週刊READING LIFE vol.237

大切な人へのプレゼント。お金で選ぶか気持ちで選ぶか《週刊READING LIFE Vol.237 家族愛》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/10/30/公開
記事:Shota(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「プレゼントはお金より気持ちが大切」
どこで聞いたかは分からないが、多くの人の中では、そんな考えが浸透しているように思える。
しかし、私はそうは思っていなかった。過去形にしたのは、今では気持ちがお金を上回るときがある。そう思っているからだ。
どちらが正解かは分からない。
実際に私が成人を迎えた時、二人の親戚から成人祝いをもらった。一人は現金で5万円の入った封筒。一人は「成人おめでとう」という言葉だった。
どちらが嬉しかったか? と聞かれると、私は迷うことなく5万円をくれた親戚だと答える。
極端な例ではあるが、プレゼントは高価なほど嬉しいと思っていた。
だが、ある日をキッカケに、気持ちがお金を上回ることがある。そう思うようになった。

 

 

 

「父親の還暦祝いどうしようか」
父親の還暦祝いを4ヶ月後に控えた頃、そんな考えが浮かんだ。
4ヶ月後は親戚一同が集まる会合の中、各家庭が私の父親に還暦祝いをプレゼントしているだろう。
本当はもっと前から考えていたものの、まだ時間があると思うと、中々行動に移せなかった。
私もプレゼント候補として何も考えていないわけではない。オーダーメイドの高級スーツ、高級ワイン、ゴルフセット等、父の日や誕生日のプレゼントとよりも高価な品物をプレゼントしようと思っていた。しかし、「そんな普通のプレゼントでいいのか」という、内なる声が私の行動を妨げていたのだ。
そんなとき、テレビに映るある光景を見てピンときた。
その番組は、お笑い芸人が自分の人形を勝手に製作されるという番組だった。
番組の趣旨としては、自分そっくりの人形を見た芸人のリアクションを楽しむのが目的だった。だが、そのワンシーンを見て、
「これだ! 父親の人形を作ってプレゼントしよう!」
と考えた。
幸運なことに、私の地元、福岡市では博多人形が有名だ。商店街の中に2~3店舗、博多人形のお店が入っている場所もあるくらいだ。
私は周囲の人形店へ無差別に電話をかけた。まるで営業マンが無差別に電話セールスをしているみたいだった。
「人物写真からの人形製作が可能でしょうか?」と、10件以上のお店に電話して、製作可能なお店が1件だけ見つかった。
次の休日、私は早速お店に伺った。
 
 
「いらっしゃいませ」
ラーメン屋に入ったのかと勘違いするほど威勢のよい店主に出迎えられ、私は博多人形のお店に入った。
「先日電話した者ですが……」
「お待ちしてました!」
今日お店に行くと伝えていたため、店主も分かってくれたようだ。その店主に連れられ、接客室に入った。
「何か飲みますか?」
店主が手作りのメニュー表を私に見せてきた。
店主の声に、最初は元気がいいと思っていたが徐々にうるさく感じてきた。少し声のトーンを落としてほしかったが、さすがに言えなかった。
「コーヒーお願いします」
私がそう言うと、事務員らしき女性に伝えた。その女性がコーヒーを持ってくるまで、店主と雑談の時間だった。いや、雑談というよりは、9割店主が止まることなく喋りたおした。
「お待たせしました」
事務員の女性がコーヒーを持ってきた。私がコーヒーを一口飲むと、店主は数枚のA4用紙を机に広げた。それは博多人形の見積書。つまりここからが本題だ。
その店主は準備の良いことに、人形の大きさに合わせて数枚の見積書を作成済みだった。
私はその見積書を早速見せてもらった。
「これは新車の見積もりですか?」
という言葉が喉元までやってきたが、口に出す直前で消した。
それくらい人形の値段が高価だった。
父親の還暦だ。値段はケチらないと決めていたが、予想以上だ。これなら現金を渡した方が喜ぶ。本気でそう思ってしまった。
私は渋々ワンランク下の人形製作を依頼した。今思うと店主の作戦だったのかもしれない。最初に一番高価な見積もりを提示して、ワンランク下の商品を選ばせるという……。答え合わせをしたわけではないので、ハッキリとしたことは分からないが。
ワンランク下げたとはいえ、それでも中古車1台は購入できる金額だ。
「人形にここまでお金をかけるのか……」
という気持ちが脳裏に浮かんだが、父親の還暦祝いだと自分に言い聞かせ、私はワンランク下げた見積書での作成を依頼した。
ところが、金額という条件をクリアした私を待っていたのは、次の試練である製作期間だった。
 
 
「今日の受注ですと、製作期間は1年半です」
「え?」
私の反応が予想外だったのか。店主が困惑した表情を浮かべたのが分かった。
私は人形製作の期間を、勝手に3ヶ月くらいと見積もっていた。
「そんなにかかるんですか?」
「職人さんへお願いするからね……」
何を当たり前なことを聞いているんだこの客。そんな漫画のような吹き出しが見える店主の態度に不満を感じたが、そんなことは問題ではない。
父親の還暦祝いは4ヶ月後なのだ。そんなに待っていられない。
さらに人形のランクを落としたとしても、製作期間に僅少の差しかない。
私は渋々人形製作をキャンセルした。
店主の恨めしそうな視線を背中で受けながらお店をでた。
「ありがとうございました」
という言葉はかけてもらえなかった。
「困った。非情に困った。還暦祝いどうしようか」
途方に暮れ帰り道を歩いていた私だったが、人間の心理なのか、
「後4ヶ月ある。全然余裕だ!」
という根拠のない自信が出てきた。
小学生が、「夏休みも始まったばかり」と余裕をかまして宿題をしないのと同じだ。
そんな小学生はどうなるか、夏休み終了直前に焦るのだ。そして後悔する。「もっと早く宿題を始めていれば」と。
私はそんな小学生と同じ未来を迎えることになる……。
 
 
父親の還暦祝いまで、ついに1ヶ月をきってしまった。
「これはヤバい。普通のプレゼントは嫌だ」とか言っていられない。
何をプレゼントしようかと悩んだ末、ありきたりではあったが、高級なゴルフバックをプレゼントしようと決めた。そう決めたのが還暦祝いの2週間前だった。
しかし、それとほぼ同じタイミングで事件が起きた。
私がゴルフバックのプレゼントを決めた矢先、父親の同僚や上司が、お酒やネクタイ。更にはブランドのゴルフウェアとゴルフバッグをプレゼントしたのだ。
事実は小説よりも奇なり。というが、身をもって体験した。
そんな中、「家族で息子の自分が皆と同じ物を贈るわけにはいかない」と、そんな使命感に駆り立てられた。
還暦祝いのプレゼントを考えているとき、先日読んだある本の一文が、脳裏に浮かんだ。
 
『人が亡くなる寸前に後悔することの一つは、人に感謝の言葉を伝えられなかったこと』
 
という一文だ。
確かにそうかもしれない。これまで父の日や誕生日にプレゼントを贈ったことはあっても、感謝の言葉を伝えたことはない。恥ずかしくて言えなかったのだ。
せっかくの還暦だ。恥ずかしさを堪えて、感謝の言葉を伝えよう。そして、感謝の手紙を渡そう。
そう決心した。
 
 
父親の還暦祝いまで1週間をきったころ、私は部屋で一人父親への手紙を書いていた。
書き出して数十分後、私は泣きそうになった。
私が生まれたときの記憶はないが、ここまで一家の大黒柱として家庭を支えたこと。仕事と家庭のストレスを抱え、子供を大学まで通わせたこと。
私が生まれたときからこれまでに、29回の誕生日を迎えた。その間、様々なイベントがあった。
入学、卒業、反抗期、成人、親子喧嘩等、書き出したら無限に出てくる。
それぞれの節目で父親も多くの悩み事を抱えたに違いない。
仕事の悩み、家族の悩み、お金の悩み。私よりもはるかに悩んだはずだ。
眠れない夜なんて、数えきれないほどあっただろう。
だが、私は父親の不満や不安を聞いたことがない。弱みを一切見せず、家庭を支えた父親のことを思うと泣きそうになった。実際に少しだけ涙が浮かんだ。
溢れる感謝の思いをどうにか文字にして手紙を書き終えたが、恐らく文法もバラバラで支離滅裂になっているだろう。
だが、読み返すのも恥ずかしく、感謝の言葉は還暦当日に言葉で伝えようと思い、その日を迎えることにした。
 
 
2023年9月2日、父親の還暦祝い当日を迎えた。
親戚含め、約20名が集まる中、各家庭から還暦を迎えた父親にプレゼント贈呈が行われた。
プレゼントが被らぬよう、事前に何を渡すかは聞いていた。しかし、私が手紙をプレゼントすることは誰も知らない。もちろん父親本人も。
一通りのプレゼント贈呈を終え拍手がなりやむと、ついに私の番が回ってきた。
「何を渡すと?」
と、身内何人かが聞いてきたが一切言わなかった。
私が父親の前に行き、ジャケットの内ポケットから手紙を取り出した瞬間、周囲から悲鳴のような歓声が上がった。
父親が照れているのが分かる。
恥ずかしい気持ちを押さえつけ、私は手紙を広げた。
 
 
手紙を全文読もうと思ったが、今まで経験したことのない恥ずかしさに襲われ断念してしまった。
「お父さん、ここまで育ててくれてありがとう」
とだけ口にして手紙を渡した。
手紙は後程、父親が一人のときに読むように言葉を添えた。
だが、周囲の野次もあり父親はその場で手紙を読むことになってしまった。
今思うと、それが良かったのかもしれない。私はその日、初めて父親の涙を見ることができた。
父親の涙につられてか、母親含め、親戚の何人かが涙を流してくれた。
 
 
そのとき私は思った。手紙を書いたいり、感謝の言葉を伝える行為にお金はかからない。ゼロ円だ。だが、人形やゴルフバッグをプレゼントするよりも、はるかにハードルが高かっただろう。
実際に手紙を書いて思った。
感謝の言葉を伝えるのは、非常に恥ずかしく難しいものだ。
恥ずかしくて言葉にできない人も多いはずだ。
だが、恥ずかしい気持ちを一歩超えた先に、言葉では表現できない感動が待ち構えている。
 
 
「今日は最高の一日です」
目を赤くした父親の言葉は、今後も忘れることができないだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
Shota(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県生まれ。福岡市在住。
自慢できる肩書き・出版実績・メディア掲載は一切なし。
2023年4月開講のライティングゼミ、同年7月開講のライターズ倶楽部に初参加。
東野圭吾さんの「ガリレオシリーズ」をキッカケに、推理小説を好きになって約7年。自分でも小説を書きたいと思い、「このミステリーがすごい!」の大賞受賞を目標としているサラリーマン。

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2023-10-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol.237

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