大人も子どもも楽しい心は伝染するし、いい影響しか出ない《週刊READING LIFE Vol.207 仕事って、楽しい!》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2023/3/6/公開
記事:陣(Jin)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
今福祉系の仕事をしている。
それを人前で話すと「大変だよね」と返される。
大変じゃないといえば嘘になる。
なかなか帰らなかったり、ゲームなどの時間を守れていなかったり宿題がなかなか進まなかったりと、支援で大変なことはいくらでもある。
それができれば普通のクラスに入っているのだから、そこをどううまく促せるかが支援員の腕の見せ所なのだが、それがうまく行ったとしても、同じ手が使えるとは限らない。
トライアンドエラーを繰り返し、エラー エラー エラー と続くと、心が折れてしまいそうになる。
一度エラーになるとどれだけトライしてもエラーばかりが続くことがある。
そんな時はなかなか仕事の楽しさを見いだせなくなってしまうのだが、そこで私が好きなアイドルがこんな言葉を言ってくれた。
「どんなに仕事が忙しくてもそこに楽しみを見出していく姿勢は大切だと思う」と。
忙しいのは忙しい。すべて子どもたちのためではあるのだけれど、子どもと関わる以外にも仕事は山積みだ。
でもどんなに忙しくても、楽しさは忘れてはいけないし、こちらが楽しいと思って子どもたちに関われば、もしかしたら子どもも楽しいと思って、いろいろなことがスムーズにできるようになるかもしれない。
子どもだって人格ある1人の人間だ。
そして楽しいことが嫌いな人はまずいないだろう。
それに、なにをするにしても楽しい方がいいに決まっている。
ということである実験を行った。
嫌なことと、楽しいことを組み合わせてみてはどうか?
そして今一番困っている帰るときの切り替えを楽しくしてみようと思う。
その子は一度「嫌」というと地面に根をはやし、てこでも動かなくなる。
体重も重いため、抱き上げられる支援員が限られている。
本日も例のごとくごねだした。さて、どうするか。
そういえば……と、ある本で選択肢を与えたほうが、行動を起こしやすいということを聞いた。
確かに宿題しなさい! と言われるよりも、今宿題して後で思いっきり遊ぶのと、今遊んで宿題を後回しにするのとどっちがいい? と聞かれれば、親としてはどちらを選んだとしても宿題をすることには変わりないし、子どもにとっては、自分で決めたことなので行動しやすくなる。
ということでその子にも選択肢を与えてみた。
陣「帰ろっか」
子「やだ!」
陣「なんで帰りたくないの?」
子「もっと遊びたい」
陣「そっかもっと遊びたいのか……でももう帰らなきゃいけないんだよねぇ……」
子「やだ!」
別の支援員を連れてきて
陣「じゃぁ、この先生と先生と、どっちと一緒に車に行きたい?」
子「?」
陣「どっちがいい?」
子「じー」
……
……
子「こっち!」
陣「よし!じゃぁ一緒に行こう!」
という感じで今回はうまく動いてくれた。
と、その途中で急にうずくまってしまった!
えー! まさかここでもトラップがあったなんて……。なんで座り込んだんだ?
と思ってしまったが、仕方がない、使えるかわからないがもう一度同じ手を使ってみた。
陣「どうしたの?」
子「こっちがいい!」
陣「こっち? (車の中を見て)ああ、仲のいい友達が乗ってるもんね。一緒に帰りたかったの?」
子「うん」
陣「そっか。一緒に帰りたかったのか……そうだよねぇ。一緒に帰りたいよねぇ……」
と声をかけてみた。するとその子は黙ってしまった。
その子は、そうは言ってもその友達とは一緒に帰れないということをわかっているようで、それ以上は一緒に帰りたいとは言わなかった。
少し時間をあける。
そして頃合いを見て、
陣「じゃぁ、どっちの先生がいい?」と尋ねてみた。ちょうどドライバーの支援員が到着したところだったので一緒に手を出してもらうように提案をする。
すると、右、左と顔を動かした後、「こっち!」と言ってドライバーの支援員の手を取った。
その光景に支援員も驚いた様子だった。自分といえば、その子がスムーズに帰っていくのを見送りながら、この仕事の楽しさを見出していた。
これは、行けるぞ。
と思っていたのだが、次来たときに同じことをしてみると、うまくいかなかった。
何故だろうと考えていると、そうか、楽しそうにしていなかったのだ。
こちらが楽しそうにしていれば、子どもたちも乗ってきてくれるのだが、こちらが「これやったら動くでしょう」とマニュアル化してしまって気持ちが乗っていない状態だといくら同じようにやっても全く動かない。
逆に全く違うことでも、楽しささえ心に持っていればスルッと動いてくれる。
こんな事があった。
ある子がテレビゲームをしていた。
時間を決めてしているのだが、タイマーが鳴ってもなかなかやめられない子だ。
その子はいつも時間をオーバーしてしまい、次の子も待っているのになかなか返してくれず、次に待っている子が癇癪を起こしてしまい大変なことになったこともあった。
対策としてはゲームのコントローラーを渡すときに合言葉のように
陣「タイマーが鳴ったら?」
子「終わり」
陣「コントローラーは?」
子「先生に返す」
というようなやり取りをしてから貸し出しているにも関わらず、やっぱり返ってこない。
それが数日続いてしまい、その子だけ貸出禁止にしてみたこともあったが、それは教育としてどうなのだろう……? という話になり、かなり頭を悩ませる一つとなっていた。
そこで、今回は楽しさを心に持ちながらその子と関わってみることにした。
ゲームのタイマーはデジタルのタイマーなので、子どもでもあと何分残っているのか分かる状態になっていた。
タイマーが鳴る数分前にその子に聞いてみる。
「あと何分?」
すると
「あと2分」
と答えてくれた。
そしてタイマーが鳴る。
そこでいつもなら「タイマー鳴ったよー!」
と伝え、コントローラーを返すように交渉するのだが、いつもその子は嫌がって返さない。そして他の子も待ってるという状況も相まって、自分が無理にコントローラーを取ってしまうと、「返してー!」と事業所内に響き渡るような大きな声で叫ぶ。
ということがあったので、今回はちょっと違う方法を試してみようと思う。
今回はタイマーが鳴っても、敢えて何も言わずスルーする。
そしてタイマーを自分で止めてしまって、まだ続けているその子のもとに行き、こう尋ねた。
「あと何分?」
するとその子がタイマーを見せてくれる。
もちろんカウントは終了している。
陣「あ、終わってるねぇ」
子「うん」
その時点でゲームを止めることが出来ている。
陣「どうする?」
子「このコースが終わるまでしたい」
陣「あー。このコースが終わるまでしたいのか……。その気持ちはわかるよ。やりたいんだよね」
子「うん」
陣「でも、タイマー鳴っちゃったね」
子「でも、ここまでやりたいんだよ」
陣「ここまでやりたいのかぁ。やりたい気持ちはわかるけど、他のお友達もゲームしたいって言ってるよ?」
子「これが終わったら返すから」と腕を組み始めた。
自分もとっさにその動作を真似して腕を組みながら
陣「でもそしたら後3分くらいかかっちゃうから、他のお友達よりも長い時間ゲームすることになっちゃうよ?」
等と話しながらその子がする動作を真似しながら話していた。
すると、ふとその子の意識がこちらに向いた。
子「も~真似しないでよ」
陣「え~気づいた? すごいね。面白い動きしてるから真似しちゃった!」
子「も~真似しないでよ~」
とちょっと楽しそうにしていたので、そのまま続けてみると、コントローラーを手放し、その子は真似してもらうために様々なポーズを取り始めた。
その子は体が柔らかく、ヨガのようなポーズまで始めてしまい、「痛い痛い!無理無理!」といいながら真似し続けているとケラケラと楽しそうに笑い始めた。そしてそれとともに動きも大きくなっていっていた。
完全にコントローラーから意識が遠のいているのを感じた。
後ろを振り返ったその隙きを見て、コントローラーを背後に隠し、その子の真似を続けた。
真似されることに夢中になっていたその子はコントローラーがなくなったことに気づかないようで楽しそうに動いてくれていた。
もう大丈夫だろう。
そう思い、ぱっと立ち上がってコントローラーを抱えて元あった場所に戻しに行くと、そこでコントローラーがないことに気づき、「返して~」と追いかけてきた。
だが、今回は楽しいことをしていたからか、楽しそうな「返して」だった。
所定の位置に戻し、次に使いたい子がゲームを始めたが、その子は怒りもせず、むしろ楽しそうに「ねぇ! もっと真似してよ!」と言ってくれた。
そんなに面白かったのか……。と思い、自分が提案した遊びを受け入れてもらえたことが嬉しかったのと、思いの外コントローラーをスムーズに返してもらうことが出来たことが嬉しかったので、ちょっとそれを大人がするにはどうなのかな? という体制はやんわり却下させていただきながら、そのまま真似っこを続けた。
そしてしばらくしてその子は自分で次の活動を決めて切り替えて行くことが出来た。
良かったなぁ……と思っていると、なんとここで終わってはいなかった。
なんとその後タブレットを使う活動を始めた。
こちらもタイマーをセットしてタイマーが鳴ったら終わりというルールを採用しているのだが、なんと、今度は誰からも何も言われなくても自分からタイマーが鳴ったらすぐにやめてすぐ返却することが出来たのだ!
これには周りにいた支援員もびっくりしてその子を褒めまくっていた。
それだけこれはすごい出来事だったのだ。
自分の支援がうまくいったからかどうかは分からないが、少しでもその子のためになったのなら良かったと思う。
そしてその子が帰る直前。
いつもならなかなか帰らないとごねてしまい出発時間から20分立っても帰れないということなんてザラだったのだが、なんと今回は声をかけたらすぐに帰ってしまったのだ。
今日はすごいねー! 頑張ってたねー! お母さんに褒めてもらおうねー! なんて話していると、ふとある支援員が、
「そういえば、今日宿題は?」
と尋ねた。
「あ」という顔をしたその子は支援員の顔をじっと見つめたまま固まってしまった。
……
すべてがうまくいくというわけではない。だが、どんな支援をするにしても、楽しむ心を持って支援していくことで、支援員も子どもも楽しく過ごすことができるということを知った良い出来事となった。今度は宿題にも生かしてみよう。
□ライターズプロフィール
陣(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
福岡県生まれ。名探偵コナン歴は25年になる。コナン検定1級保持者
現在はYoutubeのコナンのゆっくり解説の台本を執筆している。
名探偵コナンで出てくるセリフで何度も命をつないでいる。
ライターとして活動する傍ら子どもと関わる仕事を10年以上している
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