週刊READING LIFE vol.203

身に着けたいのは知識やセンスではなくて《週刊READING LIFE Vol.203 大人の教養》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/2/6/公開
記事:丸山ゆり(READING LFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「大人っていいな……」
 
子どもの頃、なんとなく大人に憧れる思いを持っていた。
大人になるって、想像するだけでも色々と大変そうには見えていた。
それでも、人間として大きくなれるのが大人だと思っていたところもあった。
子どもは何においても未熟で、発展途上にいる存在で、大人になるとそれらが徐々に完成系を迎えるような、そんなイメージを持っていたのだ。
というのも、子どもの頃の私は、毎日のように、自分と勉強や運動が出来る友だちを比べて落ち込んだりしていたのだ。
友だちと遊んでいる時でさえ、気に障ることを言って嫌われたくなくて人に合わせたり。
友だちが簡単そうに出来ていることが、自分には出来そうに思えなかったり。
そんな小さくて、いつもウジウジしている自分がイヤでたまらなかった。
そう思うと、大人になるとそんな全てのイヤな自分がクリアできて、立派な大人として生きて行けるようになるのだと信じていたのだ。
 
ただ、「大人」というカテゴリーがいったい、何歳、いつ、どこから始まるのかはよくわかっていなかった。
憧れていた大人、20歳になって、成人式にも出席して、選挙権も得られた。
お酒を飲むことも許されて、社会人として会社勤めも始まった。
 
ところが、だ。
子どもの頃、自分の性格や考え方がイヤでたまらなかったあの部分が、ちっとも変わってはいないじゃないか。
同期で入社した同僚たちが、会社で新しく与えられた、これまで聞いたこともないような分野の仕事を、卒なくこなす姿を見て落ち込んだりしていた。
年代を超えて、様々な人と関わる会社では、相手の顔色を見て言動したり、相手の好みに自分の意志など無視してそのまま合わせたり。
与えられたことをやりこなすことで精一杯で、自分からの提案や企画などが全く出せない自分を情けなく思ったりもした。
歳は重ねていても、中身は子どもの時とちっとも変わっていない自分がいたことに愕然としたものだ。
 
ただ、会社勤めをすることで収入を得られるようにはなり、それなりの洋服に身を包み、時には高価なブランド物を手に入れることもあったが、なんだか弱っちい人形に、強い鎧をあてがっているだけの脆い人間でしかなかった。
 
大人としてのたしなみと考えたのだろうか、会社の倶楽部でお花のお稽古をやってみたりもしたことがある。
ちょっと格の高いホテルのラウンジで、格好よくお酒を飲んだりもした。
ワインの名前を覚えて、美味しいワインを飲み歩いたこともあった。
一人でも立ち寄れる隠れ家的なバーを見つけ、そこに通うことが大人だと信じていたし。
バブルの時代だったこともあって、年に一度は贅沢な海外旅行に行って、ブランド品を買い集め、優雅な気分に浸っていた時もあった。
それでも、その当時の私は、本当に大人だったのだろうか。
大人って、いったいいつの時代からの私のことを呼ぶのだろうか。
どこから、大人になったと言ってもいいのだろうか。
すでに20歳を超えているのに、社会人なのに、自分自身は何も変わっていないじゃないか。
きれいにお化粧した顔で、いつも穏やかに微笑んでいても、心の中では自分に自信がなく、人のことばかりが良く見えて、常に落ち込んでいたのだ。
そんな心の葛藤を私は成人してから何十年も自分の中で抱え込んでいた。
 
ある時、自己啓発の講座に誘われて参加した時があって、その時初めて自己肯定感という言葉を耳にした。
自己肯定感、それは自分で自分を認め、どんな自分も受け入れ、好きになること。
自分のことを、「まだまだ、何も出来ていない」と、いつもダメだしをしてきて、「こんな私では絶対にダメなんだ」と、24時間自分を責め、人のことが良く見えて自分はなんてつまらない人間なんだとさげすんでいた私。
そんな思考をずっと持っていたからこそ、会社での人間関係、業務においても全く自信が持てず、自分に関わることは全て否定していた私には、自己肯定感のカケラもなかったのだ。
他の人ばかりを見て、追いかけ、分析していた私には、自分の姿などこれっぽっちも見えていなかった。
人のようには出来ていなくても、頑張っているところもあったはずだ。
 
よく考えてみたら、世の中のいわゆる大人たちは、多かれ少なかれ、自分自身を認めることなく、否定して、大嫌いだと思っているようだ。
人が集まると、何かしら愚痴や噂話など、そこにいない人へとエネルギーを向けることが多かったり、自分の出来ないところを自慢話のように語り出したり。
私が幼い頃にあこがれていた大人像からは、かけ離れた大人がとても多いことに気づいた。
それでも、高価なブランド品を身に着け、きれいにお化粧もして、海外旅行に行ったり、芸術や学問に興味や知識を持っていたりするのだが、それが大人なんだろうかと疑問に思うこともあった。
偉くなったのか、賢くなったのか、知らないけれど。
 
高価なブランド品も新しい商品が出ると、自分の持っているモノが古いモノとなってゆくことに引け目を感じたし。
お化粧をいかにきれいにするかで少しでも自分をよく見せることに必死になったし。
本当に好きで勉強しているのか、恰好をつけようとして知識を得ていたのか。
なんだか、大人ってちっぽけなんだなと過去の自分のあがいていた姿が蘇るとそう思ってしまう。
 
芸術や学問など、何かを身に着けるにしても、その土台がしっかりと出来ていなければせっかくの知識も自分のものとならないのではないだろうか。
それは、どこまでいっても上辺だけの薄っぺらい、簡単にはがれてしまう悲しいものにしか思えないのだ。
逆に、自分に向き合い、今の自分を認め、受け入れることによって、何かが足りないと追いかけることなく、自分を好きでいられるのだとしたら、そんなに素敵でかっこいいことはないはずだ。
 
大人の教養とは、知識などを足してゆく前に、まずは自己をしっかりと確立し、自己肯定感を育むことが大切なのかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。

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2023-02-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.203

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