週刊READING LIFE vol.237

聞く力を鍛えれば頭がよくなる話《週刊READING LIFE Vol.237》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/10/30/公開
記事:工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「本、もっと読まなくちゃと思うんだけど、時間がなくって……」
 
という方にオススメなのが、本を「聞く」ことができるのがオーディオブックだ。電車での移動中や車の運転中、または散歩や通勤で歩いている時など、耳だけはヒマしてる、という場面では時間の有効活用に繋がるスグレモノだ。
 
しかし、耳だけで本を「読む」となると、
 
「時間は有益に使えるかもしれないけど、それって聞き流しでしょう? ながら聞きだからやっぱり目で読んだ方が内容、分かるんじゃないの?」
 
と思っている方も多いかもしれない。
 
しかし、オーディオブックがその程度のものだと思っているのはもったいない! 実は耳から情報を得るオーディオブックは、なんと脳の機能を強化してしまう
可能性まである、素晴らしい手段なのだ。時間を有効に使えて、しかも頭までよくなってしまう、と聞けば、今すぐにでも始めたくなりませんか?
 
そもそも私がオーディオブックの有効性に気が付いたのは最近のことだ。主に利用していたのはAmazonのオーディオブックサービス、audibleなのだけど、昨年にシステムが変更になり、月に2枚のコインをもらって本を交換する方法から、聴き放題に変わったのだ。
 
聴き放題、といってもなんでもかんでも一律料金で使える訳ではない。新刊書やその他著名なマネジメント本など翻訳本だと個別に料金が設定されている場合が多い。とはいっても月額1500円で最新以外の本が聴き放題になるなら、お得だ。いわゆるビジネス書と分類される本の価格が1冊1500円とか2000円ぐらいの範囲だとすると、1冊だけ、もしくは多くとも2冊聞けばひと月で十分元が取れてしまう。
 
だからAmazonで興味のありそうな本を検索して、もしその本が聴き放題対象だったら、自分の自分のライブラリーにとりあえず放り込んでしまうようになった。そして、そこそこ頻繁に聞くようになったのだ。
 
私も最初は、
 
「まあ聞き流しだから、数をこなすことができれば嬉しいかな」
 
ぐらいの気持ちだったのに、そうやって聞いてみると、あら不思議。本の内容をかなり覚えているではないか。目で目次さえ見てはいないというのに、本の全体像をかなり鮮明に描けているのだ。
 
「あれれ? これは目で読むよりヘタすると理解度高いかもしれない」
 
読書から最大限に知識を得て身につけようとしたら、その後いかにアウトプットするか、が一番大切になる。今月より天狼院書店のリーディングノート読書法講座の講師をやっている自分としては、アウトプットの重要性、つまり読書ノートを書く必要は十分に理解している。それが聴いただけの本の内容をノートに書けてしまうのだ。
 
これを本の理解ができていると言わずになんと言おう?
 
もちろん、細かい言い回しなど表現を完全コピーできる訳ではない。それができたら、瞬間記憶能力者だ。そんな能力はあいにく持ち合わせていないので、あくまで聴いた内容を大まかに説明できる、それぐらいのアウトプットだが、それでも思ったよりかなり内容を理解できている自分に軽く驚いた。
 
耳が空いてる時間をちょっと有効活用できたらいい、ぐらいの軽い気持ちだったのに、思いのほか効果が高かった訳だ。
 
「実は耳から学習するのって、効率がよいのではないだろうか?」
 
そういう意図をもって情報を検索してみると、ありました!
 
『超効率耳勉強法』
(上田渉、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2022)
 
この本を書いたのはAmazonのAudibleと双璧をなすオーディオブックサービス、audiobook.jpを運営するオトバンクを設立した上田渉氏だ。
 
この本によると、まず人間が本を読む時に声に出していないとしても、頭の中ではそれが音声として変換されているということだ。つまり、黙読とは黙っているから耳は使っていないとしても、頭の中では聴覚野を使用して情報が処理されている、ということになる。
 
文字情報から「自分の声をイメージする現象」が起きている訳だ。
 
考えてみれば、それも当然かもしれない。
世の中に文字のない言語があっても、音声のない言語は存在しない、という。文字を音声に変換して理解する、というプロセスがあってもおかしくないだろう。
 
さらに人間も含めた動物の進化の過程で視覚の能力が発達したのは比較的最近のことで、「歴史が長い分、耳の記憶は目の記憶よりも強く心に残る」ものらしい。(『記憶力を強くする』(池谷裕二、講談社、2001)より)
 
つまり、「考えるという行為そのものに、聴覚は深くかかわっている」といえるのだ。
 
先ほど、目から見た文字情報は音声にイメージ変換されて聴覚野で処理される、といった。それはつまり、「読む」という行為は、
 
視覚から聴覚、そして思考
 
という流れになるのに対し、「聴く」という行為は、
 
聴覚、そして思考
 
とプロセスがひとつ少ないということが分かる。
 
「聴く」方が脳に負担が少ない、要するに楽だ、といえる。
 
言われてみれば確かにその通りだ。
 
目を使って本を読むのは、かなり能動的な行動だといえる。
 
「よっしゃ、読むぞ!」
 
とみずから本に目を落とす、という行動を起こさなければ読めない。
 
でも耳から聴くのにそんな努力は要らない。ヘッドホンを付けたり、音声を再生すれば勝手に耳に入ってくる。もちろん、耳が空いている時だけのことではあるが。負担が少ないのは間違いない。
 
たとえば、休日にリビングでのんびり本を読んでいる、としよう。誰もいない静かな空間で意識を本に集中させることができる。そこに家族が帰ってきてテレビをつけたら、どうなるだろうか?
 
耳からはテレビの音声が聞こえてくる。
気になって顔を上げれば、テレビの画像が目に入る。
 
この状況で本を読み続けるのは大変だ。ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンを付けて外音をシャットアウトし、気が散らないようにしないと読み続けられない。本を読み続けたければ、他の部屋に行くしかないだろう。
 
それに対して、音声でオーディオブックを聴くには、目や手足は他のことに使っていても問題ない。ながら聞きはまさにそういうことだろう。
 
私はよく、ある作業が脳のリソースをどのぐらい使っているか、という見方をする。車の運転や道を歩く、ルーチンワークの家事など、思考をあまり必要とせず、身体を動かすことがメインの動作のとき、脳のリソースとしては占有率が高くない。だから、オーディオブックで本を理解するという行為に脳のリソースを振ってもまったく問題なく、思考することができる。
 
耳の記憶の方が目の記憶より強く記憶に残るというなら、耳勉強をしない手はない。
 
実は他にも聴覚を使うことが有効だ、という理由がある。私が通訳という仕事を長年やっているからだ。
 
通訳とは誰かが話したことを反対言語に訳す職業だ。私は日英間の通訳なので、英語と日本語を扱うのだが、ここで一番重要なのは言語の能力ではない。まずは最初に話されていることが理解できないとどうしようもないのだ。まさに「聴く」能力、そして聴いた内容を「理解」することが求められる。
 
これは本の内容を読んで理解するのとプロセス的には同じだ。読書が著者の主張を理解する行為だとすると、通訳者が仕事でやっていることと何ら変わりはないといえる。
 
最初にオーディオブックの理解度が高いことに気が付いたとき、それは自分の職業のせいだと考えた。職業柄、耳から理解するのに慣れているのだろうと。だが、脳科学的に見て、全人類が聴覚からの学習で高い効果が出る、と『超効率耳勉強法』では雄弁に語っているようだ。
 
さらに聴覚を使う、つまり聞くことが脳を強化することに繋がる、と主張している脳科学の本もある。
 
『脳を強化したければ、ラジオを聴きなさい』
(加藤俊徳、宝島社、2018)
 
この本によると、現代社会ではテレビ、インターネット、スマホなどの普及でどうしても視覚に大きく依存した生活になっている、という。確かにその通りだ。インターネットが1990年代辺りから本格的に普及し始めた、と考えると、今ほど視覚を使っている時代はないかもしれない。
 
しかし、視覚優位になってしまうと、「相対的に脳の中の聴覚系番地がうまく働かなくなる」そうだ。本を目で読んだときのように言語情報であっても音に変換されて思考する、そんな風に聴覚と思考、記憶、理解が密接に結びついている以上、相対的に聴覚が弱まってしまうと、
 
「物事をきちんと理解して行動することが難しく」
 
なってしまう。
 
俗に「聞き上手」という言葉がある。
人の話をふんふんとうまいこと相づちを打ちながら聞いてくれる人のことだ。仕事柄、著名な方の通訳をする機会も多少あったが、そういう方は間違いなく聞くことに長けている。本当に「できる人」は自分のことばかり話したり、空気が読めなかったりすることはない。聞き上手でおまけに講演などで話をすれば、それもまた素晴らしいという場合が多い。
 
印象に残っているのは、最近亡くなられた稲盛和夫氏の通訳をしたときのことだ。同じテーブルに座っていた英語話者の方が弾丸トークを繰り広げているのをゆっくりしっかりと聞いた後、自分の意見を堅実に話されていた。当時は「もっとガンガン話せばいいのに」と思ったものだが、それは見当違い。しっかりと「聞く」ことにより、頭の中で思考が縦横無尽に拡がっているもの、と想像される。
 
そんな話を聞かされると、
 
「そんな超一流の経営者と比べられても」
 
と思うかもしれない。
 
でも。
でも私は思うのだ。
 
脳は鍛えれば何歳になっても鍛えることができる、という。
 
ならば、「耳勉強」で効率よく知識を増やして、思う存分思考の翼を広げていけば、何歳からでも羽ばたくことは可能ではないか、と。
 
ラジオでもPodcastでもVoicyでも何でもいい。目より空き時間の多い耳をもっと有効に使えば、可能性は誰にでも花開くはずだ。もしまだ、オーディオブックを試したことがなければ、是非試してみて欲しい。思いのほか、身につくことが実感できるだろう。
 
NHKの筋肉体操では、「筋肉は裏切らない」がスローガンだ。
 
でも「脳も裏切らない」んだよ、と付け加えておきたい。明日の成功に向けて、どんどん耳を鍛えよう!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

20年以上のキャリアを持つ日英同時通訳者。
本を読むことは昔から大好きでマンガから小説、実用書まで何でも読む乱読者。
食にも並々ならぬ興味と好奇心を持ち、日々食養理論に基づいた食事とおやつを家族に作っている。福岡県出身、大分県在住。

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2023-10-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol.237

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