相棒の存在《週刊READING LIFE Vol.229「魅力的な相棒」が出てくる小説》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2023/8/28/公開
記事:都宮将太(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
『神様の裏の顔』
今回の記事を書くにあたって参考にした推理小説だ。
重要なネタバレも含んでいるため、了承いただき読んでもらいたい。
「相棒って何だろう」
そんなことを考えながら、今回の題材になる小説を探していた。
ホームズでいうワトソンか?
マリオでいうルイージか?
いや、アンパンマンとバイキンマンも見方を変えれば相棒かもしれない。
そんな風に相棒の存在を外側に求めていたが、何も外側だけに求める必要なんてなかった。
自分のことを一番よく知っているのは親友でも親でもない。自分自身ではないか。
『神様の裏の顔』
この小説を買おうと思ったキッカケは、
「100人中99人が騙される」というキャッチコピーが気に入ったからだ。推理小説が大好きな私は騙されない1人の人間だ! なんて調子に乗って書籍をレジへと持っていた。
いざ読んでみると本当に恥ずかしい。私は見事に騙された。
というか、このクライマックスを的中させた人がいたら名乗り出てほしい。一緒にお酒を飲みながら、推理小説の話しをしたい。もちろん私の奢りだ。
一人の老人が亡くなる。故人は皆から好かれており、生前は「神様」と呼ばれていた。葬儀に参列したものが故人との思い出を振り返り涙する。といった内容でスタートする。
別に珍しくはない。良くあるパターンだ。
だが、ここから面白くなる。
故人は神様と言われているが、実は生前、とんでもない犯罪に手を染めていたのでは? といった疑惑が葬儀に参列した者の間で浮上する。
ライバル教師の失墜を目論んだ犯罪計画。孫ほど離れた女性に振られ、その女性への誹謗中傷。最終的には殺人まで加担していたのではないか。といった状況証拠が面白いくらいに集まっていく。
「神様の表情をして、本当は悪魔の裏の顔を持っていたのでは?」
と、皆が疑い始める。
まるで、蟻の行列に透明の飴玉を落とすと、すかざず蟻が集まり透明の飴が黒く染まるように、神様と呼ばれ潔白だった故人は、急に殺人等の疑惑をかけられ真っ黒になっていく。
ちょっと待て、どこに相棒が出てくるんだ?
そんな声が聞こえてきそうだ。
故人に生前相棒がいたのか?
葬儀の参列者同士が相棒なのか?
違う。私が相棒として参考したのは、故人の娘だ。
精神的に弱く優柔不断な姉と、ハキハキして周りの空気など読まずズケズケと言いたいこという活発な妹だ。
相反する二人だが、小説の中では互いの欠点を補いあう。
「私もこんな相棒がいったら……」
そう思いながら読んでいた。
私はどちらかというと優柔不断だ。
職場の上司や身内であっても自分の意見を言えず、作り笑いや適当な相槌で話しを合わせることも多い。
昔ながらの仕事のやり方を一切変えない上司。結婚や転職の話などを興味本位で聞いてもないアドバイスをしてくる身内。
そんな輩に、「お前の意見なんて聞いてない! 自分のやり方でやる!」
と言えればどんなに楽か。そんなことを思う時も多い。
小説に出てくる妹は、まさに自分の理想像だ。こんな妹にように言えれば、また。自分と小説に出てくる妹の性格が、一瞬でも良いので入れ替われば……。
そんなことを考えて小説を読み進めていった。
「神様と呼ばれた故人、本当は裏の顔があったのでは?」
生前、故人にお世話になった人でさえ、そんなことを言い出した。
連続殺人鬼だ。そんなことを言う人もいたが、それを聞いてしまったのが故人の娘で姉だ。
精神的に弱い姉が亡くなった父の悪口を言われ、何も思わないはずがない。だが、自分の意見が言えないのだ。
そんなときに頼りになるのが、真反対の性格を持つ妹だ。
「あんた、父が生きてた頃嫌われていたわよ」
そんな言葉を、父親の悪口を言った者に臆することなく、ズケズケと言う。
妹の行動を姉は止めようとするが、妹は止まらない。
それに対し、言われた側はとても驚いている。
「何故君がそんなことを言うんだ?」
そんな心の声が聞こえてきた。
「あんた仕事やめて大丈夫なん? 安定した職場やろ?」
私が前職の退職を決めたとき、身内から質問された。
その身内を私が慕っており、悩み事も相談していたならいいが、
「お前誰だ?」本当にそう思った相手だった。
ある日身内の葬式会場であった親戚。多分、いや、確実に街中で会っても気づかない。そんな身内から私の将来を心配されても嬉しくない。
その身内は、「相談にのっている自分」が好きなのだろう。
だが私は、「やりたいことがあるので! あなたには関係ないです!」の一言が言えず、作り笑いでその場をやり過ごした。
そのときに思った。親切とお節介は紙一重だと。
神様と呼ばれた故人。
そんな人が殺人鬼なわけがない。だが、レンタルビデオの延滞金のように、小説のページをめくるたびに増えていく状況証拠。
誰もが、故人は殺人鬼と思うようになってくる。
「故人は殺人鬼などではない!」
そんな言葉と同時に一人の救世主が現れる。
推理小説でよく出てくる探偵だ。
出てきた状況証拠を、まるで、だるま落としにように一つずつ丁寧に崩してく。
その姿に故人の娘は、感謝の声をあげた。同時に、故人を殺人鬼と責めていた者たちは、徐々に自分の考えを改めるようになっていく。
ん? その探偵が相棒なのか? そう思う方のために言っておくと、探偵は相棒ではない。
ある日、私は上司から叱責されていた。
その理由は私が上司に反論したからだ。
「昔のやり方では、今では通用しない」と。
だが、上司はこう言った。
「私は今までこのやり方で仕事をしてきた。だからこのやり方は正しい 」と!
あの時、この探偵がいてくれたら……。また、妹のような性格だったら……。そう思ってしまった。
「自分の考えは正しい」
と、誰もが思っているだろう。そんな固定概念を崩す探偵役は、小説の世界だけでなく、現実世界でも必要なのだ。
結論、小説に出てきた故人は神様なのか? それとも殺人鬼なのか? 一応答えを出しておくと『神様』だ!
では、何故故人は生前に犯罪を企てたと誤解されたのか。そこに今回の相棒の存在がでてくる。かといって、その相棒が故人の濡れ衣を晴らすわけではもない。
題材にした小説には、多くの登場人物が出てきた。
故人、葬儀の参列者、故人の娘。
今回の題材である、「相棒」とは、冒頭でも記載した『故人の娘』だ。
ん? 相棒だから娘たちだろ?
いや、娘一人だ!
実は、この小説に娘二人はでてこない。
どういうことか? 正確には、優柔不断な姉の中に、活発な妹がいる。
そう、姉は二重人格者だったのだ!
姉が言葉を発するときは、妹は表にでてこない。車の運転でいうと、姉が運転しているとき、妹は助手席に座ってハンドルには一切触れない。そんなイメージだ。
さらに恐ろしいことに、故人が生前企てと思われた犯罪。探偵の活躍で濡れ衣は晴れたが、それらの犯罪を実行したとは姉の中に潜む妹だった。
主人格の姉が苦しみ続けた時期がある。その時期に突如生まれた妹。もちろん両親も存在を知らない。姉の苦しみを作った人間を妹が徐々に抹殺していくのだ。
姉はそのことに気づいていた。
妹が主人格で運転している頃、姉は助手席で眺めていた。
妹の犯罪は無計画であったため、その事実を隠蔽していたのが姉だった。ちなみに、病死と思われていた神様。つまり、実の父親も妹が毒殺していた。
溢れる行動力で犯罪を無計画に実行する妹。その犯罪を、控えめで慎重な姉が隠蔽する。
犯罪を肯定する気はないが、素晴らしいコンビネーションだ。
これが相棒という存在だろう!
小説の最後、この事実を知った時、私は鳥肌が立った。が、同時に思った。
「相棒って、外側に求めるだけではない」と!
私は二重人格者ではない。だが、
「もし二重人格だったら?」と思うようになった。
もちろん殺人等の犯罪をする気は毛頭ない。
だが、優柔不断な私の体内へは私と真逆の別人格が存在する。そして、私が困ったら、もう一人の私と運転を変わってもらう。
そんなイメージを勝手につくり、普段の生活を送るようにした。
そうすることで、普段の自分なら絶対に取らない行動を取ることのできたり、言いたいことを言えるようにもなったのだ!
理不尽な上司の𠮟責中は、私は助手席に座り活発なもう一人の自分が体を運転する。そうすることで、自分の考えをしっかりと伝えられた。
また、お節介な身内へは自分の意見をハッキリ伝えたおかげか、それ以上は何も言わなくなった。
架空の世界でも構わない。もう一人の自分を登場させることで、言いたいことが言え、人に合わせず、自分が本当に望む行動ができるようになったのだ。
相棒の存在に感謝である。
□ライターズプロフィール
都宮将太(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
福岡市在住。
自慢できる肩書き・出版実績・メディア掲載は一切なし。
東野圭吾さんの「ガリレオシリーズ」をキッカケに、推理小説を好きになって約六年。自分でも推理小説書きたいと思い、「このミステリーがすごい!」の大賞受賞を目標としている、ビールと本と漫画をこよなく愛する三十歳。
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