週刊READING LIFE vol.223

40代女性が充実した毎日を過ごす方法−劣等感に悩んでいた私の場合《週刊READING LIFE Vol.223 AI時代に、私たちは何を書く?》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/7/10/公開
記事:鈴村文子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
今までの人生で、人に誇れるようなものなんて、一つもなかった。
子供の頃からずっと、他の人より劣っていると感じていた。このまま、劣等感を持ち続けたまま、人生を過ごしていくのだろうと、なんとなく思っていた。
 
ところが、40代に入ってからの私は、意外なことに、充実感のある生活を送っている。身体的な衰えは、もちろん感じている。顔のシミ、しわ、たるみや、ぽっこりお腹など、鏡を見るたびに、若くはないな、と思うし、以前と同じように眠っているつもりでも、疲れが取れない。仕事中に、小さな文字が読みづらいと感じることも、しょっちゅうだ。それでも、精神的な面での充実のおかげで、身体的な衰えを、「まあ、40歳も超えたし、仕方ないよね」というくらいの気持ちで、受け入れることができている。昔の私だったら、そんなふうに思うことはできなかっただろう。きっと鏡を見ながら、「もう40歳を超えてしまった……。ああ、こんなところにシミが……」なんて、ため息をつきながら、言っていたかもしれない。
 
そんな私に、身体的な衰えを受け入れることができるほどの精神的な充実をもたらしてくれているのは、ここ数年で、私が経験してきた一連の出来事である。一般的に、人が身体的な衰えを感じ始めると言われている40代に入る頃から、私は、新しいことにチャレンジすることを決めた。そのおかげで、私は今、とても充実しているのだ。
 
と言っても、もともとの私は、新しいことにチャレンジするような、積極的な性格ではなかった。子供の頃から、背が低く、足が遅い。運動もできない。そんなふうに生まれついた自分が嫌だった。背が低いことで、年下の子からバカにされたこともあって、それでも気が弱い私は何にも言い返すことができず、悔しい思いを何度もしてきた。大人になるにつれて、そういったことはなくなったものの、今度は私の気にしすぎの性格が災いして、人との雑談が苦手になってしまった。仕事以外では、人と何を話せばいいのか、わからないのだ。エレベーターで同僚と2人きりになったときなど、いつも困っている。子供のいる人同士なら、子供の話が共通点になるけれども、私には子供がいない。子供がいないことも、私には大きな劣等感の一つだった。比較的早くに結婚したため、私より後に結婚した女性が、次々と子供を産んでいくのを見聞きしては、虚しい気持ちを感じずにはいられなかった。仕事だって、そんなにできるわけではない。毎日、与えられた仕事を必死でこなしているだけだ。それなのに、1日、会社で働いて帰ってくると、ぐったりとしてしまう。私は、睡眠時間が人よりも多く必要なので、家に帰ってきてから、寝るまでの間に、ゆっくりできる時間なんて、ほとんどない。夕食は、夫が作ってくれる時もあるのにもかかわらずだ。家事もしっかりこなしてくれる夫と2人暮らしなのに、こんなにも、時間にも、心にも余裕がなくて、情けない。子供がいる人の生活はもっと大変だろうに、私は子供もいないのに、こんなに毎日必死なんて、と思うと、自分が劣っているような気がしてならなかった。そして、こんなに余裕がないのだから、何か新しいことを始めるなんて、絶対に無理だと、そう、ずっと思っていたのだった。
 
それが大きく変わったのは、数年前、夫の従姉妹が亡くなったことが、きっかけだった。私より3歳ほど年上だった。夫の実家は、毎年、お盆とお正月に親戚がたくさん集まって、にぎやかに過ごしていた。子供がいる人は子供がいる人同士、子供の面倒を見ながら、何やら楽しそうに話しているし、夫は久しぶりに会う甥っ子や姪っ子と遊んでいる。もともと社交的でなく、子供もいない私は、1人でポツンとしていたところに、この従姉妹が、話しかけてくれたのだった。従姉妹は子供も中学生くらいだったから、面倒を見る必要はなかったのだろう。それでも、他にもたくさん人がいる中で、あえて、1人でいる私に話しかけてくれたのだ。私はそれがすごく嬉しかった。そんな、優しかった従姉妹が亡くなったのだ。
 
ここ数年、コロナ禍で、夫の親戚の集まりはずっと中止されていたので、最近はお会いしていなかった。義母から、体調が良くないとは、聞いていたけれども、まさか、亡くなるなんて、思いもしないことだった。私と、そんなに年も変わらないのに。人生は、何が起こるかわからない。自分が思っているよりも、人生は短いのかもしれない。そう思ったとき、子供の頃から持っていた自分の体に対しての劣等感や、体力の無さ、社交性の無さ、そして、子供がいないことも、もう、気にしなくていいのではないか。子供がいないから、人との会話ができないとか、体力がないから、きっとできないとか、そんなふうに、心の中で言い訳しないで、やりたいと思ったことがあれば、どんどんチャレンジしていこう、そう心に誓ったのだった。
 
まず最初に、数年間、ずっと参加したかった秘めフォトに、参加することにした。秘めフォトとは、天狼院書店が開催している、下着姿の、ほぼ裸の写真を撮ってもらうという、女性限定のイベントだ。あるテレビ番組で、このイベントのことを知った私は、気になってはいたものの、自分のほぼ裸の写真を撮ってもらうことに、どうしても抵抗があって、なかなか参加できずにいたのだ。でも、ずっとやりたかったのだから、と勇気を出して、参加を決めた。
 
そもそも私は、自分の体にまったく自信がない。もっとも、モデルさんでもない限り、自分の体に自信がある女性なんて、あまりいないかもしれないけれど、私の場合は、少し事情が違う。スタイルがどうこう、という問題ではなく、子供がいないということで、女性としての自信がないのだ。温泉地などで大浴場に入るときも、子供の面倒を見ながら入っているママを見ると、一人前の女性なんだな、それに比べて私は……、と、自分の体を見ながら、つい思ってしまうのだ。
 
秘めフォトのときも、初めは、裸になることが本当に恥ずかしかった。それでも、他の参加者の方から、可愛い! きれい! などと言われながら、カメラマンの指示にしたがって、ポーズを決めているうちに、だんだんと自信が湧いてきたのだ。そして、子供のいない自分の体を、一人前でないと責めるのはやめて、もう、許してもいいんじゃないか、と思ったのだ。
 
結婚してから、子供がいないことは、大きな劣等感だった。秘めフォトに参加してからは、この劣等感を感じることが少なくなったと感じている。子供がいようがいまいが、私は私なのだ。他の人と比べなくたっていい。そう思えるようになった。
 
大きな劣等感が取り除かれると、また新しいことにチャレンジしてみたくなった。次にチャレンジしたのは、ランニングだ。私は、走ることが小学生の時から苦手で、校庭を何周かする、体育の持久走の時間が苦痛で仕方がなかった。いつも周回遅れになってしまい、走ること自体も苦しいし、もう走り終わったクラスメイトから、まだ走ってる、という目で見られるのが本当に嫌だった。
 
そんな私なのに、テレビで、ホノルルマラソンを走っている芸能人が、とても楽しそうだったのを見て、私も、あんなふうに走ってみたいと思ってしまったのだ。ただ、自分の身の程はよくわかっていたので、誰にも言わずに、心の中だけに、留めていた。
 
でも、やりたいことにはチャレンジする、と決めた私は、夫に、「ホノルルマラソンに出てみたい」と言った。すると夫は、自分も一緒に出る、と言い出したのだ。そして、スマホを見ながら、「ホノルルには、ハーフマラソンもあるみたいだよ。まずは、ハーフマラソンを目指そう」と言い、「最初が肝心だから、ちゃんとした先生に、ランニングを習おう」とも言った。私は、戸惑った。夫が一緒に出てくれるのは、心強い。ハーフマラソンのこともよい情報だ。でも、先生に習う、だって? 私は、自分で練習しながら、少しずつ走れるようになればいいかな、と思っていたのだ。先生に習うなんて本格的すぎやしないか。夫にそう言うと、「走るの苦手でしょ? それなら、なおさら、基本から習ったほうがいいよ」と言って、ランニングを教えてくれる先生を調べ出した。ものの数分で、良さそうな先生を見つけ出して、レッスンの日付まで、決めてしまった。私が、ホノルルマラソンに出たいと言い出してから30分くらいだったろうか。あっという間に、先生からランニングを教わることが決まってしまった。
 
それからレッスンの日までは、ランニング用品を揃えるので大忙しだった。私は、街歩き用のスニーカーで走ろうと思っていたくらい無知だったので、まずはランニングをするのに必要な服装や道具を調べるところから始めた。今までまったく縁のなかったスポーツ用品店で、ランニングウェアを試着した自分の姿を見た私は、格好だけは一人前だけど、本当に走れるようになるのかな、と不安でいっぱいだった。ランニング用品一式だけでも結構値が張ったし、先生にも教わるけれど、ハーフマラソンを走れるようになるまで、続けることができるだろうか。そんな気持ちで、先生のレッスンの日を迎えた。
 
レッスンの場所は、多くのランナーが集まる皇居だった。皇居1周5km。レッスンの最後に、皇居を1周走るという。それを先生から聞いたとき、無理だろうな、と思ったし、案の定、1kmも走ることができなかった。先生に、「どれくらい練習したら5km走れるようになりますか?」と聞いたら、「初めは、続けて走れなくてもいいです。3分走ったら3分走るを何度か繰り返して、少しずつ、走る距離を伸ばしてください。練習は、週に1回でいいです。そうしたら、半年くらいで5km、走れるようになりますよ」と教えてくれた。その言葉通り、週に1度を練習は欠かさずおこなって、とうとう半年で5km走れるようになったのだ!
 
自信をつけた私は、7kmコースが設定されたマラソン大会に出ることにした。ところが、初めての大会をとても楽しみにして、練習にも熱が入ってきた頃、私は、足を捻挫してしまったのだ。ランニングの練習中ではなく、会社の中を歩いているときだった。もう、走るどころか、歩くのもやっとになってしまった。松葉杖生活になり、あまりにゆっくりしか歩けないため、電車通勤が無理だったので、会社にはタクシーで通っていた。医者からは6〜8週間で治ると言われていたので、それまでの我慢かと思っていたが、8週間を過ぎても、一向に治る気配がなかった。ずっと片足を引きずるように歩いていた。そんな私を見て、夫は、怠けているから、治らないのだと言い放ち、冷たい視線を送ってきた。結婚して以来、家事もこなして、走るのが苦手な私に付き合って練習してくれる優しい夫の冷たい態度が、私には、とても辛くてたまらなかった。この気持ちをなんとかして吐き出したいと、思っていたところで思い出したのが、天狼院書店のライティング・ゼミである。ずっと気になっていたが、週に1回、2000文字の課題提出があるということで二の足を踏んでいた。だが、それ以上に、自分の辛い気持ちを吐き出したいという思いの方が強くて、とうとうチャレンジすることにしたのだ。
 
確かに毎週の2000文字の課題提出は大変だった。ネタを探すのも一苦労。書くのも一苦労。それでも、ネタ探しのために、自分の過去を振り返って、掘り下げて考えることで、自分の心に溜まっていた悪いものを、出すことができるような気がした。そして、文章という形でアウトプットすることで、少しずつではあるが、自分の考えを他の人に伝えることに自信が持てるようになってきた。
 
捻挫から始まった私の文章修行だが、今から思えば、「文章を書く」ことを始められて、本当に良かった。会話のように、スピード感のある場では、なかなか自分の考えをまとめられない私だが、ある程度時間をかけることができる文章では、自分の考えをまとめることができるからだ。そして、その考えが伝わって、共感してもらえるのなら、これほど嬉しいことはない。
 
劣等感にずっと悩まされてきた私だが、秘めフォトを皮切りに、ランニングと、文章を書くことを始めることができた。40代から、新しいことにチャレンジできた、ということが、私に自信をもたらしてくれている。これから身体的な不調を感じることもあるかもしれないが、この自信があれば、きっと乗り越えることができると信じている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
鈴村文子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2022年12月から天狼院書店ライティング・ゼミを受講。2023年4月よりライターズ倶楽部に参加。人に伝わる文章を書くことが目標。

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2023-07-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.223

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