週刊READING LIFE vol.223

長らく忘れていた夢だった研究者にオレはなる《週刊READING LIFE Vol.223 AI時代に、私たちは何を書く?》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/7/10/公開
記事:山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
『SDGsに絡めた3択クイズを作りたいと思います。小学生向けに10問作ってください』
 
SDGsは何を目指しているのでしょうか?a』
『A.世界をもっと楽しくする。B.世界をより良く、公平で持続可能なものにする。C.世界中で最高のビデオゲームを作る』といった感じで、話題のChatGPTに打ち込むと、5分もかからないうちに10問できてしまった。
 
私の所属する会社が創立70周年を迎えるので、社員の家族を招いて盛大にパーティーを行う。レクリエーションの一つがSDGsにまつわるちょっとしたクイズ大会で、豪華な景品を社員とご家族に持ち帰っていただきたいと企画している。一番難しいのはもちろんクイズを10問考えることだ。巻き込まれる形で70周年記念パーティーの実行委員に選ばれた私は、半ば強引にSDGsの3択クイズの問題を考えることになってしまった。
 
クイズの問題を考えるのに、SDGsにまつわる本やWebページを引っ張りながら作成するので1週間はかかってしまうだろう。集中して取り組んでも、丸々1日はかかってしまうと思っていた。
 
それがChatGPTを使って5分で問題ができてしまった。「SDGsの問題を小学生向けに10個考えてください」と、上司の無茶ぶりと同じようにChatGPTの質問文として入力しただけで簡単にできてしまった。あまりにも驚異的な生産性に罪悪感を持ってしまった。
 
ほんの数か月前にChatGPTが登場しあっという間に社会現象となっている。もう数か月もしたら誰もが使いこなし、SDGsのクイズのように1週間考えて完成させていたアイディアももの5分で考えついてしまうだろう。
 
これまで一生懸命考えていたことをAIが担い、仕事が奪われてなくなってしまうこともリアルに想像できる。これからAIに取って代わられる職業に事務職全般(特に経理業務といった)のホワイトカラーがなくなり、弁護士・会計士といった専門職もAI考えてもらうことで、仕事がなくなる可能性も出てくる。事務職で20年働いていた私も決して他人事ではないだろう。

 

 

 

私の20年にわたる社会人生活は何者かに仕事を奪われることとの戦いだった。印刷工場の断裁係としてキャリアをスタートさせたが、要領が悪く仕事が遅い私は上司や先輩から毎日のよう叱られており、自分の果たすべき役割もその日のうちに終わらせることができず、先輩たちに助けてもらってばかりの毎日だった。
 
入社3年目に社内情報システムに異動して新たな業務にチャレンジしても、やはり要領が悪いのは相変わらずだった。上司から学んだことも満足に理解することができず、迷惑をかけることばかりだった。3年目での異動先には新入社員と一緒に必死になって仕事を学んでいたが、先にモノにするのは必ず新入社員の方だった。さらには2年もかけてようやくモノにすることができた印刷物の断裁作業も、私が抜けた後の若手は配属されたと同時にすでに断裁機を手足のように扱っている。私が所属していた2年間がなかったかのように、後輩たちは順調に戦力となっていた。
 
10年目にしてずっと二人三脚で私の指導をしてくださった人生の師ともいえる上司が定年退職を迎え、長年にわたり勤め上げていた社内情報システムの業務が私に引き継がれた。35歳を迎えて私は新米マネージャーとして社内情報システムの責任者に任命されることになった。
 
ところが、新米マネージャーには全国あわせて400人近くいる会社の社内ネットワークを統括するのは荷が重く、大小さまざまなトラブルが毎日のように発生し、「このままあいつに任せて大丈夫なのか?」という声が上がっていた。繁忙期に原因不明のトラブルが発生しついに社員全員の不満が爆発し、そのまま組織を崩壊させたA級戦犯となってしまった。結果として、社内情報システムの管理を外部のシステム会社に外注することになった。
 
外部のシステム会社はその道の知識も経験も豊富で、私の付け焼刃の知識では遠く及ばない。相次ぐトラブルに逃げ出したくなったのは1度や2度ではないが、必死になって師匠から学んだ社内システムのノウハウをそのまま渡してしまうのはかなりの抵抗があった。このまま能力の高い外部の人間に仕事を奪われることに対して、私はふてくされてばかりだったから、当時の上司から別室で叱責を受けた。
 
「お前が居なくても組織はまわる」
 
その言葉をそのまま言い返してやろうと思ったが、無言で睨み返して席を立った。
 
その後私は、追い出されるように印刷工場の総務課に異動し、社内情報システムの業務を外注先と後輩に託して荷物をまとめた。
 
それでも私は残り続けてしまっている。
 
迷惑ばかりかけていた私を厳しくも温かく指導してくださった上司や先輩たち、私が苦労して学んだことも何事もなかったかのように簡単に仕事を覚える後輩、社内情報システムのマネージャーとなったのにいとも簡単に私から仕事を奪った専門の外注先、私の20年間は「何かに仕事を奪われる」こととずっと戦い続けていた。とにかく目の前の仕事に対して期待に応えようとがむしゃらだった。上席の先輩に優秀な後輩、専門分野のプロである外注先だろうが、その目の前の仕事に対してその者たちを押しのけてでも期待に応えようとしていたはずだ。

 

 

 

つい最近出てきたChatGPTをはじめとしたAIの発達は目覚ましく、私が無い知恵を絞りだしながら時間をかけて考えていたこともものの5分で回答を出してしまう。AIは「疲れない・文句を言わない・ミスをしない」ので、私よりもよっぽど優秀だ。唯一勝っていたのが経験し学習することだが、それもChatGPTが登場したら白旗を揚げざるを得ない。こうして平凡なサラリーマンの存在意義が奪われていくのも残念ながら認めざるを得ない。
 
WEB・ITの発達もAIの登場にしても仕事を奪い取る人類の敵なのか?
 
決してそんなことはない、すべては人類の発展のために生まれた技術のたまものであり、よりよい未来のために産み出されたものである。インターネットが世の中に誕生して30年余りとなるが、WEB・ITの進化によって人類の生活様式が大きく変わり、新しいライフスタイルを手に入れることができた。
 
そして、ChatGPTをはじめとしたAIの登場により様々な技術の発展が期待され、仕事を奪う敵ではなく人類の発展のパートナーとなりうる存在のはずだ。

 

 

 

そんなAI時代に私はどう生きるのか?
 
AIの能力を認めとことん付き合いながら、子供のころに描きいつの間にか諦め、忘れかけていた夢を追いかけ続けてみようか。
 
子供のころに描いた夢はいつだって白衣に身を包んだ博士であった。かつてのヒーローは野口英世で遠いアフリカの地で黄熱病の研究に邁進しながらも、研究に前のめりになって死んでいった生きざまに、子供ながらに強く憧れた。野口英世の命がけの研究により、多くの結核の患者の命を救い、医療の発展に大きく貢献した。野口英世だけではなく、様々な病に対する研究に邁進し医療の発展に貢献してきた科学者たちの功績を見聞きするたびに、目頭が熱くなっていた。
 
中学高校時代の将来の夢は常に研究者であり、食品工学を専門とする大学に進学した。医療に関わる学部ではなかったが、何かを深く学び小さくても科学の発展に貢献することができる研究者になりたいと願い、夢に向けてのスタートラインに立つことができた。
 
ところが大学院への進学をあきらめ、ずっと憧れていた研究者への道に進むことはなかった。4年間の大学生活で勉学に励むことなくダラダラと過ごしたことで、いざ卒業研究となったときには目の前の取り組みから目をそらして、ただ卒業するための研究をしていた。さらには、研究者になるチャンスは目の前に確実にあったにもかかわらず、周りに流されるような形で就職活動をしたこと。そうしたことで無意識のうちに目の前の研究から逃げてしまった。それでも私の研究テーマを1年かけて修了し、ほんのわずかでも食品工学の研究に携わることができたことの喜びも感じることができた。その後の全くの畑違いの仕事で20年勤め上げたことは誇りであるが、夢だった研究者として研究に関わることができなくなったことにわずかばかりの後悔もある。
 
かつてあこがれ続けた研究を始めることはできなかったのだろうか?
 
もちろん、社会人入試のような形で大学に入りなおすことも不可能ではないだろうし、いろいろな本やWEBを活用しながら独自に学ぶことだってできたはず。行動しない理由はいくらでも並び立てることはできるが、憧れである研究者の道から目をそらし、いつの間にかきれいに忘れ去られてしまった。
 
当たり前のように今の職場で働き続け、目の前の快楽に流されるように生きていくことだろう。そんな時代がずっと続くと考えていた。

 

 

 

ChatGPTが登場し本格的にAI時代が到来し、その凄さを実感することになる。何しろ古今東西のありとあらゆる情報が蓄積されて、どんな課題も瞬時に解答される。
 
私が何かの研究者になっても、必要な文献を探し出して読み込まなくてはならないし、必要な情報を理解するための知識も必要となるだろう。膨大な書籍やWEBを駆使して独自に研究することも不可能ではないが、ちょっとした困難から目を逸らした人間が行うのは現実的ではないだろう。
 
それがAI時代になるとどうだ。実際にChatGPTに触れて、興味関心が刺激され続けているうちに眠っている才能が目覚める予感がした。
 
これまでできなかったことができるようになり、学びを深めることもできる。もう何年も忘れかけていた研究者の夢もうっすらと見えてきた。
 
かつて思い描いていた夢をもう一度チャレンジしてみようではないか!!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2022年10月よりライターズ倶楽部に復帰、早いもので通算4期目の参加となる。
5000文字の射程を手に入れ自分オリジナルの文章を求めている。
今年一年で私はどんなライターになるのか、未知ではあるが楽しみでもある

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2023-07-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.223

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