週刊READING LIFE vol.226

私の居場所はどこにある《週刊READING LIFE Vol.226 私の居場所》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/8/7/公開
記事:森下暢子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私の居場所はどこだろう。
そんな自分探しをしていたのは、いつの頃だっただろうか。
思えば、人見知りをしていた気がする。
 
自分から人に「入れて」と言えなくて、
仲間が声を掛けてくれるのを、そっと遠くから見守っていた気がする。
誰かが声を掛けてくれたらいいな。
でも、そんな勇気は持ち合わせていない。
 
初めて居場所を作ってくれたのは、小学校の同級生だった。
 
休み時間、中庭でゴム跳びをする仲間がうらやましくて、中庭の隅でそっと見守っていた。
幼稚園も保育園も違う仲間に、自分から入る勇気がなかったのだ。
毎放課になると、元気よく響くクラスの仲間の声を耳にしながら、声の掛け方も分からずに見守っていたような小学2年生だった。
 
「あれ? おかしいな」
母はそんな私の気配を感じたのだろうか。
「何かあった?」と当時の私に尋ねたようだ。
大人しく、手がかからず、ほぼ日替わりで図書室の本を借りては、弟や母に見せていた私だった。
読み聞かせをしてくれた母に、借りてきた本を見せるのが嬉しくて、
そして自分の居場所を探して、学校の図書室の開館時間には、いつも足を運んでいた。
小学2年生なりに、自分で居場所を作っているつもりだったのかもしれない。
でも、人の輪の中ではあまり、解決にはならない方法だったのかもしれない。
 
「入れてって言ってみたら」
母は私にそう助言をしたようだった。
私が翌日、仲間にどう声を掛けていたかは分からない。
しかし、気がつけば、その後高学年になるまで、毎放課外に遊びに行くような小学生になっていた。
母の話では、無事に声を掛けた私は、
ゴム跳びをしていた仲間の女の子から「暢子ちゃんが声を掛けてくれるなんて!」
と言われ、晴れて仲間に入れてもらっていたようだ。
人見知りの自分を変えてくれた、クラスの仲間には、とても感謝している。
 
小学校は、仲間作りの連続だ。
クラスという集団、登下校の分団。
グループ活動や当番活動。
学年が上がると、委員会やクラブ活動、
林間学校や修学旅行などの宿泊学習のためのグループ分けもある。
遊び仲間や塾や習い事の仲間。
それぞれ何か接点のある者同士が、仲間になっていく。
 
グループ分けという言葉は、いつでも緊張する。
何か接点のある人はいないか。
自分がはばにされないか。
もしも残ったらどうしよう。
放課に遊ぶ仲間はできても、私はそんな緊張感がどこかぬぐえなかった。
 
ゲーム機や漫画、テレビに縁の少ない家庭で育った自分は、時代の流行りについていくことが苦手だった。
バラエティーよりニュース番組、
友達と遊ぶ時には、相手のお家や遊ぶ相手をよく考えて、言葉遣いは丁寧に。
服は落ち着いた物を。
発言は良く考えて。悪口や噂などもっての他。
お小遣いはもちろん、必要な物がある時だけ。
芸能人のことも、漫画の話も歌番組も、決して嫌いな訳じゃない。
でも、接点がなかったのだ。
 
同級生はテレビの話で盛り上がっている。
クラスの女の子は、りぼんやちゃおなど、毎月連載される雑誌の漫画の話が好きそうだ。
絵が上手な子だっている。
可愛い服や文房具を持っている子もいる。
「昨日◯◯見た?」
そんな会話にはもちろんついて行ける訳がない。
両親が厳しい訳ではなかったが、どちらかと言えばきちっとした家で育ったように思う。
気軽に日常の話題でのびのびと話を楽しんでいる仲間が、羨ましかった。
「真面目」「大人っぽい」「生きた化石」いつの間にか、そんなあだ名もついていた気がする。
 
仲間に自分が入るにはどうしたらいいか。
元々話を聞くことは嫌いではなかったが、話題を作ったり、クラスの中心になるような、仲間の輪を広げたりすることは苦手だった。
一方で、チャレンジ精神も旺盛だった。
私は自分の役割を作ろうと、一生懸命になった。
嫌われる前に、自分から居場所を作ろう。
虚しい気持ちになるくらいなら、自分が人を大事にしたらいい。
学級委員、実行委員、班長、委員長、クラブ長など。
自分が楽しく活動できたり、運良く色々と仕事を任せてもらえたことももちろん大きかったが、
自分が楽しそうと思う「◯◯長」「◯◯委員」の活動にはとにかく積極的に参加をした。
 
「リーダー」の仕事は、楽しいだけではない。
時には、仲間の調整役や、みんなが気持ち良く過ごすために、
自分が進んでできる立ち位置や役割も考えなくてはならない。
クラスの中で「どんな立ち位置?」と聞かれたら、できるだけ中立であろうとしていた。
誰とでも平等に。
争わず、否定せず。でも、自分の意見はあくまで他の人の話を聞いてから。
我慢強い子だったようにも思う。
でも、それが自分にできる役割だと思っていた。
 
グループ分けなんて、なくなればいい。
中学になっても高校になっても、私はそう考えていた。
折々に、仲のよい友達ができない訳ではなかったが、
どうしても人の仲間に入りづらいという気持ちは、学年が変わっても、学校が変わっても、ぬぐいきれなかった。
過去には、優良児童の表彰もいただいた。
中学では、生徒会役員も経験させてもらった。
人が仲間外れにならないために、全体に目を配ることも、
学生生活の中でたくさん経験させていただいた。
でも、本音は、自分に親しい友達がいないという実感がぬぐえなかった。
 
友達は自分から作るものだというものを、過去に学んだ私だった。
しかし、生活の中での小さな共通点がなかなか見つけられない私は、
どこか疎外感がいつも心の片隅にあった。
「暢子ちゃん、一緒にやろう」という言葉をどこかに期待しながら、
そんな仲間はいないだろうな。
あの子とあの子は仲がいいだろうな。
今度のグループ分け、どうしようかな。
きっとあの辺りはくっつくだろうし……
自分から声を掛けて、微妙な空気になるのも嫌だ。
入れてもらっている感覚なんて、一瞬たりとも感じたくない。
疎外感など耐えられなかった。
グループ分けなんてなくなればいい。
修学旅行もチーム分けも、みんなみんなくじ引きで決まればいいのに。
誰かに嫌われた分けでも、いじめられている訳でも何でもなかったが、
自分をこじらせている時は、どうにもならないものだ。
 
一度こじらせた自分を、仲間の輪に入れることはなかなか大変だと感じる。
「生きた化石」は「ガラパゴス」と呼ばれ、何となく仲間と話が合わないまま、大人になった。
高校を過ぎた辺りから、お小遣いをもらえるようになり、
大学になってから初めて携帯を持たせてもらえた。
入りたい大学にはご縁がなく、憧れていたサークル活動も、ゼミの熱い討議を交わすような学びもできずに、
ボランティアと家庭教師をしながら、健全ともいえる学生生活を過ごした。
芸能や流行りのものには相変わらず知識はうとかったが、自分の行動範囲が少し広がるにつれ、
自分の好きな物が段々身近に感じられるようになってきた。
雑談の中で、折々に周りの仲間や先輩と話が合わない自分は、やはりどこか心苦しく感じたが、
少しずつ自分の居場所を探し始めた。
 
肩肘を張らなくても、過ごせる場所。
私が本当に好きな物。
私らしくいられる場所。
私の仲間がいたらいいな。
自分が仲間を大切に思う気持ちだけでなく、
心が繋がる親しい人ができたらいいな。
恋人でなくていい。
私が私でいられる場所。
まずは、自分の思いを大事にしよう。
そんな気持ちで、自分の好きなことをたくさんすることにした。
 
初めて自分を見つけたのは、就職2年目。
占い好きな私が、本当に当たると評判の占い師さんにしっかり見ていただこうと、
仕事帰りに占ってもらったことがきっかけだ。
「旅行が向いてます」
「一人旅はどうですか」
「東に出掛けるといいですよ」
「3泊4日以上がいいですね」
「人生が変わりますよ」
仕事に変化が起きる方位らしかった。
仕事に限らず、旅で人生が変わるならと、私はすぐさま旅行を計画した。
もちろん、1人旅など初めてである。
仕事を初めて、1時間早引きした。
思い立ったら行動。
人付き合いこそ様子見をする自分だったが、物事を決めるときには、
自分で迷わない所もあった。
 
「1人旅?!」
「3泊4日も何するの?」
「女性が1人で宿泊するなんてとんでもない。変わり者だ」
そんな言葉も身内から聞こえてきたが、
思いきって旅に出掛けた。
熱海と湯河原、箱根の旅だった。
 
時間の使い方も、行き先もとにかく自由。
決まっているのは宿の場所だけだ。
知り合いなんてもちろんいない。
何もかもが自分任せで、自分が思ったことがそのまま行動につながる時間だった。
「こんな時間の過ごし方があるんだ……」
そして、何と気持ちのよい新鮮な時間なのだろう。
食べるものも、見るものも、全て自分が自分のために考えることばかり。
気兼ねをしない自分を初めて見つけたような気がした。
そして、そんな自分が少し好きになれたような気がした。
 
「好きなものは自分を元気にしてくれる」
ある占いの本に、自分を探すためのキーワードがかかれていた記憶があるが、
その後も自分の好きなものを少しずつ確かめていった。
大好きな占いの本をたくさん買って、自分が占われる側から占う側になり、
職場では、同僚や先輩方に連れられて、ご飯やカラオケを楽しむようになった。
 
1人暮らしを始めてからは、
学生時代にできなかった音楽サークルの楽器や、英語の翻訳を学べる教室を探し、
気になるお店やイベントにも足を運んだ。
ちょっと敷居が高い、ピアノバーやジャズの聴けるライブハウスにも足を運んだ。
たまたま気になるお店から、人の出会いがあり、
自分の好きなことをさらに広げてくれるような出会いや、自分を大切にしてくれる方にも出会えた。
仕事の研修先でも、自分と同じ気持ちで仕事をしたり、自分もこんな人になれたらと思えるような方の姿にも触れたりすることができた。
目の前のことに一生懸命取り組む中で、価値観が合うという幸せを、少しずつ感じられるようになり、
自分という姿が少しずつ自分で手応えを感じられるようになった。
 
「ガラパゴス」な自分はまだ自分の歴史の1つとして、時に顔を出すこともあるが、
「ガラパゴス」な自分を無理に擦り合わせなくても、
今は「ガラパゴス」を大事にしてくれたり、「ガラパゴス」を物珍しさではなく、
たくさんの中の1人の生き方として、考えてくれる人もいる。
「ガラパゴス」から抜けたい自分がいない訳でもない。
「ガラパゴス」をちょっぴり理解して欲しい自分もいる。
「ガラパゴス」で過ごした時間を取り戻すために、ちょっぴりあがいている自分もいる。
できれば、「ガラパゴス」と呼ばれた過去を取り戻したい自分もいるが、
「ガラパゴス」から違う自分の新しい接点を見つけることの楽しみを、
今は見つけられたような気がしている。
 
「出会いは人生の妙」という言葉がある。
出会いは必然のこともあれば、偶然が重なりあって思いがけない繋がりが生まれる場合もある。
どのタイミングでどんな人に出会えるかは分からないが、出会い方によっては、自分の見方を大きく変える機会にも繋がると、年を重ねるにつれて、実感をするようになった。
 
運がよかったと言えばその通りであるが、学生時代に見つからなかった自分の居場所が、
自分らしさを見つけに行く中で、少しずつ肩肘張らずに作れるようになってきたのは、
周りの方に恵まれたことはもちろん、
自分の「好きなこと」「興味のあること」に自分のアンテナをしっかり置けるようになってきたからこそのものではないかとも感じている。
 
教員になって十数年。
仕事を通じて自分の役割を果たしたり、好きなものを見つけたりする活動は、さらに広がっている。
時には自分から仲間の輪に飛び込んだり、自分から積極的に行動していく必要があることも大切だが、
自分が自分らしくいられる時間は、自分が知っているからこそ、大事に育みたいものであると感じている。
周りに理解されたら嬉しい。
でも、自分が歩いた道の分だけ、道が自分の居場所に繋がっていく。
だからこそ、すぐに理解に結び付かなくても、自分が自分でいることができる時間を大切にすることで、
自分の居場所はどこかに必ず作られていると感じている。
 
居場所は自分で作るもの。
そして、自分の好きなものは、自分の居場所につながっていく。
例え目の前にすぐに居場所ができなくても、年を重ね、時間を重ね、
自分らしく過ごす時間は、いくつになっても作ることができると感じている。
居場所探しの旅は、楽しみながらもこれからさらに広がっていくと信じながら。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
森下暢子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2019年より、ライティング・ゼミに参加。
ライターズ倶楽部、取材ゼミなどにも参加をしながら、
ライティングについて学んでいる。
趣味は占い、旅行。

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2023-08-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.226

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