仕事ロールプレイングゲーム絶賛攻略中《週刊READING LIFE Vol.207 仕事って、楽しい!》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/3/6/公開
記事:小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ俱楽部)
「ぴかちゅう」
2歳4カ月になる息子が突然、TVを指さして言った。
TVではポケットモンスター、通称ポケモンが放送されていた。
今まで息子は見たことがあるものに関しては言っていたが、ポケモンは見せたことがなかった。
見てもまだ話が難しいだろうなと避けていた部分もある。
「保育園で覚えてきたんかな?」
「そうやろなぁ、見せたことないし」
そのまま夢中になって見ている息子と一緒に鑑賞することにした。
私はいわゆるポケモン初代全盛期の人間だ。
小学生の時に発売されたポケモンに皆が夢中になり、学校でもよく話題に上っていたし、放課後は友達と集まってポケモンをやっていた。
最初に選ぶことが出来るポケモンは3種類の中から1匹だけ。
レベルも低いし、使える技も少ない。
しかもライバルは自分が選んだポケモンでは相性がよろしくないポケモンを選ぶもんだから達が悪い。
レベルを上げ、仲間を増やし、所々で立ちはだかる人たちをポケモンバトルで倒しながら進めていく。
技を覚えた時、進化した時の喜びは一塩だ。
ポケモン含め、20年前はドラゴンクエストとかファイナルファンタジーといったロールプレイングゲーム。
いわゆるRPGがそこそこ流行していたと思う。
私は病院で臨床検査技師と言う仕事をしていた。
社会人1年目。
まさに私はレベルも低い、まったく戦力にならない使えないポケモン状態だった。
周りはレベルの高い戦闘力もある人達。
上に行けば行くほどレベルが桁違いな人も多かった。
ゲームの世界でもそうだが最初はレベルが上がりやすい。
覚えることも多く、必死だったが徐々にできることも増えていった。
できることが増えると任される仕事も増えていく。
落ち込む時や大変な時もあるけれど、頑張れば自分の能力も上がるし、それに伴った“給料”という報酬も得ることが出来る。
なんて仕事って、社会人って楽しいんだ。
そう思っていた。
ただ、そのレベルはなかなか上がらなくなってくる。
レベルが上がるにつれて、求められる経験値の分母が大きくなってくるからだ。
駆け出しのころに学んだことはできて当たり前、さらに上のパフォーマンスを求められる。
私にもそんな時があった。
いわゆる中堅と言われるようになってきていた頃だ。
自分は毎日与えられた仕事をこなしているつもりだった。
だが中には華々しい活躍をしていく同級生もいたし、認定資格をバンバン取得し自分の武器を増やしていく同級生もいた。
3人入った同期の中でも差がどんどん開いていくことに劣等感を感じたこともあった。
特にこの時の私は認定資格の取得に向けて必死になっていた。
プライベートも投げ捨て、仕事が終わってから勉強会がある日は1時間半かけて移動し、夜遅くまで勉強する日々。
勉強会のない日も職場に残り、電車の時間が許す限り居残って勉強していた。
不合格の通知が来るたびに、もう勉強することは辞めよう、この仕事向いてないから辞めてしまおう。
何度も思った。
最終的には
『4回目で受からなかったら、この認定資格に固執するのはもう辞めよう』
と決めていた、最期の試験も不合格だった。
自分でもう固執しないと決めてはいたものの、最初はなかなか立ち直れなかった。
『私のあの4年、いったい何だったんだろう……』
当時はそう思っていたのだ。
そんな私が、あの4年の努力は無駄ではなかったことを感じたのは、またさらにしばらく時が流れてからだった。
「この科目、めちゃくちゃ嫌いなんです」
学生に言われた一言だった。
臨床検査技師になるためには、学生のうちに病院で臨地実習を受ける必要がある。
その臨地実習で学生の指導を担当することなった。
「ストレートに言うてくれるね」
「はい。でもほんと、この科目嫌いなんですよ」
「ちなみに、どんなところが苦手?」
「とにかく授業が難しすぎて……」
「まぁ、難しい科目でもあるけどね」
「クラスでも欠点じゃないの4,5人ぐらいです」
「へー。ちなみにどんなテキスト使ってるの?」
「これなんですけどね」
と学生に授業の資料を見せてもらった。
「これ教科書の域超えて、認定試験レベルだね」
道理で授業が嫌いになるわけだ。
私が、学生の頃も難しいと思っていた科目ではあった。
大きい声では言えないけれど、こんなに認定試験並みの難しいことを並べられても正直戦意が萎えるだけだ。
『せめて実習の間に苦手意識を克服してもらうようにしよう』
私は、あの時の資料を引っ張り出した。
この部分は抑えてもらいたい部分、この部分はそこまで学生レベルではさらりと流してもいい部分。
そして準備をして学生に指導する。
反応は様々だった。
薄い反応の学生もいた。
有難いことに、
「なんか面白いと思えました」
「卒業してから認定資格の取得、絶対無理そうな気がしてましたけど頑張れそうです」
と嬉しい反応を得られることが多かった。
中には卒業後、実際にその資格を取得して報告しに来てくれた学生もいた。
退職時、私はこの作った資料を後任の方に引き継いだ。
「これ、よく作ったね」
「そんな、たいそれた資料ではないですから」
「僕には正直、どこが大事だとかそういうのわからなかったから、助かるよ」
そう言われた時にはっとした。
あの4年私はなかなかレベルが上がらずもがいていた。
最終的に“資格”という成果を手にすることは無かった。
だが着実に自分の経験値に、血肉にはなっていた。
それ故にどこが学生にとって重要な部分なのか、そこまで力を入れなくてもいい部分なのかを判断することが出来たし、資料も作成することが出来た。
『4年と決めずに、もう少し頑張っていればまた違った仕事人生を送っていたのかな』
今冷静になって思えば、必死になっていたつもりで空回りしたのかもしれない。
もっと効率の良いやり方もあったかもしれない。
とはいえ、経験値を増やすことが出来たのは行動することを止めなかったのが大きかったのだと今は思う。
まるっきり勉強もせず、ただ試験を受けていただけだったらおそらく何も残っていなかっただろう。
少しずつ少しずつでも、やり続けたからこそ確実に経験値は増えていたんだと思う。
RPGもそうだ。
レベルが上がっていくにつれて、経験値は増えづらくなってくる。
なかなか育たない。
思うようにバトルすることが出来ない。
「これが嫌で辞めてしまった」
「ちまちまと地道な作業をしてレベルを上げていくのが苦痛だ」
という意見もある。
仕事はまさにRPGそのものだ。
まず自分で進む道を選ぶことが出来る。
進んだ道が違ったと思えば、途中で変えることも可能だ。
目指すところは人それぞれだが、到達したいところに向かって歩き出す。
レベルが低い最初はできることは少ない。
ちょっとしたことでも大きなダメージを負うことも、瀕死状態のダメージを負うこともある。
一定の領域まで行かないと先に進めないこともあるし、時には“武器”が必要なこともある。
“武器”は簡単に手に入るものもあれば、一定のレベルまで達しないと手にすることができないものもある。
そこまで行くのには地道に自分のレベルを上げていくしかない。
最初はどんどんレベルも上がって行くし、成長していく。
それが楽しくて仕方ない。
道具や裏技を使って効率よく上げることもできるだろう。
だが壁にぶつかる。
自身のレベルが上がるにつれて、ちょっとやそっとの経験値ではなかなか上に上がることはできない。
なかなか上がらないレベルにもどかしく感じることもあるだろう。
楽しいことも、嫌なことも、大変なこともある。
目に見えた“報酬”が得られることも、そうでないこともあるかもしれない。
だが、それだけが全てではない。
進んだからこそ得られるものがある。
“出会い”
“経験”
“血肉”
これはなかなかお金で買えない。
進んで、その領域に達したからこそ見える世界がある。
道は平坦な道ばかりではない。
坂道やでこぼこした道、時には断崖絶壁が聳え立つかもしれない。
そんな難所も経験値があれば乗り切れる。
立ち止まりさえしなければ、乗り越えた先に待つのは新しい世界。
“仕事RPG”を名作にするのも駄作にするのもプレイヤーである自分自身。
私は今までいた医療の世界から足を洗い、コーチングとライティングという新たな2つの“仕事RPG”をプレイし始めた。
最初はちょっとしたことで致命傷になっていたし、迷宮に入って右往左往したこともある。
壁にぶち当たって止まってしまったこともある。
まさに今絶賛攻略中。
最初の頃から比べればレベルが上がってはいる。
とは言え、まだ攻略するまで先は長い。
攻略するのはなかなか大変だが、今の段階でも得られたものはたくさんあるし、見えてくる世界も面白い。
さらに先にはどんな景色が、どんな冒険が、どんな出会いが待っているんだろう。
ワクワクする気持ちは止まらない。
止められないんだ。
だからこそ、仕事って楽しいのかもしれない。
□ライターズプロフィール
小田恵理香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
大阪生まれ大阪育ち。
2022年4月人生を変えるライティングゼミ受講。
2022年10月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に加入。
病院で臨床検査技師として働く傍ら、CBLコーチングスクールでコーチングを学び、コーチとして独立。日々クライアントに寄り添っている。
スノーボードとB‘zをこよなく愛する一児の母でもある。
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