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週刊READING LIFE vol.234

女一人、高級寿司屋への小さな一歩を踏み出した《週刊READING LIFE Vol.234》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/10/2/公開
記事:山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
入るべきか、入らざるべきか。
どうしよう。
 
まだ「支度中」という看板がかかっているお店の前で立ち止まる。
開店は11時30分からのはずだが、実際に来てみると「支度中のため、11時45分からの開店」という貼り紙がしてあった。
 
今日は、一人で回らないお寿司を食べに行く!
 
そう心に決めて出かけたのだが、この15分という待ち時間に、決心がゆらぎそうだった。
一人で待つ15分は結構長い。
お店の方が打ち水をしているので、その場に居るのもためらわれ、「関係ありませんよ」的な顔をして、わたしはその場を去った。
 
大将から一貫ずつ出されるカウンターの寿司屋は高級という先入観がある。
回転寿司や、寿司がメインの居酒屋であれば気軽に入ることができるのだが、メニューも外に置いていない、静かな佇まいをしている寿司屋に女性が一人で入るのは、なかなかハードルが高い。
これが旅先であれば、その土地のものが食べたくなるので、少々お金を払ってでも、美味しい寿司屋に行くことはある。
しかし、地元の寿司屋で、しかもカウンターの寿司屋となると、一人ではまだ行ったことがなかった。
 
が、しかし!
今日は一人でカウンターの高級寿司屋に挑戦しようとしている。
実は、前から気になっていた寿司屋が近所にあるのだ。
外からは中の様子が一切わからないため、それだけでも高級感が漂い敷居が高い。
とても通りすがりにふらっと入るような、そんな気軽に入れるお店には見えない。
静かに人を選んでいるようにも思える。
 
さすがに夜は敷居が高いが、昼はお得に食べられるという情報を入手し、それなら行けるかもしれないと思ったわけだ。
わたしの仕事は土日休みなのだが、行こうとしているお店は、土日は夜しか営業していない。
たまたま平日に有給休暇を取ったので、せっかくなら挑戦してみようと思い、開店と同時にお店を訪れた。
 
お昼はお得という情報はあるとはいえ、行ったことのないお店はお昼であっても緊張する。
店内の様子が一切わからないのも緊張をあおる。
開店時間になるまで、店のまわりをぐるぐると歩きまわり、「やはり、行き慣れたお店にしてしまおうか」という心の誘惑と葛藤しながらも、なんとか15分という時間を潰した。
そして、開店時間になり、おそるおそる、店の引き戸をガラガラとあけた。
 
「すみません。ひとりなんですが……」
 
「カウンターの一番奥の席にどうぞ」
 
給仕してくれる物腰やわらかな女性にうながされ、一番端の席に座った。
カウンターだけの決して広くない店内だが、隣の席と間隔があり、落ち着いた空間になっている。
木目調の椅子にはキャスターが付いているため、簡単に椅子を動かせるようになっている。
こういった細かい気配りは嬉しい。
 
開店と同時に入ったため、わたしがファーストゲストだった。
隣に他のお客さんがいると緊張してしまうので、ほっとする。
思った以上に高級寿司屋にびびっている自分がいる。
そして、いざ、注文する。
 
「一人半をください」
 
当たり前だがあっさりと注文できた。
店さえ入ってしまえばどうってことはない。
何をするにしても最初の一歩が非常に重いのだ。
余計なことをあれこれ考えて躊躇してしまう。
 
新しいことを始めるときは、まだ何も起こってもいないのに不安だけが大きくなり、結局何もしなかった……そんな経験はないだろうか。
 
お店選びも似ているところがある。
初めてのお店は飛び込むまでに時間がかかる。
いつものお店のほうが味も雰囲気も知っているため、安心感がある。
小さいけど、大きな一歩を踏み出したぞ……と、心の中でガッツポーズをしながら、わたしはお茶をズズッと飲んだ。
 
そして、目の前で大将が握っている姿をみて、幸せな気持ちになる。
今、まさに、握られている!
そう、わたししか客がいないので、本当にわたしのためだけに握ってくれているのだ。
 
そして、芸術的な12貫のにぎりと鉄火巻、味噌汁とお漬物がやってきた。
12貫、なんて幸せな量だろう。
なかなかのボリュームだ。
 
まずは鉄火巻を食べる。
最後に食べたほうが美味しいのかもしれないが、そんな順番は気にしない。
久々に食べた鉄火巻は、いつもより上品な味がした。
煮ダコの握りが食べてみたかったので、昼のメニューに入っているのは嬉しい。
以前は最後に自分の好きなネタを残していたのだが、最近は、結構前の段階で食べるようになった。
食べたいものはすぐに食べたほうが自分にとって満足度は高い。
 
噛みしめながら食べればよいものを、わたしは次々とネタを口へと運んでいった。途中でガリを追加しながら。
 
これは、牛丼なみの速さで食べ終わるな……そう思いながら食べていたら、高級寿司が似合う、上品な紳士が一人で店内に入ってきた。
 
この風格、佇まい、常連さんだ!
 
紳士にとっては、わたしなんて小娘に見えるだろう。
紳士が何を頼むか、聞き耳を立てる。
 
最初はさっぱりの白身系のネタでいくのか?
それとも貝類?
 
「穴子ね」
  
穴子キター!
味は濃いけど美味しいからはずせない。
 
このお店に行き慣れていると思われる紳士は、一貫ずつ注文するスタイルだ。
穴子しか目に入っていないという感じだ。
 
お腹が落ち着いたわたしは、味噌汁をすすりながら横目で観察していた。
するともう一人、これまた70歳ぐらいの渋い紳士が一人やってきた。
そして、席へ着くなりこう言った。
 
「穴子」
 
立て続けに穴子?
ここは、穴子が有名なのか?
 
もちろん、わたしが頼んだ一人半の中にも入っていた。
それにしても、皆さん、一貫ずつ食べていらっしゃる。
お得なセットがあるにもかかわらず、好きなものを一貫ずつ食べる……格好いい。
 
ただ、お寿司は意外と糖質が高い。
お寿司7、8貫で茶碗1杯分ぐらいと同じ糖質と同じ量になるので、糖尿病の人は気をつけなければならない。
お寿司はヘルシーと思いがちなのだが、ネタもシャリもあるので、どれだけ食べてもヘルシーなわけではなく、ダイエットしている人は、量は考えて食べたほうがよい。
 
高齢の方だと、12貫はお得といっても多いかもしれない。
お寿司1貫あたりのカロリーが55kcalから160kcalなので、もしかしたら紳士たちはお茶碗半分ぐらいの3貫ぐらいで、あえてセーブしている可能性もある。
若い頃は淡泊なネタから味の濃いネタまで、ネタのオールスターで食べられたかもしれないが、自分の好きなネタだけを数貫食べるスタイルになったのかもしれない。
お寿司は、それができるからいい。
 
そして、常連客で席がうまりはじめた店内を見渡すと、一人で来ている女性客はわたしだけだった。
高級寿司店は圧倒的に男性客が多い。
40代は決して若くないはずなのに、まだ一人で来るには早いお店だったのではないだろうか……なんて、なんだか不思議な世界へ迷い込んだ気持ちになった。
 
しかし、常連さんが、お店の人に
「今度、孫が遊びに来るので、家族でお寿司を食べたい」と言って、お寿司の注文をしていた。
他にも同じように注文をしている常連さんをみると、入る前とは違って、アットホームなお店に感じた。
心の中では「贅沢だな、孫……」とは思ったが。
 
そしてお昼のお得なセットを食べ終わり、満足して店を出た。
 
今度は夜に挑戦する!
 
と言いたいところだが、夜は福澤諭吉先生が何枚か飛んでいくので、夜にこのお店を訪れるのは、もう少し先のことになるだろう。
お昼は夏目先生2枚で足りるからお得だ。
いや、何かを我慢すれば、夜の高級寿司だっていけるだろう。
とりあえず、漫画を買うのを控えようか。
 
なんでも最初の一歩を踏み出すのが大切だ。
踏み出してみないとわからない。
入ってみないとわからない世界がある。
 
ふらっと歩いていると今度はメキシコ料理のお店を見つけた。
店内をのぞくと誰もいない。
また、気になる店ができてしまった。
よし、腹が減ったら入ってみよう。
気がついたら『孤独のグルメ』を実践中である。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山本三景(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年12月ライティング・ゼミに参加。2022年4月にREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。
1000冊の漫画を持つ漫画好きな会社員。

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2023-09-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.234

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