週刊READING LIFE vol.207

汚部屋を片付けて気分を上げるためのとっておきの方法《週刊READING LIFE Vol.207 「通年テーマ 出してからおいで」》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/3/6/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
汚部屋は一日にしてならず。
 
この家で、私は、1日に何回、「片付けなさーい」と怒鳴っているんだろう。3人の子ども達に最低3回ずつは言っているから、一日あたり9回で、1年にしたらなんと3285回……!
 
吐きそう。
 
私の口は片付けなさいって言うためについているわけじゃない、でも黙って片付け始めるのを待つ間もイラつくし、仮に片付けてくれたとしても、私が満足できるようなクオリティになることは少ない。
 
かくいう私もそんなに片付けが得意ではない。物が増えればふえるほど、散らかれば散らかるほど、どこから手を付けていいのか分からなくて途方に暮れてしまう。だからこそ散らかっていくとイライラするのかもしれない。かといって、部屋が散らかっていても大らかに過ごせるほど心が広いわけでもない。
 
子ども達の物心がつくにつれ、自分の裁量だけでは片付けができなくなる。子ども達が片付けるようになるので、自分の負担は多少減るけど、家の中が居心地の良い空間にはならなくて、折り合いがつかないのがストレスだ。
 
今日も2人の娘はなにやら紙を切って、袋の中に詰めている。それがどうやら大切なチケットらしい。あーでもない、こーでもないとままごとしながら、楽しそうなのは微笑ましいのだけど、片付けの段階になると、その紙きれの入った袋ごとおもちゃの棚に押し込む。
 
その押し込んだ袋は、その後、ほとんど再登場することはなく、代々の袋と共に無駄に保存されていく。それでも、彼女たちなりに片付けたと主張するのだから、こちらとしては手の打ちようがない。あまりにも溜まるとこちらもストレスになるので捨てようとするのだけど、そういう時に限って、とても寂しそうな顔でこちらのことをじっと見てくる。
 
そうなると、捨てるのがなんだか冷酷だと無言で責められているようで、胸が痛むのである。
 
仕方がないので、2人がいない間に片付けをする。その時には、さっさとゴミに出してしまうことが大切。子どもって意外とゴミ箱までチェックしているから。似たような類のものをバレない程度に片付けている途中、棚の奥から折りたたんで輪ゴムで厳重に封をされたハンドタオルの塊が出てきた。
 
なんだろうと、輪ゴムを外してタオルをあけると、白い怪しい粉が辺り一面に巻き散る。
 
なんじゃこりゃーーー。
 
ひとなめしてみると、塩、だった。
なぜ塩?! 清めるの? それとも家での熱中症対策?!
 
それにしても、なぜ、タオルに塩を直接包むんだーーー!
掃除機で塩を吸い取りながら脱力した。
 
掃除機のゴミを捨てる時、ゴミ箱の中に戦意も一緒に落っこちた。
あとはため息だけが盛大に漏れた。
 
もちろん、散らばっているのは子ども達のスペースだけではない。自分の作業スペースもプリンターにプリントが重なり、ファイルが重なり……、と後で片付けようが少しずつ堆積して限界が来ていた。
 
そんな我が家に、転機が訪れた。
リフォームをすることにした。ある部屋の床のフローリングがハゲてその範囲がどんどん広がるのでそれを張り替えることにしたのだ。
 
今回は一部分だけ改修することになった。全面的にやるとなると、仮住まいに引っ越したりと煩わしいので、2部屋とトイレだけにした。
 
とはいえ、工事が始まるまでに該当の部屋の荷物を空っぽにしないといけないので、我が家は大騒ぎだ。工事が始まる2週間前までは、まだ余裕があったけれど、そこから1週間インフルエンザで倒れたのが誤算だった。気づいた時には作業開始2日前。まだ、工事をする部屋にも沢山の荷物が置かれていた。
 
それでも期限が決まっているというのは人を動かす力になる。最初のうちは、いるもの、いらないものを丁寧に分けていたけれど、最後のほうには、8割がたをゴミ袋につっこむマシーンのようになりながら、ひたすら物を捨てた。
 
がらんと空いた棚を雑巾で拭くと、ごっそりと埃がとれた。なんというか、いままでゴミと埃に囲まれて生活していたんだ、と思うと苦笑いしかなかったけど、スッキリとした。

 

 

 

ひたすら片付けをしながら、前にもこんな風に沢山捨てたな、と思い出した。アレはいつだったかな……と記憶をたどると、末っ子を出産したばかりの時だと思い出す。かれこれ6年も前のことだ。
 
3人目の妊娠は私にとってはとても不安だった。その時は夫の仕事が忙しくて2人の子育てをほぼワンオペでこなしてきた。1人から2人になったときだって衝撃だった。こちらで子どもが泣いているのに、もうひとりも、当たり前だけど動いていて危ない。子どもにオフスイッチをつけたいと何度思ったことか。両方とも目が離せなくて、常に緊張しっぱなしの日々だった。そんなところにもうひとり子どもが生まれるなんて……願わくばずっとお腹の中にいて欲しいと心の底から思っていた。
 
子どもは2人で終わり、と思っていたから、洋服もサイズアウトする度に全て処分してきた。ベビーカーもチャイルドシートもいらないものは人に回してしまったから手元には何にもなかった。
 
今さらベビー用品を買いたくなくて、SNSで「どなたか、子どもの物を譲ってください」と書いたら、その翌日からわんさか物が集まった。段ボールひと箱、紙袋にパンパン、ゴミ袋にありったけ……。みんな捨てるには忍びないからいつか誰かにあげようと思ってとっておいたのだろう。SNSってすごい、と思いながらも、逆に集まりすぎた洋服類を整理するのがしんどくなってクローゼットの隙間という隙間にそのまま押し込んでみなかったことにした。必要なものは欲しいけど、新しく子育てが始まるという現実から目を背けたい、という矛盾した気持ちのはざまでゆらゆらと日々が過ぎて行った。何が必要で何がいらないのかそんなことを判断する心の余裕がなかった。
 
それでも、不思議なもので、不安でお先真っ暗だったのに、生まれてしまえば腹が据わるのだ。案ずるより産むがやすしとはよく言ったもので、もう、目の前で泣いていればあやすしかないし、上の二人のオフスイッチがないのも今回はわかっていることだ。朝昼晩、朝昼晩、ビデオの早送りのように時間は過ぎて行ったけれど、どうにかこうにか私は生きていた。
 
産後2か月ほど過ぎた時に、実業家の斎藤一人さんのお弟子さんが書いた片付けの本と出合った。『斎藤一人みるみる運を引き寄せる「そうじ力」』というタイトルで、120ページほどだったし、イラストがたくさん入っていたのですぐに読めてしまった。そして、私の片付けスイッチが見事にオンになる本だった。
 
いらないものを置いておくのは、そのものに悪い気が溜まって、運気が下がるから捨てましょう、ということが繰り返し書かれていた。その中に、一見キレイな部屋に見えるのだけど、使わないモノを押し入れに全部押し込んでおくと、見えないところに隠した物にエネルギーを奪われて疲れる、というエピソードがあった。
 
それって、全く同じことやってる。まんま私のことじゃん!
 
ゾッとした。慌ててもらったおさがりを引っ張り出し、サイズ別に分けた。下着が30枚以上出て来たし、小学生でも着られるような洋服まで沢山入っていた。使えない、使わないものが沢山あった。最終的に半分くらいの量に減り、タンスの引き出しにすんなりと収まった。そこから火がついて、2週間近くかけて、全ての部屋のものを出して、掃除した。結局、4畳半の部屋半分くらいを埋め尽くすゴミが出た。それを済ませたら不思議なことに、私の不安はすっかりなくなって元気になった。本に書いてある通りだった。物にしがみついて安心感を得ようとしていたのかなと思うと、妊娠していた時の不安だらけな自分がなんだかいじらしいなと思った。

 

 

 

あれから6年。あの時生まれた子は4月から1年生になる。なるべくいらない物は買わない、いらなくなったら捨てる、を実践してきたけど、少しずついらないものも増えて、知らない間にイライラが溜まっていたんだな……。今回片付けをしながら、少しずつスッキリしてく部屋を見るたびに心が軽くなっていくのを感じた。
 
片付けをする時に棚から床に全ての物を出して整頓する『全出し』という方法が私には向いているようだ。一旦は沢山の物が出てきてうんざりするけど、ひとたび出してしまったら、捨てるなり、しまうなりしなければならないし、早く床から物をなくすために集中して頑張ることができるからだ。
 
今回は、子ども達の棚の物もすべて出して、一緒に片付けてみた。新しい部屋のイメージを伝えて、棚に入りきるだけの量にしようねと伝えた。そうすると、今まで断固として捨てないと一点張りだった娘たちが、あっさりと全て捨ててくれた。
 
片付けるってやり方なんだろうな……キレイになった部屋は、スッキリして思わず踊りたくなるような軽やかさだ。子ども達もスッキリと整った部屋を見たら、「前よりも、こちらのほうがいいね」と納得してくれた。
 
もちろん、これから、維持していくほうが大変なのはわかっているけど、こうやって何年かに1回は入っているものを全出しして、整頓し直すという作業も必要なのかもしれない。自分が行き詰まった時には片付けをして、また心機一転前に進めるといいな。
 
皆さんも春の切り替えのこの時期に片付けをしてみませんか?
 
自分の気分を上げる空間を作りたかったら、棚の中の物を全部出してからおいで。
 
参考文献
『斎藤一人みるみる運を引き寄せる「そうじ力」』PHP研究所
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部公認ライター)

人とモノと場所をつなぐストーリーテラーとして、愛が循環する経済の在り方を追究している。2020年8月より天狼院で文章修行を開始。腹の底から湧き上がる黒い想いと泣き方と美味しいご飯の描写にこだわっている。人生のガーターにハマった時にふっと緩むようなエッセイと小説を目指しています。月1で『マンションの1室で簡単にできる! 1時間で仕込む保存食作り』を連載中。天狼院メディアグランプリ47th season 、50th seasonおよび51st season総合優勝。

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2023-03-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.207

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