週刊READING LIFE vol.224

強い願望と努力の果てに手に入れたものは自信と成長だった《週刊READING LIFE Vol.224 「家族」が変わった瞬間》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/7/24/公開
記事:飯髙裕子(新・ライターズ俱楽部)
 
 
くっきりとラインの入った大きな目の二重瞼。
 
こんな目に憧れる人はどれくらいいるだろうか?
かくいう私も、この二重瞼に小さい頃から憧れていた。
 
母と妹は、くっきりとした二重なのに私はと言えば、そのラインすらよくわからない奥二重だったからだ。
父方に似た自分のことを思うと、ため息が出た。
しかし、持って生まれたものは仕方がない。まさか整形するわけにもいかないし……。
 
顔を変えるということへの恐怖や高い料金のことを思うと、そんな勇気を到底持ち合わせてはいなかった。
当然のことながら、私の娘もやはり奥二重であった。
遺伝というのは恐ろしいくらい親の特徴を受け継ぐものだと思い知る。
 
小さい頃は特に気にしていなかった娘もお年頃になって、自分の顔立ちが気になり始めたようであった。
 
高校に入ると、どこから情報を仕入れてきたのか、瞼に細いシールを張って疑似二重を作ることを始めた。
おそらく中学を卒業したら、服装や髪形にあまりうるさくなくなるということを友達と話していたのか、今までの友達と離れ離れになるから、目元が変わってもそれほどわからないと思ったのかそこは定かではない。
 
けれど、高校に通い始めたその日から、彼女は、一日も欠かさずアイプチなる二重を作る道具で、二重瞼の目元を作り上げた。
元々めんどくさがり屋の私から見ると、朝の忙しい時間に二重を作る作業は、尊敬に値した。
 
そんな時間さえも、私なら寝ていたかったからだ。
だが、娘は、せっせと毎朝その作業にいそしんでいた。
確かに、奥二重と二重では、目元の印象はかなり違う。
 
少し狐目の娘は、そのままだと、怖い印象に見られることも二重にする理由の一つだったのかもしれない。
 
人間の瞼とは、体の中でも最も薄い皮膚らしい。
一重瞼と、奥二重、そして二重瞼の三種類が一般的に見られる瞼の種類である。
 
その構造の違いは何なのか? 薄い瞼が目を開けたときにグイっと引っ張られて目が見えるのは、瞼についている眼瞼挙筋と、ミュラー筋という筋肉が重要な役割を果たしている。
 
複雑な筋肉の動きで、できる一重瞼や奥二重、二重瞼は布団を折りたたむのとよく似ている。
一重瞼は、布団を伸ばしてある状態。折り目は見えずまっすぐな状態だ。
奥二重は、二つ折りにした布団。重なった布団の境界線が少し見える。
そして二重は、三つ折りにした布団である。布団の折り目がはっきりと見えている。
どうして、このような違いが出るのかは、個人の瞼の作りによってそれぞれ違うので、いろいろな理由があるようだ。
遺伝的要素や、瞼の脂肪の量、そして、瞼を引き上げる筋肉の位置など……。
 
おそらく人の数だけ、その作りには種類があるのかもしれない。
そのくらい個人差があるので、二重瞼にするテープを張ったからと言って、それがずっと続くわけではない。
それを外してしまえば、また元通りの瞼に戻ってしまう。
 
娘が疑似二重を作り始めた時、私は、一生それをやり続けるのは大変だろうなぁと、ふと思い、奥二重の自分を含めて欲しいものを手に入れるのはなかなか大変だという気がしたことを覚えている。
 
 
けれど、毎日やっているうちに、娘の動作はどんどん早くなり、半年もするとものの数十秒で、仕上げるという完全なルーティンになっていった。
目元の印象も、まるで、生まれたときからそうだったかのように見慣れたものになり、奥二重のほうがなんだか違和感のある感じさえしてきたのだった。
 
本人はと言えば、よほど二重になりたかったのか毎日意気揚々としてその作業を行っていた。
人によっては、かぶれたり何か皮膚の異常を起こす人もいるらしいが幸いにも娘はそういうこともなかった。
そして高校を卒業するころ、朝起きても、瞼が奥二重に戻らず、二重のままということが増えてきた。
 
高校を卒業して、大学に行くときには、もう二重瞼を作るテープを使う必要がなくなっていた。
なんと、娘の瞼は、3年間のルーティンで、完全に二重の折り目がしっかりと定着したのであった。
 
これには私も驚いた。
毎日テープや密着する液体などで、二重を作っていても、必ずしも、その癖がついて、二重になるとは限らないし、そういうきちんとしたデータが存在するというのも聞いたことはなかったからだ。
 
ただ、奥二重という形は、瞼の折り込み方が少し浅いという構造を考えると、条件が合えば、二重になることも0ではないのかなと思えた。
よくある二重瞼の整形をする医師のコメントなどでうまく折り目の癖がつくことがあるというのを見たことがある。
まあ、ほんとかウソか調べる術もなかったが……。
 
しかし、それを裏付けたのは、私自身の目元の変化があったからかもしれない。
実は年齢を重ね、瞼の脂肪が少なくなったのか、知らない間に私の瞼は二重に変わっていたからだった。
これもまた、親子で、同じような体質だったのだろうか?
 
晴れて二重になった娘は、なんだかキラキラして自信がついたように見えた。
自分の好きなメイクをして、出かけるのもなんだか楽しそうだった。
自分がやりたいと思ったり、こうなりたいと思っても必ずそれが実現するとは限らない。
 
けれど、コツコツと努力したことが報われた時、人は自分に自信を持つ。やってよかったという想いと、努力が報われるという喜びとが相乗効果をもたらすのかもしれない。
 
それと相反する失敗というのもまたとても大切な経験の一つになる。
そこそこ何でも器用にこなして、あまり失敗のない人生を送っていると、大きな失敗をしたときにそのショックから立ち直れなかったりする時が誰にもあるだろうと思う。
 
娘もそんなタイプで、小学生くらいの頃、少し心配だった。
だからあえて、私が何でも先回りして、うまくいくようなことはせずにおこうと思っていた。
 
しかし、そんな心配は無用だと、思えた出来事が、小学校の3年の時にあった。
 
 
運動会の借り物競争の時だった。
ちょうどお昼の後の時間帯で、私はそれを見逃してしまったのだが、どうも担任の先生の話では、娘はうまくできなくて順位がビリになってしまったらしかった。
それまで、なんでもそつなくこなし、競争でもあまり負けるということを知らなかった娘はよほど悔しかったのだろう。
担任の先生の前で涙をこぼしたという。
私にはその時何も言わなかった娘の心の中を見たようで、はっとしたのだった。
でも、それはとてもいい経験をしたなと実はすごくほっとしたほうが大きかった。
 
子供は親がいないところで、いろいろな経験をする。
そしてそこで感動したり失望したり様々な感情を学んでいくのだ。
だから、失敗と成功はセットでいつでも経験してほしいと思っている。
 
 
そうやって成長した娘が、二重瞼を手に入れたのは、間違いなく彼女が自分で選んで、努力して手に入れたものだった。
もしかしたら、これは手に入らないという結果に終わったかもしれない。それでも、その時に娘はきっと落胆したりせず、その時にできる最善の方法を選ぶことができたはずである。
それは別にどんなことでもよかった。
 
娘が自分で納得いくまで、試行錯誤して、いろいろ試せることなら何でもよかったのだ。
この時以来、娘は、なんだか一回り大きくなったように私には見えたのだった。
 
親に頼って保護されている子供から、自分の足で、しっかりと歩いていく少し大人な娘に変わったのが感じられた。
 
私との会話が子供との会話ではなく、同じ目線で、ものを見る信頼できるものに変わったのかなという感じがした。
 
あれから、もうずいぶん時がたち、そんな娘も結婚して、新しい家庭を持っている。
相変わらず、二重瞼はしっかりと定着して、満足しているようである。
 
私とはよく話もするし、時々出かけたりもする。
 
そんな私たちは、実はあまり似ていない顔立ちだと思っていた。
小さい頃から、あまり似ていると言われたことがなかったからだ。
 
けれど、私の中学の時の学生証の写真が、実家を片付けていた時にどこからか出てきて、それを見たときに娘の中学の学生証とそっくりで、苦笑したことがあった。
二人とも奥二重の何となくぼんやりとした目元まで、そっくりであった。
 
そして、結婚式の時に並んで撮ったツーショットは、二人ともくっきりとした二重の笑顔で、これまた似ていることにまた驚いたのであった。
 
 
娘が変わったと思ったあの時、実は私自身も変わっていたのかなと、ふと思うのだ。
人が変わるときというのは、周りの人のその人を見る目もまた変わるものである。
多分、ずっと娘を見てきた私の中で、それまでの娘に対する気持ちが娘の変化とともに変わったのだろうと思う。
それは、彼女の成長を嬉しく思う母親としての自分から、同じ大人の女性として、そして自分の足で歩いていける人間として、対等の立場に立ったなという実感だったかもしれない。
今までもこれからも、私たちはずっと母と娘ではあるけれど、一人の女性としてもまた深くかかわっていく関係なのである。
 
この先、また娘が変わる瞬間を私は目にすることができるだろうか、いや、きっと、またそんな場面に出会うような気がしてならないのだ。
どんなことで、それを目にすることができるのか、楽しみで仕方がない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
飯髙裕子(新ライターズ俱楽部):2022年からライターズ倶楽部に参加。

心と体の関連に興味があり、腸内環境を整え、心が豊かになるスイーツのレシピを研究中。実際作ったスイーツは、食べた人たちの感想をもとに商品化の準備中。
グルテンフリーで、体に優しいスイーツを目指している。

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2023-07-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.224

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