のプロポーズの評判はよく知っているし視聴するチャンスはいくらでもあったが、30年の時を超えてようやく視聴することができた。
 
あの時、目をそらした武田鉄矢を今でも受け入れられないのか?
 
改めて武田鉄矢を振り返ってみると新卒で入社した建設会社で大きな実績はなかったのかもしれないが真面目で実直な社員として20年も勤め上げることは凄いことだ。何よりも面倒見がよく部下に慕われているというところが素晴らしい。武田鉄矢が夏のボーナス全額馬券につぎ込むシーンがあるが、その時口にした金額は〇万円であり、今の私のボーナスを軽く超えており、「そんなもらってんのかよ」と妙なところで叫んでしまった。
 
武田鉄矢は弟の江口洋介と一緒に住んでいる。江口洋介と言えば、当時を代表する俳優の一人である。平凡なサラリーマンの武田鉄矢の対極であるモテの象徴であり、何も苦労しないで女性と親しくなれるがゆえに軽薄なキャラクターだと思っていた。ゆえに私とは全然違う人間だと思っていた。
 
改めて、彼の役どころを見るとイメージ通りに調子よく女性に声をかけてはすぐに仲良くなり、持ち前のルックスで長髪をなびかせては颯爽とふるまっていた。一方では、兄の武田鉄矢がバカにされるのを見れば本気で怒り、そして喜びを共にできる弟だった。

 

 

 

あれから私は順調に大学を卒業し、今の会社で勤続20年目を迎えようとしている。役職こそ課長を拝命しているが、表彰されるような実績を残したわけではなく愚直に目の前の仕事に取り組んできたことで今の自分がいる。
 
30年前は100回もプロポーズしながら何一つ結果を残すことができずにいることをバカにしていたが、大人になってから私のもとに女性が自然に寄ってくることはただの一度もなかった。
 
30歳を過ぎたころには結婚できないかもしれない危機感が現実的になり、結婚相談所に駆け込んだ。
 
結婚相談所に申し込めば鈴木保奈美のような女性と結婚できると無邪気に思っていたが、現実は厳しく「お断り」の回数は101回を軽く超えているはずだ。
 
それでも婚活を続けていた甲斐もあり33歳で結婚することができ、泥臭いながらも子供のころに描いていた未来に一歩近づいた。
 
ところが、35歳を迎える前に離婚することになってしまい。子供のころに恐れていた未来よりもさらに斜め上の人生を送ることになった。35歳で結婚と離婚を経験するなんて、誰も予想できなかっただろう。
 
ドラマでは101回目のプロポーズでピリオドを打つことができているのだが、私の100回以上のプロポーズは記録を更新し続けることになるだろう。
 
当時恐れた武田鉄矢のたどっている人生を重ね合わせてしまった私の人生だが、そんなに悲観するほど悪い未来だったのか?
 
これまでもチャンスがなかったわけではなかったが、30年の時を超えて101回目のプロポーズを一気に笑いながら楽しむことができたのは、当時悲観していた未来もそんなに悪いものではないと感じることができたのではないかと勝手に解釈している。

 

 

 

30年のトラウマを乗り越え101回目のプロポーズを一気に見たところ、90年代を代表するドラマにふさわしいと呼べるぐらいの面白いドラマだった。最高視聴率が36%と当時の記録をたたき出し社会現象と呼ばれるのも納得だ。
 
妹がいつも感極まって泣いており「お兄ちゃん一緒に見ようよ」と熱心に誘ってくれていたのを振り切って部屋にこもっていたのを激しく後悔している。あの時一緒にドラマを見ていたらもう少し妹と仲良くできたはずだ。
 
武田鉄矢も江口洋介も魅力的なキャラクターであり、泥臭いながらも愚直に生きており、幸せも待っているだけではなく「命がけで」つかみ取ることができた。
 
この泥臭さがカッコ悪いものと思っていたが、その泥臭さから目を背けている私こそが一番カッコ悪いと気づかされた。
 
でもやっぱり101回目のプロポーズは大嫌いだ。

 

 

 

ここまで読んでいただいて申し訳ないのだが、ヒロインの浅野温子がどうしても受け入れらない。
 
彼女は80年代後半のトレンディードラマ全盛期に「W浅野」と言われて人気を博し、必ずと言っていいほど出演しており、いつも高視聴率をたたき出していた。小学校のクラスの女子で彼女に憧れる人も少なくなかった。まさにバブル期を象徴する憧れの大人の女性といっても過言ではないはずだ。
 
101回目のプロポーズの浅野温子も大ヒットドラマのヒロインにふさわしく、女性であればだれでも憧れる花嫁だ。妹がドラマを見ては毎回のように感激して泣いているのは、間違いなく彼女の影響だろう。そういえば、東京ラブストーリーを一緒に見ていた時はあんまり泣いていなかった気がする。
 
こんな女性が99回も振られてしまうような男性の前に現れたら簡単に一目ぼれしてしまうのも納得だ。こんなに美人でカッコいい女性なら恋愛に不自由することはないだろう。
 
真面目だけが取り柄で愚直に生きている武田鉄矢のキャラクターに自分によく似たキャラクターとして重ね合わせていたが、浅野温子が全ての女性を代表して自分を否定しているようで本当に嫌だった。
 
それにしても全女性の憧れの象徴でもある浅野温子が、なんでまたお見合い市場に残っているのか?
 
あれだけ非の打ちどころのない女性だけあるのでモテないわけがない。
 
過去には結婚を約束した男性がいたのだが、結婚式の直前で不幸にも交通事故で無くなってしまったのだ。幸せの絶頂にいたのだがあれ以来、男の人を好きになることが怖くなっているようだ。結婚を約束したもののなくなった彼氏と比べると、武田鉄矢は結婚の対象とはとても思えなかったのだろう。
 
それでもなおどんなに落ち込むようなことがあっても、あきらめることなく愚直にアプローチを繰り返し、しまいには浅野温子の目の前で走るトラックの前に飛び出し「命がけ」のプロポーズをして見事に結婚を勝ちとった。
 
いくら何でもいきなり車道に飛び出すなんて無謀もいいところで、そのまま死んでしまったら強烈なトラウマを植え付けられてしまうだろう。とはいえ、101回目のプロポーズのクライマックスにふさわしく命がけの大勝負に心を動かされたのも確かだ。
 
それにしても結婚するためにはここまでの覚悟が必要なのか?
 
このまま結婚式を挙げてハッピーエンドのまま終わらせてあげたい。
 
ところが、2人の前に結婚相手によく似た人物が現れる。その人物は武田鉄矢の上司に当たり何よりカッコいい。
 
もう婚約を決めているはずなのに浅野温子の気持ちは完璧に揺れ動いてしまう。平凡な男が命がけで勝ち取った結婚でも簡単に破壊されてしまうのか?
 
人間性云々の前に世の中の理不尽さを感じてしまうのは考えすぎだろうか?

 

 

 

30年前の私はスマートに当たり前の幸せを手に入れることができることを願っていた。反面、愚直に生きるということがカッコ悪く、何もとりえがない自分を好きになれない自分がいた。
 
今も昔も女性に対して自信を持てなかったのは、自分に対して卑屈になっているところを受け入れてもらえないのではないかという恐怖心を持っているのかもしれない。
 
せめて自分自身は自分のことを少しは認めて、凡人なら凡人なりに愚直に時には勝負をかけてみてもよいだろう。
 
でも女性を代表して真っ向から否定されるのはあまりにも残酷ではないか!!
 
平凡でもささやかな幸せを夢見てもいいじゃないか!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年8月の誕生日にライティングゼミ夏季集中講座で天狼院デビューとなりここから天狼院沼にハマって、ハードワークの技術、時間術ゼミNEO、無限ラーニングZ他多くの講座を受講することになる。
2022年1月よりライターズ倶楽部参戦するもあまりのレベルの高さに騒然とし、ライティングゼミNEOでライティングを鍛えなおす。同年10月よりライターズ倶楽部復帰
2023年末は断腸の思いでライティング年間パスポートを購入し、引き続きライターズ倶楽部に所属する。本年はメディアグランプリ優勝を目指して記事を書き続ける。

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2023-01-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol.202

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